水でも飲も‥

暫し部屋で膝を抱えていた雪だったが、不意に喉の乾きを感じた。
雪が自分の部屋から出ると、リビングにて蓮が父に向かって何やらゴネている。

蓮は困ったような表情をしながら、両手を合わせて父に懇願していた。それに対して父は苦い顔だ。
「ね~お父さん~!ちょっとだけ~!」「お前は度々無駄遣いしおって!昨日もやっただろうが!」
「母さんがお小遣いカットしたからどうしようもないんだよ~毎日の交通費すらギリギリで‥」
「ったく‥情けない奴だ‥」

目をウルウルさせてそう訴える蓮に、父は大きく溜息を吐くと財布から紙幣を何枚か取り出した。
無駄遣いするんじゃないぞ、と父は口にしてそれを蓮に渡す。
「わーお!父さん最高!あんたが大将!!」

雪は突然目に入って来たその光景に、目を丸くしていた。
蓮がどうやって交遊費を工面しているのかと疑問だったが、これが答えだったのだ。

金を手にしながら浮かれる蓮を見て、雪は心の中がザワザワと騒ぐのを感じた。
そしてツカツカと二人の元へと歩いて行き、父に向かって談判を始めたのだった。
「ちょっとお父さん!今までお父さんが蓮にお金あげてたの?
この子が毎日遊び呆けてるから、お母さんがわざわざお小遣いカットしたのに!
お父さんがこんな風にお金あげちゃ意味ないじゃん!」

そう声を上げて父に話す雪に、蓮はタジタジしながら手に持った紙幣を見せて言った。
「なんだよ~ほんのちょびっとだぜ?」

しかし雪は怯まず言い返した。「今までずっと貰ってたんでしょ?」と。
図星なだけに、蓮はまるで言い返せない。

そんな蓮を前にして、雪は段々イライラして来た。
「お金が要るなら働いて稼ぎなよ!店はまだ始まったばっかで皆忙しいのに、こんなことする必要ある?」
「そうだよ!だから店の手伝いしてんじゃん!金もほんのちょっとしか貰って無いよ!」
「そんなのは当たり前の話でしょ?!そもそも私なんて貰っても無いよ!」

姉弟はそのまま暫し言い争った。
声を荒げている内に、ずっと弟に対して持っていた不満が雪の口を突いて出る。
「あんたは帰国して一体何をやってるわけ?
毎日毎日遊び歩いて!勉強してる姿なんて一度も見かけてませんけど?!」

正論をズバズバ口にする姉の前で、蓮は青い顔をして俯いた。するとそんな姉弟の間に、父親が割って入る。
「放っておけ、コイツは彼女が出来たんだろう?
男が金も持たずにどうやって彼女に会うんだ。それもあとちょっとのことだろうが」

そして父は蓮の方へ視線を流すと、当然であるかのような口調でこう続けた。
「それに働くってどういうことだ?
そんな時間があれば早く準備してアメリカに帰るべきだろう」

ビクッと、その言葉に蓮の体が強張った。
蓮は視線を泳がせながら、気まずい気持ちを押して父に話そうとした。
もうアメリカに戻る気は無いということを。

しかし父親は蓮がアメリカに帰ることを疑わず話を続けた。
二人に向かって、自分の持つ”当然”の価値観を言葉にする。
「コイツが上手く行けば、お前も上手く行くし、父さんも母さんも皆上手く行くんだぞ。
無駄に高い金を出して留学に行かせてるわけじゃないんだ。雪、お前は嫁に行ったらそれまでだが、
蓮はこれからうちの家族を支える責任がある身なんだ」

父の言葉に、雪は心を支えていた柱がぐらりと揺れる気持ちがした。
心の隙間に、冷たい風が入り込んでくるような気がする。
雪は口をポカンと開けながら、言葉も紡げず父の方を見つめた。

蓮も何も言えなかった。
手にしているたった数千円の紙幣が、将来自分が家族を支えるの為の先行投資だと改めて気付かされ、
その価値が急にズシッと重く感じられる。

暫し沈黙が流れた三人の間に、不意に大きな声が響いた。
振り返ると、母親の姿があった。先ほどのやり取りを聞いていたらしい。
「なんですって?!あなたが蓮に小遣いをあげていたんですか?」

母はリビングに入るや否や、父に向かって声を荒げて詰め寄った。
「私は蓮がアメリカに帰るまで、敢えて渡さなかったんですよ?!
こんな風にこの子を甘やかして‥それでアメリカに帰ると思いますか?!」

突然大きな声で追及された父は、タジタジとしながら苦い顔をして言い返した。
「外面を潰さない程度に蓮のプライドも守ってやらねばならんだろう」
「ったくもうあなたは本当に‥!私の仕事に一度も協力しないし、こんなのあんまりですよ!」

