淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

ゆきのまち映画館の黄昏 35

2010年11月15日 | Weblog
 突然、悲劇がわたしたちの村を襲った。
 「北」と「南」の戦争が、中立なこの村にまで及ぶなど、わたしたちは考えもしなかった。「南」の軍隊が一気にこの村の家々を襲い、武器や食料を運び込み、駅前の大きな噴水から石畳を登り切った丘の上まで、長くて頑強な塹壕が組まれていった。それからすぐ、わたしたち家族を含めた村人たち全員は、少し離れたあの映画館に集められた。
 映画館は数十年前もの昔、既に廃館になっている。当時、この村を含めたかなり広大な領地を所有していた貴族の大地主が、ありったけの贅を尽くして建設した映画館だった。
 貴族社会の凋落から端を発した、「北」と「南」と「東」と「西」による分割と内乱とが、貴族による統括や統治という古い概念を、秋の紅葉が地上に舞い落ちるようにあっという間に崩してしまった。
 わたしたちは、「北」がすぐ南進してくるとの情報のもとに足手纏いと判断され、村人全員が館内の広いホールに集められると、すぐさま映画館の表を兵士たちが囲み、そこに一斉に火が放たれた。




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