一限目が始まる頃、聡美と太一は揃って登校して来た。

歩きながら何度も食べ物を口に運ぶ太一は、登校中に朝ごはんを消化してしまうらしい。
ったく、と聡美は呆れながらも鏡を取り出して前髪をチェックした。
「とにかく今日は授業終わったら先帰っていいから」

太一はその様子に、まさかと思って聞いてみた。
「また合コンでも行くつもりっスか?」

あら大正解、と聡美はおどけた。
その答えに、太一は多少嫌味を込めて言葉を返す。
「ちょっとフラフラしすぎなんじゃないっすか?もうそろそろ落ち着いてもいい歳なのに」
「はぁ?あたしの人生あたしの自由に楽しもうってのに、誰が誰に落ち着くっての?」

更に返された聡美の言葉に、太一は意を込めて再び言い返した。
「まぁ、その‥もう少し身近なところも見ていいんじゃないっスかね。
ひょっとしたらすぐそこに、いい男が居るかも知れないじゃないっスか」

太一はそう言って口笛を吹いた。

その様子に、聡美は太一の言わんとしていることを全て悟る。
悟った上で、聡美はハッキリと答えを出した。
「あー、ない。」

太一が、「何でですか?」と聞くと、聡美は言った。
「そうなったら、雪が一人になっちゃうじゃん!」

聡美は、こうして3人でつるんでいるのが良いんだと言った。
もし聡美と太一がくっつけば、間違いなく雪は気を遣ってだんだん離れていくに違いない。
「そんなの絶対にイヤ」

そう言ったきり、聡美は授業だからと教室へ向かって歩いて行った。
太一はその後姿を見ながら、一人呟いた。

「女ってホントよくわかんねー‥」
思いがけず失恋してしまった太一は、
その後ベンチに座りながら、手で顔を覆いながら突っ伏していた‥。

‥のはダブルチーズバーガーにかぶりついていたからであったが、
空腹を満たすと幾らか気分も落ち着いた。
「ダブルチーズバーガー最高!」

授業も空講だったので、その足で美容室に向かう。
「髪切りに行くぞ~」

太一は案外、打たれ強い子なのだ。
美容室でも、太一のこだわりは遺憾なく発揮された。
「この角度を維持しながら揃えて下サイ」

そう言ってオーダーする前髪は、もう既にピシっと揃っている。
実は美容室には一週間前に来たばかりだが、少しでも伸びると我慢出来ないおしゃれさんなのだ。

カットは一瞬で終わり、もう一度美容師さんに角度を確認してもらっている時だった。
「ん?」

離れた席に、見慣れた後ろ姿があった。

「あれ?雪さん?」

しかしこっちを向いた彼女は、赤山雪とは別人だ。

彼女は美容師から、ナチュラルパーマが良くお似合いですと声を掛けられ、照れ笑いしていた。
その横顔に、太一はなんとなく見覚えがあるような気がした。

美容師から「知り合いの方ですか?」と聞かれたが、「人違いでした」と答える太一。
学科の先輩だったような気がしたが、名前が曖昧にしか思い出せない。

太一はそのまま、現代女性の髪型論に話を広げた。
近頃の女性たちは皆髪型が似たり寄ったりで、個性が無くてつまらんと。
「俺のこの鋭い角度を見習い給へよ!」

サッと前髪を鋭角に揃えた太一の後ろで、美容師は「ナイスです!」と合いの手を入れた。
太一は打たれ強く、自分の芯を持ち、そして一途に一人の女を想う、又と無いナイスガイなのだ。

(参照)またとないナイスガイ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<その男、福井太一>でした。
切り取ると本編とは離れた、まるでショートストーリーのような内容になってしまいました‥。
太一と聡美の記事は、書いていてとても楽しいです。
二人共凄く心根が優しいですよね。聡美の、「雪が一人にならないように」という言葉はすごく愛を感じました。
寂しがりやの聡美が気遣い屋の雪を、最大限気遣っている姿はなんだか切なくなります。
友情って良いですね~。
次回は<和解>です。
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歩きながら何度も食べ物を口に運ぶ太一は、登校中に朝ごはんを消化してしまうらしい。
ったく、と聡美は呆れながらも鏡を取り出して前髪をチェックした。
「とにかく今日は授業終わったら先帰っていいから」

太一はその様子に、まさかと思って聞いてみた。
「また合コンでも行くつもりっスか?」

あら大正解、と聡美はおどけた。
その答えに、太一は多少嫌味を込めて言葉を返す。
「ちょっとフラフラしすぎなんじゃないっすか?もうそろそろ落ち着いてもいい歳なのに」
「はぁ?あたしの人生あたしの自由に楽しもうってのに、誰が誰に落ち着くっての?」

