店を出てから、木々が秋色に色づく中を彼等は歩いていた。
先頭を行く母と父は、会話のないままただ歩を進めている。
そんな二人の様子を見て、蓮は亮にコッソリとこう言った。
「俺、中に入って会話を盛り上げてこよっかな?」
しかし亮はそんな蓮にヘッドロックを掛けると、こういう時はそっとしておくものだと言ってこめかみをグリグリした。
彼等の後ろで雪が、そんな四人の姿をぼんやりと眺めながら歩いている。
不意に亮が雪の方を窺うと、二人の目が合い、
雪は亮に対して、口だけ動かしてこう言った。
あ り が と
亮は彼女からのメッセージを読み取って、頷いた。
返事の代わりに、その微かな笑みを口元に湛えて。
そして彼等は秋の道を歩いた。
黙って歩けと言って蓮の首根っこを掴む亮、ジタバタする蓮、そんな二人の後ろで微笑みながら歩く雪。
温かい気持ちだった。
雪は微笑みを浮かべながら、心の中で一人呟く。
嬉しかった。
「間違ってた」とか、「申し訳なかった」とか、そういう言葉は無かったけど、
必ずしもそういった言葉が無くたって、私達は長い時間を共に過ごしてきた家族だ。
先ずはそれで十分だという気がした。
実際、大きな変化を期待しているわけじゃない。
それがどんなに難しいことなのか、知っているからだ。
けれど、小さな変化の兆候が、どこかから芽生えているような気がしている。
言葉は無かったけれど、いや言葉が無いからこそ、皆が似たような感情を共有していることを雪は感じた。
言葉と言葉の狭間に揺蕩う思いを胸に、赤山家はまた家族を再構築して行く‥。
「じゃ、俺ちょっと恵に会いに行ってくるわ!土曜だし!」
振り返ってそう口にする蓮に、雪は「その後は私とも会ってね?」と言って、蓮にプレッシャーを掛けた。
弟の将来についての話し合いである。ヒィッと息を呑み、怖がるように逃げ出す蓮‥。
そして蓮がその場から去ると、今度は亮が雪に向かってニヤニヤと笑ってプレッシャーを掛けた。
亮は腕組みをしたまま、肘で雪のことをウリウリと小突いてくる。
亮はクククと笑いながら、雪に向かって自分が持つ恩をひけらかした。
「いや~オレに感謝しなきゃな~?ありがてーだろ?ありがてーだろ?」
そう何度も繰り返す亮に対し、雪は言葉に詰まっていたが、
確かに今回自分が企てた「家族再構築計画」は、亮の働きなくして成功はしなかったと思われる。
雪は息を吐くと、彼の見返りを予想して口を開いた。
「あ‥また”メシおごれ”ですか?」
しかし亮は雪のその言葉に首を横に振った。
そして穏やかな微笑みを浮かべると、自分の気持ちを正直に口に出す。
「諦めねーで、オレにずっと勉強を教えてくれ」
「え?」と言って目を丸くする雪に、
亮は「どんなにバカだと思ってもよ」と言って笑った。
亮は、遠くを見るように顔を上げ、一つ息を吐くと、自分なりに将来を考えていた過程を雪に語った。
「ピアノを弾く弾かない関係なく、結局まともに社会で生きてく為には勉強を続けるべきなんだよな。
なんだかんだ、履歴書書く時も気になってたしよ。お前が何でオレに勉強しろっつったのかが良く分かったぜ」
雪は彼の言葉を聞いて、大学在学中の自分が高校中退した亮に偉そうに言ってしまったかと、
少し決まり悪い気持ちになりながら頭を掻いて応えた。
「はい‥まぁ‥出来る限り‥」と。
亮はそんな雪の答えに微笑み、前を向いた。
勉強という名目でも、彼女と一緒に居ることを了承してくれたことに、嬉しさと感謝をその笑みに湛えながら。
そして亮は、彼女の家族のことに話題を移した。
「それにしてもよぉ、お前の家族って毎度毎度騒がしいけど、かなり良い家族だよな。
社長だって古風だからああいう感じだけど、悪い人間じゃねぇしよ」
雪は突然亮が自分の家族を褒めてくれるような事を言ったので、少し戸惑いながら相槌を打った。
亮は尚も続ける。
「お前が家出するほどだから結構デカイ喧嘩だったんだろうに、
こんな風に仲直り出来たのはビックリだぜ。あ、でもそれが家族ってモンなんか?」
すると亮は、小さな声でこう言った。
「オレには、良く分かんねぇけど」
そして亮は微かに笑った。
被ったフードの影に、薄く笑った口元が見えた。
そんな亮の横顔に、雪は目が惹きつけられた。
その言葉と寂しそうに笑う声が、鼓膜の裏にこびりつく。
