雪は壁に手を付きながら、ようやくトイレから出て来た。
床も天井も全てが歪み、ゆらゆらと揺れている。

ひっく、としゃっくりを交えながら、雪は一人ブツブツと呟いた。
「何が良い選択よぉ‥」

「良い選択なんだよぉ‥」

「自己正当化ぁ‥」

あっちへフラフラこっちへフラフラしながら、ようやく雪は外へ出た。
揺れる地面に足を取られながら、俯き加減で揺れながら歩く。

ドン!

すると目の前に男性が居たらしく、雪はその人とぶつかってしまった。
「あ~すいません~」

その人は何も言わない。
雪は彼の顔を見ることなく、再びそのままフラフラと歩いて行く。

すると足がもつれ、視界がぐらりと揺れた。
「あっ」

「ありが‥とぉ‥」

転びかけた雪を、彼はその腕を取って支えた。
けれど雪は笑いながらその手から身を離し、一人でまたフラフラと歩いて行く。
「あ~大丈夫ですぅ‥」

「一人で歩けますんでぇ‥。私はぁ‥一人でやってけるんでぇ‥」

どれだけ酔っ払っていても、正気じゃなかったとしても、やはり雪は雪だった。
誰にも頼らず、フラフラと揺れながらも、たった一人で歩いて行くのだ。
「うぅぅ‥」

彼はそんな雪の背中に、低い声でこう問いかけた。
「本当に休学するの?」

しかし雪は振り返らない。
リアルと非リアルの境が曖昧な世界を、一人フラフラと闊歩して行く。
「私、ちゃんとまっすぐ歩いてるでしょぉ?」

「一人でちゃんとやれる子なんですよぉ、わたしはぁ‥」



その声が遠くなってからも、青田淳はじっとその場に佇んでいた。
若干の苛立ちを抱えながら。
手を貸そうと差し伸べたのに、あんな状態でも拒否されたのだ。
「一人でやっていける」と言われて。
「あ、そう」

赤山雪が、休学する。
淳の手の届かない場所へ、たった一人で、歩いて行ってしまうー‥。

閉講パーティーも終宴を迎え、ほろ酔い加減の学科生達は店の前で未だ談笑していた。
その中で淳は、一人その場に佇んでいる。

視線の先には、伊吹聡美と福井太一に介抱される赤山雪の姿があった。

淳の隣で、柳瀬健太が声を上げる。
「おーい二次会行くぞー!」

健太は、皆から少し離れた場所に居る雪達にも声を掛けた。
「お前ら何やってんだ?!淳が二次会奢ってくれるってよ!」

”淳”の名に、思わずピクリと反応する雪。
ようやく顔を上げた雪は、目を丸くしながら淳の居る方を見た。
「早く来いよー!」

淳は、”青田先輩”の笑顔を浮かべながら、じっと雪の方を見ていた。
二次会に選んだのは高いと評判の「ブルーマリン」。
彼女は食い付いてくるだろうか?


しかし雪は健太の声など耳に入っていないかのように、ただじっと淳の方を凝視していた。
少し酔いの冷めてきた頭で、先ほどぶつかった相手が誰だったかに思い至る‥。

「私パス‥」「えっ?」

「本当に帰っちゃうの?!」

雪は青田淳から背を向けると、呼び掛ける聡美にも構わず走り出した。
「雪!明日電話してね!」

雪は心の中で思っていた。
”結局、大事なことは何も言えなかった”
”青田淳、あの人の話を。私は今、あの人から逃げているということを”

雪はそのまま走り去った。
彼女が居なくなったことは、僅かばかりの人しか知らないまま。


空気を掴むように走り、走って、遠ざかって行く。
終わった

雪を取り囲む残酷な運命からも、人間関係のしがらみからも、そして青田淳その人からもー‥。
本当に完全に

雪はその全てから解放されたかのような心持ちで、顔を上げ風を掴む。

終わり


雪が居なくなってからも、皆はまだ店の外で思い思いの時間を楽しんでいた。
その中には、当然淳の姿もある。

けれど彼の心はここにはなかった。
去って行った彼女の方へ、無意識に視線を流してしまう。

そんな自分を打ち消すかのように、淳は再び皆の方を向き、笑顔を浮かべた。
しかし騒ぐ胸の内を、誤魔化すことは出来なさそうだ。

彼女の休学を阻止する為の算段を、今淳は頭の中で巡らせていた。
もう傍観してばかりでは手に入らないのだと、若干の覚悟を決めながらー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>閉講パーティー(4)でした。
閉講パーティー、終わりましたね。
物語は冒頭へと繋がりましたが、その合間が描写されてる感じですね。
さて次回は<淳と遠藤>過ちを挟んだ後の、淳の話です。
<淳>旅立ちの前に です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
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床も天井も全てが歪み、ゆらゆらと揺れている。

