「うううう‥」
柳瀬健太は大学にて、机に突っ伏しながら低いうめき声を上げていた。
「‥ますます現実の壁が、俺の未来の四方を塞ぐ‥」
負のオーラを背負った健太の様子を見て、後輩達は彼に気付かれぬよう、コソコソと逃げ出して行く。
もし今捕まれば軽く一時間は拘束されるぞ、と口々に言い合いながら。
「おい、一服しに行くか?」 「何か飲み行く?奢るぜ?!」
健太は周りの学生達に声を掛けたが、ことごとく断られた。
皆健太と目を合わせぬよう顔を背けると、適当な理由を口にして教室を後にする。
つれない仲間達に暫しげんなりとしていた健太であったが、不意に見慣れた後ろ姿を見つけた。
「お!」
横山翔だった。健太は横山に向かって大きく手を振り、
「横山~!愛する後輩よ~!」と言って笑顔を浮かべる。
振り返った横山はうんざりといった表情を浮かべたが、
結局健太に連れられ、共に教室を出て行ったのだった。
中庭のベンチに移動しても、健太の嘆きは止まらなかった。
「それにしてもよぉ!就職は厳しいし仕事もねぇし‥!まったく世知辛ぇ世の中だぜ!なぁ?!」
煙草の箱(空き缶?)を握り潰しながら、健太は世の中に対しての不満を並べ続けた。
横山は携帯をいじりながら、「へ~へ~」と適当に流している。
横山は健太の方を窺いすらしなかったが、彼はお構いなしに喋り続けた。
「誰かさんは生まれながらに銀の匙くわえて、インターンも簡単に決まってよぉ!
誰かさんはその分勉強する時間が足りなくて、コネもなくヘコヘコ頭下げて‥。
せめて面接くらい見てくれの良いスーツ着て行きてぇけど、金が無くてそれすら出来ねぇしよぉ!」
世の中悔しいことばっかりだ、と言って健太は横山に肩を組んで溜息を吐いた。
横山は迷惑そうな顔をしているが、やはりお構いなしに健太は続ける。
もう父親は退職しているのに、まだ自分は卒業もしていないと言って健太は嘆いていた。
そして今自分が陥っている混沌とした状況は、全て不条理な世の中のせいだと健太は言う。
まだ健太はマシンガンのように喋り続けていたが、横山は不意に震えた携帯電話に反応して受信メールを開いた。
するとそこには、目玉が飛び出るような写真が添付されていた。
今日はちょっと寒いから、ファージャケ着て来た~
思わず横山はブフーッと吹き出した。
羽織っているファージャケットよりも、その強調された胸元に目が釘付けだ。
しかし健太はそんな横山の動揺に気づかず、尚も不平を鳴らしている。
不条理な世の中と同じくらい、女だって不公平な目で男を選びやがる、と。
「ちょっと家柄が良いとか金があるとかいう男を見れば尻尾振りやがって!
てかなんで可愛い子達はそんなチャラチャラした奴らばっかり選びやがる?!おかしいんじゃねーか!?
あいつらの目は節穴か?!男らしさってもんが分かんねーのか、男らしさってもんが!!」
健太の頭の中に浮かぶのは、可愛い恵を手に入れた赤山弟、恵とハーフ美女をはべらせていた佐藤、
そして言わずもがな女性には不自由しないであろう青田淳(ただいま本命彼女有り)の面々だ。
健太は人差し指をピッと立てると、この世の中を不条理にさせているものの正体を、自信を持って口にする。
「全部金なんだよ、結局は!」
だから上手くいかないのはしょうがないのだと、健太は結論付けて溜息を吐いた。
横山に凭れ掛かりながら、健太は尚も彼に絡む。
「早く就職して俺も経済力をバシッと見せつけてーのに、もどかしいぜマジでー。
お前も分かんだろ? 去年お前も女絡みのゴタゴタで、ストレス過多だったもんな~?」
そう言って横山の頬を撫でていた健太であったが、横山は迷惑そうに肘で健太を押しやった。
横山は首を捻りながら、そっけなく健太に言い返す。
「さぁ~?俺は金足りなかったことないんで、よく分かんないっすわ」
え?と聞き返す健太に向かって、横山は冷めた目をして言葉を続けた。
「そんでもって俺は今、女が溢れて問題っすよ。
すんませんけど別に共感出来ませんね」
気怠そうにそう言った横山を前にして、健太は唖然とした。
「な、何だって‥?」
この間まであんなに自分を慕って頼りにしてくれていたのに‥。
健太は今の状況が咄嗟に理解出来ず固まっていた。
そんな健太に向かって、横山は立ち上がりながら呆れたように言葉を紡ぐ。
「ふ~‥先輩‥。俺が最後にマジモードで忠告しますね」
「もういい加減しっかりして下さい。一体いつまで人のせいにするんすか。
だから先輩は無視されるんすよ。だって実際そうっしょ?」
横山は健太に向かって、その正論をズバッと口に出した。
