いい天気だ。
気温もちょうどいいし、風もちょうどいい吹き具合だし、太陽もちょうどいい塩梅に輝いている。完璧な月曜日。完璧な十月の朝だ。
朝9時から市内にある「ホテルA」で大きな行政会議があったので、早めに家から自転車を漕いで向かう。
国道に出たら、出勤でそれぞれの事業所に向かう人たちの群れで賑わっていた。朝の太陽が道端を舞う落ち葉の群れを優しく照らしている。
午前中、目いっぱい会議が組まれていて、午後からまた「某商工会議所」の130周年式典がこのホテルであるので、そのままこの場所に残っていようかとも考えたのだけれど、折角時間が空いたので、自転車に乗ってホテルから数百メートルほど離れた「青森港」へと行ってみた。
何人かの釣り人が釣り糸を垂らしている以外、岸壁付近に人影はない。
それでも太陽は明るい光を注いでいて、爽やかな海風が海の北側から吹いている。
もしもこうして今、何の仕事をしていなかったとしたなら、こんな時間帯、すぐさまランニング・ウェアに着替え、家からこの付近までランニングでもしているんだろうか。それとも、窓辺に差し込む秋の陽光を浴びながら、好きな本でも読んで過ごしているんだろうか。
人生なんて、ほんのちょっとしたことで、大きな方向転換を強いられたりする。サマセット・モームの小説「かみそりの刃」じゃないけれど、わたしたちの人生なんてもんは剃刀の刃の上を恐る恐る歩いているにすぎず、右に落っこちたとしても左に落っこちたしとても、そんな大して変わりはない。いずれ生は尽き果て、誰もが死んでゆく・・・。
それにしても、この静かなる秋の海辺の風景は何といって例えたらいいんだろう?
何の変哲もない北の海辺の午後の風景。ただ風があり、ただ海があり、ただ空がある。それだけだ。
不意に、漠然とした不安が襲って来た。
芥川龍之介がいうところの「ぼんやりとした不安」である。彼は自死を決めたその理由を「ぼんやりとした不安」からだといった。
完璧なんて求めるな。
希望を棄てよ。
今ある自分でいいと満足せよ。
考えるな。
感じろ。