じっと見つめていると、被ったフードの影から、亮の瞳が見えた。
なんと形容したら良いのか分からないような、見ているこちらの胸を揺さぶるようなそんな瞳をしてー‥。
気がついたら、亮に向かって手を伸ばしていた。
あの‥と小さく声を漏らしながら、雪は亮の背中に触れようとする。
すると雪の手が触れる前に、亮が大きなクシャミをした。
思わず雪は彼の後ろで飛び上がる。
亮は鼻をすすりながら、雪の方を振り向いて言った。
「あー最近冷えるわ。はよ家帰れ!明日は出勤すっからまたそん時な。
オレ他の用事あっからもう行くわ」
雪は変なストレッチの様な仕草をしながら、亮に向かって伸ばしていた手の行き場を曖昧にした。
亮は雪の気持ちなど全く気づかず、そのまま彼女に背を向けて去って行く。
「んじゃな~」
雪は目を点にしたまま、ロボットのような格好で「さようなら‥」と呟いた。
亮に対して自分の心に芽生えた、さっきのあの感情は何だろう‥。
雪はそんな気持ちを不思議に思いつつ、そのまま家路を歩いて行った。
言葉と言葉の狭間、言語化出来ないその場所に、様々な感情が存在する‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<家族再構築計画(4)ー言葉の狭間ー>でした。
家族再構築計画シリーズ、終わりました。
激しかった赤山家の衝突も、なんとか解決となりました。間に入っていた亮の存在が大きかったですね。
そしてこれで、この漫画における雪ちゃんの家族の問題は解決されたと見て良いんじゃないでしょうか。
溜め込んだ不満を吐き出し、ぶつけ、そして再構築する。
人間関係においてはこれが大事なプロセスですね。そしてこれが必要な人達が、次の話では出て来ます‥。
次回<繰り返す結末>です。
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先頭を行く母と父は、会話のないままただ歩を進めている。
そんな二人の様子を見て、蓮は亮にコッソリとこう言った。
「俺、中に入って会話を盛り上げてこよっかな?」
しかし亮はそんな蓮にヘッドロックを掛けると、こういう時はそっとしておくものだと言ってこめかみをグリグリした。
彼等の後ろで雪が、そんな四人の姿をぼんやりと眺めながら歩いている。
不意に亮が雪の方を窺うと、二人の目が合い、
雪は亮に対して、口だけ動かしてこう言った。
あ り が と
亮は彼女からのメッセージを読み取って、頷いた。
返事の代わりに、その微かな笑みを口元に湛えて。
そして彼等は秋の道を歩いた。
黙って歩けと言って蓮の首根っこを掴む亮、ジタバタする蓮、そんな二人の後ろで微笑みながら歩く雪。
温かい気持ちだった。
雪は微笑みを浮かべながら、心の中で一人呟く。
嬉しかった。
「間違ってた」とか、「申し訳なかった」とか、そういう言葉は無かったけど、
必ずしもそういった言葉が無くたって、私達は長い時間を共に過ごしてきた家族だ。
先ずはそれで十分だという気がした。
実際、大きな変化を期待しているわけじゃない。
それがどんなに難しいことなのか、知っているからだ。
けれど、小さな変化の兆候が、どこかから芽生えているような気がしている。
言葉は無かったけれど、いや言葉が無いからこそ、皆が似たような感情を共有していることを雪は感じた。
言葉と言葉の狭間に揺蕩う思いを胸に、赤山家はまた家族を再構築して行く‥。
「じゃ、俺ちょっと恵に会いに行ってくるわ!土曜だし!」
振り返ってそう口にする蓮に、雪は「その後は私とも会ってね?」と言って、蓮にプレッシャーを掛けた。
弟の将来についての話し合いである。ヒィッと息を呑み、怖がるように逃げ出す蓮‥。
そして蓮がその場から去ると、今度は亮が雪に向かってニヤニヤと笑ってプレッシャーを掛けた。
亮は腕組みをしたまま、肘で雪のことをウリウリと小突いてくる。
亮はクククと笑いながら、雪に向かって自分が持つ恩をひけらかした。
「いや~オレに感謝しなきゃな~?ありがてーだろ?ありがてーだろ?」
そう何度も繰り返す亮に対し、雪は言葉に詰まっていたが、
確かに今回自分が企てた「家族再構築計画」は、亮の働きなくして成功はしなかったと思われる。
雪は息を吐くと、彼の見返りを予想して口を開いた。
「あ‥また”メシおごれ”ですか?」