ひっく、としゃっくりを交えながら、雪は一人ブツブツと呟いた。
「何が良い選択よぉ‥」

「良い選択なんだよぉ‥」

「自己正当化ぁ‥」

あっちへフラフラこっちへフラフラしながら、ようやく雪は外へ出た。
揺れる地面に足を取られながら、俯き加減で揺れながら歩く。

ドン!

すると目の前に男性が居たらしく、雪はその人とぶつかってしまった。
「あ~すいません~」

その人は何も言わない。
雪は彼の顔を見ることなく、再びそのままフラフラと歩いて行く。

すると足がもつれ、視界がぐらりと揺れた。
「あっ」

「ありが‥とぉ‥」

転びかけた雪を、彼はその腕を取って支えた。
けれど雪は笑いながらその手から身を離し、一人でまたフラフラと歩いて行く。
「あ~大丈夫ですぅ‥」

「一人で歩けますんでぇ‥。私はぁ‥一人でやってけるんでぇ‥」

どれだけ酔っ払っていても、正気じゃなかったとしても、やはり雪は雪だった。
誰にも頼らず、フラフラと揺れながらも、たった一人で歩いて行くのだ。
「うぅぅ‥」

彼はそんな雪の背中に、低い声でこう問いかけた。
「本当に休学するの?」

しかし雪は振り返らない。
リアルと非リアルの境が曖昧な世界を、一人フラフラと闊歩して行く。
「私、ちゃんとまっすぐ歩いてるでしょぉ?」

「一人でちゃんとやれる子なんですよぉ、わたしはぁ‥」



その声が遠くなってからも、青田淳はじっとその場に佇んでいた。
若干の苛立ちを抱えながら。
手を貸そうと差し伸べたのに、あんな状態でも拒否されたのだ。
「一人でやっていける」と言われて。
「あ、そう」

赤山雪が、休学する。
淳の手の届かない場所へ、たった一人で、歩いて行ってしまうー‥。

閉講パーティーも終宴を迎え、ほろ酔い加減の学科生達は店の前で未だ談笑していた。
その中で淳は、一人その場に佇んでいる。

視線の先には、伊吹聡美と福井太一に介抱される赤山雪の姿があった。

淳の隣で、柳瀬健太が声を上げる。
「おーい二次会行くぞー!」

健太は、皆から少し離れた場所に居る雪達にも声を掛けた。
「お前ら何やってんだ?!淳が二次会奢ってくれるってよ!」

”淳”の名に、思わずピクリと反応する雪。
ようやく顔を上げた雪は、目を丸くしながら淳の居る方を見た。
「早く来いよー!」

淳は、”青田先輩”の笑顔を浮かべながら、じっと雪の方を見ていた。
二次会に選んだのは高いと評判の「ブルーマリン」。
彼女は食い付いてくるだろうか?


しかし雪は健太の声など耳に入っていないかのように、ただじっと淳の方を凝視していた。
少し酔いの冷めてきた頭で、先ほどぶつかった相手が誰だったかに思い至る‥。

「私パス‥」「えっ?」

「本当に帰っちゃうの?!」

雪は青田淳から背を向けると、呼び掛ける聡美にも構わず走り出した。
「雪!明日電話してね!」

雪は心の中で思っていた。
”結局、大事なことは何も言えなかった”
”青田淳、あの人の話を。私は今、あの人から逃げているということを”

