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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「とりもの <謎>時代小説傑作選」細谷正充編

2025年03月31日 | 本(その他)

イケメンの侍さんも

 

 

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同心、岡っ引きから、寺子屋の師匠まで……

江戸の難事件はおまかせあれ

傑作揃いの時代ミステリアンソロジー

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時代ミステリのアンソロジーです。

収録作品は

梶よう子「雪花菜(きらず)」

麻宮好「庚申待」

浮穴みみ「寿限無」

近藤史恵「だんまり」

西條奈加「抜けずの刀」

 

「庚申待」(麻宮 好)

連続して少女がかどわかされて殺される事件が発生。
岡っ引きの吾一と、子分である勇吉が下手人を追うが、
勇吉には“死を覚悟した者が見える”という力が現れ……。

「庚申待(こうしんまち)」とは・・・庚申の日に神仏を祀って徹夜をする行事のこと。
古くから人間の体の中には3種類の悪い虫(三尸)が棲んでいて、
庚申の日には、寝ている間にその者の悪事を天帝に報告に行くと言われています。
ならば、ということで、「庚申の日の夜は眠らない」という風習が生まれました。

本作は、この「庚申待」の夜に起こった出来事が描かれています。
人々は近所の人同士、夜通し飲み明かしたり、おしゃべりをして笑い倒したり。
なかなかに賑やかな夜なのですが、それに加わらない男がいて・・・。
なんとも切ない事情が隠されているのです。
胸にしみます・・・。

 

「抜けずの刀」(西條奈加)

浪人の新九郎が、人殺しの罪でお縄になった。
濡れ衣だと信じる長屋の住人たちは、彼の無実を証明するため、
それぞれの特技を生かして奔走し……。

浪人の新九郎について、こんな風に描かれています。
「すっきりとした頬の線に涼やかな二重の目。
月代と髭をきれいにあたり、こざっぱりとした羽織袴を身につけている。」

そうなのです、イケメンでカッコ良くて、モテモテ。
どこへ行っても若い娘の視線をあびる。
私などつい目黒蓮くんを思い浮かべてしまったくらい。

ところがこのモテモテ具合が災いして、人殺しの罪の疑いをかけられてお縄になってしまった・・・。
もちろん、濡れ衣です。

ですが色々あった後に、真犯人が新九郎を切りつけようとする! 
けれど、なぜか切りつけようとしたその刀が、鞘から抜けないのです。
それこそが、この男が真犯人である証拠であるという。
なんと、運命の皮肉。
ナイスでした。

 

このPHP文芸文庫には、他にもいろいろなテーマのアンソロジーがあって、
なんだかハマってしまいそうです・・・。

「とりもの <謎>時代小説傑作選」細谷正充編 PHP文芸文庫

満足度★★★★☆


違国日記

2025年03月29日 | 映画(あ行)

コミュ障女子vs不安定少女

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ヤマシタトモコさん同名漫画の映画化です。

大嫌いで疎遠だった姉をなくした35歳独身の小説家・高代槙生(新垣結衣)。
葬儀の席で、姉の1人娘15歳・朝(早瀬憩)に
無神経な言葉を吐く親族たちの態度に我慢ならず、
勢いで朝を引き取ることにしてしまいます。

そもそも槙生は人とのコミュニケーションが苦手で、
感受性の強い10代少女との同居は、
勢いで決めてしまったものの、不安でしかありません。
しかし、親友の奈々(夏帆)や、元恋人・笠町(瀬戸康史)に支えられて、
なんとか2人の生活が始まります。

一方、この度中学を卒業し、高校生となる朝は、
人なつっこい性格ながら、母親の影響もあるのでしょうか、
自分のやりたいことも周囲を気にして踏み出せないところがあるようです。

性格がまったく異なるこの2人、案の定なかなか理解し合えないのですが、
それでも日々の生活の中でかけがえのない関係を築いていきます。

 

槙生は、昔姉から
「夢みたいなことばかり考えてないで、ちゃんと現実を見なさい」
と常に言われたことで傷ついて、姉を嫌っていたのでした。
それでも槙生は、自分らしさを貫いて、ファンタジー小説を描くようになったわけ。

しかしはじめから姪の朝に、姉が大嫌いだったと宣言するものだから、
当初の2人の関係はいかにもギクシャクしてしまいます。

朝にとっての母、つまり槙生の姉は、ごく普通に優しく愛情深い母親。
ただ少し、「普通」のあり方から外れることを避ける傾向があったくらい。

1人の人間でありながら、槙生から見た「姉」の像と、
朝から見た「母」の図はまったく異なっている。
けれど、2人がそのことを理解し受け入れていく過程こそが本作ということになりましょう。

