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「新解さんの謎」赤瀬川原平

2015年01月24日 | 本(エッセイ)
「新解さん」の人格とは

新解さんの謎 (文春文庫)
赤瀬川 原平
文藝春秋


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辞書の中から立ち現われた謎の男。
魚が好きで苦労人、女に厳しく、金はない―。
「新解さん」とは、はたして何者か?
三省堂「新明解国語辞典」の不思議な世界に踏み込んで、抱腹絶倒。
でもちょっと真面目な言葉のジャングル探検記。
紙をめぐる高邁深遠かつ不要不急の考察「紙がみの消息」を併録。


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2014年10月に逝去された赤瀬川原平さんを偲んで・・・


辞書の説明文の中の妙にユニークな説明や用例を見つける・・・、
そんな「辞書ブーム」はこの一冊から始まったそうなんですね。
私、それは知らなかったのですが、
この三省堂「新明解国語辞典」、確かになんだか怪しいと思います。
本書で一番初めに紹介されているのが「恋愛」という項目なのですが、

れんあい【恋愛】
特定の異性に特別の愛情をいだいて、
二人だけで一緒にいたい、できるなら合体したいという気持ちを持ちながら、
それが、常にはかなえられないで、
ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。


・・・できるなら合体?!
いや、言われてみればたしかにそうなのですが、
妙にこの解説の中に「人格」を感じるわけです。
それで著者はその人格に「新解さん」と命名。
いろいろな言葉を例に上げながら、新解さんの人格を分析していきます。


私の感覚ではちょっと男尊女卑で、古いタイプのようにお見受けしました・・・。
(改訂は繰り返されているけれど、
一番初めの説明や用例が結構色濃く残っているのかもしれません)


本巻、後半は「紙がみの消息」というエッセイ集になっていて、
私はこちらのほうがむしろ楽しかった。
平成4年~6年「諸君!」に連載されたもので、
「紙」にまつわるいろいろなことをテーマとしています。

「余白」の考察の中で、余白は「上品」である、と。
余白がなくてぎっしりなのは「実質」であると。
あー、言われてみれば確かに、その通り。
余白たっぷりの例えば「詩集」などは、お上品の極みだけれど、
文字と写真がびっしりのスーパーのチラシなどは「上品」からは遠く、
しかし、「実質の極み」だ。
居酒屋の壁にびっしり貼られたお品書きの紙。
決して上品ではないけど、なんだか安くて景気がよさそう。
高級レストランの壁にそんなものは貼っておらず、
あっても品の良い絵画とか・・・。
余白たっぷり。
そうです、確かに私達は無意識のうちにそう感じ取っていたのですが、
このように言葉ではっきり指摘されたのは初めて。
こういう鋭い洞察が赤瀬川さんならではということなのでしょう。


また、ようやくワープロが普及してきた20年ほど前の文章なので、
今となっては「当時を偲ぶ」という楽しみ方もできるのです。
これもまたよろしい。
渋く楽しめる一冊なのでした。

「新解さんの謎」赤瀬川原平 文春文庫
満足度★★★★☆