「古都逍遥 京都・奈良編」「花の詩」「日常のこと」や花や風景写真

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「岡寺」(おかでら)

2010年05月05日 07時59分21秒 | 古都逍遥「奈良篇」
 明日香村にある「やくよけ霊場」として信仰のある「岡寺」を訪ねてみた。
 内大臣中山忠親が書いたといわれている『水鏡』(鎌倉初期)の書き出しに、『つつしむべき年にて、すぎにし きさらぎの初午の日、龍蓋寺へ まうで侍り…』とあり、厄年(つつしむべき年)の時の二月(きさらぎ)の初午の日に岡寺へお参りするとよいと書かれてように、岡寺への厄除け詣りはすでに当時より定着していたことから、日本でも最も古い厄よけ霊場といわれる由縁でもある。

 小高い丘の上にあるため勾配のきつい石段を登り鮮やかな朱塗りの仁王門(国宝・重文/1612年建立)をくぐり抜け、シャクナゲの花などを見ながら短い石段を上ると、どっしりと落ち着いていた雰囲気の「本堂」が見える。本堂の建築には、1805年から30年以上もかかったという。

 この日は、境内のシャクナゲ(約3千株)がほぼ満開、おまけに牡丹も咲き始めているなどラッキーな取材となった。飛鳥を一望できる丘の上に建てられているため、本堂の周囲は鬱蒼とした森になっており、それだけで修験者の気分になったような気がする。

 「岡寺」は、法名は「龍蓋寺(りゅうがいじ)」、院号は「真珠院(しんじゅいん)」、山号は「東光山(とうこうさん)」、そして通称「岡寺」といういろんな呼び名をもった由緒ある古刹である。詳しい創建は判明しておらず、寺伝によると約1300年前に、天智天皇の勅願によって「義淵僧正」(ぎえん・ぎいん=生年不詳/奈良時代)が建立したことになっている。若い頃に天智天皇に引き取られ、岡宮で草壁皇子とともに育てられた後、この地を与えられ岡寺を建立したとある。

 義淵僧正は、日本の法相宗の祖とされる人物で、門下には東大寺創建に尽力した「良弁」や「行基」などがおり、江戸時代までは法相宗の本山「興福寺」の末寺だったが、それ以降「長谷寺」の末寺となり、真言宗豊山派に属するようになった。本堂前にある「龍蓋池(りゅうがいいけ)は、この地を荒らし農民を苦しめていた龍を義淵僧正がその法力をもって封じ込めたことからその名が付いたといわれており、当寺に現在まで続く「やくよけ」信仰の所以のひとつとも言われている。昔から池の中にある「蓋」である石を揺らすと雨が降るという言い伝えが残っている。「龍に蓋をした池」という言い伝えから法名に「龍蓋寺」と付けられたのもうなづける。

 本堂中央には、日本最大の塑像(土でできた像)の本尊「如意輪観音座像(重文)」が鎮座している。像高4.85m、白っぽい色合いの巨大仏で、東大寺の銅製の大仏、長谷寺の木造の十一面観音と並んで、「日本三大仏」の一つにあげられている。当初、左足を踏み下げて坐る「半跏像」(現在は結跏趺坐(あぐら型))だったそうだ。塑像ならではの素朴で暖かさのようなものを感じる。

 見所のひとつでもある「三重宝塔」は、文明4年(1472)に倒壊、昭和61年(1986)に514年ぶりに再建されたもので、小ぶりな塔だが高貴な気配を漂わせている。軒先には「琴」が吊るされており珍しい形体である。毎年、10月の第3日曜日の一度だけ内部が公開される。

 本堂の脇に立つ「開山堂」は、前面はガラス張りになっていて、阿弥陀三尊像が安置されている。元は「多武峰妙楽寺(今の談山神社)」より移築されたお堂で、元は護摩堂だったそうだ。
 国宝「義淵僧正坐像」は、奈良時代に作られたもので開祖・義淵僧正の肖像で我が国古代の僧形彫刻を代表する名作の一つと言われている。

 この他の宝物を紹介すると、「如意輪観音 半跏思惟像」(重文)奈良時代。元々の岡寺の本尊で後に弘法大師が現在の本尊を造った時に胎内に納めらたと伝わる「釈迦涅槃像」(重文)鎌倉時代。現存する涅槃像は圧倒的に絵画が多く等身大の彫像は大変珍しく貴重な作例。「天人文せん」(重文)白鳳時代、国内でもほとんど出土の例はなく、大変貴重な遺例。(せん=粘土を成形したタイル状の焼物)

 山内を森林浴をしながら巡ると小腹がすいてきたところに、岡寺名物「やくよけぜんざい」(5百円)の張り紙が目に入り厄払いにと立ち寄った。何でも小豆の持つ赤色は密教では大事な色とされていて、このぜんざいを周囲の方にふるまうことで、みんなの厄除けとなるのだとか、せっかくのご利益、五臓六腑に大切に蓄えておこう。

 所在地:奈良県高市郡明日香村岡806。
 交通:近鉄「橿原神宮前駅」より、奈良交通バス「岡寺」下車、徒歩10分。
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