淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

「ユーミンの罪」

2014年01月20日 | Weblog
 講談社現代新書から出版された、酒井順子「ユーミンの罪」を一気に読んだ。

 目から鱗である。
 というか、やられたと思った。
 こういう論考を書きたかった、本当は。

 音楽論と、自分史と、それから70年代・80年代・90年代という時代の気分と雰囲気と、そしてそれらが絡み合った日本の文化史とが上手に交じり合っている。
 酒井順子さんに先を越されてしまった。
 狙っていたんだけどなあ、ユーミンと自分史との融合というコンセプト・・・。

 実は、酒井順子ってエッセイスト、あんまり好きじゃなかった。
 彼女の著書「負け犬の遠吠え」という、人生の「勝ち組」と「負け組」をステレオタイプにカテゴライズした(もちろん、読み込めばそこまで表層的に括っているわけではないとしても)提示の仕方に、ちょっとムカッとしていたのである。
 
 でも、今回新たに講談社現代新書から出版された「ユーミンの罪」はとても面白かった。
 ネットの書き込みの中に、「論理的じゃない」という批判があったけど、それは少し違うんじゃないか?

 この本を、ユーミンに関する音楽的な分析と検証を整理した文献として捉えるべきじゃないと思う。
 あくまでも、70年代からバブル期にかけて、ユーミンが「時代と寝ながら」、そしてユーミンが「時代の一歩先を予言しながら」創り上げた多くの傑作アルバムと、酒井順子を始めとする同世代(あるいはそれと前後する世代の女性たち)との接点を、時代の移り変わりとともに語ってゆくという、そういう類いの本であると思う。

 本の帯がその全てを簡潔に語っている。
 『ユーミンの歌とは女の業の肯定である。ユーミンとともに駆け抜けた1973年からバブル崩壊まで、キラキラと輝いたあの時代、女性達の意識と世の中に与えた影響を検証する。ユーミンが我々に遺した「甘い傷痕」とは? 著者初の新書(単著)』と。

 正直に白状すると、酒井順子よりも早くユーミンに触れ、彼女のアルバムに早い時期から共鳴し、すべてのアルバムを深く聴き込んで来たという、そのプライドと自負はこの「ユーミンの罪」で儚くも崩れ去ってしまった。

 まだまだ俺は甘い。
 表層的な聴き方でしかなかった、それがとても恥ずかしい。悔しい。
 男であることが起因しているのかもしれない。

 酒井順子「ユーミンの罪」は、1973年の処女作「ひこうき雲」から、1991年の「DAWN PURPLE」まで、全部で20枚に及ぶアルバムを紹介しながら、その歌詞に隠されている意図や、時々の時代との接点や、広く社会学的アプローチも含めて書かれている。

 ただ、「紅雀」や「時のないホテル」のアルバムは、ここではセレクトされていない。
 確かにこの2枚、70年代から華やかかりし90年初頭までを一気に駆け抜けたユーミンとしてのアルバムの中で、幾分異質な光を放っていることは事実であり、この本の文脈の流れでは捉えきれない部分だったのかもしれない。
 僕は大好きな2枚ですが・・・。

 酒井順子は述べる。
 ユーミンのアルバム(あくまでも本の中で取り上げたアルバム)の中に描かれている女性たちには「助手席」に座る女性の視点があると。

 「中央フリーウェイ」、「真冬のサーファー」、それから「ノーサイド」もそうだろう。
 彼女は、あくまでも運転している彼氏の隣にいる。
 そして、湘南の海でサーフィンしている彼をじっと浜辺で見つめている。または、ラグビーの試合で最後のゴールを外してしまった彼氏のラガーマンをたった一人スタンドで応援している・・・。

 また、酒井順子はこうも述べている。
 それでもユーミンは、その切り口一辺倒で音楽表現してきたわけではないと。
 
 彼にふられても気丈に振る舞い、強気で前を見据え、時には「ダウンタウン・ボーイ」のように上目目線で愛を語り、時には「パール・ピアス」のように別れ際に片方のピアスを彼のベッドの下に忍ばせて復讐を果たそうとする。

 僕が個人的にその鋭い表現力に圧倒されたのは、1985年のアルバム「DA・DI・DA」に入っている「青春のリグレット」だろうか。
 この歌詞は凄い。女の底力が透けて見えてきて怖くなる。

 女は男をふったのだろう。ずっと愛していた最愛の男だったようだ。でも、女は別の知らない男性と突然結婚してしまう。
 その時の、別れた男に託す最後のメッセージの言葉が、『私を許さないで 憎んでも覚えてて 今でもあなただけが青春のリグレット』である。
 いつ聴いても凄まじい歌詞だ。

 まさに、女の業である。
 女の傲慢さと、恋愛への限りない矜持と、身勝手さと、揺るぎ無い愛の執念と、限りない諦観とが、鮮やかに混合している。

 男は、絶対に死ぬまで女には勝てやしないのである。

 ああ!







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