ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

わが国のイノベーション力を強化するためには?(その5)

2012年01月10日 | 科学

 いよいよ、新年のわが国のイノベーションシリーズも5回目になってしまいました。年末の地方国立大学の疲弊シリーズ5回を合わせると、12月15日の日本分子生物学会での発表にもとづいたブログは10回にもなります。1シリーズの講義をやっている感じもしますね。

 さて、例によって本ブログの内容は豊田の私的な感想であり、所属する機関の見解ではありません。

 前回のブログでは、イノベーション力の一つの指標である「注目度(質)の高い論文数」については、わが国は、人口一人当たり、あるいはGDPあたりで計算すると、先進国中最低で、先進20か国の平均の約1/3であることをお話しました。

 そして、まず、わが国としての数値目標を設定することが大切であり、人口あたりの論文数を1.5倍にすること、つまり、世界19位の台湾に追いつくことを目指してはどうか、と申し上げました。

 また、一人当たりGDPと一人当たりの注目度(質)の高い論文数は概ね正の相関をすることをお示ししましたね。そして、わが国の高等教育機関への公財政支出はGDPあたりで計算すると、OECD諸国の中で最低の部類で、平均の半額程度であることをお話しました。

 このようなデータから、論文数を増やすためには、大枠としては研究費総額を増やすこと(最低限現状を維持すること)が不可欠であることをお話しましたね。そして、その事実を国民や為政者にご理解いただくこと。

 ただし、高等教育機関への公財政支出を国際比較する場合、なかなか難しい面をもっているんです。いくつかの理由がありますが、その一つとして教育費と研究費がごっちゃになっていることがあります。

 特に、日本の大学の場合は、研究費だけを教育費から分けて計算することが難しいのです。

 そんなことで大学の”研究費”の国際比較は、けっこう難しいのですが、文科省の科学技術政策研究所が出している「科学技術指標2011」の中から、政府が大学へ出している研究費の国際比較ができそうなデータを探してみました。

 

 この表に、わずかの国についてですが、大学の総研究開発費が購買力平価換算の兆円単位で書いてあり、そして、研究費総額のうち政府から受け入れた%が載っているので、それを掛け合わせたら、政府から大学へ支給された研究費がわかりますね。

 日本の欄には二つの値が書いてありますね。一つがOECDで使われている値で、フルタイム換算(FTE)がしてあります。

 研究費は研究者の人件費と物件費等に分かれますが、日本では、物件費は”科学研究費補助金”等でカバーされ、研究者の人件費は、国立大学の場合は主として”運営費交付金”でカバーされています。そして、この運営費交付金のうち、どれだけが研究のための人件費であり、どれだけが教育のための人件費かが、あいまいなのです。

 それを研究時間を考慮して研究のための人件費を計算したのがFTE換算データです。FTE換算をしたデータの方が、より正確な研究費と考えられますので、OECDの方の数値を使いました。

 こうやって、人口あたりの、政府から大学へ支出されている研究費の主要国間比較をしたのが、次のグラフです。

 日本は欧米の主要国に比較してかなり低い値を示していますね。日本の政府は大学に対して先進国ほどの研究費を出していない。そして、前のブログでお示ししたように、日本はそれに応じた論文しか産生していませんね。

 わが国の政府は、財政難から、さらに研究費(運営費交付金を含む)を削ろうとしていますが、上のようなデータから、それで海外との競争力を高めることは、不可能だと思います。やはり、国際競争力を維持しようと思えば、研究費の総額確保はどうしても必要であり、そのことを国民や為政者に、根気よく訴えつづける必要があると思います。 

 では、仮に研究費の総額が確保されたとして、次にはいったいどうすればいいのでしょうか?


 先にもお話しましたが、為政者の多くは、「選択と集中」や「傾斜配分」をすれば競争力が高まると考えており、たとえば、国立大学の運営費交付金のうち、基盤的な運営費交付金をさらに競争的資金に変えて、大学間の傾斜配分を強めるべきであるという政策が選択される可能性があります。これは、自民党政権時代の経済財政諮問会議の考え方でもありましたね。

 でも、今までの私のブログでお話しましたように、わが国の注目度(質)の高い論文数の減少は、”ある面”では効率の良い地方国立大学の人的インフラの損傷による研究機能の弱体化が主因と考えられるので、基盤的な運営費交付金を減らして、競争的資金を増やし、その傾斜配分を実行した場合は、いっそう地方国立大学のダメージが大きくなり、日本全体の競争力の低下を招く危険性が高いと考えられます。

 むしろ、最近のわが国の論文数減少の主因が地方国立大学における人的インフラの損傷であるならば、それを、回復させるような政策が理にかなっているのではないでしょうか?

 そんなことで、数値目標の設定、研究費総額の確保の次に、日本分子生物学会の発表では

 「優秀な研究者(補助者)の数の確保と研究時間の確保のための大学自らのマネジメント改革と構造改革、および政策的支援」

「地方大学の研究(イノベーション)潜在力の掘り起し(やり方によっては上位大学への選択と集中よりも効率的である可能性)」

という対策をスライドに挙げさせていただきました。

 具体的な対策についてはいろいろなアイデアがあると思いますので、皆さんからのご意見をいただきたいところですが、次回以降のブログに回したいと思います。でも、5回+5回で、合計10回ということで区切りがよいので、次回からも続きの話になりますが、タイトルは少し変えることにしますね。

 次回につづく。

 


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