雪は夢の中で、昨年の記憶を辿っていた。ちょうど一年前、学祭準備の頃のことだ。
昨夜部屋の片付けをしていて見つけた箱の中に、その思い出が押し込めてあったから。
箱を開けると、あの頃の記憶が苦い気持ちと共に溢れ出た。
主にその原因になっていたのは、青田先輩との関係性‥。
すれ違った私達の接点を、あの時私は知らなかった。
でもたとえ知っていたとしても、何かが変わっていただろうかー‥?
男は暗闇の中で、雪が普段座っている椅子に腰掛けている。
眠る彼女の手の上に、その大きな手でそっと触れながら。
ううん、と小さく雪は身体を動かした。
男はただ静かに、その傍らに座っている。
ふと薄く、雪の瞼が開いた。
暗がりの中に、黒い服を着た人の体が見える。
ゆっくりと視線を動かして行くと、そこに座っている人の正体が徐々に明らかになって行く。
青田淳だ。
相変わらず長い前髪で、その表情は窺えないけれど。
ぱち、と今度は大きく瞼が開いた。
なぜこんなところに、先輩が座っているんだろう‥?
雪は改めて、彼が座っているように見えた場所をじっと見つめてみた。
しかしそこはいつも通りの、少し片付いた自分の部屋だ。
寝ぼけ眼で、おもむろに上半身を起こした。どこかに彼の気配を感じたような気がして。
けれどやはりそこには誰も居ない。
「あ‥」
雪は深く息を吐いた。とても妙な‥変な気分だ。
夢‥
なぜだろう、手がほのかに温かい気がするのは。
この指の先に、彼の手が繋がれていたような気がするのは‥。
翌朝。
雪の母親は一つの紙袋を娘に渡した。
「雪、コレお父さんがアンタにって。体力のつく漢方ですってよ」
雪は思わず目を丸くした。
「へっ?」「アンタがヒョロヒョロだからって」
紙袋を手に取り、信じられない思いでそれを見つめる。
「お父さんが‥?」
「俺のは?ねー俺のは~?」「アンタはアメリカ帰ってから飲みな」「うわああ!」
騒ぐ蓮、それをたしなめる母。赤山家は今日も賑やかだった。
雪は父親のその無骨な愛情を受け取り、思わず口元が緩む。
温かな気持ちで部屋に戻ると、
雪はそれが仕舞ってある引き出しを開ける。
白い封筒。
それを手に取ると、自然と笑みが零れた。
これを父親から貰った当時のように、心がくすぐったく震える。
家出した日‥ヤケになって全部使ってやるって大口叩いたけど‥。
結局使えなかった。
心の中がグジャグジャで、逃げるように家を出たあの日。
あの日よっぽど、大事に仕舞って来たこのお金を使ってしまおうかと思っていた。
聡美の家に逃げるように転がり込み、雪は、早速鞄から封筒を出そうとした。
こんな何の意味も無いもの、もう手放してしまおうと‥。
けれど結局、雪は封筒を再び鞄に仕舞った。
そして今も尚、それは引き出しの中に大事に置いてある。
あの日父親から貰ったお小遣いは、雪にとって、お金の価値を超えた意味を持っていた。
これを手元に置いておくことで、ずっとこの気持ちは繋がって行く‥。
心の中は、今は凪いだ海のように静かだ。
綺麗に片付いた部屋を見渡しながら、雪は自分を省みる。
私はまだ、両親のささいな行動一つ一つに影響を受けている。
時には泣いたり、笑ったりもして
そして思い出すのは、ちょうど一年前の記憶だ。
心の中は常にさざ波で揺らぎ、部屋までもが散らかっていた。
あの時もそうだった。
影響を受け止めきれずに、感情がガチガチに閉じ込められて‥
そして再び雪は回想した。
目の前に、雑然とした部屋が広がる‥。
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<繋がり>でした。
過去回想が続く中、ポンと差し込まれた現在の場面。
暗闇の中に座る先輩のシーンは、あの場面を彷彿とさせますね。
血だらけ雪ちゃんのすすり泣きホラーシーン‥。
両方夢オチですが‥
そしてお父さんが雪に漢方を買って来てくれた、と!良かったね雪ちゃん‥。
雪が感情をぶち撒けたあの日から、赤山家も随分変わりました。
やっぱり気持ちって、口に出さないと伝わらないんですよねぇ‥。
次回は再び過去に飛びます。
まだ雪ちゃんが気持ちを押し込めて、何も伝わって無かった頃ですね‥。
<雪と淳>過信 です。
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