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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

不本意な約束事

2016-12-06 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)
ずーん‥



卒業試験は撃沈、期末試験も芳しくない出来の健太は、

負のオーラを撒き散らしながら机に突っ伏していた。

そんな健太に、メガネを掛けた後輩男子が声を掛ける。

「ちょっと健太先輩、俺らのグルワ課題もあるんすよ?

そっちの方もやって下さいよ!」




雪はそんな彼らを横目で見ながら、(勘弁してよ)と心の中で呟いた。

あんな状態の健太に話し掛け続けるとどうなるか、火を見るより明らかだ。

「うるせーな!俺は追試なんだぞ?!黙ってろ!」「うっ!」



健太は案の定ブチ切れ、感情に任せてメガネ男子の手を払った。

ブルブル‥



「ありえねぇ!試験受けんのは先輩だけじゃないスからね?!

もう知りませんから!」




メガネ男子はそう言うと、肩を怒らせながらその場から去って行った。

雪は複雑な気持ちで、遠ざかる彼の背中を眺める。

過去問騒動の時、最後まで健太先輩側についてくれてた男の子なのに‥



もう完全に皆に見放されてしまった



聡美が「雪!行こ」と促し、その後に付いて行く雪。

最後に目にしたのは、メガネ男子を呼び止めることもなく、机に突っ伏したままの健太の姿だった。



これは明らかに私のせいじゃない



雪は思う。

結局元々そういう人間だったということだ。

私はただきっかけを作っただけ




健太が今の状況に陥ったのは自業自得であり、トリガーを引いたのは雪ではなかった。

突っ伏したままの健太に声を掛けることなく、雪はそのまま教室を後にする‥。






ドドン!



河村静香が、道の先で雪を待ち構えていた。

「おい」



雪は口元を引き攣らせながら挨拶を口にする。

そうだった‥私が呼んだんだった‥ 試験期間中なのに‥

「ゴ、ゴキゲンヨウ‥」



「ゴキゲンでいられると思う?」



静香はあからさまに不機嫌だった。

雪の脳裏に、墓穴を掘っている自分の姿が浮かぶ。

「行くわよ。さっさと終わらせるわ」



静香の電算会計の勉強を見るという不本意な約束事を、雪は果たさなければならなかった。

重い気持ちを持て余しながら、二人はキャンパス内を共に歩く‥。








図書館へと移動した二人。

静かなその空間に、地響きのような静香のうめき声が響いた。

うぐぐぐ‥ぐぐ‥ぐぐぐ‥



「いっこも分かんな‥!!」「しーっ!!」



今にも叫び出さんとする静香を、必死に止める雪。

どうやら参考書の内容は、静香には難しすぎるようだ。

「基本原理とか言ってどこが基本なのよ?!アンタ基本の意味知ってんの?!

「そんなに分からないんなら

ネット講義でも聞いてみればいいじゃないですか!」




「ネット講義って何?」



静香のその質問を前にして、雪はブルブルと震えた。

そもそものスタート地点が遠すぎる‥。

手伝わないぞ‥絶対‥私は試験勉強で忙しいんだ‥

「後ろの回答見て丸写ししちゃっていい?ね〜教えてよぉ」



私は絶対‥

「ん?」



するとそんな二人の元に、一人の男がやって来た。

「二人で何してるの?」



彼の後ろから後光が差している。

シャララララーーーー



「佐藤先輩‥!」「広隆」「えっ?」



佐藤広隆の登場はまさに二人にとって救いだった。

佐藤はただならぬ空気を感じて、静香の隣に腰を下ろす。

「な‥何だか分からないけど、手伝うよ」「大丈夫ですか?試験勉強は‥」

「今日はもう終わったから‥」「ありがとうございます!!」「カモン」



ふーっ‥



一時はどうなることかと思ったが、佐藤の登場によって場の雰囲気は大分軽くなった。

雪は佐藤に対して感謝の気持ちでいっぱいだ。

佐藤先輩‥本当に良い人だ‥






佐藤のお陰で、静香はかろうじて真面目に取り組もうとしているようだった。

そんな彼女の横顔を、雪はじっと見つめている。



今の状況に似た場面を、かつて雪は何度も体験した。

まず思い浮かんだのは、青田先輩に勉強を教えてもらったこと。



そして河村氏に、高卒認定試験の勉強を教えてあげたこと。



ほんの数ヶ月前の出来事なのに、もう遠い昔のことのような気がする。

あんな風に勉強してたのにな‥。

もう学校の外で自分の道を進んでるんだ‥




どこか物寂しい気持ちで、雪は期末試験の勉強に励んだ。

皆それぞれに自分の道を、真っ直ぐに歩んでいることを信じて‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<不本意な約束事>でした。

佐藤先輩が仏に‥笑



あと墓穴!



