雪は清水香織が気になる理由を、少し気まずそうに話し始めた。
「その‥あの子が‥私が失くしたライオン人形を持ってて‥」

それを聞いた淳は一旦キョトンとした表情を浮かべたが、
「ただ単に同じもの持ってたんじゃない?」と単純に思うところをコメントした。

この男は‥
雪は首を横に振りながら、今度は彼女が思うところを口にする。
「香織ちゃんに聞いてみたら、あの子も先輩が買ったあの店で買ったと言うんです。
でもお店で聞いたら、もうあの人形は生産中止になったって‥」

雪は話す内に、「ライオン人形盗難事件」を推理する探偵のような気分になった。
「なぜならあの子が初めてライオン人形を見た時‥」

鷹の目のお雪は鋭い眼光で事件を論じるが、ふと気がついてその口を噤んだ。
証拠も無いのにこれ以上は‥と口ごもると、淳は首を横に振って続きを促す。
「いや、俺達で話す分には構わないよ。
それに状況から見たら雪ちゃんがそう思うのも当然だと思う」

淳がそう言うので、雪はここ最近清水香織に関して感じていたことを彼に全部話した。
服、靴、鞄、髪型や雰囲気に至るまで、執拗に真似されている気がするということを。

そして香織が自身を真似しているということは聡美も認めている事実であり、
自身の癖である”考え過ぎ”ではないと思っている雪だが、やはり自分の口からこういったことを語ると、
きまり悪くて堪らない。
「え? あの子が雪ちゃんの真似を?」

おまけに彼が改めてそのことを口に出すものだから、雪は思わず赤面してしまう。
しかし顔を上げて淳を見てみると、その表情は本気で驚いているように思えた。
「あの‥もしかして先輩、全く気づいてなかったですか‥?」

雪がそう問うと、淳は記憶を巡らすように天を仰いだ後、首を傾げてこう言った。
「さぁ‥? 全然気づかなかったけど‥?」

キョトンとしたその顔を前にして、雪は拍子抜けした。
「ちょっとは似てると思うでしょ?」と続けて聞いてみても、淳は首を傾げるだけだった。

「君ら二人、全然似てないけどなぁ‥。ごめん、何を真似てるのか全く分からない」

雪は本当に何も気づいてなかった淳に、野暮だとは思ったが詳しく説明した。
「あ‥ホラ、服とか‥」「同じ服を着てることは無かったと思うけど‥それなら覚えてるはずだし」

「同じ服じゃなくて、似た服です‥」「あ、そうなの?」
二人の会話は思うように噛み合わない。淳は申し訳無さそうに頭を掻きながら、あくまで前向きな言葉を口にする。
「あ‥今度一度詳しく見てみるよ。実は女の子の服ってみんな同じに見えちゃって‥」

そう口にする淳に、雪は手の平と首を横に振って見せた。
わざわざそんなことする必要は無いです、と言って。

二人の間には微妙な空気が流れた。気まずそうに笑う淳と、彼をジットリとした視線で見つめる雪‥。
実のところ雪は、先輩が香織のことを褒めたことも気に食わなかった。
あの子の課題がよく出来ていて良かったですねと、皮肉を込めて彼を責める。

淳は自分の不用意な一言で雪を怒らせてしまったと思い、平謝りだった。
「そうだよね、嫌なこともあるよね、ウン‥」

苦笑いでフォローを続ける淳だが、雪は気に入らず言葉を返す。
「別にただ闇雲に嫌っているわけじゃないです!あの子が私のそれを~!
その何かをやたらめったら~!」

モヤモヤとした感情を発散するように、雪は大仰なジェスチャーで気持ちを吐露した。
そのどこかコミカルな動きに、淳は「分かったから」と言って少し笑う。
彼女が少し落ち着いた後、淳は改めて雪に言葉を掛けた。
「とにかく本当にもうライオンの人形のことは気にしないで。
俺が今度もっと良いものを買ってあげるから」

