ひとり自室で疲れを癒し、暫し椅子にもたれ、うたた寝をしていた。 孫息子を見送りに妻と息子の三人で成田国際空港行きバス停に行ってきた。 今日は、来日した頃のうす曇りの天候に比べまさに真夏日である。
階下では妻が宅配で先送る合宿の荷造りをしている。 夏が来ると子どもたちと信州の黒姫高原で三泊四日の国際交流の合宿が始まる。 もう43年も続いている。 荷造りする騒がしさは聞きなれた我が家の年中行事である。 よく続いているとひとり言・・。
蝉の鳴き声が聴こえてきた気がする。 こんな時期に・・・疲れから来た耳鳴りかな・・・。
孫息子の17歳の冒険旅行の始まりが中旬の15日である。まだ、不順な天候が続いていた。
まず、天候の合間を抜って戦国の古城、黒城と言われる「松本城」見学に日帰りで長津田で乗り換え、そして八王子でも乗り換えて信州の松本に特急あさま号でひとり向かった。 行く先の全体図を掴み現在地は何処にいるかを知ること。分からなければ人に訪ねること。 真夏日なので、水と食の補充に気をつけて冒険の旅が始まった。
何て! 便利な時代になったのだろう! 驚く以外何物でもない! 観光案内はPCで検索。 アクセスなどの行動指示もメッセイジでコントロールができる。 爺とでなく母親の住む米国からである。 映像も使うこともできるとか・・。 中間報告が孫からでなく、母親の娘からである。 爺の存在感がない? 傍で妻が何やらやっている・・。 娘と同じことを・・。 時代に遅れてるのは爺の俺だけかだ。
夕方遅くに孫は撮った勲章「黒城の松本城」を手に凱旋してきた。
なかなか話さなかったが、一日に口にした食べ物は、飲食店には何となく入りづらく、店頭で売っていた饅頭だけで、夕食の「鳥そぼろ駅弁当」も期待した味でなく食べられず小さな饅頭一個だけだった。更に一時間に一本の観光バスに乗り遅れ、じ~と待つ身に・・。冒険の第一章がこの始末。 良い勉強になったと思う。 第二弾の鎌倉円覚寺での「座禅」「写経」は体調を崩し残念。
主となる本番は「ご来光 富士登山」である。 ここでも、大きなへまをするが目標は見事達成す。
バス出発の集合時間に少し遅れたことを気にし、ガイドに「ストック」を借りる人と言われ、自分一人のためにバスを止めてはと・・借りずに山を登る羽目になった。 だが、下山にはストックがなくては重力が脚に大きく掛かり、危険と感じ、金剛杖を買い無事に下山できたと言う。 よくよく聞きただすと、若さ故、健脚で30分もひとり先に着いてしまい、後ろを見て誰もいないのには驚いたという。 言葉の理解不足で山小屋を通過をしてしまう問題はあったものの、いままでと違い、声を張り上げて元気に玄関のドアを開けて帰宅をした。 どうにか日本語の判断力ができるようになったようだ。
最後の冒険は世界最大の東京交通網を潜り歌舞伎座を訪ね、あの長いセリフと舞を3時間30分も我慢ができるかであった。交通アクセスは都の中心は地震に備え、避けてJRで山手線と京浜東北線の利用を覚えさせた。 だが、帰路に一部地下鉄線を使ったところ、やはり遠方まで運ばれてしまった。 修正し、新橋から大井町そして溝口と乗り換えを繰り返し辿り着いた。 誘導が、初めて妻のiPhoneを使い熟せたできたのには驚くとともに、早速手に入れたくなった。 熱覚めぬ間に・・・と言う妻が傍らにいた。一方では、「まだ、呆け始めたこの頭脳では時期尚早な気がする。」(影の声:その通り!)
それより驚いたのは、歌舞伎が面白かったと言われた時には耳を疑った。でも、それには納得する出来事を想いだした。 もっと幼かった2歳~3歳の頃、NHK放送の大河ドラマ徳川家康の番組口上を語る無味乾燥な場面になると私の膝にお尻から後すざりをして私の膝に腰掛け聴き入ってる姿に驚いたことを想いだした。 どこで波長が合ってるのだろうか。 根が一本の気がする。
こうして、いくつかの冒険に挑戦して、何を感じ、何を知ったことだろう。幸いながら日本語の会話はできる。 読み書きも小6まではひとなみに教育をマスターしたものの、生活が伴っていない。 言葉の裏の意味、習慣は時間とともに身につくものである。 交通網ひとつとっても、利用やマナーなど日本独自のものである。よく判断し曲がりなりにも、目的を果たし達成できたことを褒めてやりたい。
帰国前日、秋葉原で好きなものを買い、好きなマンガ本を買ってきていた。 日本語の修得の原点はこのマンガ本であると思う。
「また、いらしゃい。今度は列車の旅だね。」笑って頷いた。そして、「お世話になりました」と大人の使う言葉で別れを言うとリムジンバスに乗った。
「孫は居てよし、帰ってよし」のセリフが掠めた。
翌朝のこと・・・・・・・。
妻も黒姫高原へ・・・いない。 静かな単身赴任の再来だ。 何をしようか。 時間はたっぷりあるぞ・・・。と、喜んだものの・・・。 何かが欠けている。 孫がいない。 空虚感って嫌なものだ。 でも、まだ疲れは引かない。 孫と共に行ける若い体力が欲しい。 また、椅子でうたた寝を始めた。
終わり