終盤、槙生が自分の母親から姉妹2人の子どもの頃の話を聞いて、
二人の性格や関係性が今のようになってしまっていたわけが
おぼろげながら浮かび上がる、というところがミソです。
あくまでもおぼろげながらということで正解とは限りませんが。

15歳・朝は、両親を亡くしたばかりというだけではなくて、
その年齢からも、純粋で脆くて危なっかしい。
そういう雰囲気を早瀬憩さんがしっかり演じていました。
えーと、「ブラッシュアップライフ」や「虎に翼」にも出演? 
あらやだ、気づいていませんでした。
今後有望な方だと思います。

 

若干のコミュ障で、片付けも料理も苦手。
自立している35歳ながら、朝よりも子供のようなところがある槙生も、
新垣結衣さんが魅力的に演じています。

 

<WOWOW視聴にて>

「違国日記」

2024年/日本/139分

監督・脚本:瀬田なつき

原作:ヤマシタトモコ

出演:新垣結衣、早瀬憩、夏帆、小宮山莉渚、染谷将太、瀬戸康史

年代ギャップ度★★★★☆

満足度★★★★☆


フォールガイ

2025年03月28日 | 映画(は行)

スタントマンはつらいよ

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映画撮影のスタントマン、コルト(ライアン・ゴズリング)は、
最近はほとんど人気俳優トム・ライダー(アーロン・テイラー=ジョンソン)のスタントを務めています。
しかしある時、スタントに失敗して大けがを追い、一線から退いていました。

しばらくして、元恋人で、現在映画監督となっている
ジョディ(エミリー・ブラント)の撮影現場に呼ばれます。
ところが、そんな折に主演のトム・ライダーが失踪してしまうのです。
コルトはプロデューサーに依頼され、トムの行方を追うことに・・・。

コルトは大けがをしてジョディに気遣われるのがイヤで、
彼女には黙っていなくなり、その後一切連絡も絶っていたのです。

恋人にいきなり去られたジョディは、そのショックをふり払うように仕事に没頭して、
やっと監督を務めることになった。
コルトが姿をくらませた理由は、終盤でもっと詳しく語られるのですが、
まあ、男のプライドとでも言いましょうか・・・。
男女の考え方の違いがあるようで、興味深い。

本作、「スタント」を歌うだけあって、
かなりきわどい、まさしく命がけのスタントアクション満載。
そういうところが見所ではありますが、
この2人のロマンス要素も又、ベタにあまくならず、いい感じです。

トム・ライダー主演のこの「劇中劇」は、スペースオペラ的SFアクション。
そこでどんな仕掛けでどんなアクションが行われるのかなど
裏話的シーンも多くて楽しめます。
トム・ライダー自身はかっこつけで、目立ちたがりや、
演技はイマイチ、頭のできもあまり良くなさそう・・・という散々なヤツなのですが、
結局コイツの人間性のダメさが原因の「事件」となったわけで・・・。

こんな皮肉なストーリーもナイスでした。
単なるアクション作品を越えた魅力があります。

ジャン・クロードという名のワンちゃんもステキだったな。


<Amazon prime videoにて>

「フォールガイ」

2024年/アメリカ/127分

監督:デビッド・リーチ

出演:ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント、ウィンストン・デューク、
   アーロン・テイラー=ジョンソン、ハンナ・ワディンガム

アクション度★★★★★

ロマンス度★★★☆☆

満足度★★★★☆


少年と犬

2025年03月26日 | 映画(さ行)

一匹の犬の、奇跡の旅

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馳星周さんの原作は大好きだったので、映画化された本作も待ちかねていました。

震災から半年後の仙台。

和正(高橋文哉)は、震災で飼い主を亡くした犬の多聞と出会います。
聡明な多聞は、和正とその家族にとっても大切な存在となります。
でも、多聞はいつも南の方角を気にしている様子・・・。

ある時、お金のために危険な仕事に手を染めた和正。
そのどさくさのうちに、多聞は姿を消してしまいます。

その後。
場所は滋賀県に移ります。
悲しい秘密を持つ美羽(西野七瀬)が、多聞と出会います。
多聞と過ごすことで、平和な日常を取り戻していく美羽。
そして、彼女の前に、多聞を追ってきた和正が現れ、二人は親しくなっていきます。
この時、多聞はしきりに西の方向を気にしている様子。

さて、多聞が本当に目指す先とは・・・?

