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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『小倉昌男 経営学』

2005年10月24日 | Book
  
今年の春頃から自分が所有してきたたくさんの中古CDや古書をネットで販売していますアマゾンのマーケットプレイスやYahoo!オークション、楽天フリマなどでです。合計で100点以上は販売しています。

その際に発送に利用させてもらうのはクロネコヤマトのメール便で、CD1枚なら160円で全国に配送してもらえて、かつ自宅まで集荷に来てもらえます。それで本当にあちらにとってペイしているのか不安なのですが、とにかく便利です。

そのヤマト運輸の小倉昌男さんが書かれた『小倉昌男 経営学』を読みました。

これは感動せずに読めない本でした。

ヤマト運輸という運送業者はもともと百貨店や卸売りなどの業者相手に配送をしていたのですが、それはほとんどすべての日本の運送業者がそうでした。その中で戦前から名前の知られていたヤマト運輸は戦後に長距離輸送で他社に遅れを取り、業者相手の輸送という分野に限界を感じます。経常利益もかなり下がり会社として危機的な状況に陥ったのですが、そこで社長の小倉さんが活路を見出したのが現在の宅急便でした。

この宅急便は運送業界の常識からみれば赤字必至のビジネスでした。業者相手の輸送であれば一定数の受注を計算でき、かつトラックの配送経路のシステム化も容易です。しかし家庭と家庭を結ぶ宅配便は、いつどこで受注が発生し、それを迅速に配達先に届けるのかについてのパターンが無限にあるため、黒字が出るように作業を効率化するのが目に見えて困難だからです。

しかし業者相手の輸送業務に限界を感じていた小倉さんは家庭と家庭を結ぶ宅配便に社運を賭けました。その際にクリアしていった問題の数々、輸送のインフラから社員教育・財務体質・運輸省との闘いなどなどはぜひ本書を読んでみてください。数多くの難問を小倉さんは一つ一つ糸をほどくように粘り強く、ときには挫折しかけながらも解いていったことが伺えます。


個人的に印象だったのは、業者ではなくエンドユーザーを対象とする輸送業という革新的なビジネスを打ち出した小倉さんが発見したことは、最終的な消費者を対象とするビジネスでは業者相手の仕事以上に相手へのサーヴィス精神が欠かせないという認識です。

これは当たり前のようですが、このサーヴィスの徹底は以外と多くのビジネスが徹底できていないことのような印象もあります。

たとえば「サーヴィス第一、効率・利益第二」という理念を小倉さんは社員に徹底して浸透させました。宅配便では家庭の消費者を相手にしますが、彼らが望むのは翌日に安全に荷物が届くことです。この消費者の欲求を満たす会社というイメージを浸透させなければ最終的には利益は上がりません。そのために必要なのは、短期的に損失に見えることでもつねにお客様の利益を考えて行動するということです。

配達先が分からなければたとえ長距離でも電話して住所を確かめる、荷物が予定通りとどかなければそれに見合う賠償をする等など、とにかく小倉さんは一見損に見えることでもその場の消費者の欲求を満たすことで、会社の信用を得て行きます。

またその過程で、ヤマト運輸にとって一番大事なのは現場のサーヴィス・ドライバーであることを認識し、彼らにお客さんのためになることであれば主体的に行動させることを徹底し、同時に仕事の自立性・権限を彼らドライバーに委ねます。このことによりドライバーはたんなる末端の社員ではなく、自分の仕事を自分で管理するという立場に立つことができ、主体的にフレキシブルに行動するようになりました。また業者相手では感じられなかったやりがいを家庭の消費者相手の宅配で彼らは感じるようになります。小さなことですが、家庭に荷物をとどけるだけで「ありがとう」と言われることで、彼らはセールスマンとしてのやりがいを身につけるようになったとのことです。

こうした消費者第一の宅配便を軌道に乗せる中で小倉さんは、ビジネスを運営していく上では数字上の損得だけを追っていては結果的に企業は損失を多く出し、むしろ消費者に感謝されることを目指すことで会社が活性化し黒字を生み出していくという好循環を体感していきました。

また消費者相手のビジネスでドライバーの重要性を認識することで、サーヴィス業ではいかに組織がフラットで風通しのよいことが重要か、役職の多さはむしろ消費者のニーズを上に伝える障壁となるため、ドライバーとトップとが直接結びつくことが大切であり、同時に現場のドライバーに大きな権限を与えることの重要性を小倉さんは強調しています。

こうしたことは既存の運輸業界ではすべて革新的なことでした。

この本には企業経営において他にも興味深いことがたくさん書かれてあります。

その中でも、サーヴィス業というものがもつ特徴を小倉さんは次のように述べています。サーヴィス業が対象としているのが家庭の生活者である以上、その企業は地域社会の重要な構成要因にならざるをえない。その際には、地域社会に密着せざるをえないがゆえに、会社は地域の生活者の利害を離れたことはできないし、そのため利益第一で消費者へのサーヴィスを第二にすることはできない。また地域社会に入り込んでいるからこそ、数字上の利益のために会社を動かすこともできない。たとえば安易に従業員を解雇するような体制では、地域の雇用を減少させることになり、結果的に生活者の立場に立った企業とはなりえない。

こうやって書いていると典型的な“キレイ”系の経営物語と受け取られそうで残念なのですが、実際に読んでみるととても面白い本であることが分かると思います。

もちろん企業の実際は現場にいる人にしかわからないし、私は小倉さんという方のことをよく知りません(最近亡くなられたようです)。それでも、単なるキレイごとを並べているというよりは、論理的思考と現実の状況への適切な対応をつねに積み重ねてきた経営者であることは、この本から分かると思います。


涼風

参考:「ヤマト運輸 小倉昌男氏にこそ国民栄誉賞を」『成果主義を自分の味方につける法』


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