しかし亮は雪のその言葉に首を横に振った。
そして穏やかな微笑みを浮かべると、自分の気持ちを正直に口に出す。
「諦めねーで、オレにずっと勉強を教えてくれ」
「え?」と言って目を丸くする雪に、
亮は「どんなにバカだと思ってもよ」と言って笑った。
亮は、遠くを見るように顔を上げ、一つ息を吐くと、自分なりに将来を考えていた過程を雪に語った。
「ピアノを弾く弾かない関係なく、結局まともに社会で生きてく為には勉強を続けるべきなんだよな。
なんだかんだ、履歴書書く時も気になってたしよ。お前が何でオレに勉強しろっつったのかが良く分かったぜ」
雪は彼の言葉を聞いて、大学在学中の自分が高校中退した亮に偉そうに言ってしまったかと、
少し決まり悪い気持ちになりながら頭を掻いて応えた。
「はい‥まぁ‥出来る限り‥」と。
亮はそんな雪の答えに微笑み、前を向いた。
勉強という名目でも、彼女と一緒に居ることを了承してくれたことに、嬉しさと感謝をその笑みに湛えながら。
そして亮は、彼女の家族のことに話題を移した。
「それにしてもよぉ、お前の家族って毎度毎度騒がしいけど、かなり良い家族だよな。
社長だって古風だからああいう感じだけど、悪い人間じゃねぇしよ」
雪は突然亮が自分の家族を褒めてくれるような事を言ったので、少し戸惑いながら相槌を打った。
亮は尚も続ける。
「お前が家出するほどだから結構デカイ喧嘩だったんだろうに、
こんな風に仲直り出来たのはビックリだぜ。あ、でもそれが家族ってモンなんか?」
すると亮は、小さな声でこう言った。
「オレには、良く分かんねぇけど」
そして亮は微かに笑った。
被ったフードの影に、薄く笑った口元が見えた。
そんな亮の横顔に、雪は目が惹きつけられた。
その言葉と寂しそうに笑う声が、鼓膜の裏にこびりつく。
じっと見つめていると、被ったフードの影から、亮の瞳が見えた。
なんと形容したら良いのか分からないような、見ているこちらの胸を揺さぶるようなそんな瞳をしてー‥。
気がついたら、亮に向かって手を伸ばしていた。
あの‥と小さく声を漏らしながら、雪は亮の背中に触れようとする。
すると雪の手が触れる前に、亮が大きなクシャミをした。
思わず雪は彼の後ろで飛び上がる。
亮は鼻をすすりながら、雪の方を振り向いて言った。
「あー最近冷えるわ。はよ家帰れ!明日は出勤すっからまたそん時な。
オレ他の用事あっからもう行くわ」
雪は変なストレッチの様な仕草をしながら、亮に向かって伸ばしていた手の行き場を曖昧にした。
亮は雪の気持ちなど全く気づかず、そのまま彼女に背を向けて去って行く。
「んじゃな~」
雪は目を点にしたまま、ロボットのような格好で「さようなら‥」と呟いた。
亮に対して自分の心に芽生えた、さっきのあの感情は何だろう‥。
雪はそんな気持ちを不思議に思いつつ、そのまま家路を歩いて行った。
言葉と言葉の狭間、言語化出来ないその場所に、様々な感情が存在する‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<家族再構築計画(4)ー言葉の狭間ー>でした。
家族再構築計画シリーズ、終わりました。
激しかった赤山家の衝突も、なんとか解決となりました。間に入っていた亮の存在が大きかったですね。
そしてこれで、この漫画における雪ちゃんの家族の問題は解決されたと見て良いんじゃないでしょうか。
溜め込んだ不満を吐き出し、ぶつけ、そして再構築する。
人間関係においてはこれが大事なプロセスですね。そしてこれが必要な人達が、次の話では出て来ます‥。
次回<繰り返す結末>です。
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ほんとに、幸せになってほしいなぁ…
彼のコアにある素直さや温かさがにじみ出ている様が本当、安らぎます。
そしてその後のさみし気な表情…もう、孤独を抱きしめてやりたいっ!
自分で選んだ道をまっすぐ進んでいく姿をずっと見守りたいですね。(←何様)
亮さん、いつもあなたを見守っています。
と、紫のバラの人を気どってみました。
雪「その後は私とも顔合わせようね」
雪が話し合いたいのは蓮です。
それにしても「嬉しかった」のシーンの雪ちゃん。
あれはブラック青田の裏手スマイルじゃないですか!
