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速読と脳の活性化

2008-03-30 22:48:00 | 文字を読む

 図は独立行政法人情報通信研究機構(NICT)の実験で速読能力のある人が小説を読んだときの脳活動を、普通の人の場合と比較したものです。
 この図で見ると、普通の人が読んでいる場合のほうが、速読能力のある人が読んでいるとき(普通の人の十倍以上の速度)よりも脳血流が多く、いわゆる脳が活性化しています。
 普通の人の場合、ゆっくり読むよりも速く読んだほうが脳血流が多くなりますから、十倍以上の速さで読む速読能力者が読んだら脳がものすごく活性化しているのではないかと予想されます。
 ところが実際は逆に速読能力者のほうが、脳が活性化していないのですから、ハテナと思ってしまうのではないでしょうか。

 脳血流が多いほうがよいのだ、脳が活性化しているからよいのだといった単純な考え方は成り立たないのではないかと考えられるのです。
 そう思って考え直してみると、このような現象はいろんな分野で見られることで、読書に限ったことではありません。
 例えばソロバンの場合でも、熟達者が計算するときは場合は初心者に比べズット少ない脳血流ですし、詰め将棋などでも高段者は初心者が時間を掛け苦心して解くのに苦もなくさっと解いてしまいます。
 迷路の問題でも見ただけで迷わず抜けられる人もいれば、試行錯誤を繰り返し、それこそ脳を活性化させながらなかなか抜けられない人もいます。

 図の結果で見ると、速読能力者の読み方と、普通の人の読み方では単に脳血流量が違うというだけでなく、脳を使っている部分に違いがあることがわかります。
 主として音声言語を理解するウェルニッケ野の活動が見られなくなっていますが、これは十倍以上の速度で読むならば、音声に変換していては間に合わないので当然予測されることです。
 単語を一つ一つ読み込んでいって、それを組み立てて全体の意味を理解するという方法では、十倍以上の速度を実現するにはとんでもないエネルギーを必要とします。

 たとえば「侍が侍を殺せば、殺したほうが切腹をしなければならない」というような文章を読むとき、「侍が 侍を 殺せば 殺した ほうが 切腹を しなければ ならない」と文節単位で読んでも時間がかかりますが、全体を見てそのまま意味が頭に入れば、速くかつエネルギーを使わないで済みます。
 ただし文章を読むということは、入試問題を解く場合のように文意をつかむだけが目的ではありません。
 速読の読み方と普通の読み方とでは、脳の使われ方が違うのですから読むことによって得られる結果が違うので、一概にどちらがよいというものではないでしょう。
 計算なら答えを出すだけが目的ですが、文字を読む場合は文意を読み取るだけが目的とは限らないので、ゆっくり読むほうがよいという場合もあります。
 脳血流の量で優劣を測るようなことをしても意味がないのです。