世話になった先輩に対しての横山のその態度に、みるみる健太の顔が歪んで行く。
すぐさま怒りの沸点に達した健太は、横山に向かって威嚇するように怒鳴り出した。
「んだとぉ?!テメー今なんつった?!」
健太のその剣幕に横山は思わず息を飲んだが、ちょうど道を通りがかった仲間を見つけて咄嗟に手を上げた。
横山は健太の方へと向き直ると、最後に見せかけの笑顔を浮かべて先輩にエールを送る。
「そんじゃ、就活頑張って下さ~い!」
横山は健太に背を向けると、すぐさま笑顔を取り去ってせせら笑うような表情を浮かべた。
復学する時は使い道があったけど‥もう用無しだわアイツ
馬鹿にするように笑いながら、横山は仲間の元へと駆けて行く。
小さくなる裏切り者の後ろ姿を、健太は怒りに震えながらじっと見つめていた‥。
一方大学に出て来た雪は、一人考え事をしながら構内を歩いていた。
とにかくもうバイトはクビになっちゃったんだから、
かえって期末に集中出来ると考えることにしよう。仕事はまた探せばいい。
ちょっと苦しいけど、口座にお金が全く無いわけじゃないし‥。
そして雪はコッソリと自分の服の匂いを嗅いだ。
この服を着るのは二日目‥。下着の替えは持って来ていたので大丈夫なものの、服は臭っていないか気になる‥。
今日こそは家に帰らなければいけないだろうな、と思って憂鬱になっていた雪だったが、
ふと前方から歩いて来る集団の中に、あの男の姿を見た。横山翔である。
雪はヒッと息を飲んで即座に向きを変え、横山に見つからないよう足早に駈け出した。
ど‥どうする?!とりあえず逃げなきゃ‥!
太一と聡美も居ないから証拠も取れないし、こういう時は逃げるが勝ち!
雪はそう心を決めて、道の植え込みに逃げ込むとそこに身を隠した。
ガサッと茂みが揺れるが、横山は雪の存在には気づかずそこを通り過ぎる。
「んだよ~何の写真?」 「www‥後で見せちゃる」
横山は先ほど受信した”ニセ青田”からの写メを見て、一人ニヤついていたのだった。
雪は横山が去って行くのを草の陰から見届けると、頭に葉っぱを乗せて地べたに座る自分にげんなりだ。
「てか‥私が何でこんな‥」
雪がそう呟きながら顔を上げると、目の前に人が居た。
同じ様に地べたに座り、なぜかその人は自撮りをしていたのだった。
亮の姉の、河村静香だ。
雪は思いもつかない事態の展開に、ひたすら目を剥いて驚愕する‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<踊るイタチ>でした。
普段は空気の読めない横山ですが、健太先輩に「いつまで人のせいにするんすか?」と言ったのは少しスカッとしました。
お前もよく人のせいにするけどな!と心の中でツッコミもしましたが‥^^;
さぁ期せずして出会った静香と雪。
次回は<虎の咀嚼>です。
*いつも忘れがちな登場人物の誕生日ですが‥^^;
本日は亮さんの誕生日ですね~!おめでとうございます~!
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柳瀬健太は大学にて、机に突っ伏しながら低いうめき声を上げていた。
「‥ますます現実の壁が、俺の未来の四方を塞ぐ‥」
負のオーラを背負った健太の様子を見て、後輩達は彼に気付かれぬよう、コソコソと逃げ出して行く。
もし今捕まれば軽く一時間は拘束されるぞ、と口々に言い合いながら。
「おい、一服しに行くか?」 「何か飲み行く?奢るぜ?!」
健太は周りの学生達に声を掛けたが、ことごとく断られた。
皆健太と目を合わせぬよう顔を背けると、適当な理由を口にして教室を後にする。
つれない仲間達に暫しげんなりとしていた健太であったが、不意に見慣れた後ろ姿を見つけた。
「お!」
横山翔だった。健太は横山に向かって大きく手を振り、
「横山~!愛する後輩よ~!」と言って笑顔を浮かべる。
振り返った横山はうんざりといった表情を浮かべたが、
結局健太に連れられ、共に教室を出て行ったのだった。
中庭のベンチに移動しても、健太の嘆きは止まらなかった。
「それにしてもよぉ!就職は厳しいし仕事もねぇし‥!まったく世知辛ぇ世の中だぜ!なぁ?!」
煙草の箱(空き缶?)を握り潰しながら、健太は世の中に対しての不満を並べ続けた。
横山は携帯をいじりながら、「へ~へ~」と適当に流している。
横山は健太の方を窺いすらしなかったが、彼はお構いなしに喋り続けた。
「誰かさんは生まれながらに銀の匙くわえて、インターンも簡単に決まってよぉ!
