ヒマローグ

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2018-04-25 07:22:02 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「米国追従」4月16日
 『1年で「大学」出てIT企業に就職?』という見出しの記事が掲載されました。提携しているウォール・ストリート・ジャーナル紙のダグラス・ベルキン記者によるリポートです。その中でベルキン氏は、『創立1年の教育機関「ミッションU」』について紹介しています。
 『1週間の勉強時間は40~50時間ほどで、教育の一環としてサンフランシスコのベイエリアにあるハイテク企業を訪問することもある。卒業後は3年にわたり収入の一部を学校に支払い続ける取り決め』だということで、『同校は50人の枠に対し、1万人以上から応募があった』という人気ぶりだそうです。『学生ローンの負担はなく、注目される分野でスキルを習得し、ハイテク企業で訓練を受けることも保証される。これらを合わせて提供することで、学生は多くの収入を得られるIT系企業に就職する道筋を立てることが可能になる』ということが人気の背景にあるようです。
 要するに、社会に出た後、どのように役に立つのか分からない「教養(リベラルアーツ)」を履修するなどといった「無駄」を排し、仕事・収入に直結するスキルの習得に特化する教育機関ということです。しかも、入学前には金銭的負担ゼロなのですから、経済的な格差が教育格差に直結する現代社会においては、格差是正の働きも期待できるということになります。
 米国での話ですが、我が国でも同じような社会状況、社会的要請があります。企業は大学に即戦力の育成を求めていますし、奨学金の返済が若者を苦しめる現状も指摘されているのですから。しかし、大学等の高等教育は、本当にこれでよいのでしょうか。米国でも『ガードナー・キャンベル教授は、こうした新しい教育機関では働き方は学べるものの、なぜ働くのかを学生に教えていないと指摘する。そこが身につかなければ、プログラムの卒業生は収入が多いだけの繰り人形になるリスクがある』と、懸念を示す人たちがいるようなのです。
 私は、文系の人間です。教員生活では社会科の指導について研究し、教委に勤務するようになってからも、社会科授業法を中心に多くの教員を指導してきました。ごく自然に、哲学や歴史、文学や社会学などに興味をもつようになっていました。役に立たないといわれている「教養(リベラルアーツ)」に親近感をもっているのです。そんな私ですから、スキルに偏ったようにみえる「新しい教育機関」に対する評価には偏見が含まれていることでしょう。それでもなお、その偏見分を割り引いても、何か大切なものが欠落しているように思えてならないのです。
 小学校で、プログラミング教育が本格導入されます。必要性は理解できます。反対ではありません。しかし、それが大きな流れとして教養軽視に結びついていく危険性の臭いを感じてしまいます。杞憂ならばよいのですが。

 

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