1部45話にも出てきましたよね〜



懐かしいです。この頃は佐藤先輩はまだ劣等感の塊だった‥。


↑後頭部がウルフ青田に気を取られるが‥笑

また読み返したくなりますね^^


次回は<籠の鳥>です。

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前進と停滞

2016-12-04 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)


とうとう期末試験が始まった。

「行くぞ!」



「はい、始めて下さい」



「そこまで。後ろから集めて」「終わった!」「次行こう!」



「試験頑張って!」「頑張りまショー!」



二年生の太一と三年生の雪と聡美はエールを交わし合って、別々の教室へと走って行った。

試験期間中のキャンパス内はどこかソワソワと落ち着かない。









一人ベンチに座って昼食を取る雪の手元で、携帯電話が鳴り出した。

ディスプレイには「萌菜」と表示されている。

「もひもひ、今試験期間なのよ!何か用だった?」

「取り敢えず飲み込んでからにしなよモグモグ言ってるっつの



萌菜は手短に用件を話し出した。彼女らの同級生”ゆりっぺ”のことについて。

「いやゆりっぺが合コンのことでグチグチうるさいからさぁ、自分は彼氏いるくせに

アンタに迷惑掛けんじゃないって言っといたんだけど、したらアンタにメールでキレたって聞いてそりゃないわーって」


「あ、その話?てか試験期間だからそれどころじゃないんだよね。あんま気にしないでいいよ」

「あはは。あの子の方は怒り狂って試験ボロクソらしいよ?アンタは大丈夫?」

「無問題。試験終わったらまた連絡するわ」「ぷははは!オケオケ。試験頑張ってね!」







そうして二人の会話は終わった。雪はパンを頬張りながらこう思う。

イイ感じだ。今日の試験は上手く行きそう



彼女は”ゆりっぺ”のことなど微塵も気にしてはいなかった。

今目の前にある道を、ひたすらに前進するのみだ。

かつて自身を侵食したさざ波は、今や防波堤の向こうで鳴っているだけ‥。







一方様々な問題にその身を晒され続け、停滞しまくりの柳瀬健太は、

不機嫌さを隠し切れない表情で一人廊下を歩いていた。



すると視線の先に糸井直美の姿が見え、健太は思わず息を飲む。



直美は健太の姿に気が付くと、

意味深にニヤリと笑みを浮かべ、皮肉たっぷりに舌打ちした。






そのまま去って行く直美の後方で、健太は嫌な動悸を抑えながら壁際に身を隠していた。

悪魔‥アイツは悪魔だ‥



コソコソと大きな身体を縮こめながら、健太はそのまま教室へと向かった。

壁際に身を寄せながら、室内を伺う。



見慣れたその後姿を見て、健太はドタドタと飛び出した。

「赤山!」



「淳の手の具合はどうだ?ギブス取れたのか?」「どうして小声なんですか」



雪は顰め面でそう返し、健太に向かって引き攣った笑顔で釘を刺した。

「てか青田先輩の話しないでもらえます?まだ許した覚えありませんけど」



しかしそこは鉄面皮の健太。いつもの調子でやり取りを続けようとする。

「またまた〜俺等の仲じゃねーか!その‥淳に上手いこと言ってくれたらな〜って‥」



「はい?何の話です?」



雪は健太が口にした言葉に何か引っかかりを感じた。

しかしその答えを聞く前に、雪と健太の間に柳が割って入った。

「上手く言っておくも何もねーでしょーよ。あっち行って勉強してれば?」

「先輩!もう止めてこっち来て下さいよ!」



ぐぬぬ‥



後輩達にそう窘められ、健太は不満げにその場を後にする。

「くっ‥わーったっつの!」

「おうおう!俺も言うときゃ言いますよ〜っだ!」



遠くなって行く健太の背中を見つめながら、

雪は先程感じた引っ掛かりを無視出来ずにいた。



堅く積まれた防波堤の隙間から、さざ波が幾筋か漏れ出している。

足元を取られるような水量ではないが、それは足先を僅かに濡らして湿らせる‥。




「試験終わります!」



ドドン!



