https://www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2021/02/003917.html
【プレスリリース】セシウムを効率的に取り込む植物タンパク質を世界で初めて同定-放射性セシウムで汚染された土壌を植物で浄化する手法の開発に前進-
掲載日2021.2.16
概要
国立大学法人岩手大学は、国立大学法人島根大学、国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科との共同研究により、セシウムを効率的に取り込む植物タンパク質を世界で初めて発見し、植物を用いて放射性セシウムで汚染された土壌を浄化するファイトレメディエーション(植物修復)法の実現可能性を初めて示しました。これは、岩手大学次世代アグリイノベーション研究センター/農学部Rahman Abidur(ラーマン・アビドゥール)准教授、島根大学学術研究院農生命科学系秋廣高志助教、東京大学大学院農学生命科学研究科田野井慶太朗教授らのグループによる研究成果です。
セシウムは、原発事故が起きた際などに拡散する放射性セシウムが土壌に蓄積し、深刻な土壌汚染問題を引き起こします。この解決法として、近年植物を使い土壌中の有害物質を吸収浄化させるファイトレメディエーション法が注目されています。過去の知見では、セシウムの植物内輸送の際にはカリウムの輸送も行われると考えられていました。そのため、セシウム輸送タンパク質を過剰発現させた遺伝子改変植物を使い土壌中セシウムを多く吸収させようとすると、土壌中カリウムもその植物に吸収されてしまうため、土壌中カリウムが枯渇し、植物の育たない土壌になってしまうといった問題点がありました。本研究では、まずモデル植物であるシロイヌナズナを使い、カリウムの輸送に影響しないセシウム取り込みタンパク質、ABCG33とABCG37を発見しました。更に、酵母を使った実験で、このタンパク質を高発現した酵母は、カリウム吸収量を増やすことなくセシウム吸収量だけを上昇させることを立証しました。以上の研究成果は、土壌中のカリウム枯渇を招くことなく植物で放射性セシウムを吸収できる可能性を示すものであり、放射性セシウム汚染土壌の完全なファイトレメディエーション法の実現に活用できると期待されます。
本研究成果は、米国Cell Press社が発行する科学雑誌「Molecular Plant」に2021年2月13日(日本時間)に公開されました。
本研究成果のポイント
①カリウムの輸送に影響しないセシウム取り込み植物タンパク質、ABCG33・ABCG37を発見
②ABCG33とABCG37を高発現した酵母はセシウム取り込み量が増加することを立証
③ABCG33とABCG37を過剰発現させた植物は、放射性セシウム汚染土壌のファイトレメディエーション法の実現に活用できると期待
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
・岩手大学次世代アグリイノベーションセンター研究費、科学研究費助成事業・基盤研究(B)「低温ストレス応答の分子メカニズムを基盤とした低温耐性トマトの開発」(岩手大学 Rahman准教授)
・科学研究費助成事業・基盤研究(C)「究極の酵母タンパク質発現ライブラリーを用いたイネ膜輸送体の網羅的機能解析法の開発」(島根大学 秋廣助教)
・JST戦略的創造研究推進事業・さきがけ「植物体内物質動態に関する表現型の定量評価基盤技術の構築」(東京大学大学院農学生命科学研究科 田野井教授)
【掲載論文】
掲載紙:Molecular Plant
論文名:ATP Binding Cassette Proteins ABCG37 and ABCG33 function as potassium-independent cesium uptake carriers in Arabidopsis roots
著 者:
Mohammad Arif Ashraf 岩手大学大学院連合農学研究科(研究当時)
秋廣 高志 島根大学学術研究院農生命科学系 助教
伊藤 圭汰 岩手大学大学院総合科学研究科 修士2年生
熊谷 沙耶香 岩手大学農学部植物生命科学科 学部生(研究当時)
杉田 亮平 東京大学大学院農学生命科学研究科 助教
田野井 慶太朗 東京大学大学院農学生命科学研究科 教授、JSTさきがけ
Rahman Abidur 岩手大学次世代アグリイノベーション研究センター/農学部植物生命科学科 准教授
公表日:2021年2月13日(日本時間)
URL:https://www.cell.com/molecular-plant/fulltext/S1674-2052(21)00048-4
DOI番号: 10.1016/j.molp.2021.02.002
本研究成果の詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。