「卵のふわふわ」 宇江佐真理 講談社文庫
時代小説。
まったく私の守備範囲ではなかったのです。
宮部みゆきの江戸ものは好きでよく読みますが、それ以外は皆無といっていい。
それがなぜ突然読むことになったかといえば、この題名です・・・。
卵のふわふわ・・・?
料理の名前らしい。
目次を見ればこれもすべて料理の名前だし・・・。
時代小説でも、これは江戸前グルメの薀蓄を絡めた物語?。
食いしん坊の私はむしろそちらに引かれて手に取ったわけです。
さて、ところが、私はちょっと感動しています。
まだまだ、私の知らないジャンルでも、面白いものはたくさんあるものなんだなあ・・と。
毎日毎日無数の本が出ていて、実際に読んでいるのはそのほんの氷山の一角にしか過ぎず、未知の部分にどれだけの宝が隠れているかと思うと、めまいがしてしまいます。
今回は、たまたまの選択でしたが、私の中では「ピン・ポン♪」の正解でした。
想像のように、江戸の料理の話も出てきますが、この本は、夫婦の再生がテーマです。
八丁堀北町奉行所の同心、椙田(すぎた)忠右衛門の長男、正一郎の元に嫁いで6年になる、のぶ。
舅の忠右衛門も、姑のふでも、口は悪いけれど、やさしくさっぱりした性格で、嫁としてかわいがられ大変うまくいっている。
ところが肝心の夫、正太郎は妻のやることがすべて気に入らないらしく、いつも難しい顔をして、気に入らないと怒鳴りちらし、時には手も上げる。
実はのぶとの結婚の前に、心に決めた人から手ひどい裏切りをうけたのだという。のぶがかつては道ですれ違ったときなどに、ステキな人・・・とあこがれていた正一郎なのですが。
まったく心が通い合わず、また、子供も、2度流れてしまい、その後できないこともあり、悩むのぶ。
とうとう離婚を決意し、家を出るのですが・・・。
この本の魅力は、登場人物のいろいろな個性。
のぶは、大変かわいらしいのですが、きちんと自分の考えで行動できる気丈さも備えています。
正一郎は、女性に対してトラウマを抱いており、それゆえに、きちんと妻と向き合えないでいたようなのですが、少しずつ変わっていくところが、みどころ。
この二人の会話シーンが、そう多くはないのだけれど、とてもいい。(はじめのほうはちょっと、怖い)
ロマンス小説を読んでるみたいに、ちょっと、どきどきしました。
どうということないのに、何でなのか、自分でもよく分かりません。
正一郎は結構イケメンの設定なんですよね。
イケメンのお侍さんとのやり取りなんて・・・、私の中ではすごく新鮮!
おっとり、ボーっとしているようで、人の心を読むのに敏感、食道楽の忠右衛門もいいし、仲がいいのだか悪いのだかよく分からない、ふでも、いい。
ラストに悲しい余韻をのこしつつ、まずまず納得できる着地。
よい本です。
満足度 ★★★★★