映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「満願」米澤穂信

2015年01月20日 | 本(ミステリ)
「動機」の意外性

満願
米澤 穂信
新潮社


* * * * * * * * * *

人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは―。
驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、
交番勤務の警官や在外ビジネスマン、
美しき中学生姉妹、
フリーライターなどが遭遇する6つの奇妙な事件。
入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、
ミステリ短篇集の新たな傑作誕生。


* * * * * * * * * *


例年「このミス」の1位だけは読むことにしている私。
しかし本作は「このミス」のみならず
「週刊文春ミステリーベスト10」、
「ミステリが読みたい!」
(すべて国内部門)で、3冠という偉業を成し遂げた作品
ということで、期待が高まります。
もともと好きな作家でもありますし。
でもこれ、短篇集なのです。
う~ん、せっかくなので長編を読みたかったのですが。


本作は、ミステリと言っても
犯人当てとか密室モノとか、アリバイものではありません。
本格モノ好きな私にとってはそこがちょっと物足りないのですが、
いってみれば「動機」の意外性を狙ったものといえるかもしれません。


冒頭「夜警」。
ある事件で、新米警官が殉職。
その指導にあたったベテラン警官の語りでストーリーが進行しますが、
その新米くんは、どう考えても「警官」には向かないタイプだった。
その彼がなぜ、名誉の死とでも言っていいほどの死に方をしてしまったのか・・・。
彼の行動の動機こそが、本作のミステリであります。


「関守」は、
フリーライターが都市伝説的なネタを探しに、ある田舎のカフェを訪ねる話ですが、
やや怪談めいて、怖~いストーリーです。
オチも怖いです。
いつも同じ場所で起こる車の転落事故・・・。
それは怪談とか因縁めいたものではなくて実は・・・。


表題作「満願」は、
ある女性が借金の相手を殺してしまい、その罪で服役していたのですが、
彼女の真の目的は・・・。
さすが表題作、情感たっぷりで素敵な作品なのですが、
女性の真の狙いは他所にあったのでは?というのが、
内容は分からないまでも、なんとなく透けて見えてしまったので、
意外性という点ではやや物足りない気がしました。


他に企業戦士ともいうべき在外ビジネスマンのストーリー、
美しき中学生姉妹のストーリー等、
バラエティに富んでいて確かに面白く読ませてもらいましたが、
これが2014年各賞総なめ・・・というのは、
他によほどマシな作品がなかったのだなあ・・・とも思えてしまったのでした。

「満願」米澤穂信 新潮社
満足度★★★★☆