原作では、多聞はもっと多くの人々と関わりを持ちながら、
徐々に、真の目的地へと近づいていきます。
映画でそれをすべて描いていては散漫になってしまいそうですので、
多少エピソードを割愛したのはやむを得ないところですね。

いずれにしても、多聞がかかわる人々はどこか「死」の匂いを漂わせる人たち。
けれど、多聞といることで心がほぐれて、
己の運命に向き合うようになっていくのです。

 

多聞が最終的に向かうところにもやはり「死」が近くにあるのだけれど、
でも、多聞が目指していたのは「光」ですよね。
だから、つらく悲しくはあるけれど、暗くはない。
そう思わせてくれる作品でした。

小説ではそうなっていないのですが、
本作では、多聞の旅にずっと「和正」が付きそうのです。

「和正」には多聞の目的地は分からないから、ただ付いていくだけなのですが、
それでも、多聞がひとりぼっちではないところが、すごくいい演出だと思いました。

馳星周さんの原作ならこんな展開はそぐわない感じなのですが、
本作には本作なりの情感。
これも悪くはありません。

 

<シネマフロンティアにて>

「少年と犬」

2025年/日本/128分

監督:瀬々敬久

原作:馳星周

脚本:林民夫

出演:高橋文哉、西野七瀬、伊藤健太郎、伊原六花、江口のりこ、柄本明、斎藤工

犬の聡明度★★★★★

満足度★★★★.5

 


「ミステリと言う勿れ15」田村由美

2025年03月24日 | コミックス

ライカさ~ん、本当にもう会えないの???

 

 

* * * * * * * * * * * *

ついにライカと迎える桜の季節に整は…!?
入院中のライカの願いで、整は自身が通う大学のキャンパスを案内することに。
そうするうち、かつて構内で起こった不可解な転落死の謎を知って…!?
そして、ついに訪れる桜の季節に
ライカが整へ告げた言葉は…

* * * * * * * * * * * *

 

お待ちかね、「ミステリと言う勿れ」最新刊です。

本巻の表紙はライカさん。
表紙イラストが整くんでないのは、ガロくんにつづいて二人目。
ライカさんは、本作には欠くことができない重要な登場人物なのですが・・・。

 

まずは前巻の続きで、ライカに大学キャンパスを案内する整くん。
そして、かつて構内で起こった不可解な転落死の謎の解決編。
思いも寄らない顛末の末に起こった転落死。
その後のとある人物の行動によって、一層謎が深まってしまっていた・・・。
「ミステリと言う勿れ」とは言いながら、これは立派なミステリですよねえ・・・。

 

さて、ところでいよいよ春。
桜が咲き始めます。

ということはつまり、整くんとライカさんの別れの時。
この後はおそらく2度と会うことはないであろう二人。
・・・ここの詳しい説明は記さないでおきますので、
ぜひ本作のはじめから読んで確認ください・・・。

その最後の二人で過ごす夜に、ライカさんが言うのです。

「キスしてもいいだろうか」

ハッとして、戸惑い、逡巡する整くん。

なんとここから丸5ページ、足かけだと7ページ、
整くんが無言で悩んでしまう図がつづきます。
普通の漫画では考えられない構図。
これまで描いてきた整くんの描写の実績があればこそ、できることだと思います。

いや、ただ単に整くんがウブだから悩んで答えられないのではなくて、
「千夜子」という女性のことを思うからこそなんです。

でも初キッスのチャンスをみすみす逃した整くん。
切ないな~。
そしてその先は、切ないを通り越して、本当に悲しい・・・。

ライカさんは、消えてしまいました・・・。
その喪失感はまことに大きい。

 

それで、本作15巻なんですが、つまりこの15巻で、
整くんがライカさんと出会ってから3か月しかたっていないってことなんですよね。
うそ~。
まことに密な3か月ですね。
整くんはほとんど週に1度くらい何らかの事件に遭遇しているのでは・・・?

そして今になってまだ、語られていない大きな秘密があるらしいというのに又驚かされます。
ライカさんが最後に言い残したこと。

「天達先生に気をつけろ」

なんだかこの秘密は知りたくない気がするけれど・・・。
おそらくガロくんが追っている真実とも関係してくるのでしょう。

ますます、目が離せなくなりそうです。

 

「ミステリと言う勿れ15」田村由美 フラワーコミックスα

満足度★★★★★


バッドボーイズ RIDE OR DIE

2025年03月22日 | 映画(は行)

若いときよりも「命がけ」が身にしみる

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お騒がせ刑事コンビ「バッドボーイズ」のシリーズ第4弾。

何しろ第一作は1995年とか。
えっ?! 30年も前なのですか。
ほんのちょっと前のような気がするけれど・・・。
でも、私、3作目は見たのだろうか・・・?と不安になりましたが・・・。
はい、大丈夫。
ちゃんと見ています。
内容忘れてたら見てないのと一緒かも、とは思いますが・・・。

マイアミ市警のベテラン刑事コンビ、マイク・ローリー(ウィル・スミス)と、
マーカス・バーネット(マーティン・ローレンス)。

2人が敬愛する、今は亡き上司ハワード警部に、
麻薬カルテルと関係があったという汚職疑惑が持ち上がります。
無実の罪を着せられたハワード警部の汚名をすすぐべく、
独自に捜査に乗り出すマイクとマーカス。
しかし、2人とも容疑者として、警察からも敵組織からも追われる身となってしまいます。
上司が残した「内部に黒幕がいる」というメッセージを胸に、
命がけの戦いに身を投じていく2人・・・。