美大前で恵を待っていた赤山蓮は、柳瀬健太の姿を目にした。

健太は不機嫌な様子で、蓮の前を通り過ぎて行く。



フン!



蓮は健太の背中に向かって、エアピストルを向けバキュンと打った。

コンプレックスが弾丸だ。

俺がアイツにスペックで負けてるって?今に見てろ!

「ちょ、待ってよ!」



そんな蓮に向かって、恵は先程聞いた驚くべき話を反芻する。

「どういうこと?!こっちで就職するって?!」「うん!」



「キンカンちゃん、もう離れ離れにならなくて済むぜ!」



蓮は笑顔でそう言うが、恵にとっては青天の霹靂だ。捲し立てるように質問する。

「アメリカはどうなったの?!大学は?!蓮、まさかそれってあたしのためじゃないよね?」

「まーまー、そんなに心配すんなよ!」



「ぜーんぶ分かってるって!」 



自身満々に胸を叩く蓮に、それ以上恵は何も言えなかった。

果たして蓮の決断は、前進なのか停滞なのか‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<前進と停滞>でした。

ゆりっぺのことを全然気にしない雪ちゃんが頼もしい!!

怒り狂って試験ボロクソ‥。中間試験の時の清水香織を彷彿とさせますね‥。小物感‥。

そしてちょこっと遠藤さんが出てきて嬉しい回でしたね。

柳の安定のナイトっぷりも良かった‥。
いつもパーカーなのに試験期間はジャケットなんだ‥とか思ったり(笑)


次回は<不本意な約束事>です。


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微かな違和感

2016-12-02 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)
意識の底の方から声が聴こえた。自分の声と彼の声が。

暗闇の中に響くそれは、かつて抱いていた彼への感情と、彼が雪に抱いていた彼の感情だった。

捕って食われる いや、そうじゃない

一人でちゃんとやっていけますから よく間違いを犯すね

気をつけろって言っただろ



それは次第に変化して行く。

彼と彼女はまるで鏡のように、互いに影響を及ぼし合って変わりゆく。

何をそんなに悩んでるの 俺と付き合わない?

良い人間でいたいけど‥



変わらないものとは何だろう。

長い時を経たとしても、さざ波に揺られ続けたとしても。

「う‥う‥」



雪の意識がだんだんと覚醒に向かう。

鼓膜の裏に響いていた声を振り切って、雪はガバッと飛び起きた。

「奨学金!」



口をついて出たのは、ある意味、時を経ても変わらず欲している「奨学金」だった。

起き上がった勢いで、雪は思わずベッド脇に転げ落ちる。

「ぎゃっ!」



バタン!と大きな音を出して転げた雪に、

淳はベッドの上から声を掛けた。

「大丈夫?」「????」



未だ状況を把握出来ない雪。

淳は彼女に向かって手を伸ばす。

「ほら」

「あ、え‥?あぁ、ハイ‥」



雪が淳の手を掴んで力を掛けた時、不意に淳が眉間に皺を寄せた。

「あっ?!」



雪はすぐに手を離し、心配そうに声を掛ける。

「先輩、手まだ痛みますか?」「え?ううん、大丈夫だよ」



しかし淳はそれを否定し、

まだベッド脇にしゃがんでいる雪を引き上げた。

「さ、起きて。学校行かなきゃ」



「朝ご飯食べてから行こうな」



「それにしてもお行儀よく寝てたね」



はは、と小さく笑いながらキッチンへと歩いて行く淳。

その背中を見つめながら雪は、自身の胸の中に微かな違和感が生じるのを感じる。

寝てない‥?