そう言って微笑んだ淳であったが、雪はそんな彼を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。
「え?でも‥そういうのって、金額が問題じゃないでしょう?」

雪はライオン人形そのものを惜しんで、ここまでこだわっているのではなかった。
プレゼントというものは、くれた人の気持ちがこもった大事なものだ。
雪はその気持ちを、大切にしているのだった。

淳は目を丸くして、今彼女が口にした言葉を聞いていた。
脳裏には、必死にあの人形を探していた彼女の姿が蘇る。

そして幼い頃、大事にしていた母親の額縁を譲れと言った時の父親の顔も、その言葉も。
お前が欲しいものならこの家に全部あるだろう?
なのにあんな取るに足らないものにいらぬ我を張って、一体何になる?


そんなことを、淳はぼんやりと思い出していた。
淳は目を閉じ、ゆっくりと頷きながら、彼女に心から同意した。
「‥そうだね。雪ちゃんの言う通りだ」

彼女はいつだって彼に、”それでいいんだ”と思わせてくれる。
彼が抱え込んできたものや、飲み込んで報われなかった素直な気持ちをすくって、癒してくれる。
彼女は彼の思う唯一の理解者であり、魂の共有者なのだ‥。


雪は目の前の彼を見つめながら、その心の奥底に揺蕩う思いをほのかに感じたような気がした。
それが何なのか、どういう意味を持つのかは分からなかったけれど。
すると静かにテーブルを囲む二人の背後から、彼らを呼ぶ声がした。
二人が振り返ると、そこにはあの人が立っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼女の悩み>でした。
前回に引き続き今回も出ました、ぽんやりした淳さん‥。

なんだか癒されます^^
そして淳が「雪と香織、どこが似ているのか分からない」というのは妙に納得でした。
きっと先輩が”他人に全く関心がない”ということを表しているんでしょう。
(「先輩ったら雪ちゃんしか見えてないのね」というノロケテロだったら良かったですが)
雪ちゃんに気づくまで、周りは顔のない人ばかりだったですもんね。無理もないのかもしれません。

次回は<騒がしい宴会>です。
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「その‥あの子が‥私が失くしたライオン人形を持ってて‥」

それを聞いた淳は一旦キョトンとした表情を浮かべたが、
「ただ単に同じもの持ってたんじゃない?」と単純に思うところをコメントした。

この男は‥

雪は首を横に振りながら、今度は彼女が思うところを口にする。
「香織ちゃんに聞いてみたら、あの子も先輩が買ったあの店で買ったと言うんです。
でもお店で聞いたら、もうあの人形は生産中止になったって‥」

雪は話す内に、「ライオン人形盗難事件」を推理する探偵のような気分になった。
「なぜならあの子が初めてライオン人形を見た時‥」

鷹の目のお雪は鋭い眼光で事件を論じるが、ふと気がついてその口を噤んだ。
証拠も無いのにこれ以上は‥と口ごもると、淳は首を横に振って続きを促す。
「いや、俺達で話す分には構わないよ。
それに状況から見たら雪ちゃんがそう思うのも当然だと思う」

淳がそう言うので、雪はここ最近清水香織に関して感じていたことを彼に全部話した。
服、靴、鞄、髪型や雰囲気に至るまで、執拗に真似されている気がするということを。

そして香織が自身を真似しているということは聡美も認めている事実であり、
自身の癖である”考え過ぎ”ではないと思っている雪だが、やはり自分の口からこういったことを語ると、
きまり悪くて堪らない。
「え? あの子が雪ちゃんの真似を?」

おまけに彼が改めてそのことを口に出すものだから、雪は思わず赤面してしまう。
しかし顔を上げて淳を見てみると、その表情は本気で驚いているように思えた。
「あの‥もしかして先輩、全く気づいてなかったですか‥?」

