ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

東日本大震災支援:ほとんど報道されないこんなことにも大学は重要な貢献

2011年04月06日 | 日記

東日本大震災への大学による支援について、何回かのブログでご紹介してきましたが、もう一つ、ほとんど報道されないことで、皆さんにご紹介しておきたい大学による支援活動があります。

それは、震災で亡くなられた方々のご遺体の検案の仕事です。この仕事に、法医学を専門としている医師が、全国の大学から交代で被災地に入っています。当初は30人体制でしたが、現在は20人体制で、1週間交代でご遺体の検案の仕事をやっていただいています。

ご遺体の検案の仕事は重要でたいへんな仕事なのですが、仕事の性格上報道はほとんどされませんね。法医学を専攻している医師は全国の大学におられるのですが、実はその数は少なく、先生方に大きな負担がかかっています。各地域の異状死の検案や解剖に支障が出ないようにしつつ、被災地にも医師を派遣しなければならないので、おそらくかなりぎりぎりの状態でやっていただいていると思います。法医学の先生の数が少ない原因の一つは、希望者が少ないというよりも、国立大学法人化と時期を同じくして大学への予算が削減され、教員の数が減らされていることにあります。この問題を日本法医学会も訴えています。http://www.jslm.jp/topics/20071019.pdf 今後さらに大学への予算が削減されるようなことがあると、たいへん困ったことになりますね。

昨夕、東京の大塚にある東京都監察医務院を訪問しました。院長の福永龍繁先生は、実は7年前まで三重大学の法医学の教授をされており、私は当時三重大学の産婦人科の教授で、たいへん親しくさせていただいた先生だったのです。

監察医務院は東京都23区の異状死の検案や解剖を担当している組織です。昨年の8月現在の常勤の医師は11人、非常勤の監察医は47人(各大学の法医学の先生方が手伝っています。)、その他に臨床検査技師などの技術系職員や事務職員の方々から構成されています。死因の究明のためには、単に解剖するだけではだめで、たとえば毒物の検査も必要ですし、病理学的な検査も必要で、けっこう時間もかかるんです。

このスタッフで平成22年は約1万4千件のご遺体の検案を行い、そのうち解剖を行った件数は約3000件で、最近件数がどんどん増えつつあります。毎日40件近いご遺体の検案と8件の解剖を行っていることになりますね。かなりの業務量だと思います。監察医務院からも、現在2人の医師を被災地へ交代で派遣しているとのことでした。被災地での検案業務量は、単純計算で監察医務院が1年間で行う検案数を3週間くらいでやってしまうことになるので、ちょっと想像を絶するすさまじさですね。福永龍繁院長も、阪神大震災の時にそのすさまじい業務を経験されました。

さて、監察医務院が死体検案をした死因では、平成21年総数が約1万3千弱のうち、約9千が病死、交通事故などの不慮の外因死が約千弱、自殺などのその他の死因が約3千弱となっています。30年前だと、これが約5千4百、約2千9百、約9百、約千6百となっており、総数で約2.4倍増、病死が約3.1倍増、不慮の外因死は変わらず、その他の死因が約1.7倍増となっています。その他の死因で増えているのは自殺ですね。30年前は約千3百だったのが、2千になっています。交通事故は30年前は400前後だったのが今では200を切るようになり、減っています。

一人暮らしの死亡、いわゆる孤独死は、平成21年は約5千4百で、総数の約42%を占めています。65歳以上の孤独死は約23%となっています。また、病死9千のうち心筋梗塞などの虚血性心疾患が4千と最も多く、続いて脳卒中などの脳血管疾患が約千となっています。老人の孤独死は、高齢化が進むにつれて、これからもどんどん増え続けると考えられます。

死亡数は季節に大きく影響を受け、冬場に多いんですね。平成22年のデータでは1月や12月は月に約千4百ですが、6月や9月は千くらいに減っています。しかし、これからが大切なデータなのですが、7月に千4百、8月に千3百と急増しているんですね。このような夏場のピークは毎年見られるわけではありませんが、平成22年と平成19年に見られています。ご説明するまでもなく、熱中症による死亡のためですね。

今年の夏も暑いと予想されていますが、もし、計画停電が実施されると、あるいは、実施されなくても、節電のために冷房をつけずに我慢するような人が増えると、昨年以上に熱中症でお亡くなりになる方が増える可能性があります。

数ヶ月後に迫っている夏場、なんとか知恵を絞って監察医のお世話になる人が増えないようにしたいものです。

 

 

 

 

 

 

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