雪はそのまま走り去った。
彼女が居なくなったことは、僅かばかりの人しか知らないまま。


空気を掴むように走り、走って、遠ざかって行く。
終わった

雪を取り囲む残酷な運命からも、人間関係のしがらみからも、そして青田淳その人からもー‥。
本当に完全に

雪はその全てから解放されたかのような心持ちで、顔を上げ風を掴む。

終わり


雪が居なくなってからも、皆はまだ店の外で思い思いの時間を楽しんでいた。
その中には、当然淳の姿もある。

けれど彼の心はここにはなかった。
去って行った彼女の方へ、無意識に視線を流してしまう。

そんな自分を打ち消すかのように、淳は再び皆の方を向き、笑顔を浮かべた。
しかし騒ぐ胸の内を、誤魔化すことは出来なさそうだ。

彼女の休学を阻止する為の算段を、今淳は頭の中で巡らせていた。
もう傍観してばかりでは手に入らないのだと、若干の覚悟を決めながらー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>閉講パーティー(4)でした。
閉講パーティー、終わりましたね。
物語は冒頭へと繋がりましたが、その合間が描写されてる感じですね。
さて次回は<淳と遠藤>過ちを挟んだ後の、淳の話です。
<淳>旅立ちの前に です。
☆ご注意☆
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物語が終わりにはいってているんじゃないかっておもってしまって寂しいですね
青田先輩と雪は別れてしまうのでしょうか
どのような終わり方だと思われますか?
ありがとうございます!
棚ぼたで遠藤さんへ向ける淳の侮蔑の目にゾクゾクしちゃいました~~。
毛先ツンツン時の絵の方が色気がある気がします(個人的好みです)
しかし今回の「あ、そう。」
何だよ、手を貸してやろうと思ったのに、とか、休学するなんて残念だぜ、とか、表情に出ないところが非常に淳らしくていいと思いました!(笑)
雪は解放感、淳は太一の言葉を借りるならば、冷たいフィーバーの始まりですね。(意味はよくわかっていませんが 笑)
確かドラマは最後は、あまりハッピーエンドじゃなくて、作者さんがブログで、それなりに幸せな終わりにするとか書かれていませんでしたっけ?
別れちゃうなら、ショックですねー。
ちゃんと回収されると良いなあとやっぱり思いますね。。
話は逸れるのですが
なんだかちーとらを読み直してますと、BLものの昔の名作、御存じか分からないですが風と木の詩を思い出し、最近読み直しました。
こちらも人間関係の憎悪やら復讐やらでしっちゃかめっちゃかですが、昔の漫画って、ネガティブな感情の表現が凄いので、幾重にも蜘蛛の巣を張り巡らせる淳がなんか連想されます。。(笑)
親子間の歪んだ愛情みたいなのが風と木の詩はメインテーマなので、その点はちーとらより濃いですが、、
もし御存じなければ
(BLものに嫌悪感がなければですが、私は面白くて途中から気にならなくなりました)
おすすめですf(^^;
漫画ネタでアツくなってしまいました。。
yukkanenさまのお気に入り漫画、ちーとらは勿論ですが、他にありますか?
話の逸れたついでに思いきって
質問してみます(笑)
四部に入ってから今まで明かされなかった過去や時系列も出揃いましたので、確実に終わりに向かっているのだと思われます。
どんな終わりになるんでしょうね‥。
チートラは先を予想しても、物語はいつも想像の斜め上を行きますので、正直分かりませんー!
ゆーたんばーさん
今回の雪の休学宣言を聞いた淳、涼しい顔した裏ではハンカチ食い縛って地団駄してる級の衝撃だったでしょうに‥。「あ、そう」ですもんね。アヲタとしては微笑ましいですね。
淳もまた冷たいフィーバー炸裂すればいいのに‥(私も意味はよく分かってません 笑)
mimiさん
結末がどうなるかの詳細は分かりませんが、作者さんは「衝撃的な終わり方ではない」みたいなことを仰っていたような。
ドラマの終わりも、世間では評判悪かったですが、私は嫌いじゃなかったです。ただ雪が置いてけぼりだったのだけが不満です。
雪も奮闘して、二人で心から納得して、ああいった結末を迎えるならば有りだと思えます。
うめやんさん
風と木の詩~‥
読んでみたいと思いつつ機会が無く、読んだことないんです‥。不朽の名作!
いつかまとまった時間が取れればぜひ読みたい!
お気に入り漫画‥。沢山ありすぎて何から書けばいいやら‥。まず熟読編としては‥
昔から好きなのは田村由美作品ですね。
「BASARA」も大好きですが、今連載中の「7seeds」も本当に素晴らしいです。人生で必要なことが全て書いてありますよ‥。
