映画「象は静かに座っている」がとにかく素晴らしい。
上映時間4時間。映画のポスターでも謳っているとおり、「魂の234分間」である。そして、著名人からも絶賛の嵐が寄せられている。
音楽家の坂本龍一氏、【無駄なショットがあった記憶がない】。作家の小野正嗣氏、【心が崩壊しかねない美に到達する】。映画監督のホウ・シャオシェン氏、【正直に言って、私は感動し、恐れを抱いた。これは本物だ】。
そして、アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」紙、【映画の最後には、疲れではなく、感動を覚えるだろう】。
中国北部に位置する、河北省石家荘市の井陘(せいけい)県。荒涼とした中国の地方都市だ。
その炭鉱の町は、どこまでも白濁を帯びた空が広がり、憂鬱な風景だけがすべてを支配している。
映画は、町に住む4人の男女の一日が描かれてゆく。
4人にはそれぞれ、とても煩わしい、そしてとても億劫な出来事が降りかかる。そしてそれは彼らを苦しめ、最後には脱出すべき出口さえ見つけ出せなくなり、大きな悲劇が訪れる。
一人は、町の大きな高校に通うブーという青年だ。
彼の父親は職を失い、朝から酔っ払っている。そんな環境に嫌気がさして学校に出掛けても、そこに待っているのは、虐めグループによる友人を巻き込んでの執拗な嫌がらせだ。
一人は、集合住宅で娘夫婦と可愛い孫娘とに囲まれて暮らす孤独な老人だ。
彼は娘から、家が手狭なので老人ホームに入居してほしいと泣きつかれ、独りベランダで寝起きをしている。
彼の唯一の楽しみは、犬を連れて近くを散歩すること、ただそれだけだ。
一人は、ブーの同級生のリンという女の子だ。
彼女は、離婚してから一切の家事と子育てを放棄してしまった母親との2人暮らしだ。
母親は絶えず彼女を怒鳴り散らし、服従させようとする。彼女の居場所は何処にもない。唯一の救いは好きな男性の存在だ。しかしその男性は彼女が通う高校の教師で、彼には妻子がいた。
一人は、チェンという犯罪者まがいの青年だ。
彼は親友の妻と一夜を過ごしてしまう。ところが朝になって急な帰宅をした親友に二人は見つかり、裏切り行為に絶望した親友は、そのアパートの窓から身を投げ自殺してしまう。
それぞれ異なる困難で面倒な事情を抱えた4人は、やがて物語の中でゆるやかに交錯してゆく。
町から2300キロも離れた先にある、満州里という町の動物園に存在している、ひたすら一日中座り続ける奇妙な象を見てみたいという衝動に駆られたブーという青年を中心に、4人の人生は大きな渦の中へと入り込んでゆく・・・。
カメラは、執拗に彼ら4人の背中を舐めるように接近し続け、彼らを一瞬たりとも逃がすまいと、最後まで捉えて離さない。
驚異的な長回しを多用して、彼らの孤独と焦燥感と苛立ちと失望と再生への憧れを映し出す。
第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、最優秀新人監督賞スペシャルメンションを獲得した、映画「象は静かに座っている」は、フー・ボーという監督による第一作目にあたるデビュー作品だ。
つまり、まだ20代の若さでこの傑作映画を創り上げたのである。
しかし、私たちはもう、この才気溢れる気鋭の監督による第二作を観ることが出来ない。なぜなら、彼はこの作品が完成してすぐに自らの命を絶ってしまったからだ。
自殺したのだ。2017年10月12日のことだった。
4時間にも及ぶ長編映画を、そのままカットせずに劇場公開することに対して当時の製作側から反対され、再編集を求められたことに起因するという話が取り沙汰されているが、真相はよく分からない。
この才能溢れる若い監督の次なる映画を観ることが出来ないのは、本当に残念だ。
それにしても、全4時間、「象は静かに座っている」のようなこんな凄い映画を観ることが出来たことに、心底感謝したい。
いやあ、生きてて良かった。
