Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

偽物への警告

2014-06-19 01:00:00 | 雪3年3部(偽物への警告~疎いライオン)
中間考査、二日目。

雪は出掛けに母親から声を掛けられた。今日も早く帰ってくるの?と。



試験期間だから、昨日は勉強するために早く帰ったのだ。店の手伝いをする為じゃない。

雪は一つ息を吐くと、「まだ分かんない」と口にして家を出た。自分の気持ちは口にせぬまま。

教材の沢山入った重たい鞄を抱えて、二時間弱かけて大学へと赴く‥。





よく晴れた秋の空の下、キャンパス内で清水香織は佇んでいた。

今日のファッションは、あの子のファッションにとても良く似ている。



香織は一つ息を吐くと、少し周りを見回した。香織は顔を歪めながら、心の中で一人思う。

自分だけのスタイルとでも思ってるの?

御大層にファッションリーダーみたいに振る舞っちゃってさぁ‥。




香織は昨日雪に謝罪を口にした際、彼女から向けられた言葉が引っ掛かっていた。

てか、レポートだけじゃないでしょ?



雪は無論その言葉を、ライオン人形を盗った香織に向けて言ったつもりだった。

しかし香織はその意味をはき違え、”スタイルを真似る”ことに雪が怒っていると思ったのだった。

そして今日、香織は雪のスタイルに似た服を着て来て証明しようと思ったのだ。

彼女のファッションは、どこにでもある凡庸なそれだと。



香織は、今日こそはそんなナンセンスを言われたら堪らないと息巻いていた。

もしも今日も文句を言われたら、録音でもしちゃおうかと考えながら。



いそいそと構内を急ぐ清水香織の後ろから、一人の人物が近づいて来ていた。

長い足が、彼女の小さな歩幅に追い付いて行く。



そして彼は彼女の肩に手を置いた。

トン、とそれは軽く触れるようであるが、香織にはズッシリと重く感じられた。

「やぁ」



音もなく背後から肩に手を置かれ、香織は飛び上がる程驚いて振り返った。

「だっ誰‥!?」



見上げたそこに、長身のその男は立っていた。

香織の顔を見下ろしながら、手のひらを顔の高さまで掲げて見せる。

「あぁ‥ごめん」



「清水だったのか」



香織は彼の顔を見て、咄嗟に言葉が出てこなかった。

どこか近寄りがたいオーラを発しながら、その男は口元に微笑みを湛えて彼女に話し掛け続ける。

「格好が似てるから、てっきり俺の彼女かと思ったよ」



「よく見たら違うけど」



そう言って青田淳は、口元を一層大きく歪めた。

無論わざとだった。

雪と間違えた素振りで香織に声を掛けたのも、そして今、「君と雪とは全然違う」と遠回しに口にしたのも。

「ところでここで何してるの?試験期間だけど」 「え?あ‥」



香織は淳を目の前にして、たどたどしく返事をするので精一杯だった。

それに対して淳は、後輩に対する先輩としての正しい態度で話を進めて行く。

「この授業受けてたっけ?俺はレポート出しに来たんだ」

「あ‥いえ私は‥」



香織は淳の目が見れなかった。まさか雪に見せつける為に、今日ここに似た服を着て立っているなんて言えない。

そしてそんな香織の心を見透かすように、淳はこう口にした。

「雪はこの授業取ってないよ。知らなかった?」



淳の言葉に、香織は大きな声を上げて驚いた。

そして香織は無意識の内にそんなリアクションを取ってしまったことをすぐさま後悔し、狼狽した。

「え?はっ?いや別に雪ちゃんに見せるため‥じゃ‥」

「鞄についてる人形、可愛いね」



オロオロと動揺する香織に構わず、淳はそう口にした。

いつか自分が雪にあげた、あのライオン人形を目にしながら。

「どこかで見たような気がするけど、君も彼氏とお揃いなの?」

「こ‥これは自分で買っ‥」



淳の言葉の端々に、トラップが見え隠れする。

突き詰めて行けば香織が自滅するのは見通せたが、淳は一つの事柄を深く追及せずに彼女を泳がせた。

そして人形の話から、話題をゆっくりと変えて行く。

「噂聞いたよ。彼氏イケメンらしいじゃない。女の子達が騒いでたよ」



淳の口から”彼氏”のことが出たことに、香織は驚いた。口では礼を述べつつも、頭の中はフル回転する。

ななな何で‥?!まさか全部知ってて言ってるワケじゃ‥



ライオンの人形を盗んだことも、彼氏ということが嘘だということも、まるで全部知っているかのような口ぶりの目の前の男‥。

香織は依然として今の状況が把握出来ていなかった。青田先輩から声を掛けられることすら稀なのに、

そんな彼が答えにくい質問ばかりしてくるのだ。しかも彼は依然として立ち去らず、会話を続けてくる。

香織はチラ、と目線だけ上に上げて彼の顔を窺ってみた。



彼の前髪は長く目に掛かっている為、どんな表情をしているかがいまいち掴めなかった。

香織はただその場に立ち尽くし、今の状況を前にして身を竦めていた。

「‥清水香織。」



すると彼は、出し抜けに彼女の名を呼んだ。低いが良く通る声で、そのフルネームを。

そして両手をポケットに突っ込んだまま、口角を上げて言葉を続ける。どこか奇妙な笑みを浮かべながら。

「いくら躍起になって真似したところで、本人になることも近づくことも出来ないだろう」



「君も既に気づいてるんじゃないの?」と淳は続けた。

香織は突然口にされたその言葉に、目を見開いて彼を見上げる。



そして淳は背を屈めると、香織の耳元まで顔を近づけてこう口にした。

雪の格好をした、その偽物に対して。

「それすらも分からないほど間抜けじゃないだろうに」



彼は口角を歪めたまま、その言葉を彼女に送った。

耳元でその言葉を聞いた香織は衝撃を受け、背中に嫌な汗が滝のように流れて行く。

それでも今一体何が起きたのか、一向に理解は出来なかった。



香織は顔面蒼白した。口にする言葉が、動揺のあまりどもってしまう。

「いいいいい今‥ななななな‥」



その場に立ち尽くす香織を追い越して、淳は最後にこう声を掛けた。

「俺が思うに、今後は改める方が身のためだよ」



呆然とする香織の横をすり抜けて、淳はそのまま建物の方へと歩いて行った。

香織はあんぐりと口を開け、その後姿を眺めている。



それきり、淳は一度も振り返らずに建物の中へと入って行った。

ロングコートがなびいて彼の足元を揺らすのを、香織は呆然としたまま目に映していた。



香織は青い顔をしたまま、先ほど彼が口にした「間抜け」という言葉を呟き、項垂れていた。

信じられないが、確かに彼は先ほど、自分に向けてその言葉を言ったのだ。



香織は今の状況が未だに理解出来ずにいる中で、ポツリとこう口にした。

「あ‥ありえないって‥」



彼女の呟きが、よく晴れた秋の空に溶けて行く‥。


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<偽物への警告>でした。

今回フルネームで香織の名前を呼んで、警告をした淳ですが、

(香織の韓国語名、「ソンミンス」と言っていますね。)


以前ホームレス事件の後、自販機の前で雪に「気をつけなくちゃ」と言った時も、フルネームなんですよね。

(雪の韓国語名、「ホンソル、転ぶわ手ぇ切るわ‥」というように。)



このように注意を引きつける時にはフルネームを呼ぶんですかね、韓国では。

日本では会話の中でフルネーム呼ばれることはほぼないですよね‥その辺に文化の違いを感じます。



次回は<見えない鬼>です。




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