それは小さな小さな違和感の芽‥。






朝食を済ませた二人は家を出た。雪は大学へ、淳は会社へ。

その分かれ道で、二人は別れの挨拶を交わした。

「送って行けなくてごめんな」「全然です!先輩のお家、大学から超近いですもん」






二人は互いに笑顔を浮かべ、互いの顔を見つめ合った。

頬に触れた淳の手に、心配そうに雪が手を伸ばす。

「手、大事にしてくださいね」「うん」



まだ冷たい朝の空気の中で、繋いだ手がとても温かだった。

「へへ‥」



先にその手を放したのは淳。

「早く行きな」



咄嗟に手を伸ばしたのは雪。

「あっ!もうちょっと‥」



微かな違和感とすれ違いが、二人の間に微妙な空気となって残る。

「あ‥」



淳は微笑みながら、もう一度その手を自分から放した。

「手は大丈夫だから。行きな」「あっ、はい!それじゃ行きますね。気をつけて!」

「うん、雪ちゃんもね」



雪は「何だろう?」と首を傾げながら、そこに漂う空気を微かに気にした。

そんな彼女の背中をじっと見つめる淳。



そして彼は、ニッコリと微笑みながら彼女にエールを送った。

「試験、頑張れよ!」







胸に芽生えた小さな違和感の芽は、その彼の笑顔を目にした途端見えなくなった。

雪もまたニッコリと笑いながら、彼のそのエールを受取る。

「はい!」



「奨学金!」「うっ‥!」



寝ぼけて口にしたその言葉を冗談めかしながら、二人は笑い合う。




彼女の背中が見えなくなるまで、淳はその場で見送り続けた。

淳の胸の中にある違和感の芽は、もう随分と育っている‥。





大学までの道を歩きながら、すっかり冷たくなった空気を感じながら、雪は一人考えていた。

期末試験が終わったら、冬休みで‥



冬休みが終わったら、



三年生も終わり‥



時は刻一刻と流れて行く。

見上げた空に、白い息が溶けて消えて行った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<微かな違和感>でした。

なんともいえない微妙な空気感ですね〜。淳の作り笑い、雪はなんとなく違和感を感じてはいるけど、

その原因にはまだ至らないですよね‥。

三年生も終わり、のモノローグが「もうすぐ連載も終わり」と受け取れて切ない私です


それにしても淳の全身茶色コーデが気になる‥。

次回は<前進と停滞>です。


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鏡(2)

2016-11-30 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)


