うさぎくん

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二つの母国に生きて

2015年10月17日 | 本と雑誌

ドナルド・キーン著 朝日文庫

ふだん僕は遅読で、かなりたらたらと読むのだが、本書は一気に読んでしまった。凝縮感のある、面白い本でした・・。

本屋を冷やかしているときに、たまたま目について手に取り、そのままレジに向かった。

目についたのは、キーン氏のドキュメンタリーを数日前に見たから、というのはもちろんある。

キーン氏の名前を知ったのは、安部公房の小説の解説文が初めてだと思う。その頃から今日に至るまで、アメリカ人の日本文学者さん、という程度の認識しかなかった。

本書の文庫化(9月末)や、先のテレビ放映など、ここに来て急に氏のことがクローズアップされてきているようだ。

 

 

この文庫のもとになった単行本の刊行と、記事の初出となる雑誌への執筆は30年ほど前のことだ。

なので、本書に出てくるキーン氏と触れあった「日本人」の描写は、その時代のものだ。そこには多少の時代の変化を感じることができる(キーン氏自身は、その頃のご自身とあまり変わっておられない、のだそうだが)。当時の日本人は、キーン氏を見ると、日本に来ると色々と不自由でしょう、と聞いてきたという。曰く、刺身は食べられますか、納豆はどうですか、等々。

総じてその頃の日本人は、自分たちは他の国と全く違っていて、他国人には理解することが難しい民族なのだ、と思っていたらしい。

外国人は、そもそも一部の地域や施設などを除けば、ほとんど目にすることもなかった時代だ。僕も若い頃、友人と道を歩いていて、彼が小声で白人親子を示し「ガイジン」とささやいてきたのを覚えている。この30年の変化は大きい。

文庫本あとがきでキーン氏が書いておられるように、「今の日本人はコスモポリタンになったようである」。同時に日本的な生活様式も抜けてきつつある。

それは、日本人全般の変化にとどまらず、というか、日本人全般の変化と共に、僕自身の意識が知らないうちに変化している、ということも意味している。

ニューヨークの24時間や、ほかでも前に書いたと思うが、自分の意識が時代と共に、社会と共に変わってきている、ということが、とても興味深く思える。

昔の僕や、僕の周辺にいた人たちは西洋かぶれだったし、いま身近にいる人は中国系かぶれ?なんてひともいる。なんだか恥ずかしいような気もするが、異文化へのあこがれは自然なことだし、やがて「異物」としての刺激も薄れて、完全に自分(達)のなかに同化して行くものなのだろう。

僕も、時代と共に「かぶれ症」はなおってしまったと思っているが、なぜか古き良き欧州、米国の映像に郷愁と安堵感を感じるし、和食より中華より洋食の方が落ち着く。他方、邦楽や能、歌舞伎はちかごろとてもエキゾチックで刺激的に思えてきている。

 

 

話がそれた。キーン氏の本に戻る。

「海外における日本研究」ではとても面白い事実を紹介されている。

英米では外国語の研究は伝統的に、ラテン語を学ぶときのアプローチを基準とする。

日本語はてにをはがあるが、中国語にはそれがなく、日本語の方が中国語より取っつきやすいらしい(マスターするのは難しいようだが)。

ので、英米の人が中国を研究するためには、まず日本語を学んで、日本語で中国に関する文献の解説書(豊富にあった)を読んで研究をしたのだという。つまり、日本語は中国研究のための便利なツールだったそうだ。

欧州では日本文化は模倣文化に過ぎない、という認識が強かったらしい。まず中国を模倣し、次にドイツを模倣したと。全体に、欧州の日本への感心は非常に低かった(浮世絵などは当時の西欧の画家達に強い影響を与えたのだが)。

周辺の国、中国や朝鮮も、日本や日本語の研究をした形跡はないらしい。

中国などは自分の周りの国は野蛮国であり、向こうが自分たちを学べば良いという認識だった、と。ポルトガルは逆に、キリスト教を布教させるために、熱心に日本研究をしたそうだ。また、意外なことにロシアでは日本語研究が古くから盛んで、日本語学校も江戸時代からあったという。それを知った幕府が、そのことを不快に感じた、と言うのも面白い。

このほかにも日本人の無常観の話とか、東京裁判に関する認識とか、興味深い話がたくさん収められている。200ページ少々の本だが、これほど内容の濃いエッセイ集はめったにお目にかかれるものではない、と思う。

例によって、面白いと思ったページには折り目をつける様にしているが、本書は折り目だらけになり、写真を撮るときも表紙が半開きになって斜めに写ってしまった。

 


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