誰かさんはその分勉強する時間が足りなくて、コネもなくヘコヘコ頭下げて‥。
せめて面接くらい見てくれの良いスーツ着て行きてぇけど、金が無くてそれすら出来ねぇしよぉ!」
世の中悔しいことばっかりだ、と言って健太は横山に肩を組んで溜息を吐いた。
横山は迷惑そうな顔をしているが、やはりお構いなしに健太は続ける。
もう父親は退職しているのに、まだ自分は卒業もしていないと言って健太は嘆いていた。
そして今自分が陥っている混沌とした状況は、全て不条理な世の中のせいだと健太は言う。
まだ健太はマシンガンのように喋り続けていたが、横山は不意に震えた携帯電話に反応して受信メールを開いた。
するとそこには、目玉が飛び出るような写真が添付されていた。
今日はちょっと寒いから、ファージャケ着て来た~
思わず横山はブフーッと吹き出した。
羽織っているファージャケットよりも、その強調された胸元に目が釘付けだ。
しかし健太はそんな横山の動揺に気づかず、尚も不平を鳴らしている。
不条理な世の中と同じくらい、女だって不公平な目で男を選びやがる、と。
「ちょっと家柄が良いとか金があるとかいう男を見れば尻尾振りやがって!
てかなんで可愛い子達はそんなチャラチャラした奴らばっかり選びやがる?!おかしいんじゃねーか!?
あいつらの目は節穴か?!男らしさってもんが分かんねーのか、男らしさってもんが!!」
健太の頭の中に浮かぶのは、可愛い恵を手に入れた赤山弟、恵とハーフ美女をはべらせていた佐藤、
そして言わずもがな女性には不自由しないであろう青田淳(ただいま本命彼女有り)の面々だ。
健太は人差し指をピッと立てると、この世の中を不条理にさせているものの正体を、自信を持って口にする。
「全部金なんだよ、結局は!」
だから上手くいかないのはしょうがないのだと、健太は結論付けて溜息を吐いた。
横山に凭れ掛かりながら、健太は尚も彼に絡む。
「早く就職して俺も経済力をバシッと見せつけてーのに、もどかしいぜマジでー。
お前も分かんだろ? 去年お前も女絡みのゴタゴタで、ストレス過多だったもんな~?」
そう言って横山の頬を撫でていた健太であったが、横山は迷惑そうに肘で健太を押しやった。
横山は首を捻りながら、そっけなく健太に言い返す。
「さぁ~?俺は金足りなかったことないんで、よく分かんないっすわ」
え?と聞き返す健太に向かって、横山は冷めた目をして言葉を続けた。
「そんでもって俺は今、女が溢れて問題っすよ。
すんませんけど別に共感出来ませんね」
気怠そうにそう言った横山を前にして、健太は唖然とした。
「な、何だって‥?」
この間まであんなに自分を慕って頼りにしてくれていたのに‥。
健太は今の状況が咄嗟に理解出来ず固まっていた。
そんな健太に向かって、横山は立ち上がりながら呆れたように言葉を紡ぐ。
「ふ~‥先輩‥。俺が最後にマジモードで忠告しますね」
「もういい加減しっかりして下さい。一体いつまで人のせいにするんすか。
だから先輩は無視されるんすよ。だって実際そうっしょ?」
横山は健太に向かって、その正論をズバッと口に出した。
世話になった先輩に対しての横山のその態度に、みるみる健太の顔が歪んで行く。
すぐさま怒りの沸点に達した健太は、横山に向かって威嚇するように怒鳴り出した。
「んだとぉ?!テメー今なんつった?!」
健太のその剣幕に横山は思わず息を飲んだが、ちょうど道を通りがかった仲間を見つけて咄嗟に手を上げた。
横山は健太の方へと向き直ると、最後に見せかけの笑顔を浮かべて先輩にエールを送る。
「そんじゃ、就活頑張って下さ~い!」
横山は健太に背を向けると、すぐさま笑顔を取り去ってせせら笑うような表情を浮かべた。
復学する時は使い道があったけど‥もう用無しだわアイツ
馬鹿にするように笑いながら、横山は仲間の元へと駆けて行く。
小さくなる裏切り者の後ろ姿を、健太は怒りに震えながらじっと見つめていた‥。
一方大学に出て来た雪は、一人考え事をしながら構内を歩いていた。
とにかくもうバイトはクビになっちゃったんだから、
かえって期末に集中出来ると考えることにしよう。仕事はまた探せばいい。
ちょっと苦しいけど、口座にお金が全く無いわけじゃないし‥。
そして雪はコッソリと自分の服の匂いを嗅いだ。
この服を着るのは二日目‥。下着の替えは持って来ていたので大丈夫なものの、服は臭っていないか気になる‥。
今日こそは家に帰らなければいけないだろうな、と思って憂鬱になっていた雪だったが、
ふと前方から歩いて来る集団の中に、あの男の姿を見た。横山翔である。
雪はヒッと息を飲んで即座に向きを変え、横山に見つからないよう足早に駈け出した。
ど‥どうする?!とりあえず逃げなきゃ‥!
