夕食を終え、妻と何時もの通り会話を楽しんでいた。
この頃、歳の差に応じて忘れものが酷くなったり、理解力が落ちたとか老いゆく不安が話題になった。そう言えばこんなことがあったねと昔話になった。
昔、母の介護をしての帰り、自由が丘駅で青年に道順を尋ねられた。 二子玉川方面の大井町線のホームにいた。 永い単身赴任を終え、退職して間もない頃であった。 10数年も電車での利用はない。 久方振りであった。
「おやまだい、はこちらでよろしいのですか。」
とっさに、頭の中の回路は「小山台」に繫がった。
「いいえ。高架を渡り大岡山で乗り換えてください。・・・」
と、細かく親切丁寧に教えた。
青年の高架を渡り反対側のホームに立つ姿が見えた。
私はホームに入って来た電車に乗り吊革に手をかけていた。 電車が駅に滑り込み駅のアナウンスが聴こえた。
「尾山台・・・」
感電したかのようにビグとなるのが分かった。
折角、自由が丘まで来れて振り出しに戻してしまったのかも知れない。 もう少し思考してから教えればよかったのに・・。理解、判断力のなさに情けなくなった。しかも、今の歳でなく15年も若い頃の話だ。
昔からボケとったのだか。 いまなら、まだ同情ができるのに・・・。
終わり