あるんですねー、まだまだこんな凄い中国映画が。
上映時間4時間。映画のポスターでも謳っているとおり、「魂の234分間」である。そして、著名人からも絶賛の嵐が寄せられている。
音楽家の坂本龍一氏、【無駄なショットがあった記憶がない】。作家の小野正嗣氏、【心が崩壊しかねない美に到達する】。映画監督のホウ・シャオシェン氏、【正直に言って、私は感動し、恐れを抱いた。これは本物だ】。
そして、アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」紙、【映画の最後には、疲れではなく、感動を覚えるだろう】。
中国北部に位置する、河北省石家荘市の井陘(せいけい)県。荒涼とした中国の地方都市だ。
その炭鉱の町は、どこまでも白濁を帯びた空が広がり、憂鬱な風景だけがすべてを支配している。
映画は、町に住む4人の男女の一日が描かれてゆく。
4人にはそれぞれ、とても煩わしい、そしてとても億劫な出来事が降りかかる。そしてそれは彼らを苦しめ、最後には脱出すべき出口さえ見つけ出せなくなり、大きな悲劇が訪れる。
一人は、町の大きな高校に通うブーという青年だ。
彼の父親は職を失い、朝から酔っ払っている。そんな環境に嫌気がさして学校に出掛けても、そこに待っているのは、虐めグループによる友人を巻き込んでの執拗な嫌がらせだ。
一人は、集合住宅で娘夫婦と可愛い孫娘とに囲まれて暮らす孤独な老人だ。
彼は娘から、家が手狭なので老人ホームに入居してほしいと泣きつかれ、独りベランダで寝起きをしている。
彼の唯一の楽しみは、犬を連れて近くを散歩すること、ただそれだけだ。
一人は、ブーの同級生のリンという女の子だ。
彼女は、離婚してから一切の家事と子育てを放棄してしまった母親との2人暮らしだ。
母親は絶えず彼女を怒鳴り散らし、服従させようとする。彼女の居場所は何処にもない。唯一の救いは好きな男性の存在だ。しかしその男性は彼女が通う高校の教師で、彼には妻子がいた。
一人は、チェンという犯罪者まがいの青年だ。
彼は親友の妻と一夜を過ごしてしまう。ところが朝になって急な帰宅をした親友に二人は見つかり、裏切り行為に絶望した親友は、そのアパートの窓から身を投げ自殺してしまう。
それぞれ異なる困難で面倒な事情を抱えた4人は、やがて物語の中でゆるやかに交錯してゆく。
町から2300キロも離れた先にある、満州里という町の動物園に存在している、ひたすら一日中座り続ける奇妙な象を見てみたいという衝動に駆られたブーという青年を中心に、4人の人生は大きな渦の中へと入り込んでゆく・・・。
カメラは、執拗に彼ら4人の背中を舐めるように接近し続け、彼らを一瞬たりとも逃がすまいと、最後まで捉えて離さない。
驚異的な長回しを多用して、彼らの孤独と焦燥感と苛立ちと失望と再生への憧れを映し出す。
第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、最優秀新人監督賞スペシャルメンションを獲得した、映画「象は静かに座っている」は、フー・ボーという監督による第一作目にあたるデビュー作品だ。
つまり、まだ20代の若さでこの傑作映画を創り上げたのである。
しかし、私たちはもう、この才気溢れる気鋭の監督による第二作を観ることが出来ない。なぜなら、彼はこの作品が完成してすぐに自らの命を絶ってしまったからだ。
自殺したのだ。2017年10月12日のことだった。
4時間にも及ぶ長編映画を、そのままカットせずに劇場公開することに対して当時の製作側から反対され、再編集を求められたことに起因するという話が取り沙汰されているが、真相はよく分からない。
この才能溢れる若い監督の次なる映画を観ることが出来ないのは、本当に残念だ。
それにしても、全4時間、「象は静かに座っている」のようなこんな凄い映画を観ることが出来たことに、心底感謝したい。
いやあ、生きてて良かった。
あるんですねー、まだまだこんな凄い中国映画が。