雪が起こした行動の波紋が、疎ましい人達を遠ざけて行く。

無意識と意識の狭間で嘲笑う彼女に、音も無く手が伸びた。



「どうして笑ってるの?」



雪の顔を自分の方に向けながら、眠っていたはずの淳が彼女に問うた。

雪は目を丸くしながら、不思議そうに聞き返す。

「え?」







淳は雪の顔を凝視した。けれど彼女の瞳の中に翳りはない。

雪は目をこすりながら、特に何も気に留めない素振りでこう返した。

「あ‥ウトウトしちゃった‥夢見てたみたい」

「集中出来ないんなら、もうこっち来て寝なよ」



淳からそう言われた途端、雪は一層眠気が襲って来た気がした。

ふわぁ、と大あくびをする。

「ほら、やっぱり」



淳は雪をベッドに上げ、甲斐甲斐しく彼女を寝かしつける。

「よく寝れば試験も上手く行くよ」「はい‥」

「ほらもっと内側入って。電気消すよ。布団も掛けてな」








雪は柔らかな枕に顔を埋めながら、うつ伏せの体勢で横になった。

隣には淳が居る。



暗くなった室内。

まだ闇に目が慣れていないせいか、彼の笑った口元がぼんやりと見えるだけだ。






淳は雪に布団を掛け、彼女の頭を優しく撫でた。

雪はその心地良さに瞼を閉じながら、小さな声でこんなことを話し始める。

「実は‥私最近らしくないことしてるんです‥」



「らしくないこと?」

「だって‥このままじゃ直美さんに申し訳ないし‥健太先輩は許せないし‥」

「何の話?」



眠りの淵に居るせいだろうか、彼女の話は唐突すぎて淳にはすぐには分かりかねた。

けれどそんな状態だからこそ、雪は普段語らないような本音を口に出している。

「やられてばかりなのがすごく嫌だったから、

過去問泥棒を探すために皆を巻き込んで、結局直美さんを責め立てる形になっちゃったんです‥」




「それで直美さんは夜間授業の方へ移ってしまって‥」

「‥何だって?」



それは淳が初めて耳にする情報だった。彼女は話を続ける。

「だから直美さんに話したんです。

健太先輩が犯人に違いないけど、証拠が無いんだって」
「糸井に話したの?!」



「はい‥」



「‥‥‥‥」



雪の話は、少なからず淳を驚かせた。

あれほど揉め事やゴタゴタを嫌っていた彼女が、まるでそれを誘導するかのような行動を取ったからだ。

糸井直美に健太が犯人に違いないと言ったらどうなるか、今雪から簡単に話を聞いた程度でもその先は予測出来る。

「‥糸井、怒ってたろ?」「はい、すごく‥」



「そしたら健太先輩が、

直美さんから卒業試験の過去問についての情報を貰ったって言い出したんです」




「試験をダメにしようとしたんだと思います。

直美さんが黙ってるわけないと思ってましたけど、本当にそこまでするなんて‥」




雪はそこまで喋った後、一つ大きなあくびをした。

だんだんと眠りの帳が降りて行く。淳は雪を見下ろしながら、静かに彼女の話を聞き続けた。

「偶然かもしれませんけど‥」



「健太先輩も直美さんも私の望み通りになって、少し怖い気もするんですけど‥

正直、嬉しいんです」




「やられっぱなしはもう嫌だから‥」



雪は微かに目を開けながら、最後にこう言った。

瞳は既に暗闇に慣れ、深い闇を宿している。

「今は前よりもっと、先輩のことが理解出来る気がします」








光を宿さない彼女の瞳が、ゆっくりと瞼の帳を下ろして行く。

淳は彼女の傍らに座ったまま、その瞳が閉じるのをただ呆然と見つめていた。






やがて雪は眠り、静かな部屋に彼女の寝息だけが響く。



淳は彼女の肩まで布団を掛けた後、仰向けにゴロリと横になった。

そのまま、ぼんやりと白む天井を見つめる。







彼女に出会って、赤山雪という同類を見つけて、少しずつ自分は変わって来たと思った。

けれどそれは、自分だけじゃなかったのだ。



”私達は変わった”と、いつか雪が言った。

彼女に影響を受けた自分と同じ様に、彼女もまた、淳の影響を受けて変わって来ているー‥。




彼らは互いを映す鏡だった。

二人は互いに影響を及ぼし合い、その影響はさざ波のように互いに打ち寄せる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<鏡(2)>でした。

最後の雪の黒淳化!!そしてそれを見た淳の衝撃!

なんというか、私もこの流れを知った時は衝撃でした。

自分に似てくる雪を通して、淳が己の過ちや欠けた所に向き合うことになるとは。

雪が完全ダークサイドに落ちるまでに、なんとか引き戻してもらいたいですね。頑張れ白淳!!


次回は<微かな違和感>です。

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鏡(1)

2016-11-28 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)


