淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

「雪掻きのphilosophy」

2021年01月09日 | Weblog
 フランスの作家で思想家のアルベール・カミュの書いた随筆のなかに「シーシュポスの神話」という作品がある。二十歳ぐらいのときに初めて読んだ。
 そのときはそれほどの感銘を受けたわけではなかったのだけれど、たまに引っ張り出して読むうちに、少しずつではあるがカミュの言いたいことが分かってきた。

 シーシュポスは神を欺いたことで神々の怒りを買ってしまう。そして彼は神々から罰を受けることになるのだ。その罰とは大きくて重い岩を山の山頂にまで押しながら運ぶという過酷極まりないものだった。
 シーシュポスは、必死に岩を全身で押し上げながら、やっとの思いで山頂へと運び上げる。しかし、その大きくて重い岩は山頂まで運び終えたその瞬間、無情にもまた下へと転げ落ちてしまうのだ。
 それは何度やっても同じになる。必死の形相で岩を頂上まで運び上げてもそれは終わらない。必ず岩は転がり落ちる。何十回、何百回、何千回、肉体がぼろぼろになり、息が出来ないほどの疲労感と徒労感が襲おうと、その不条理な行為は果てしなく続いてゆく。

 なんという無意味な行為だろう。生産性もなく達成感すら得られない。これほど残酷で希望のない苦役はあるのだろうか。神とはなんと無慈悲で冷酷なんだろう。

 「シーシュポスの神話」とまではいかないけれど、雪国の冬に行われる「雪片付け」もまたこの苦行に似てなくもない。
 いずれ融けてしまう雪を、あえて毎朝毎晩、必死の形相で片付けるという、ある意味、なんの生産性もない過酷な作業を、雪国に暮らす人間は永い冬の間にやり続けなければならないのである。体調がすぐれなかろうが風邪気味だろうが眠かろうが疲れていようが、雪は一切降るのをやめてはくれない。
 そして、何度片付けても何度棄てても、雪はお構いなしに今日も降り続けて積もってゆく・・・。

 1月9日、とうとう青森市内の積雪量が1メートルを超えて104センチまでになった。
 もう雪を片付ける場所がない。雪を棄てるところがもうないのである。何処にも。でも、なんとかするしかない。

 今日も朝起きて、葛藤が始まった。
 「雪片付け、面倒くさいなあ。ほっといて、スポーツジムでも行こうかな。でもなあ、近所の手前もあるしなあ。ああ、やだやだ」
 天使と悪魔が喧嘩する。身体も疲れてきた。

 それでも気合を入れて、防寒具に着替えて外に出た。
 雪を片付ける個所は大きく分けて三か所ある。
 自宅前。それから駐車場が二か所。これがキツイ。
 
 外に出てみると、今朝も数十センチの雪が積もっていた。昨日も一昨日も必死で片付けたのに・・・。もうこんなに降ったのかよ!

 とにかく、やるしかない。
 重い水分の含んだ忌々しい雪の塊をまとめて、それを雪捨て場まで何度も何度も何度も何度も運ぶことを繰り返す。
 マスクをしていると酸欠気味になってくるので、鼻のところまでずらして大きく息を吸い込み、休まずに「雪掻き」をし続ける。
 約2時間。下着がビッショビショだ。
 吐く息が白い。ハアハアハア・・・。
 汗が滴り落ちてくる。

 ふいに、空を見上げた。
 すると、いきなり曇天の空が割れて、見たこともないような真っ青な青空が広がったのである。
 ああ、青空だ! 太陽が眩しい!

 とても澄み切った、濁りも汚れもない、正真正銘の青空!
 もちろん、周辺には雲の群れも所々流れてはいた。でも、青空の一定部分を占めていたのは、まさに、成層圏まで届きそうな、真冬の透明な大気の彼方に刻まれた純粋無垢な青だった!

 額に流れる汗を拭いながら、思わず笑みがもれた。
 人生なんて一瞬で変わるんだ。景色なんて心が決めるんだ。
 ここ数週間の荒れた気分も、ほんのちょっとした一瞬の変化で様変わりしてしまうんだ。
 こころなんて、気分なんて、気持ちなんて、なんていい加減で、浮気者で、勝手気ままで、不埒で、適当で、気紛れなんだろう。

 それでも、そんな純粋無垢な青空も、雪片付けが終わって、汗を流そうと沸かした家の風呂からあがったころにはすっかり消えていて、いつものような激しい吹雪が外で息巻いていた。

 でも、いいじゃないか。
 こうやって、生きていくしかない。
 ちっちゃな幸せのひと欠片を見つけたら、それを暫くの間、糧にして、なんとか毎日をやり繰りしながら、無様でもこうして生きてゆくしかないじゃないか。








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