少年漫画だと「おおきく振りかぶって」は全巻持ってます。高校野球の漫画なんですが、登場人物一人一人個性があり、その周辺の人々のキャラも作りこまれていて、加えて野球というゲームを理論を交えて分かりやすく漫画内で描いているので、すごく面白いですよ。
さらっと読むなら「きのう何食べた?」とか、「俺物語!」とか、「アシガール」や「高台家の人々」も好きです^^
すいません長くなって!
ありがとうございます(*^^*)
バサラ~懐かしすぎる~!
恐らくyukkanenさまと年代が近そうな気がします☆
7seeds、LINE漫画で見てました~面白いですよね~心理描写が美しいですよね(つд;*)
またきのうなに食べた、全巻揃えています(笑)
大好きです~他のBL作品知らなかったのですが、よしながふみさんの対談集で風と木の詩を知り、読んだんです~共通の作品があってとても嬉しいです~(*^^*)
おおきく振りかぶって、名作らしいですね~!周りの友人からきいて気になっていました~他にも知らない作品沢山!チェックしなきゃφ(..)♪
いやはや楽しいですね、、!
ありがとうございました(*´∇`*)
(漫画は軽く読みたい派なので 笑)
高台家の光正様も淳も、金も権力も頭脳も美貌も、人が羨むほど持ち合わせているけれど、唯一足りないもの、それがありのままの自分を受け入れてもらうことで、それを叶えてくれそうな人が高台家でいうと木絵ちゃんであり、チートラでいうと雪ですよね。
私はチートラに高台家の2人のような関係を求めていて、幻想が捨てきれないのでしょうね。
みんなに受け入れられなくても、たった1人でも自分をわかってくれる人がいるならば、人はやっていけると思います。
木絵とは違って雪は仕事でも上を目指してやっていけるような女性だし、別に淳をすくい上げなきゃいけない責任はないのだけれど、雪自身、自分の淳への思いをはっきりと自覚すべきかなと思います。ドラマでは大好き止まりだった気がするので(最終話全部はまだ見てません)、漫画版では愛を深めてもらいたいなぁ、そして真人間になった淳をぜひ見てみたいと期待しています。
あの顔文字は呪いの顔文字なので、それ以降の文章が消えてしまいます!ご注意を!
好みが似ているんですね~^^
喜んで頂けて嬉しいです。
ゆーたんばーさん
高台家、面白いですよね~
「自分を理解してくれる存在とのハッピーエンド」は王道であり安心しますが、そう簡単には行かないのがチートラ‥。
ドラマも最終話近くは結構二人の仲も深まってましたけどねぇ、いかんせん最終回が‥。
漫画版はどうか二人で関係を深めて行って欲しいものです。
ここんとこコメの下書き(!スマホは推敲し辛くて)で足踏みでした。
この回のコメに『風と木の詩』が出てきたもので、スルーできず。。。
私の初恋だったんです、コレ。(←すみません。知るか!って感じですが)だからこそ、簡単に他人様に薦められず、書きあぐねてました。
いわゆる「やおい」「BL」の呼び名のつくジャンルですが、悩む理由はそこではなく。(というか、そんなジャンルが生まれる前の先祖的な作品なはず)
人生のどの時季に出会うかで、その人にとって意味が変わってしまう出来事、出会いってあると思うんです。素晴らしい作品にはいつ出会っても素晴らしいはずですが、感受性が柔らかい時に出会わねば受け取り損ねることもあると思うのです。
私は『風木』に小学生で出会って、中学生で頭まで浸かり、物凄く影響を受けました。セリフや地の文も一部暗記。主人公(美少年クン)の性格や行動をトレースしようとしてました。憧れを通り越して、彼になりたかったんでしょうね。因みに私は田舎の冴えない女子学童でしたがね💧
つまり、思春期過ぎて初めてこの世界を覗いても「何コレ?」「気持ち悪っ」で終わったら辛いな、と。
しかし、当時も多分、かなり異端でしたよ。その毒に小学生の私は魅了されたのでしたが。
あの、一つ訂正させて下さい。『風木』のテーマは「歪んだ親子愛」ではありません。人が人に真摯に向き合う時には色々な愛のかたちが生まれる、ということ。相容れないのに、魂が惹かれ合う不幸も愛だということ。それらをわかり易くするため、主人公2人の生い立ちも描いてます。そこに歪んだ親子愛も出てきますが、それはテーマではなく、愛の諸相の一つ。理解しあい幸せになるだけが愛じゃない、と厳しさや複雑さを教わりました。(耳学問ですが)
あ、読みたくなった方がいますかね?いるといいような、悪いような。自分は愛を連呼し過ぎて恥ずかしくなって来ました。いつのまにやらそんな時代じゃないしね。
おまけに。この作品の悲劇的な終わりにショックを受け過ぎた私は、何年もコミックの最終巻を買えませんでした。やっと買った時はハタチもとっくに過ぎとりましたが、一晩泣き明かしました。ってコレ、単に竹宮先生かジルベール宛ての恋文ですかね!?
ちっともチートラのコメでなくてすみません。