更に返された聡美の言葉に、太一は意を込めて再び言い返した。
「まぁ、その‥もう少し身近なところも見ていいんじゃないっスかね。
ひょっとしたらすぐそこに、いい男が居るかも知れないじゃないっスか」

太一はそう言って口笛を吹いた。

その様子に、聡美は太一の言わんとしていることを全て悟る。
悟った上で、聡美はハッキリと答えを出した。
「あー、ない。」

太一が、「何でですか?」と聞くと、聡美は言った。
「そうなったら、雪が一人になっちゃうじゃん!」

聡美は、こうして3人でつるんでいるのが良いんだと言った。
もし聡美と太一がくっつけば、間違いなく雪は気を遣ってだんだん離れていくに違いない。
「そんなの絶対にイヤ」

そう言ったきり、聡美は授業だからと教室へ向かって歩いて行った。
太一はその後姿を見ながら、一人呟いた。

「女ってホントよくわかんねー‥」
思いがけず失恋してしまった太一は、
その後ベンチに座りながら、手で顔を覆いながら突っ伏していた‥。

‥のはダブルチーズバーガーにかぶりついていたからであったが、
空腹を満たすと幾らか気分も落ち着いた。
「ダブルチーズバーガー最高!」

授業も空講だったので、その足で美容室に向かう。
「髪切りに行くぞ~」

太一は案外、打たれ強い子なのだ。
美容室でも、太一のこだわりは遺憾なく発揮された。
「この角度を維持しながら揃えて下サイ」

そう言ってオーダーする前髪は、もう既にピシっと揃っている。
実は美容室には一週間前に来たばかりだが、少しでも伸びると我慢出来ないおしゃれさんなのだ。

カットは一瞬で終わり、もう一度美容師さんに角度を確認してもらっている時だった。
「ん?」

離れた席に、見慣れた後ろ姿があった。

「あれ?雪さん?」

しかしこっちを向いた彼女は、赤山雪とは別人だ。

彼女は美容師から、ナチュラルパーマが良くお似合いですと声を掛けられ、照れ笑いしていた。
その横顔に、太一はなんとなく見覚えがあるような気がした。

美容師から「知り合いの方ですか?」と聞かれたが、「人違いでした」と答える太一。
学科の先輩だったような気がしたが、名前が曖昧にしか思い出せない。

太一はそのまま、現代女性の髪型論に話を広げた。
近頃の女性たちは皆髪型が似たり寄ったりで、個性が無くてつまらんと。
「俺のこの鋭い角度を見習い給へよ!」

サッと前髪を鋭角に揃えた太一の後ろで、美容師は「ナイスです!」と合いの手を入れた。
太一は打たれ強く、自分の芯を持ち、そして一途に一人の女を想う、又と無いナイスガイなのだ。

(参照)またとないナイスガイ
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<その男、福井太一>でした。
切り取ると本編とは離れた、まるでショートストーリーのような内容になってしまいました‥。
太一と聡美の記事は、書いていてとても楽しいです。
二人共凄く心根が優しいですよね。聡美の、「雪が一人にならないように」という言葉はすごく愛を感じました。
寂しがりやの聡美が気遣い屋の雪を、最大限気遣っている姿はなんだか切なくなります。
友情って良いですね~。
次回は<和解>です。
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彼がいてくれると安心します。コマに彼を見つけると、先輩や河村さんとは違った感じで素朴に嬉しいというか、「おっ来たな!」て自然な笑顔で迎えられる。
先輩のコマは良くも悪くもドキドキするし、河村さんだと「早く~!早く気づけ~!」と焦っちゃうし。
聡美ちゃんや、まして雪ちゃんが警戒することなく自然に付き合える理由がわかります。
裏とか、陰湿とか、気難しいとかなく、なんつーか、育ってきた環境ゆえか、理想の弟って感じで好きー。
気が強くて自分勝手な部分を見せる聡美ちゃんを好きになるトコロもグゥググゥ♪
背も高いしオシャレだし優しいし、かなりイケてますよね。なぜか三枚目キャラにされちゃってますが。
しかし太一が微笑んでるカットってなかなか無いんですよね。いつも真顔か変顔で。
そこんところがちょっと変わってるのかな~と思います。聡美との相性はバッチリな感じしますけどね~
本家版の方は太一可哀想な感じですよね。
早く横山問題解決してほしいっす。