麻薬カルテルと癒着する警察上層部の闇・・・。
ありがちな話ではありますが、
飛行機墜落の危機とか、ほとんど戦争のような打ち合いのシーンとか、
なかなか迫力がありました。

マイクもマーカスも、もうそれなりの年ですが、
アクションシーンの描写技術の向上の故なのか、ぜんぜん見劣りしないと思います。

本作には、獄中にいるマイクの息子(前作参照)も登場。
やっぱり若者は体力・気力共に充実してるなあ。
若い登場人物はやはり必要なんですね。

それから、本作中で、マーティンが心臓発作で倒れて、臨死体験をします。
無事命を取り留めますが、その後彼の言動が
どうもスピリチュアル方向に寄っているのがなんともおかしい。
こういうところにやっぱり年齢が出てしまうけれど、それも又良し。

どうでもいい話をダラダラ続けるだけのシリーズものもありますが、
本作については、この一話の存在価値がちゃんとある、楽しめる一作でした。

 

<WOWOW視聴にて>

「バッドボーイズ RIDE OR DIE」

2024年/アメリカ/115分

監督:アディル・エル・アルビ、ビラル・ファラー

出演:ウィル・スミス、マーティン・ローレンス、バネッサ・バジェンス、ジョー・パントリアーノ、
   アレクサンダー・ルドウィグ、ジェイコブ・スキピオ

アクション度★★★★☆

正義心度★★★★☆

満足度★★★★☆


52ヘルツのクジラたち

2025年03月21日 | 映画(か行)

聞き届けてくれる人はきっといる

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母親に支配され、ただ義父の介護にのみ生きて、
ほとんど自分をなくしていた貴瑚(杉咲花)。

ある出来事の後、1人で海辺の町の一軒家に越してきます。
そこで彼女は母から「ムシ」と呼ばれ虐待されている、
声を発することができない少年と出会います。

貴瑚は少年との交流を通し、
かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれた
アン(志尊淳)との日々を思い起こしていきます・・・。

 

アン(岡田安吾)はかつて、貴瑚の苦境に気づき、
義父の介護の公的な手続きや施設の世話、
そして支配的母親からの解放を図ってくれたのです。
貴瑚は当然のごとくアンにひかれ、ついには告白をするのですが、
アンは「いつも君の幸福を願っている」と言うだけで、受け入れてくれません。
どうもアンには貴瑚にも言えない秘密があるようなのです。

失意の貴瑚は、やがて別の青年を愛するようになるのですが・・・。
その先の出来事はさらにつらい・・・。
確かにこんなことがあれば、1人で見知らぬ町に住みたくなってしまうかも、ですね。

題名の「52ヘルツのクジラ」というのは、
他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く
世界で一頭だけの孤独なクジラのこと。
このクジラのように、自分の声は誰にも届かないと思い、
孤独に陥る人が本作には登場するわけです。

以前の貴瑚、虐待される少年、そしてアンも・・・。

でも、貴瑚の声をしっかり聞こうとしてくれた人がいた。
今、少年の声を貴瑚が聞こうとしている。
では、アンの声は・・・?

もう少し、ほんのもう少し、アンが心を開いて声を発してくれさえすれば・・・。
無念さが滲みます。

 

本作のアンの役は、やはり志尊淳さん以外には考えられないくらい、はまり役でした。

<WOWOW視聴にて>

「52ヘルツのクジラたち」

2024年/日本/135分

監督:成島出

原作:町田そのこ

脚本:龍居由佳里

出演:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李、金子大地、西野七瀬

虐待度★★★★★

孤独度★★★★☆

満足度★★★★☆


若き見知らぬ者たち

2025年03月19日 | 映画(わ行)

まっとうに生きたいと思っているのに

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風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父の借金返済のため、
難病を患う母の介護をしながら、昼は工事現場で働き、
夜は両親の開いたカラオケバーで働く青年。

同居するその弟・壮平(福山翔大)は、父の背を追って始めた総合格闘技の選手となり、
彼も又、バイトと介護に励みながら、練習に明け暮れています。

毎日を生きることに必死で、介護や借金の問題はいつになったら終わるのかも分からない・・・。
八方塞がりのような状況の中で、
彩人には恋人である日向(岸井ゆきの)と小さな幸せをつかむことが、ほんの少しの希望となっています。

しかし、彩人の友人・大和(染谷将太)の結婚のお祝い会が開かれる夜、
思いも寄らぬ暴力で、ささやかな日常が脆くも崩れ去ります・・・。

 

