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蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造ヴェイユの証明 第2部の最終 5 

2021年12月10日 | 小説
(2021年12月10日)今回投稿は下スライドの「視界風景」について語る。




前回まで4の投稿を通じてレヴィストロースとヴェイユの親族と婚姻の理解について紹介した。このレヴィストロース著作にヴェイユ論文が掲載される経緯は以下に説明されている;<André Weil qui a bien ajouter un appendice mathématique à la première partie第一部末に数学的補遺を載せる事をヴェイユが強く希望した(親族の基本構造第一版の序文、1947年)。ヴェイユ年表を見ると1941年に米国に亡命、1945年にサンパウロ大学に講師として招聘されるまで米滞在の期間があった(Wikipedia)。レヴィストロースも同時期に米国に亡命していた、亡命仲間、出自を同じくする(アルサス系ユダヤ人)など親しみが持てたのか、この交流の中で依頼を受け本論文を書き上げたと思える。

本書序章のデジカメ、AndréWeilの依頼で掲載したと読める(日付は1947年2月23日、ニューヨークにて)

人の精神に関わる行為を数値化し、規則を決めた。後にも先にもこの種の学術発表は本論文のみかと思われる(部族民知る限り)。

さて両者;
原資料を「換骨奪胎」するかに分解し、婿入り嫁取りの実際行為の奥に潜む「思想」を探っている。取り組みの姿勢は共通ながら、片方は社会の分割化を排除すべく子の移譲先を決める数式に+dを追加し、もう一方は社会の中に特定の集団(階層、classe)を想定し、言わば分割される社会を容認している。レヴィストロースは数式を用いないが、彼が意図したところはこの+dを省いた(a+c+1)の式に戻っての子移譲の数式に他ならない。+dはまさに非分割社会、一般化交換のヴェイユ項である。

この差異はどこから発生したのか;
レヴィストロースは人類学者である。民族誌報告をあるがままに分析しなければ習俗とその意図はつかめない。アボリジニ諸族の婚姻は限定交換を基礎としている。あるいは表向き一般化交換を見せても、より重要な制度を限定交換にて構築している。レヴィストロースがMuringin 族の8サブセクションをアボリジニ一般の4の階層(P,R,Q,S)に再構成し、Aranda族モデルと相似すると証明した。
それは彼が人類学者であるからに尽きる。

一方ヴェイユはその思考強制(=exigences、レヴィストロース用語)を持たない。交換の原理の不等価、不均衡を完璧に実現する社会を造り上げた。その社会は「貰った相手に贈り返さない」「与えなければ貰えない」の全信用の制度となった。数学者の描く風景は特定の利権を廃した四方平等、分割されない輝きを放つ部族社会となった。
人類学者が説いた部族社会は息子娘を特定相手に移譲する。特定相手とは子を贈り貰う関係である。制度は母系、故に母の母、子にとって祖母のサブセクションに送られる。ここに子への特定利権が、与える側と貰う側に生ずる。更に息子は特定相手に贈られるから祖母のサブセクション、ひいては母も属する母系集団(これが階層classe)から弾き出される。
ここにも利権が生じている。息子を特定サブセクションに贈れば、回り回って娘に婿が取れる。送り出された息子とは信用担保の質草と言える。

レヴィストロースは本書の最終頁に黄金時代l’âge d’orはいつだったのかに言及している。シュメール人の黄金期は会話が満ち溢れ、全ての言葉を同じ意味で人々が共有していた時代。それがバベルの塔の以前であったと。アンダマン諸島の住民が黄金を掴むのはこの世の終わり。誰もが死に絶え宇宙のどこか、皆は分散孤立して、会話は交わされず言葉も意味も消え果てて、娘らを嫁に追い立てない暗黒の沈黙こそ黄金期であると。

ここで視界風景に。
ヴェイユが組み立てた信用は別の仕組みで考えると、言葉と意味を共有し理解を共にする社会である。すると一般化交換で子と嫁を周回させるとは、信用が決潰したバベルの前の時代、それこそ部族社会の黄金期であると言える。レヴィストロースの融合型は信用だけでは成り立たない、実質(現ナマ)を蓄えてこそ安心できる、欲の皮の突っ張り始めの部族社会、それでも未だ信用する仕掛けを崩していない。限定と一般化交換の融合となるが、レヴィストロースは青銅期l’âge de bronzeを再現したのではなかろうか。

ロダンの青銅期、写真はネットから

親族の基本構造ヴェイユの証明 第2部の最終 5 の了(2021年12月10日)

後記:ヴェイユはこの論文の末にコメントを書いています。数学者の文章など本ブログでは紹介することもなかったので、このコメント解説を近々に投稿します。

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