淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

ゆきのまち映画館の黄昏 43

2010年11月23日 | Weblog
 今日の素晴らしい出来事さえ、この人はただの夢だったと思うだろう。そして、わたしたちが死んだことを深く悲しみ、また現実の世界へと戻ってゆく。雪のまち映画館での2日間は、ただの儚い夢でしかなかったのだと、深く項垂れながら・・・。
 わたしは、透き通った温かいスープを啜ってみる。あの人は子羊の肉を頬張っている。そしてわたしの愛しい息子は、あの人に笑い掛けながらパンをその小さな口に入れている。
 火を放たれ、焼け爛れたこの映画館も、またあの蒸気機関車と同じように、強くて激しい意思を持っている。
 あの人は明日、目を覚してまず何を思うだろう? すべての村人たちが死に絶え、廃墟となったこの冬の村を、たった独りさ迷い歩くだろうか? 「北」と「南」の両軍も、略奪と死闘の果てにこの地を既に去ってしまったに違いない。明日から、あの人はたった独りで生きてゆくのだ。
 風邪など引かないように。それから、寒さに凍えることのないように。わたしたちはいつも、あなたを遠くで見守っているから。
 大きな硝子越しに海が見えた。白い化粧を施した映画館も、空も、森も、道路も、砂浜も、それから凍った海も、そのすべてが黄昏に染まっている。
 
 あの人だけが、ありったけの笑みを湛え、わたしたちのことを見つめている。
 まるで、儚いまぼろしのようだ・・・。



                    -完-









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