彩人と壮平の母は、脳を患っていて、言動が幼児のようになってしまっているのです。
ふらふらと外に出てスーパーでは勝手にものを持ってきてしまったり、
よその畑を荒らしてしまったり・・・。
家では大量に炒り卵のようなものを作ったり、
水道が出しっぱなしで洪水のようになってしまったり。
本来ひとときも目を離すべきではないけれど、つききりでは生活が成り立ちません。

それでもこの兄弟は半ばあきらめてはいるのですが、辛抱強く母に寄り添います。
彩人の彼女・日向は看護師として病院に勤務していますが、
この兄弟と母のことを気にかけて優しく寄り添う。

そう、みな人並み以上に気持ちはまっとうで、少しでも今の生活を良くしたいとは思っている。
けれど、時間の許す限り働いて、母の世話をして、頑張っても、生活の苦しさはかわらない・・・。

なんという息苦しさ・・・。
彼らはこんなことは人に訴えてもどうにもならないと思っているし、
また、知られたくないとも思っているようです。

そして、彩人の運命はあまりにも理不尽・・・。

 

作中、登場人物が拳銃で頭を撃ち抜かれて倒れ伏すというシーンが何度か出てきます。
それは、実際の出来事としてではなくて、「イメージ」。

生きているという実感も喜びもなく、ただしかたなく生きている
という状態は「生」ではないのだとでも言うように・・・。

でも、本当にそうなのか。
彩人は、本当はどうするべきだったのか。

そう問われても、私には答えは見つからないのですが・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「若き見知らぬ者たち」

2024年/日本・フランス・韓国・香港/119分

監督・脚本:内山拓也

出演:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、霧島れいか、滝藤賢一、豊原功補

理不尽度★★★★★

生活困窮度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「劇場版トリリオンゲーム」再び

2025年03月18日 | 映画(た行)

余談的に

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私、この度、2回目の「劇場版トリリオンゲーム」を見てきました。

通常私は、同じものを劇場で2回以上見るということはあまりないのですが、
今回は、「副音声」付き上映をするというので・・・。
オーディオコメンタリーというヤツです。

あらかじめスマホに「HELLO! MOVIE」のアプリを入れておくと、
上映と同じタイミングで、目黒蓮くんと佐野勇斗くんの
撮影時の裏話などの副音声をイヤホンで聞くことができます。
私、映画館でこれは初体験。

 

この撮影時に服にアイスクリームをこぼしたとか、
この時はすごく寒くて背中にカイロをいくつも貼っていたとか・・・、
楽しいエピソードが沢山。

そして共演の俳優さんのすごいところや、スタッフさんへのねぎらいなど、
貴重な話も満載。
何より耳元で聞こえる目黒くんの声・・・至福の時ですな。
先日初めて見たときよりもさらに短く感じた2時間でした。

 

初めて見る方は副音声に気をとられると、ストーリーを把握し損ねることになりそうですので、
やはり2回目以降の視聴にした方が良いと思います。

 

こうした手で興行成績を上げようとするのはいかにもがめついやり口とも思うけれど・・・
目黒くんならきっとこう言うでしょうね。

「映画は自分だけでなく多くの人がかかわってできるもなので、
そうした人たちの努力に報いたいから、1人でも多くの人に見てもらいたい」
・・・と。

まあ、私としては2度おいしいのは歓迎です。

 

私の本音としては目黒くんにはもっと心にしみるストーリーの作品に出てもらいたい。
今後期待しています。


「残月記」小田雅久仁

2025年03月17日 | 本(SF・ファンタジー)

ユニークで壮大な世界観を堪能

 

 

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「月昂」と呼ばれる感染症が広がり、人々を不安に陥れている近未来の日本。
一党独裁政権が支配する社会で、感染者の青年・冬芽は
独裁者の歪んだ願望により、命を賭した闘いを強いられる。
生き延びるため、愛を教えてくれた女のため、冬芽は挑み続ける――表題作。

「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力と卓越した筆力が構築した、
かつて見たことのない物語世界。
本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞W受賞という
史上初の快挙を成し遂げた真の傑作。 

* * * * * * * * * * * *

 

SFのジャンルは久しぶりかも知れません。
本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞W受賞
というところに興味を引かれて手に取りました。

 

本巻には3篇が収められています。
すべて「月」をモチーフにしています。

 

一作目「そして月がふりかえる」は、私、実のところあまり好きな感じではなくて、
若干この本を買ったことを後悔しかけたのですが・・・。

 

二作目「月景石」。
お~、なるほど(何が?)。
これは悪くないかも・・・という感じ。

 

そして、本巻の大半のボリュームを持つ三作目「残月記」を読むに至って、
このあまりにも独創的で壮大な世界観に打ちのめされました。

 

