「村上レシピ」

村上春樹の小説は、手軽でおいしい料理の宝庫。村上春樹ワールドから35品を厳選、レシピ化。

   本書は村上作品の食に関する描写、厳選した35点のレシピ、そして『ダンス・ダンス・ダンス』にも登場する紀ノ国屋青山店や天ぷらつる岡などについての食のコラムで構成されている。著者は料理研究家、写真家、イラストレーター、心理学者らからなる「台所でよむ村上春樹の会」の創設者。『ねじまき鳥クロニクル』を読んでスパゲティーを食べたくなった経験の持ち主だという。

   紹介されているレシピはごくごくシンプルで、レシピを見なくても作れそうな気がしないでもないが、食材と細部へのこだわりは並々ならぬものがある。
   食は文化。本書のレシピ通りに料理を再現したり、引き合いに出されているお店を訪ねて初めて、村上作品の真の良さが理解できるのかもしれない。読んで見て味わって楽しめる1冊。

 

昨年、第２弾プレミアムを読んだので、これはぜひ読まねばと手にとりました！

村上小説の淡々とした感情を込めずに、細部にわたって描写する表現に、何故魅力を感じていたのか！！

それは、食に関するディテール、男、女、登場人物と時間の流れ、空気があまりにも魅力的だからと。再発見します。

 

羊をめぐる冒険

～雪は降り続ける。退屈しのぎに広い別荘を掃除する。ワックスがけを終え、さてスパゲティーでも茹でようか。「たらことバターたっぷりと白ワインと醤油」を使って。

 

～食料はたっぷり残っている。鼠を待つだけの別荘。米を炊き、ピラフを作る。鮭缶、わかめ、マッシュルームで。

 

ダンス・ダンス・ダンス

～夕食はどうしようかと思案する。にんにくと赤唐辛子をとろ火で炒め、苦みが出ないうちに取り出し、その油でハムを炒める。そんな香ばしいスパゲティーがいい。モツェレラチーズとトマトのサラダを添えて。

 

～ユキに電話をすると、朝からシュークリームしか食べていないという。ユキにまっとうな食事をさせなくては。ホール・ホイートのパンで作ったロースト・ビーフのサンドウィッチ。味に勢いがある。そして新鮮なミルク。

 

～浜辺で日焼けしてリラックスする２人。日が暮れて晩ご飯の時間。「まともなハンバーガーを食べに行こう」と僕はユキを誘う。「肉がかりっとして、ジューシーでトマト・ケチャップがとことん無反省」な本物のハンバーガーを。

 

～朝から紀伊国屋で「調教された野菜」を買い込み、エド・マクベインの８７分署シリーズを読んでいる。そこにユキからの電話。「今何しているの？」僕はユキに、レタスとスモーク・サーモンと、剃刀の刃のように薄く切った玉葱を使ったサンドウィッチの作り方を詳しく教え、ドライブの約束をする。

 

～泳いだ後はスーパーに買いものに行き、僕は和風の晩ご飯を作る。玉葱と醤油を使ったさっぱりステーキ。野菜サラダ。豆腐と葱の味噌汁。「料理が上手いのね」とユキが珍しく褒めてくれる。夕凪のような気持ちの良い夕食。

 

～五反田君を待つ間、ホウレンソウとちりめんじゃこでつまみを作る。キリンの黒ビールを飲みながら、佐藤春夫の短編小説を読み返す。読書に疲れると、シューベルトを聴く。何も起こらなそうな春の夜。

 

～僕は懐かしい友達のために酒の肴を作る。長葱と梅肉を和える。わかめと海老を酢の物にする。千切りのジャガ芋とサラミを炒める。キュウリで即席の漬け物も作る。隣で見ていた五反田君が「素晴らしい」とため息をつく。「馴れればすぐに出来る」と僕。ドアーズやピンク・フロイドを聴く夜。肴を食べ、カティー・サークを飲む３０代の男が２人。

 

世界の終わりとハードボイルドワンダーランド

～私はどういうわけかひどく腹が減っていて、３分の２ぐらい食べてしまう。「サンドウィッチに対してもかなり評価の辛い方だと思うが、そのサンドウィッチは私の定めた基準線を軽くクリアしていた。」老人の孫娘が作ったサンドウィッチ。

 

～もし来てくれたときのために晩ご飯を作っておこう。梅干しをすりつぶしてサラダ・ドレッシングをす来る。鰯、油揚げ、山芋をフライにする。セロリと牛肉を煮物にする。できは悪くない、時刻は７時過ぎ。はたして彼女は来てくれるのだろうか。

 

～人生をひきはらうには悪くない一日になりそうだった。冷蔵庫からトマトを出してトマト・ソースを作り、トマト・ピューレ加え、ストラスブルグ・ソーセージを入れて煮込む。キャベツとピーマンでサラダを作る。コーヒーを入れ、フランス・パンを焼く。食事が出来たら彼女を起こす。

 

ねじまき島クロニクル

～こんなときに食欲があるわけもないが、「何かの目標に向けて、とりあえず体を動かす必要があった」ので、昼食用のスパゲティーを作る。まず、鍋に湯を沸かす。FM放送を聴きながら、にんにくと玉葱を炒め、トマトソースを作る。

 

～独身時代によく作った中華炒め。薄切りの牛肉と、玉葱とピーマンともやし。味付けは塩とこしょうと醤油。仕上げにビールをかけるのがコツだ。

 

～昼食の準備をしていると、また電話のベルが鳴る。トマトとチーズをはさんだサンドウィッチ。パンにはバターとマスタードを塗る。岡田は電話を無視して、サンドウィッチに包丁を入れる。１５回あたりで諦めて電話をとる。

 

風の歌を聴け

～ジェイはビールをごちそうしてくれ、揚げたてのフライド・ポテトも持たせてくれる。夜行バスに乗り込み、まだ暖かいフライド・ポテトを食べる。長い休みは終わった。

 

～鼠のいないジェイズ・バー。うんざりするような暑い夜。コーンビーフのサンドウィッチとビールを注文する僕。

 

～ジェイズ・バーで僕は暇つぶしに本を読んでいる。酢漬けの鯵と野菜サラダを交互に食べながら、相棒の鼠は滅多に本を読まない。

 

ノルウェイの森

～僕がオムレツを食べていると、緑が声をかけてきた。向かいの席に座るとサングラス越しに僕を見つめ、それから皿に視線を移した。「おいしそうね、それ」物語はまだ始まらない。

 

～緑は想像を遙かに超えて立派な料理を作りながら待っていた。味付けは関西風の薄味。だし巻き卵、なすの煮浸し、さわらの西京漬、しめじのご飯。ブラジャーを買うお金まで使って卵焼き器を買うほどに料理にこだわる緑。日曜の午後、お互い思い焦がれる相手が別にいるのに、なぜかふたり。

 

～夕方、緑が食事を作る。天ぷらと青豆ご飯。そしてビール。沢山食べて精液をいっぱい作れと緑は言う。

 

双子と沈んだ大陸

～それからどうなる？僕はサンドウィッチのわきについたピックルスをかじり、ウィスキーをひとくち飲んだ。無意味だ、と僕は思った。

 

我らの時代のフォークロア

～「僕はそれを何とか乗り越えたと思う」彼は少し考えてからそういった。そしてナイフとフォークを下に置いて、ナフキンで口を拭いた。