久し振りに太陽を見たような気がしますが、ここ数日、梅雨の前ぶれのような天気が続きます。今日は、昨日のつづきを掲載します。改めて読み返してみると、56年経っても記憶に残っていることに驚きます。順調だった東京生活での初めてのトラブルだったので、強い印象があったのかも知れません。この話には続編があるのですが、それは次の機会で。
イナカッペ―後編
その日の昼休み。数人の仲間が教室の片隅で雑談をしていた。私はその横で彼らの話を聞きながら、夏の日射しを受けて萎えたイチョウの木を眺めていた。仲間達は次の休みに渋谷の街に出かける話をしていた。渋谷。VAN。一度片隅に降りた街。私は立ちあがり、彼らの後ろから割り込むように、一緒に連れて行ってくれないか、渋谷は始めてなんだ、と声を掛けた。すると、渋谷はお前みたいなイナカッペの行くところでは無いよ、カッペはカッペらしく勉強でもしていな、と言い放つ奴がいた。成績はいま一つのAだった。回りの仲間が笑っている。
この一言に血が上る。イナカッペなりに少しは自信を持ってきたのに。突然、私の中で何かが切れた。私はAに向かって叫んだ。カッペで結構。ふざけるな、このビヤダル野郎。便所の鏡に自分の姿を写して見ろ。Aの顔が見る見る赤くなり、唇が震えるのが解った。私は身構える。Aの寸胴の体が私に向かって跳ねてくる。仲間が辞めろと叫ぶ。机が倒れる。授業の始まるベルが鳴る。
俺に任せろ。明日一番で話を付けてやる。Tが繰り返す。私は彼の日焼けした顔を見つめ頭を下げる。そして長女がくれたサイダーを一気に飲み干す。胸が熱くなる。
2006/09/25
今日の写真は浅間のウラジロヨウラクとツバメオモトです。撮影は私です。
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