舞台は近未来の日本。
そこでは下條拓という男が、圧倒的独裁制のトップに君臨しています。
そして又そこでは「月昴」と呼ばれる謎の感染症が広がっている。
その感染者である青年・冬芽は、感染者の隔離施設に収容されます。
そして、独裁者下條のための極秘格闘競技場の闘士にならないかと声をかけられる・・・。

 

「月昴」というのは、感染すれば、狼男とまでは行かないけれど、
満月には強大な力を発するようになり、
逆に新月の時期はすっかり体が弱って、
感染者の4%がこの時期に命を失ってしまうという不可思議な病。
感染症であるので、理不尽ながらも人々からは忌み嫌われ、蔑まれて、
隔離施設でぞんざいに扱われながら、
いつしか新月の時期に儚く命を落とすことになってしまうのです。

 

命がけで戦うための奴隷・・・。
ほとんどグラディエーターのような話になっていきますが、
もちろんストーリーはそれだけでは終わらない。

冬芽がこの世でふと意識を失ったようなときに、彼は別世界で目覚めるのです。
どうやらそこは月の世界らしい。
果たしてこの世界は、夢なのか、次元を越えたあちらにあるどこかなのか。
砂漠を泳ぐ月の鯨のイメージがなんとも幻想的で美しい。

そして最後に冬芽がたどり着く場所は・・・。
なんと「愛」ですよ、愛。
は~。
ただただ感嘆。

どうやったらこんな物語を思いつくのやら。
堪能しました。

 

「残月記」小田雅久仁 双葉文庫

満足度★★★★★


ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ

2025年03月15日 | 映画(は行)

居残り組の惨めなクリスマス・・・?

* * * * * * * * * * * *

1970年代、マサチューセッツ州、ボストン郊外にある全寮制の男子校。

そこの歴史教師であるポール・ハナム(ポール・ジアマッティ)は、
生真面目で頑固な皮肉屋、生徒たちや同僚からも嫌われています。
とあるクリスマス休暇に、家に帰らない生徒たちの監督役を務めることに。

たった1人残ったのは、母親が再婚したため、帰宅を母に拒まれてしまったアンガス。
彼は退学を繰り返してこの学校に来ていて、
友人もなく、いつも周囲といざこざを起こす問題児。
特にハナム教師のことは大嫌いで、ハナムもアンガスが苦手です。

がらんとした学校にもうひとり残っているのは、寄宿舎の料理長・メアリー。
彼女は息子をベトナム戦争で亡くしたばかりです。

立場も異なり、共通点もない3人が、2週間のクリスマス休暇を過ごすことになり・・・。

実は、居残りの生徒はもっと多くいたのですが、
1人の富豪の父親がなんとヘリコプターで息子を迎えに来た。
ついでに他の居残りの子たちも招待してくれたのですが、
アンガスだけ親と連絡がつかなくて、残らざるを得なかったのです。
余計惨めさが増してしまったアンガス。
さすがに気の毒です。

けれども、「同じ釜の飯を食う」なんて言葉があるように、
ハナムとアンガスは反発し合いながらもともに同じ食事をとって、
わずかずつながら互いのことを話すようになり、いつしか気心が知れていくわけです。
本来家族団らんで過ごすべきクリスマス。
でも徐々にこの3人も家族に近づいていきますね。

ごく新しい作品ですが、舞台はベトナム戦争さなかの70年代。
その色調とか雰囲気がまさにその時代のもので、
私、見始めたときにこれは旧作?と思ったくらいです。

息子を戦争で失ったメアリーは、気丈にしていましたが、
あるところで堰を切ったように感情が爆発して泣き出します。
どこかで、そういう感情浄化が必要だったのでしょう。
息子は成績優秀で本当は大学に進みたかったけれど、
お金がなくて、やむなく兵隊になった・・・というのも、なんとも切ない話。

ただ真面目なだけと思えるハナム教師の意外な過去にも驚かされ、ニヤリとさせられます。
そして、最後の彼の決断も。

なかなかステキな作品でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ」

2023年/アメリカ/133分

監督:アレクサンダー・ペイン

出演:ポール・ジアマッティ、ダバイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ、テイト・ドノバン

ミスマッチの3人度★★★★★

満足度★★★★.5


夏目アラタの結婚

2025年03月14日 | 映画(な行)

死刑囚と結婚?!

