Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

流出(3)

2014-06-06 01:00:00 | 雪3年3部(聞けない淳の本音~流出)
「何でそんなこと、したんですか?」



一度そう口に出すと、雪はだんだんと怒りが込み上げてくるのを感じた。

「何でそんなメール、横山に送ったんですか?!」 「雪ちゃん‥」



声を上げる雪を前にして、淳は何度も彼女の名を口に出して窘めようとした。

「あれは形式的な内容を送っただけだよ」

「いくら形式的って言ったって、”あの子はお前が好きらしい”なんて、

それはちょっと無いんじゃないですか?!何で先輩が私の気持ちを‥!」




それは‥と淳は口を開きかけて、やはり噤んだ。眉間に手を当てながら、深く息を吐く。

「‥それは本当に悪かった。俺のミスだ」



淳は彼女の方を見つめながら、真摯な態度で謝罪した。

「そんなことすべきじゃなかったのに、その方が楽だからってその状況に甘え続けてしまったんだ。

こんなことになるとは予想も出来なかった」




「ごめんね」



雪は俯いたまま、彼の謝罪を聞いていた。その表情はだんだんと曇って行く。

「‥‥‥‥」



心の中に充満する、彼への不信。

開け放たれた扉から流出したそれが、雪の心を覆って行く。

「‥本当に予想出来なかったんですか? 横山がああいった行動に出ることを‥。

本当に全く分からなかったんですか?」




俯いたままの雪からの質問に、淳は即答する。

「うん」



雪は彼の方を見ないまま、もう一度質問した。

「分からなかったんですか?」



再度された彼女からの質問に、淳は少し思案するが、



「ああ。分からなかった」



変わらない答えを返答する。

雪は俯いたまま、呟くようにこう漏らした。

「分からなかった‥」



雪はそれきり黙り込んだ。

彼女を前にした淳は、呟くようにこう質問した。

「なんで‥」



「なんでそんなこと聞くの‥」




雪は俯いたまま、目だけ上げて彼を見た。





そこで雪が目にしたのは、あの瞳だった。

暗く沈んだ色を帯びた、あの瞳。光の消えた、警戒色。それ以上進むことを許さない、レッドシグナル。





あの瞳を知っている。

雪の脳裏に、あの瞳と共に言い渡された警告が響き渡る。


”これからは気をつけろよ”



ドクン、と心臓が跳ねた。

ズクズクと胸を抉るような、鋭い痛みと共に。



脳裏に数々の場面が蘇って来た。

書類を蹴られた夕暮れの廊下、怪我した翌日の自販機の前、そして今立っている秋の夜道。

”気をつけろって言っただろ” ”怪我して損するのは自分だろう?” ”俺が使ってた携帯をそのまま譲ることになって‥”



雪はグッと力を込めて拳を握った。

真実を確認しなければならない、強い使命感が彼女を奮い立たせていた。



目を見開いたまま、呟くように再度こう口にする。

「本当に分からなかっ‥」



しかし最後まで言い切ることは出来なかった。

見開いた目に入って来る風景が、暗く歪んで行く。



心臓が、痛いくらいに跳ねていた。

心の膜のどこかが破れて、黒い血液が幾粒も落下する。



頭からつま先まで、ドロドロしたものが流れ行く。

溜まりに溜まっていた彼への不信が、今全て放たれて流出する。



雪はギッと歯を食い縛った。

ドロドロしたものの正体が、徐々に明らかになって行く。




鼓動は早く、そしてとても強い。

歪んで行く世界の中、全て崩れ落ちていくその瞬間、心の中に一つのキーワードが浮かび上がる。





”悪意”




そして雪は気づいてしまった。

なぜ彼への不信を溜め込んで、今まで見ないふりをして来たのかを。

心に浮かび上がったそのキーワードが、そもそもの根源だったということを。


”悪意は無かったのか”と質問したならば、それがどんな答えでも、

その瞬間私達の関係は崩れ去ってしまうだろう




雪は、去年彼が悪意を持って横山をけしかけたことに気がついていた。

けれどそれを質問することは、二人の関係を終わらすことを意味していた。

YESであれば勿論THE END。

NOであっても、そんなの容易く嘘だと分かってしまう。THE END。


真実の在処に気づいているのに、それを明示するための質問が出来ないのだ。


すると、淳は再びハッキリとした口調で返答した。

「うん。分からなかったよ、俺は」



その彼の表情を見て、その一貫した答えを聞いて、雪は気づいてしまった。

先輩もそれを知っているんだ‥



先輩もそれを知っているから、今こうして答えているんだー‥。



もう聞かなくても分かってしまった。

真実が何であるかを。彼への不信の正体が、自分への悪意にあったということに。


雪ちゃん



すると鼓膜の奥の方から、自分を呼ぶ彼の声が聞こえてきた。

目の前の彼じゃない。記憶の中で嬉しそうに微笑み自分を呼ぶ、青田先輩の声。





なぜその質問が出来なかったか? それは関係が破綻するのを拒んだためだ。

なぜ関係が破綻するのを拒んだのか? ‥その答えが、雪の脳裏に次々と浮かぶ。





悩んでいた雪の本音を、引き出してくれた緑道の道。

からかうように耳元で囁かれた、雑多な居酒屋。





時計をプレゼントした、一人暮らしの家の前。

前髪が触れ合って、彼の息遣いを感じた夏の夜。





悩みを聞いてくれた彼と、距離が縮まった布団の上。

仲直りの印に、初めて手を繋いだ夜の町。





全身で自分を抱き締めてくれた、色づいた木々の前。





少し酒臭い彼に突然キスされた、秋の夜の路地。





笑っていてね、と微笑んだ先輩。彼の印象を変えた初夏。

その瞳の奥に温かいものが見えた。

知れば知るほど好きになるという、それは好意だった。


今雪の脳裏に浮かんだ場面は間違いなく、彼がくれた好意、そして‥。





自分が、先輩に対して抱いている好意だー‥。


それこそが、雪にその質問をさせることを拒んだのだ‥。





力なく、雪は拳をだらんとその場に垂らした。

真実を追及する強い決意が、悪意と好意の真ん中で、宙ぶらりんのまま揺れている‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<流出(3)>でした。

なんか記事を書いていて泣きそうになりました‥。

雪ちゃん、知らない間に先輩のこと好きになっていたんだねぇ‥。


そして今回の「YESと答えてもTHE END、 NOと答えても THE END」というのは、

以前姉様の所でるるるさんに教えて頂いた訳にもとづき記事を作成いたしました^^

ありがとうございましたーー!


次回は<流出(4)>です。

流出シリーズ、続きますね‥。


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