朝から雪が降り続く。
出勤時、車を運転していて、猛吹雪で前方がよく見えなかった。
いよいよ「10年に一度の大寒波」がやって来たようだ。今日からずーっと真冬日が連続して続いてゆく。気温もマイナス10度近くになる日があった。今冬、最期の頑張りどころだろう(たぶん)。
映画を観た。
「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督による、岸井ゆきの主演、耳が聞こえない女性ボクサーの実話をもとにした、「ケイコ 目を澄ませて」だ。
原作は、元プロボクサーだった小笠原恵子の自伝「負けないで!」だそうだけれど、この本は読んでないし、主演(好演!)の岸井ゆきのも知らない役者だった。
とにかく、各映画誌で大絶賛。「キネマ旬報」の中の3人の評論家による映画評も、ほぼ★★★★★だった。
都内でも何件かの映画館で上映されていて、時間の関係上、観たのは渋谷「ユーロスペース」。上映時間ギリギリだったので、大混雑していた道玄坂を走って駆けつけた。
これまで作られた外国映画も日本映画も、ボクシングを扱ったジャンルの映画で「これは面白くなかった」という類いのものは一本もなかった。もちろん優劣はあるけれど、そのどれもがそれなりの水準を超えていた。
日本映画だけでみても、「アンダードッグ」、「あゝ、荒野」、「ボクサー」、「どついたるねん」、「キッズ・リターン」、そして「百円の恋」と・・・たくさんある。
そして今回。傑作との呼び声が高い「ケイコ 目を澄ませて」には、観る前から期待が大きく膨らんだ。
同じ三宅唱監督の「きみの鳥はうたえる」もいい映画だったし。
ケイコは、生まれつきの聴覚障がい者で両耳が聞こえない。
それでも彼女はホテルの客室清掃係をしながら、下町の一角にある小さなうらびれたボクシングジムで、プロボクサーとしてのリングに立っている。
そんなある日、ケイコはジムが閉鎖されることをジムの会長(三浦友和)から突然告げられる・・・。
この映画には、ほとんど山場となるようなシーンが存在しない。
最後まで徹底して、ケイコがストイックなボクシングの練習に明け暮れる場面や、静かに暮れゆく下町の河川敷や、会長やトレーナーたちとの淡々とした交流シーンだけが流れてゆく。
だから普通ならボクシング映画の定番となるべき、ラストの壮絶なリングでのドラマティックな戦いも、内に秘めた熱い闘志が観る側をも燃え滾らせるようなシーンもない。
リング上での対戦はあくまで醒めた視点で描かれるし、ことのほか主人公に深く入り込むこともしない。あくまで、寡黙で静謐な流れだけが、この映画を支配し続けてゆく。
こういうトーンで終始するボクシング映画もまた珍しい。
そんなところが、評論家たちにも受け入れられ、高い評価へと繋がったのではないかとは思う。
でも正直に言っちゃえば、個人的には、主人公が奈落の底から這い上がり、最期には孤独のリングの中で(たとえ試合には負けたとしても)何かを奪い取り、観ている側へ勇気と希望を与えてくれる、そんな熱い映画が本当は観たかった・・・。
確かに、この映画のラストにおける「河川敷」シーン、悪くはなかったですが・・・。