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日本中を震撼させた連続バラバラ殺人事件の犯人、品川真珠(黒島結菜)。
逮捕時ピエロのメイクをしていたことから「品川ピエロ」の異名で知られていて、
1審で死刑判決を受け、現在控訴中。

児童相談所職員・夏目アラタ(柳楽優弥)は、その事件の被害者の子供に頼まれ、
まだ発見されていない被害者の首の在処を探るため、真珠に接触を試みます。

アラタの前に現れた真珠は、残虐な事件を起こした凶悪犯とは思えない風貌となっていました。
アラタは真珠から情報を引き出すため、彼女に結婚を申し込みます。

すぐに承諾した真珠ですが、一回20分だけ許される面会で、
会う度に変わる真珠の言動に翻弄されるアラタ。
やがて真珠は自分は誰も殺していないと言うようになり、
アラタは真珠の弁護士・宮前(中川大志)とともに、
事件の周辺や真珠のことを改めて調べ始めます。

何を考えているのか分からない、粗暴な真珠の様子、かなり恐いです。
逮捕された当時は太っていたけれど、今はすっかりスリムになった真珠。
一見かわいらしいのだけれど、その黄ばんで傷んだ歯がなんとも不気味です。
いくら何でも、結婚しようなどとは大胆な!!とは思いますね。
書類上結婚しても一緒に生活することは不可能なのではありますが。

しかし次第に解き明かされる真珠の生育歴、そして又アラタ自身の過去・・・。

子どもの頃の悲惨な経験は、決してその時だけにとどまらず、
そのまま大人になった自分につながっていくということなのでしょう。

柳楽優弥さんと黒島結菜さんで、しっかりと成立した映画作品だと思います。

<Amazon prime videoにて>

「夏目アラタの結婚」

2024年/日本/120分

監督:堤幸彦

原作:乃木坂太郎

脚本:徳永友一

出演:柳楽優弥、黒島結菜、中川大志、丸山礼、立川志らく、佐藤二朗、市川正親

不気味度★★★★☆

悲しい過去度★★★★☆

満足度★★★.5


ANORAアノーラ

2025年03月12日 | 映画(あ行)

夢から覚めるとき

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先日授賞式があった第97回アカデミー賞、作品賞受賞作。

ストリップダンサーのロシア系アメリカ人のアニーこと、アノーラ(マイキー・マディソン)が、
店に来たロシア人富豪の御曹司、イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と知り合います。

2人は次第に親しくなって、彼がロシアに帰るまでの七日間、
アノーラは15000ドルの報酬で契約彼女となることに。
パーティーや、ショッピング、贅沢三昧で遊び尽くした2人。
その勢いで、2人はラスベガスの教会で衝動的に結婚してしまいます。

ロシアにいるイヴァンの両親は、息子が“娼婦”と結婚したとのウワサを聞いて、猛反発。
すぐに結婚を取り消しさせようと、2人の元へ屈強な男たちを送り込んできます。

 

大富豪のバカ息子と、その贅沢な暮らしにつられてしまった女の子の恋愛ごっこ・・・。
はじめのうちのこんなシーンは、実のところちっとも面白くないのです。
面白いのは、この2人の元に3人の男たちが乗り込んできたところから。

イヴァンの両親の命を受けてやって来たアルメニア人司祭と、その手下。
何も乱暴しようとするわけではありません。
とにかく2人を説き伏せて結婚をなかったことにしようと説得に来た。
しかし、あろうことかイヴァンが自分だけさっさと逃亡してしまうのです。

わけが分からないアノーラはとにかくイヴァンに付いていこうとするのですが、
2人に逃げられてはどうにもならなくなってしまうので、
男たちに取り押さえられてしまいます。
抵抗して大暴れ、騒ぎまくるアノーラに大の男3人が四苦八苦。
高価な置物などが飾られた部屋はめちゃくちゃ・・・。
ようやく落ち着いたところで男3人とアノーラは、イヴァンを見つけ出して話し合うべく、
車で彼の立ち寄りそうなところを探し回ることに。
そこからは、4人のロードムービーのようになっていきます。

そんな中、次第に冷静さを取り戻していくアノーラ。
さて・・・。

 

乗り込んできた3人の男の中の1人、イゴールは、1人冷静で、
静かに成り行きを見守っているように見受けられます。
ちょっと気になる存在でもある。

そして最後に、ロシアからラスボス到着。
この成り行きは、予想が付いたことではありますが、まったく興味深い。

結局、愛する2人が障害を乗り越えて結ばれる、
などという話では全くないところが気に入りました。
とにかく、楽しめます!!

本作の題名は、ズバリ主人公の名前そのものなのですが、
作中ではほとんど愛称、アニーが使われています。
しかし、終盤でその名前の意味を言うシーンがありまして、そこが又印象深い。
このドタバタ劇が、何やら美しいものとしての印象が残るのは、
この名前故でありましょう。

<シネマフロンティアにて>

「ANORAアノーラ」

2024年/アメリカ/139分

監督・脚本:ショーン・ベイカー

出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、
   カレン・カラブリアン、バチェ・トブマシアン

ドタバタ度★★★★☆

満足度★★★★★


「本なら売るほど 1」児島青

2025年03月10日 | コミックス

本と人がもう一度出会い直す場所

 

 

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ここは、本と人とがもう一度出会い直す場所。

ひっつめ髪の気だるげな青年が営む古本屋「十月堂」。
店主の人柄と素敵な品ぞろえに惹かれて、今日もいろんなお客が訪れる。

本好きの常連さん、背伸びしたい年頃の女子高生、
不要な本を捨てに来る男、夫の蔵書を売りに来た未亡人。

ふと手にした一冊の本が、思わぬ縁をつないでいく――。
本を愛し、本に人生を変えられたすべての人へ贈る、珠玉のヒューマンドラマ!