雪がそう問うと、淳は記憶を巡らすように天を仰いだ後、首を傾げてこう言った。
「さぁ‥? 全然気づかなかったけど‥?」

キョトンとしたその顔を前にして、雪は拍子抜けした。
「ちょっとは似てると思うでしょ?」と続けて聞いてみても、淳は首を傾げるだけだった。

「君ら二人、全然似てないけどなぁ‥。ごめん、何を真似てるのか全く分からない」

雪は本当に何も気づいてなかった淳に、野暮だとは思ったが詳しく説明した。
「あ‥ホラ、服とか‥」「同じ服を着てることは無かったと思うけど‥それなら覚えてるはずだし」

「同じ服じゃなくて、似た服です‥」「あ、そうなの?」
二人の会話は思うように噛み合わない。淳は申し訳無さそうに頭を掻きながら、あくまで前向きな言葉を口にする。
「あ‥今度一度詳しく見てみるよ。実は女の子の服ってみんな同じに見えちゃって‥」

そう口にする淳に、雪は手の平と首を横に振って見せた。
わざわざそんなことする必要は無いです、と言って。


二人の間には微妙な空気が流れた。気まずそうに笑う淳と、彼をジットリとした視線で見つめる雪‥。
実のところ雪は、先輩が香織のことを褒めたことも気に食わなかった。
あの子の課題がよく出来ていて良かったですねと、皮肉を込めて彼を責める。

淳は自分の不用意な一言で雪を怒らせてしまったと思い、平謝りだった。
「そうだよね、嫌なこともあるよね、ウン‥」

苦笑いでフォローを続ける淳だが、雪は気に入らず言葉を返す。
「別にただ闇雲に嫌っているわけじゃないです!あの子が私のそれを~!
その何かをやたらめったら~!」

モヤモヤとした感情を発散するように、雪は大仰なジェスチャーで気持ちを吐露した。
そのどこかコミカルな動きに、淳は「分かったから」と言って少し笑う。
彼女が少し落ち着いた後、淳は改めて雪に言葉を掛けた。
「とにかく本当にもうライオンの人形のことは気にしないで。
俺が今度もっと良いものを買ってあげるから」

そう言って微笑んだ淳であったが、雪はそんな彼を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。
「え?でも‥そういうのって、金額が問題じゃないでしょう?」

雪はライオン人形そのものを惜しんで、ここまでこだわっているのではなかった。
プレゼントというものは、くれた人の気持ちがこもった大事なものだ。
雪はその気持ちを、大切にしているのだった。

淳は目を丸くして、今彼女が口にした言葉を聞いていた。
脳裏には、必死にあの人形を探していた彼女の姿が蘇る。

そして幼い頃、大事にしていた母親の額縁を譲れと言った時の父親の顔も、その言葉も。
お前が欲しいものならこの家に全部あるだろう?
なのにあんな取るに足らないものにいらぬ我を張って、一体何になる?


そんなことを、淳はぼんやりと思い出していた。
淳は目を閉じ、ゆっくりと頷きながら、彼女に心から同意した。
「‥そうだね。雪ちゃんの言う通りだ」

彼女はいつだって彼に、”それでいいんだ”と思わせてくれる。
彼が抱え込んできたものや、飲み込んで報われなかった素直な気持ちをすくって、癒してくれる。
彼女は彼の思う唯一の理解者であり、魂の共有者なのだ‥。


雪は目の前の彼を見つめながら、その心の奥底に揺蕩う思いをほのかに感じたような気がした。
それが何なのか、どういう意味を持つのかは分からなかったけれど。
すると静かにテーブルを囲む二人の背後から、彼らを呼ぶ声がした。
二人が振り返ると、そこにはあの人が立っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼女の悩み>でした。
前回に引き続き今回も出ました、ぽんやりした淳さん‥。

なんだか癒されます^^
そして淳が「雪と香織、どこが似ているのか分からない」というのは妙に納得でした。
きっと先輩が”他人に全く関心がない”ということを表しているんでしょう。
(「先輩ったら雪ちゃんしか見えてないのね」というノロケテロだったら良かったですが)
雪ちゃんに気づくまで、周りは顔のない人ばかりだったですもんね。無理もないのかもしれません。

