淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

ゆきのまち映画館の黄昏 36

2010年11月16日 | Weblog
 全員が狂ったように逃げ惑い、わたしたちは互いの名前を呼び合った。
 まるで地獄だった。
 天井から豪華なシャンデリアや厚くて硬い壁が次々と落ち、何人もがその下敷きとなって死んでいった。わたしは子どもの手をしっかりと握ったまま、あの人を探して思い切り大きな声を張り上げた。どすんと鈍い音がした瞬間、壁が目の前に押し寄せ、わたしと子どもはその下敷きになってしまった。一瞬、目の前が暗闇に包まれ、気がつくと、わたしの愛する息子の首から喉にかけて、溶けたアイスクリームのようにどろんとした血が流れていた。わたしは子どもを助けようと一所懸命もがいたけれど、その分厚い壁はわたしたちを逆に圧迫してくる。鈍い痛みと猛烈な熱さが全身を覆った。こどもは声にならない声を喘ぎながら、必死の形相でわたしに助けを求めてくる。可哀想に。喉元に、重い壁が被さっている。
 早く! 早くあの子を助けなければ!
 そのときだった。
 あの人が必死で、大人の何人分もある重い壁を退けようと、物凄い形相で駆け寄ってきた。わたしたちの名前を必死で呼びながら。
 その直後だった。赤く燃え上がったシャンデリアの一部が、壁を持ち上げようとしているあの人の左手首を直撃したのは! 
 あの人はもんどりうって倒れ、激痛に慄(おのの)いている。
 そして、わたしも意識を失った。




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