肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『太陽』、観ました。

2007-04-05 20:45:12 | 映画(た行)






監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:イッセー尾形、ロバート・ドーソン、桃井かおり、佐野史郎

 『太陽』、観ました。
彼の名前は昭和天皇ヒロヒト。1945年8月。その時、彼は庭師のように質素な
身なりをしていた。人は、彼を神の子孫だと言ったが、天皇は「私の体は
君達と変わらない」と言った。戦況は緊迫していたが、彼は戦争を止めることが
できなかった。その苦悩は悪夢に姿を変え、午睡の天皇に襲い掛かる…。
 もがいても、叫んでも、抜け出せない。まるで、いつ覚めるともない“不思議な
夢”の中にいるみたい…。しかし、それは“幻想的な空間”でありながら、同時に
この上なく恐ろしい“現実の世界”だったと知らされる。そこでは、天皇は“神”だと
崇(あが)められ、だから愚かにも国民の誰一人として“自国の敗戦”など考えも
しなかった…。この映画の凄さは、そんな、「現実」と「非現実(幻想)」とが音もなく
静かに混じりあい、奇妙なバランスの上で《戦争》という“特殊な時代”を形成して
いる点だ。「自分は神ではなく、人間なのに」、そんな至極当たり前のことすら
口に出して言えない“天皇ヒロヒトの苦悩”‥‥、誰よりも平和を望んでいながら、
目の前で行われる“軍の暴走”を止められない。いつの間にか“自分(天皇)だけが
部外者”となり…、ただ、責任者としての重圧だけが自分の肩に圧し掛かってくる。
監獄のような陰気で長い廊下と、質素で光が射さない室内と…、映画は常に
“閉ざされ限られた密室”のみで展開され、耐え難い静寂が、狂おしいほどの
孤独となって、ヒロヒトの心を蝕(むしば)む。観ながらボクは、そんな彼の心中を
察するほどに息が苦しくなり、ついに涙がこぼれた。
 ところで、特に若い映画ファンの方はお気付きだろうか…、映画中盤から後半に
かけて特徴的に描かれる、ある映画スターと天皇ヒロヒトの意外な関係について。
ある時、ヒロヒトが自室にて独り、アルバムにある“家族の写真”を眺めている。
次に、机の下から取り出した別のアルバムには、ハンフリー・ボガードやマレーネ・
ディートリッヒ、チャップリンなど、往年の銀幕のスターが並ぶ。しかし、そんな、
つかの間の“夢の世界”から、ヒロヒトは一瞬にして“現実の世界”に引き戻される…、
最後に現れたのは“ヒトラーの写真”だったのだ。数日後、写真撮影のために
やってきた若いアメリカ兵に「チャーリー(チャップリン)に似てる」と言われ、
ヒロヒトは思わず嬉しくなってしまう…。果たして、彼は単にチャップリンと姿形や
雰囲気が似てることだけを喜んだのだろうか…??、いや、必ずしも、そうではない
はずだ。なぜならば、チャップリンは、誰よりも“平和”を愛し、“戦争”を憎んだ。
例え、剣は使えなくとも…、銃は撃てなくとも…、“メガホン”を武器にして、銀幕の
中で“ファシズム”と戦った。ヒロヒトは、そんなチャップリンの生き方に大きな
憧れを抱いていたのではないか。更にその上で、これはボクの考え過ぎだろうか…。
チャップリンの『独裁者』ラストシーンで、「残念ながら、私は“皇帝”ではない‥‥」
で始まる大演説と、天皇ヒロヒトの“人間宣言”はどこかで結び付いていたのでは
あるまいか…。そして、映画『太陽』のフィナーレは、黒い雲の隙間から、新しい
時代の到来を告げる“明るい太陽”が昇ってゆく。そう…、映画『独裁者』の終幕と
同じように。



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