その日の夜が更けても、雪はまだ淳の家に居た。

鞄からズボンを取り出し、得意気に彼に見せつける。

「ジャン!今日は着替えを持って来ました!」



「先輩のズボン、大きすぎてブカブカでしたからね」

「家には何て言って来たの?」「勿論聡美のとこ泊まるって言ってあります」



ククク‥と二人は肩を揺らして笑い合った。

今日雪は、淳の家に泊まるつもりでここに来ていたのだった。






マグカップに注がれた温かい飲み物を飲みながら、ベッドサイドに座った雪が言った。

「授業一つ切りました」







淳はベッドにうつ伏せで寝転びながら、そんな彼女の話を聞いている。

「本当?」

「友達も一人縁を切りました」



淳にとっては幾分予想外の、彼女の告白は続いた。

「後々どうなるか気になりはしますが、スッキリしました」

「そっか。それで?」「それで、」



「ずっと勉強ばっかりしてるの、しんどかったなって思って。

週末は絶対に一人でガリ勉するんだって思い込んでましたけど、

そんな必要ないんだって思ったら、自然と足がここに向かってました。

単位を諦めるのは良いことじゃないでしょうけど、そういうの考えるのももう止めにしようと思って」









そう話し終えた雪は、何かが吹っ切れたかのようなさっぱりとした顔をしていた。

雪は以前彼の車の助手席で未来を憂いていた時の、あの言い様のない焦燥を思い出して言葉にする。

「先輩の未来に私がいないって思って、虚しく感じたことがありました。変に焦っちゃって‥。

でも次第に、未来に対する考え方を変えてみても良いんじゃないかって思うようになったんです」




「こんな風に、ただ会いに来ればいいんですよね」



雪はそう言いながら、淳の方を見て笑った。

淳もまた微笑みながら、彼女の達した結論に同調する。

「うん、その通り」






二人は暫し見つめ合い、キスをした。

彼らは互いを映し合う鏡のように、同じ気持ちを持つ。

「俺も、」



「正直に言えば、もう亮とは完全に終わらせようって思ってたんだけど‥」



彼の口から河村氏の名前が出て来たことで、雪は若干かしこまったように「あ、ハイ」と返事をした。

けれど彼の表情は柔らかく、亮との関係を語る口調も随分と和やかだ。

「他の方法もあるんじゃないかって‥思ってみたり」







亮の話題になると嫌悪感を剥き出しにしていた昔の彼とは、比べ物にならないくらい穏やかな彼がそこに居た。

そして淳はそんな自分自身を、どこか喜んでいるように思う。

「雪ちゃんと一緒に考えて進んでたからかな。

去年の自分と今の自分を比べてみたら、俺は少しだけど変わったんじゃないかって思うよ。

変化することもあるんだなぁって‥」




「多分未来の自分も、今とは違っているんだろうね」



”人は簡単には変わらない”そう思っていた以前の彼は、彼女に出会ってゆっくりと変わって行った。

そしてようやくそこに思い至ったのだ。

彼女の中に自分と同じ面影を見つけたその日から、運命の歯車は回り始めたのだと‥。





「雪ちゃん」



優しくその髪に触れながら、淳は彼女の名を口にする。

「俺は‥」







彼らは互いを映す鏡だった。

二人は互いに影響を及ぼし合い、その影響はさざ波のように互いに打ち寄せる‥。






しんと静まる広い部屋に、彼の寝息だけが小さく聞こえる。



雪はそれを聞きながら、手元の参考書を一人読んでいた。



しかし次第に思考は過去を辿り、様々な場面が脳内で再生されて行く。


「うん、オハヨー。ちょっとどいてくれる?トイレ行くから



少しずつぎくしゃくして行った糸井直美との関係。


「マジか?!どうして無くなった?!ちゃんと探してみろ!教室で無くなったのか?!」



わざとらしく騒ぎ立てる柳瀬健太に困惑したあの時。


「典ちゃん」「キャッ」



黒木典。

この人がどう動くか、その先を予測して話し掛けた。


「逆に証拠が無いから、あの人はあんなにも堂々としていられるんです」



それと同じことを、直美に対して行った時のこと。


「不自然なほどお節介を焼いて、大きな声出してゴタゴタに発展させて‥」



出来得るだけの証拠を集めて、柳瀬健太に詰め寄った時のこと。

この後糸井直美が、健太に対して制裁を加えることになる。


「なによ‥大人でも大学生でもなく高校生よ?

父親に色々喋って何が悪いワケ?ぶっちゃけフラれた腹いせだけどぉ‥スッキリしたっつの‥」




偶然耳にした河村静香の告白。

そのチャンスを生かして、

「電算会計。サボらず学校に通って勉強して、私にチェックさせて下さい」



彼女を自分の意のままに動かした時のこと‥。


それなりの理由あってのことだ。それなりの理由が



皆自分の人生を謳歌してほしくて‥



瞼の裏に、微笑む河村氏と先輩の顔が浮かんだ。

彼らの為に自分が出来ること、それを追求し掴んだからこそ、今があるのだ‥。



だんだんと睡魔が、雪の意識を奪って行く。

浮かんで来るのは、



あれほど大きな顔をして歩いていた健太がオドオドと姿を隠すところや、



度々雪に向かって文句を口にした直美が逃げて行くところ、

そして、



河村静香との関係性の主導権を勝ち得たと、確信したところー‥。





無意識と意識の狭間で、雪は嘲笑っていた。

まるで誰かと同じ様に、打ち寄せるさざ波を見下ろしながら‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<鏡(1)>でした。

本家の題名と合わせてます。

二人のチューシーンがあるのに、なんとも不穏な雰囲気ですねー。

そして意外にも先輩、亮との関係を終わらせない方法を考えたりしていたとは‥。

このまま雪に影響を受けて淳が変わって行ってハッピーエンド‥だったら良いんですが‥。

次回<鏡(2)>に続きます。

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