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気まぐれ読書・映画・音楽の記録。本文に関係のないコメントについてはご遠慮させていただきます。

星野富弘「山の向こうの美術館」

2009-11-08 | エッセイ

花によせて命のいとしさを描く星野富弘。少年時代の作文や絵、入院中の手紙など、詩画の原点ともいえる未発表の作品を収録。新・富弘美術館の開館記念出版

~花をみていると、その色、その形の美しさに、驚かされることばかりだった。花には1つとして余分なものがなく、足らないものもないような気がした。ちょうど良いところに花がつき、ほどよいところに葉があり、葉と花に似合った太さの茎があった。葉は花の色を助け、花は葉の色をそこなわずに咲いていて、一枝の花とはいえ、広大な自然の風景をみる思いだった。私は絵に関しての知識は無いけれど、この自然の花をそのまま写してゆけば、良い絵が描けると思った。

故郷への道~ひさしの長い家が親戚のように寄り添い、何億光年もの歳月をかけてもっとも安らかな形に削られた山が、その家々の屋根を安らかに見守っている。生まれたときから目の前にあった、あまりにも見慣れすぎたもの、それが自分をかたちつくっているものであったことに気づかず、必死で振り払おうとしていた。しかし故郷以外のものを見つけようと探して歩いた道は無意識のうちに故郷へ通じる道ばかりだった。今、私は、母のひざのように柔らかな故郷の山に向かって歩いている。形ある物は何も持っていない。けれども、多くの目に見えるものを支えている目に見えないもっとも大切なものを、苦しみの果てから教えられ、それが、心の中で息づいているような気がする。故郷を出て故郷が見え、失って初めてその価値に気づく。苦しみによって苦しみから救われ、悲しみの穴をほじくっていたら喜びが出てきた。生きているって、おもしろいと思う。

富弘さんの詩や絵は、素直になって見ることができ、生きている。実感を感じられるものが多く、好きです。何冊か、闘病の手記も読んだことがありますが。本書は、富弘さんの少年時代の作文や詩。そして、周りの人へのの直筆の手紙がそのまま掲載され、彼自身のみならず、その背景や、人との繋がりを感じることができる。素敵な本です。

心に温かい空気がほんのりと感じられる。故郷。それは、風景じゃなく。もしかして人との大切なつながりかも知れません。



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