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本好きの者のためのコミック。
私も好きだわ~。

街の小さな古本屋「十月堂」は、ひっつめ髪の気だるげな青年が店主。
元々あった古書店を店主が閉めるというのを聞いて、
そのまま買い取って店を続けることにしたのです。
そのエピソードについては、巻末の一話として収められているので、それもお楽しみ。

 

冒頭の一話では、十月堂がとある老人の遺品整理として、
老人の蔵書を買い取りに行きます。

そこには驚くほどの多数の本が本棚に収らないものまであふれかえっていて、
しかも内容が充実していて、保存状態もいい。
文芸誌ばかりではなくサブカルまでそろっていて、
十月堂はこの老人の見識の広さに圧倒されます。
もしや研究者だったとか?と思いきや、普通の郵便局員だったとか。
生涯独身で、ひたすら本と共に過ごしたのであろう老人。
十月堂は、生きているうちにこの人と会ってみたかった・・・と思うのです。
でも、本を選ぶ刻限も迫っているし、
店は狭く予算も限られているので多量の本を買い取ることもできない。
そんな中でも精一杯吟味して買い取る本を選ぼうとする。
亡き老人へのリスペクト。

しみじみ来ます。

とにかくこのエピソードにぎゅっと心をつかまれまして、
ゆっくり大事に読みたくなってしまいます。

続巻が楽しみです。

 

「本なら売るほど 1」児島青 KADOKAWAハルタコミックス

満足度★★★★★


メイ・ディセンバー ゆれる真実

2025年03月08日 | 映画(ま行)

純愛か。犯罪か。

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アメリカで実際にあったスキャンダルを題材にしています。

20年前、当時36歳の夫も子どももあるグレイシー(ジュリアン・ムーア)は、
13歳の少年ジョーと運命的な恋に落ちます。
しかし2人の関係は大きなスキャンダルとなり、
グレイシーは未成年と関係を持ったことで、罪に問われて服役。
そしてその獄中でジョーとの間にできた子供を出産。
出所後、2人は晴れて結婚します。

それから20年以上が過ぎて、いまだに嫌がらせを受けることもあるけれど、
2人とその子どもたちは何事もなかったかのように幸せに過ごしていました。

そんな2人を題材にした映画が制作されることになり、
グレイシー役を演じるハリウッド女優、エリザベス(ナタリー・ポートマン)が、
役作りのリサーチのため、グレイシーの元へやって来ます。

エリザベスは執拗なほどに夫婦を観察し、質問をします。
夫婦はこれまで見ないようにしていた自らの過去と改めて向き合うことになります。

 

題名の「メイ・ディセンバー」は、年齢差のあるカップルを指す慣用句とのこと。
女性が20歳以上も年上というのは、まあ、なくもないでしょう。
けれど、男性の方が13歳というのは、やはり異常のような気がしてしまう・・・。


現在、当時のグレイシーとほぼ同じ年齢となっているジョー。
たぶんこれまで世間からは色々と批判やら嫌がらせを受けつつも、
純粋にこれは「愛」なのだと信じ続けていたことでしょう。

エリザベスは冷静にこの夫婦の真実を見つけ出そうとします。
そんな中でかすかに感じ取るのは、この家は、グレイシーがすべてを支配しているということ。
そうは見えないように、うまく繕ってはいるのだけれど、
家族はみな彼女の顔色をうかがいながら過ごしているようでもある。

13歳の少年が20歳も年上の女性にのぼせ上がった・・・という状況は本当かも知れないけれど、
36歳の経験豊かな女が少年の心を操るなどごく簡単だったのかも・・・。

本作はあちらの卒業の季節、初夏の明るくのどかな季節が舞台となっていますが、
それとは裏腹に、流れる音楽は緊張感があって不穏な雰囲気。

エリザベスの来訪によって、ただ13歳の時のまま純粋だったジョーの心に、
ふと現在のどこかいびつの家族のあり様の影が宿ったようでもありました。

それで結局エリザベスがどのようにグレイシーを演じたのかも、見てみたかったですね。
いやたぶん、本作でグレイシーを演じたジュリアン・ムーアがその答えなのか・・・?

<WOWOW視聴にて>

「メイ・ディセンバー ゆれる真実」

監督:ドット・ヘインズ

脚本:サミー・バーチ

出演:ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーア、チャールズ・メルトン

年の差婚度★★★★☆

いびつ度★★★★★

満足度★★★.5