雪がだんだん青田化してる(汗
しかし、空気読まないくしゃみ笑
諦めずに勉強を教えてくれの所
勝手に告白みたいな台詞に差し替えて
一人でウヒャウヒャしてました。危ない、、
また仕事頑張れそうです。
今回の雪ちゃんもう皆さんがお気づきのとおりあれですよね~でもそしたら先輩が一人になってしまいます…あの孤独がもっと孤独になったらどうなるんでしょう?
>あの孤独がもっと孤独になったらどうなるんでしょう?
英語チートラファンサイトで面白いコメントがありました。
「もし雪にふられたら、青田ってかなり恐ろしい元彼になるタイプ。自分の物を奪われた時と同じ反応するはず。」
それを読んで私が思い出したのが、あの額縁事件です。
確かに幼い淳は、自分を舐めた子にお母さんの額縁を奪われるなら
いっそ壊してしまう方を選びましたね。
まぁ、雪は物じゃないし、反応も違うと思いますけど・・・
ただし、ホントに恐ろしいのは、そうした様々な感情を内面に溜め込んで鬱屈していくことです。そうやって黒くなっていったユジョンは、周囲を巻き込んでとんでもない人間になっていくかもしれません。
マリー・アントワネットが処刑された後、恋人であったフェルゼンが祖国で冷酷な暴君として振る舞って群衆に撲殺されるという悲惨な最期を遂げた、という話がありますが、個人的には「ベルばら」のラストを飾るそのエピソードを思い出しました。
雪ちゃんはいつもさりげなく亮を気遣う優しい子。
二人とも自然体で付き合えて、お互いに力になれて、素敵な関係ですよね。
けれど、それらはチョット置いといて・・・。
雪ちゃんが先輩のことを少しも思い出さなかったのが哀しいです・・・。家族に向き合う勇気をくれたのは先輩なのに・・・。青さんが仰ったようにすでに邪魔者 (-“-)・・・。
雪ちゃんにとって、先輩の存在の薄さを思い知らされた気分です。
誰ともうちとけられず、なかなか好意的に迎えてもらえない淳ちゃん・・・。あぁ不憫・・・(ToT)
亮にはそのつもりはないのでしょうけれど、結局、亮は淳が大切にしたい人や関係をごっそりとさらってしまいましたね・・・。きっとそんなつもりはないのでしょうに・・・。
雪ちゃんだって、他意があるわけでは無いのですよね。先輩のことを思いつかないだけで・・・。(←でもきっとこれが本心・・・(-_-;) )
雪ちゃんに去られた先輩は、様々な感情を内面に溜め込んで鬱屈していく・・・。
ベルばらのフェルゼン・・・。なるほど、さすが青さん!
ものすごく納得というか、淳にぴったり・・・。美しいところまでも。(ToT)/~~~
それにしても、亮さん良い人に描かれすぎですよっ! 先輩との差が・・・。何故こんなことに・・・。うぅ・・。
うんうん、根本的に素直で真っ直ぐな亮さんも雪ちゃんも悪くないのはわかっているのです。むしろ曲がりくねっちゃってる先輩の方を正すべきなのも。
でも~でも~、あんなに、僕は君が一番だ、君は頑張ってるって(自己陶酔入ってたけど)心を支えてくれた先輩の頑張りが全部吹っ飛んじゃってるようで不憫すぎます。確かに、事実上家族の問題を解決してくれたのは亮さんだしそれはとっても良いことだけど´`
しかもYukkanenさんのこの記事で初めて知った衝撃の「何か芽生えちゃってる雪ちゃん」…(゜ロ゜)!!!ぐはぁ~
とりあえず、先輩の過去の陰だったり去り際だったり亮さんの家族への憂いだったりちょっとマイナスな面見て気になっちゃうのやめよーか!ポジティブに人みてこーか!って言ったら亮さん圧勝か!
この件は持ち帰ります! ( TДT)
せっかく意味深な蒸気を出したのに(←結局未だ解明されてない蒸気の意味)亮さんはいつもあと一歩なんだなん。
話逸れますが、がらかめ40周年とかで、今朝美内センセがテレビに出てらしたそうで。友人からLINEで知らせを受けてたのに気づかず見れませんでしたが。
何十周年とか言っても話は全然進んどらんのじゃろがーっ!新巻出せー!と、友人に返信しときました。
ベル薔薇の最後(フェルゼン)は私も衝撃的でした。
日本列島は西日本を中心に台風すごかったですね~^^;
なんだかバタバタで個別にお返事出来ずすいません><
CitTさんご指摘の箇所、修正しておきます。ありがとうございました!