言い争う両親の間で、雪はタラタラと冷や汗を流していた。
自分が父と蓮との間に割って入ったことが、まさか両親の喧嘩にまで発展してしまうなんて‥。
すると母親は蓮の方に向き直ると、厳しい口調で息子に向かって追及した。
「それにあんた!あんたは一体いつアメリカに帰るの?
あんたがずっとここに居るから、こんなことになるのよ!」

母からそう言われた蓮は、手に紙幣を握り締めながら当惑した。
「お‥俺は‥」

両親と姉が、自分の方を見て答えを待っている。
しかし蓮には、何も言うべき言葉が見つからなかった。

前にいるこの三人の責任をやがて負わなければいけないという実感も、
アメリカに帰ることが当然視されている今の状況も、
まだ自分が何をしたいのかすら分からない現状も、蓮には凄まじく重たく感じられた。頬に幾筋も汗が伝う。

蓮は「俺は‥」の続きがどうしても続けられなかった。
手にしている数千円が持つその価値が、恐ろしいほど重かった。

「ううっ‥!」

そして遂に蓮は、そのプレッシャーに耐えることが出来ずに逃げ出した。
蓮が走って行った後、紙幣がその場でハラハラと虚しく散る。
「なんだなんだ!男のくせに情けない‥ったく!」

バンッと音を立てて、蓮は外へ出て行った。
こんな筈じゃなかったのにという苦い思いに、雪は思わず眉間を押さえる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<その価値>でした。
赤山家の皆が、それぞれバラバラの価値観を持っているのが段々と浮き彫りになっていきます。
そして両親からの期待から逃げ出した長男‥なんだかまだ本当に子供ですね蓮は‥。
さて次回は長女が大爆発です。
<赤山家の激白>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!

暫し部屋で膝を抱えていた雪だったが、不意に喉の乾きを感じた。
雪が自分の部屋から出ると、リビングにて蓮が父に向かって何やらゴネている。

蓮は困ったような表情をしながら、両手を合わせて父に懇願していた。それに対して父は苦い顔だ。
「ね~お父さん~!ちょっとだけ~!」「お前は度々無駄遣いしおって!昨日もやっただろうが!」
「母さんがお小遣いカットしたからどうしようもないんだよ~毎日の交通費すらギリギリで‥」
「ったく‥情けない奴だ‥」

目をウルウルさせてそう訴える蓮に、父は大きく溜息を吐くと財布から紙幣を何枚か取り出した。
無駄遣いするんじゃないぞ、と父は口にしてそれを蓮に渡す。
「わーお!父さん最高!あんたが大将!!」

雪は突然目に入って来たその光景に、目を丸くしていた。
蓮がどうやって交遊費を工面しているのかと疑問だったが、これが答えだったのだ。

金を手にしながら浮かれる蓮を見て、雪は心の中がザワザワと騒ぐのを感じた。
そしてツカツカと二人の元へと歩いて行き、父に向かって談判を始めたのだった。
「ちょっとお父さん!今までお父さんが蓮にお金あげてたの?
この子が毎日遊び呆けてるから、お母さんがわざわざお小遣いカットしたのに!
お父さんがこんな風にお金あげちゃ意味ないじゃん!」

そう声を上げて父に話す雪に、蓮はタジタジしながら手に持った紙幣を見せて言った。
「なんだよ~ほんのちょびっとだぜ?」

しかし雪は怯まず言い返した。「今までずっと貰ってたんでしょ?」と。
図星なだけに、蓮はまるで言い返せない。


そんな蓮を前にして、雪は段々イライラして来た。
「お金が要るなら働いて稼ぎなよ!店はまだ始まったばっかで皆忙しいのに、こんなことする必要ある?」
「そうだよ!だから店の手伝いしてんじゃん!金もほんのちょっとしか貰って無いよ!」
「そんなのは当たり前の話でしょ?!そもそも私なんて貰っても無いよ!」

姉弟はそのまま暫し言い争った。
声を荒げている内に、ずっと弟に対して持っていた不満が雪の口を突いて出る。
「あんたは帰国して一体何をやってるわけ?
毎日毎日遊び歩いて!勉強してる姿なんて一度も見かけてませんけど?!」

正論をズバズバ口にする姉の前で、蓮は青い顔をして俯いた。するとそんな姉弟の間に、父親が割って入る。
「放っておけ、コイツは彼女が出来たんだろう?
男が金も持たずにどうやって彼女に会うんだ。それもあとちょっとのことだろうが」

そして父は蓮の方へ視線を流すと、当然であるかのような口調でこう続けた。
「それに働くってどういうことだ?
そんな時間があれば早く準備してアメリカに帰るべきだろう」

ビクッと、その言葉に蓮の体が強張った。
蓮は視線を泳がせながら、気まずい気持ちを押して父に話そうとした。
もうアメリカに戻る気は無いということを。

しかし父親は蓮がアメリカに帰ることを疑わず話を続けた。
二人に向かって、自分の持つ”当然”の価値観を言葉にする。
「コイツが上手く行けば、お前も上手く行くし、父さんも母さんも皆上手く行くんだぞ。
無駄に高い金を出して留学に行かせてるわけじゃないんだ。雪、お前は嫁に行ったらそれまでだが、
蓮はこれからうちの家族を支える責任がある身なんだ」