太一と聡美も居ないから証拠も取れないし、こういう時は逃げるが勝ち!
雪はそう心を決めて、道の植え込みに逃げ込むとそこに身を隠した。
ガサッと茂みが揺れるが、横山は雪の存在には気づかずそこを通り過ぎる。
「んだよ~何の写真?」 「www‥後で見せちゃる」
横山は先ほど受信した”ニセ青田”からの写メを見て、一人ニヤついていたのだった。
雪は横山が去って行くのを草の陰から見届けると、頭に葉っぱを乗せて地べたに座る自分にげんなりだ。
「てか‥私が何でこんな‥」
雪がそう呟きながら顔を上げると、目の前に人が居た。
同じ様に地べたに座り、なぜかその人は自撮りをしていたのだった。
亮の姉の、河村静香だ。
雪は思いもつかない事態の展開に、ひたすら目を剥いて驚愕する‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<踊るイタチ>でした。
普段は空気の読めない横山ですが、健太先輩に「いつまで人のせいにするんすか?」と言ったのは少しスカッとしました。
お前もよく人のせいにするけどな!と心の中でツッコミもしましたが‥^^;
さぁ期せずして出会った静香と雪。
次回は<虎の咀嚼>です。
*いつも忘れがちな登場人物の誕生日ですが‥^^;
本日は亮さんの誕生日ですね~!おめでとうございます~!
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亮さん大好きです!!!
文才無いのでコメント出来なかったんですが(笑)
毎日更新を楽しみに(生き甲斐) してました
師匠。毎日ありがとうございます
今更ですが…
しかも写真とりながら「ぷぅぅ~(可愛い子ぷり)」言ってる。
漫画を読んでても、自分では
気づかなかった人物の思いなどが
分かりやすく解説されていて、
とても助かっています(笑)
亮さん誕生日おめでとうございます!
雪ちゃんへの想いが友情から
変わった所は1人でニヤニヤしましたw
管理人さんこれからも応援しています!
この男、自分を疑って苦しむ、ってこと絶対ないでしょうね。雪ちゃんはそれをしすぎでストレスが溜まってしまってますが…難しいところですね(^_^;)←こう言ってる私も出来てない( ̄▽ ̄)
疑って、本当は自分が間違っていると薄々気づいていても、変えるのは大変だから今の自分を守るかたちに、っていうのはあるあるですけど横山に関してはそれすら全く見られませんからね。ある意味凄い( ̄▽ ̄)
先輩も、自分が絶対型ですよね。違うのは、疑った上で、自分が正しいと判断するってところですね。
そして亮さん!!誕生日なんですね!!!!
おおおおめでとう!!┌iii┐♪
はじめまして~!コメありがとうございます^^
更新を生きがいとまで言って下さって‥。
嬉しいです!!頑張ります!
また遊びに来て下さい^0^!
CitTさん
あの「ぷぅ~」はぶりっ子(死語?)ジェスチャーでしたか‥!
美人で巨乳なことを分かってやってるんですね‥。
う~んおそるべし‥。
アフタヌーン王子さん
なんだかすごく印象的なHN‥!
はじめまして~!コメありがとうございます^^
亮さんがお好きなのかな?^^
4日後あたりからまた亮さんのターンが来ますので、お楽しみに~!
また遊びに来てくださいね~!
ぽこ田さん
もう本当に横山の調子乗りっぷりといったら‥。
健太も大概ですが、横山の「俺サイコー」っぷりが本当に酷い‥orz
早くだれかにビンタされて目を覚ましてほしいものです‥。
ところで、血液型がユジョンで、星座がペクインホな私…いったいどんな人間だと?
たしかに横山の俺は勝者みたいな勘違いウゼー!逆にここまでウザイとスゲー!と、感心。盛大に踊っておりますね…
何もかもすっとばしてビンタされちゃえばいいのに~!
でももういいのですやつの命もあと少しでしょう
しかし静香きちんとぶりっとするんですね
そこは意外でした