肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『美しい夏キリシマ』、観ました。

2005-09-28 19:45:48 | 映画(あ行)
美しい夏 キリシマ

ハピネット・ピクチャーズ

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 『美しい夏キリシマ』、観ました。
1945年、夏、戦争下の混沌とした中、宮崎の美しい農村を舞台に、多感な
15歳の少年と彼を取り巻く「戦争」という大きな罪の前で、人々はおのおのの
罪を背負い懸命に 生きていく‥‥。
 近年ボクが日本映画を観た中で、これぞ“真のベストワン”だと確信する、、
『美しい夏キリシマ』だ。同時に、ボクがここ数年で観た反戦映画の中では
出色の出来栄え‥‥いや、あの『戦場のピアニスト』さえ凌ぐ近年反戦映画の
最高傑作だ。日本映画の“美しさ”を失わず、日本映画“らしさ”を保ちつつ、
絵のように美しいキリシマを背景に展開される、戦争によって傷つき“心失った”
人々の哀しいドラマ‥‥。一切の戦闘シーンを使わずとも、一切の回想シーンを
使わずとも、映画はこれほどまでに人の心動かし、“戦争の愚かさ”を
伝えることができるんだね。ドンパチやってるだけの映画に“戦争の痛み”は
感じない。この映画はただ映像を魅せるのではなく、そこから観客の心に
そっと語りかけているよう‥‥。愛する者を失った人の“涙の粒”が、
ボクの心に静かに哀しく染みてくる。震えるほどの感動、胸張り裂けんばかりの
悲しみ‥‥、決してオーバーな言い方ではなく、これは驚くべき“反戦映画の
到達点”だと思う。
 さてさて、最初は正直、観辛い映画だと思った。‥というのも劇中の台詞が
全て宮崎地方のキツイ方言で構成されているために、僅かでも油断すると
聞き取れない。しかし、物語が進むにつれてそれさえ苦にならなくなっていく、、
それは脚本の凄さ。「天皇制」「神風」「特攻隊」「神話」「絶対的な主従関係」‥‥
様々な戦前・戦中日本のキーワードを用いて、全体が“見えない力”によって
操作され、愚かにも勝利を信じて疑わぬ国民たち‥‥それを冷めた目で眺める
主人公少年が哀しく映る。しかも、この映画ではあくまでも直接的に描かずに、
蝶が宙を飛ぶシーンに象徴される“幻想的な映像美”によって、戦争を《熱病》に
冒されたような“ふわふわとしたフシギな時代”として描き出す。が、しかし、
時折見え隠れする“戦争の残酷さ”にはっと夢から覚め、その現実がボクの胸に
突き刺さる。そう、あの“遠い夏の日の悲劇”は本当だったのだ‥‥(涙)。


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