「日本の経営者はふたつのタイプに分類できます。オペレーター(業務執行者)とイノベーター(変革者)です。
変化が穏やかな時代、景気が右肩上がりの時代にはオペレーター型の経営者が安定感をもたらしました。このタイプの経営者は年功序列という仕組みのなかで既存のレールを着実に歩み、トップに上り詰めたという経緯を持っています。そうした人物には会社のビジネスモデル(収益を上げる仕組み)を進展させる、あるいは変革させるという意思はまずありません。いままでの自分がたどった仕組みそのものを否定することになるのですから。
日本が長期的な不況に陥った背景には、オペレーター型の企業トップが多数派を占めていることに要因があるのです。
冷戦の終結以降、世界中が生産者となり供給者になりました。そうなると供給過剰という現象が起こり、たくさん商品をつくって安く売るという従来型のビジネスが通用しなくなります。
さらに少子化の流れがあって国内需要が減少しました。いまの日本人は資産がたっぷりあり、当面の生活に困ることはなく、自分の欲求には正直です。ですから、いくら巷に商品があふれていても、興味のないものには消費しません。
多くの日本企業はこうした変化に対応できなかったのです。企業と消費者の意識に乖離があったのです。この流れは十年ほど前からはじまり、現在もなお続いています。
こうした状況で、オペレーター型の社長が無力なのも当然かもしれません」
藤野英人著『スリッパの法則 プロの投資家が教える「伸びる会社・ダメな会社」の見分け方』(PHP)p.57-9
この本には、「投資すべき「伸びる会社・ダメな会社」の見分け方」について合計63の法則が書かれています。でも、それもひとつの法則にまとめることができるように思います。
要するに、人生のゴールに辿り着いたと社長が思っている株式会社に将来性はなく、これからしなくてはならなことがあると考えている社長の株式会社には将来性があるということです。
これは当たり前のようですが、今までの日本の株式企業社会のシステムでは、資本市場の未発達から上場するまでに時間がかかるため、会社を上場させることが社長のゴールになってしまっていたこと、あるいは大企業では年功序列のなかでレールに上手く乗れた人が社長になれてしまっていたことが、大きな特徴でした。彼らのなかには、「会社」の社長になることが人生の目標になっているため、社長になることではなく、会社それ自体を変革しようとするパワーのない人が多いことが想像できます。そのため戦後に成長した企業の多くは今、変化の時代に対応するための体制が採られていないことになります。
涼風