父の言葉に、雪は心を支えていた柱がぐらりと揺れる気持ちがした。
心の隙間に、冷たい風が入り込んでくるような気がする。
雪は口をポカンと開けながら、言葉も紡げず父の方を見つめた。

蓮も何も言えなかった。
手にしているたった数千円の紙幣が、将来自分が家族を支えるの為の先行投資だと改めて気付かされ、
その価値が急にズシッと重く感じられる。

暫し沈黙が流れた三人の間に、不意に大きな声が響いた。
振り返ると、母親の姿があった。先ほどのやり取りを聞いていたらしい。
「なんですって?!あなたが蓮に小遣いをあげていたんですか?」

母はリビングに入るや否や、父に向かって声を荒げて詰め寄った。
「私は蓮がアメリカに帰るまで、敢えて渡さなかったんですよ?!
こんな風にこの子を甘やかして‥それでアメリカに帰ると思いますか?!」

突然大きな声で追及された父は、タジタジとしながら苦い顔をして言い返した。
「外面を潰さない程度に蓮のプライドも守ってやらねばならんだろう」
「ったくもうあなたは本当に‥!私の仕事に一度も協力しないし、こんなのあんまりですよ!」

言い争う両親の間で、雪はタラタラと冷や汗を流していた。
自分が父と蓮との間に割って入ったことが、まさか両親の喧嘩にまで発展してしまうなんて‥。
すると母親は蓮の方に向き直ると、厳しい口調で息子に向かって追及した。
「それにあんた!あんたは一体いつアメリカに帰るの?
あんたがずっとここに居るから、こんなことになるのよ!」

母からそう言われた蓮は、手に紙幣を握り締めながら当惑した。
「お‥俺は‥」

両親と姉が、自分の方を見て答えを待っている。
しかし蓮には、何も言うべき言葉が見つからなかった。

前にいるこの三人の責任をやがて負わなければいけないという実感も、
アメリカに帰ることが当然視されている今の状況も、
まだ自分が何をしたいのかすら分からない現状も、蓮には凄まじく重たく感じられた。頬に幾筋も汗が伝う。

蓮は「俺は‥」の続きがどうしても続けられなかった。
手にしている数千円が持つその価値が、恐ろしいほど重かった。

「ううっ‥!」

そして遂に蓮は、そのプレッシャーに耐えることが出来ずに逃げ出した。
蓮が走って行った後、紙幣がその場でハラハラと虚しく散る。
「なんだなんだ!男のくせに情けない‥ったく!」

バンッと音を立てて、蓮は外へ出て行った。
こんな筈じゃなかったのにという苦い思いに、雪は思わず眉間を押さえる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<その価値>でした。
赤山家の皆が、それぞれバラバラの価値観を持っているのが段々と浮き彫りになっていきます。
そして両親からの期待から逃げ出した長男‥なんだかまだ本当に子供ですね蓮は‥。
さて次回は長女が大爆発です。
<赤山家の激白>です。
人気ブログランキングに参加しました



今回、雪ちゃんが一番可哀想でした(>_<)
お父さんは雪ちゃんの事を思っていないわけではないでしょうけど、良い方が悪すぎますね。お父さんは男尊女卑の考え方なんでしょうか?お国柄もあるのかな?
お母さんはすぐ感情的になりすぎですし・・・。
二人とも雪ちゃんがどれだけ頑張っているのか、ちゃんと見てあげてほしいですね。
誰だってあんな言い方聞いたら、雪ちゃんみたいにショック受けますよ。
いつも一生懸命家族を支えようと頑張っているのに、必要としてほしい人には
どうせお前は嫁にいくし(関係ない) くらいのこと言われたらそりゃ柱もグラングランしますよー。
あ、てか全然関係ないですけど蓮に彼女ができたの何で知ってるんですかね?自分で言ったのかな?イェーイみたいなノリで…
だとしたらおとんからも小遣いあげるどころかそんなことしてる場合じゃねーだろー!ぐらいの渇が欲しいものです。
前におとんから初めてお小遣いもらって、でももったいなくて使えなくて大事にとってた雪ちゃんを思い出し涙。
お互い価値観違うゆうても、雪ちゃんがあまりにも不憫…そりゃブチギレますよー。
しかしここまでとうちゃんも蓮にはアマアマだったとはある意味びっくりです。
雪には手伝いも無償なのに、彼女のデート代も必要とかのたまわってるとは。。
人はほんとに努力せず与えられたものへの執着がないというのは本当だと再度実感しますね。
滲む思いで留学費用を捻出してもあっさり逃げようとするとは・・
まあとうちゃんのこの態度が根源でしょうけれどね。
なぜアメリカに早く帰れと言えないのでしょうかね。
期待してると言いながら行動が伴わない。
まあその母親である雪ババにもさかのぼるんでしょうけれどね。
男を甘やかしてのさばらしてしまうというか。