アフリカ東海岸の或る国の、前大使の方のお話を伺いました。
任地の国の地理や歴史、現況のお話が中心でしたが、後半昨今話題の言葉、グローバスサウスに絡めてお話をされました。
グローバルサウスが話題になったのは、2022年のウクライナ侵攻に伴う、国連の対露精細決議に少なからぬ国が反対または棄権をした時です。このとき西側でも東でも北でもない、南の国々、ということでグローバルサウス、という名前が浮上してきました。
この言葉については一部の専門家からは適切な言葉ではない(地理的にも南とは言えない国もある、各国間の経済、政治その他の差異が大きすぎ、カテゴライズすることに語弊がでるなど)という意見もあります。
ただ、いわゆる西側先進国の、今まで視界に入っていなかった国々が自己主張をした、ということに対する驚きが、この新語に表れているようです。
大使はご自身の見解として、次のような指摘をされました。
1.歴史の重みは侮れないこと。アフリカ大陸にあってはかつての植民地支配、奴隷貿易が極めて過酷であり、被害を受けた国々の人はそれを記憶している。識字率や教育も徐々に充実しつつあり、昔よりも過去の歴史を意識する人が増えた。アフリカにおける植民地支配は数百年前~20世紀半ばまで続きました。それを考えると今日の西側諸国が民主主義が、人権がどうのというのは、どの口が言う、と言われても仕方がないかもしれません。
2.なので、5月の広島サミットでは民主主義や自由等の言葉よりも法の支配という言葉を前面に出しています。
ここでも、例えばアメリカはイラクとの戦争では国連の決議に基づかない戦闘を行っています。だからといってロシアのウクライナ侵攻を非難できないという事はないとは思いますが、卑近な言い方をすればちょっと白けてしまう、という人たちもいるとは思います。
3.人命の重さという問題があります。ウクライナは白人の国、シリアや、ガザの住民たちは非白人。アメリカはガザの市民を1万人近く殺したイスラエルに対し、ひじょうに抑制的なコメントしか発していません。
4. アフリカ諸国は旧ソ連時代から武器の供給などを受けています。アフリカでは社会主義体制の国もいくつかあり、それらの国々は中国や北朝鮮などとも付き合いが深い。中国の途上国援助には色々問題も指摘されますが、それなりの人的交流があることも確かです。ロシアも同様です。これらの国々は現実問題として、ロシアや中国との外交を重視しないわけにはいかない。
日本は自由主義陣営に属していますから、報道も一定の視点から見た世界観で語られることが多いですし、多くの専門家たちの発言もその線に沿った見解を持たれています。これは当然というか自然なことであり、それ自体は問題ではありません。
ただ、視点が違えば見えてくるものも当然変わってきます。
大使はそういう、異なる視点を現地で実地に見てこられ、上記のようなpoint of viewの違いも体感されて、それを指摘いただけたのだと思います。
国内の、例えばSNSでの論争を見聞していると、強引な逆張りや異論を認めないかのようなやり取りが散見されます。上記の4点の指摘も、反論は色々できるかもしれません。しかし今の国同士の関係がこうなっている背景には、お互い相手のことが見えていないという部分がある事は確かだと思います。