うさぎくん

小鳥の話、読書、カメラ、音楽、まち歩きなどが中心のブログです。

オーケストラ、それは我なり

2013年11月23日 | 本と雑誌
オーケストラ、それは我なり―朝比奈隆 四つの試練 オーケストラ、それは我なり―朝比奈隆 四つの試練
価格:¥ 1,800(税込)
発売日:2008-09

文庫版も出ているが、どなたかのブログのリンク先からネットで注文したときは気がつかず、ハードカバーを買ってしまった。

朝比奈隆氏のバイオグラフィーとしては、’85年の中公新書「朝比奈隆 我が生涯」はじめ、いくつか読んだことはあるが、全て生前の出版だった。本書は没後7年での出版と言うことと、中丸美繪氏の筆致もあり、等身大の朝比奈氏が描き出されている。

「我が生涯」はとも面白い本で、何度も読み返したものだ。ただ、やはり自分のことを語っているので、影の部分などはあまり出てこない。関係者との関係で、語るに語れない部分もあったと思う。

そう言っては何だが、学生時代の朝比奈氏は、それほど優秀な学生でもなかったのだな、というのが最初の感想。また、オケの楽員との関係、特に晩年の組合や幹部との関係や、ご子息のことなど、初めて知ったことが多かった。

複雑な生い立ちや、若い頃の生活を見ていると、朝比奈氏が以前よりは身近な存在に思えてくる。いわゆるエリートコースという観点で見ると、官僚または企業人、音楽家、どちらのコースにおいてもエリートになり損ねているか、はじめからエリートではない。特に若い頃は、だいぶ波乱の人生を歩んだようだ。

それでも、海外のオケの指揮を経験したり、自分の楽団を作り長期間トップに君臨し、晩年には人々から喝采を持って迎えられるなど、同期のエリートたちも経験できなかったような栄誉に浴するような、幸福な人生を歩んだ。

この点、ご子息の千足氏の言葉が面白い。

「親父の九十三年の歴史は、余り真実を見ないできたから可能だった。(中略)現実主義の人間だったらできなかったと思う。現実を避けるようにするというか、見ないようにするというか、それをエネルギーにしてきたのです・・」

楽観的であれ、ということか。器用な人が現実を受け入れすぎると、それにつぶされてしまう、ということもよくある事なのだろう。

最晩年は病との戦いの日々でもあったようだが、ファンの熱狂ぶりはすごかった。晩年になるほど、運勢が上向いた方でもあったのだ。

コメント
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