次回は<騒がしい宴会>です。
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いくら周りが顔なしだからって、彼女の周りくらい、もうちょっと見ててくれヨジュン。注意深いつーか観察眼あるよーで、やっぱヌケてるのな。
ライオン丸(古くてソーリー)は、高価で自分で買ってでも欲しかったあの髪留めとはまた違う意味を持ってるんですよねー。アレを見つけてプレゼントして、オマケに自分の分まで買っちゃってる(つまりはヒソカにオソロ)淳に心底ほっこりしたモノです。雪ちゃんは知らないんですよね、先輩も持ってるって。「また買ってあげる」じゃなくて「なんなら俺のを…」て言ってたらまた違う展開になりますね(笑)
もう少しであのシーンじゃないですか…!ソワソワ…
早く回復して、再びまた萌えあがりましょう~。お大事にしてくださいね!
ちょびこ姉と全く同じ感想です…!
私をマネしてるって、自分です。言うのよっぽどですよね。笑
でも、あんだけコピられたら自意識過剰でもなんでもなく誰もが認めます。
が、先輩気づいてなかったのか。真似されてるの。悪巧みは働くのに女の子の服みな同じに見えるとか、ぜひ今度詳しく見て下さい…!
まるで年頃の娘を持ったお父さんのようじゃないですか?^^;(以下妄想)
娘、父にファッション誌を見せつつ
娘「お父さん今の流行りかわいいでしょー?」
淳父「これとこれ、どう違うんだ?」
娘「そんなダサいお父さんとはもうお買い物行かない!」
淳父「分かった分かった、今度じっくり一度見てみるよ。実は女の子の服って皆同じに見えちゃって‥」
‥みたいな(笑)完全脱線ですスイマセン^^;
そして姐さまのご指摘にシックリ!
ライオン人形生産中止なら、先輩の持ってる人形あげればいいのに!
確かオソロなこと雪も知ってる気が。聡美が「これ先輩とオソロなんでしょ?」みたいなことを前言ってたような。。
先輩、今のままじゃ香織とオソロだよ!キーッ!
雪ちゃん家で女子向け雑誌見ながら点目になってましたしね…淳さま。
変化に疎いわりに「オレどっか変わったと思わない?」という乙女な愚問を投げかける淳さまの一面もあったり。(いや、興味ないからしゃあないんですけど)
すずらんドレスを「凄く可愛いよ!」と言い切る淳さまのファッションセンスはあんまし信じない方が身のためな気がします。
(イケメンがなんでも褒めてくれるのはありがたいですけどね!)
おかげで私もスッキリさせていただきましたっ(ToT)/~~~
あれはイイのか!? と、ずっと思っていたので・・・。
>淳さまのファッションセンスはあんまし信じない方が身のため ・・・ 同感です!v
いやいや、そもそも彼自信もイケメン無罪をいいことに…。私、どうしても肩のあたりがウルトラマンon肌色カーデ(第41~42話)がニクいっ!
また振り返したら悪いんでここらでおいとまっ。
質問?なんですが…
青田先輩の名前って、じゅんですか?それとも、あつしですか??
これからも、頑張って下さいU+2728
わかりますよ
だってまるで自意識過剰みたいに思われるリスク大ありですものね
それに対する淳の反応
これは男女差ですよね
ほんと男ってぜんぜん見てないんですもん
確かに残念なことにセンスビミョーだし
うちのダンナなんて洋服来たまま化粧したままの私にお風呂入った?て本気で聞いてきますからね
見れば分かるだろうと思うけどわかんないみたいです
おいっと毎回思いますが
あと淳からしたら清水香織と雪が被るとか有り得なすぎて思いもしないんだと思います
そもそも同じ土俵に上がらない存在だから