映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「琥珀の夏」辻村深月

2024年09月30日 | 本(ミステリ)

カルト教団の中にいた子どもたちの未来

 

 

* * * * * * * * * * * *

かつて、カルトだと批判を浴びた<ミライの学校>の敷地跡から、
少女の白骨遺体が見つかった。
ニュースを知った弁護士の法子は、胸騒ぎを覚える。
埋められていたのは、ミカちゃんではないかーー。

小学生時代に参加した<ミライの学校>の夏合宿で出会ったふたり。
法子が最後に参加した夏、ミカは合宿に姿を見せなかった。

30年前の記憶の扉が開くとき、幼い日の友情と罪があふれ出す。

* * * * * * * * * * * *


弁護士の法子は、かつて、カルトだと批判を浴びた<ミライの学校>の敷地跡から、
少女の白骨遺体が見つかったというニュースを知り、30年前のことを思い出します。

 

法子は小学生時代に、その<ミライの学校>の合宿のようなものに、
3年間一週間ずつ参加したことがあったのです。
当時は、それが特別な宗教団体だという認識はなく、
何か林間学校のようなものと思い、級友に誘われるままに参加したのでした。

そしてそこでは特別な宗教的な教えはなかったのですが、
子供の自主性を育てるというような、ある種の理念に基づいて教師たちは行動していて、
法子はいつもの学校とは違うやり方に、戸惑いもしたけれど、好感も抱いたのでした。

法子は彼女の学校の中では、あまり周囲の子となじめず、
けれど一人きりにはなりたくなかったので、回りの様子をうかがい、調子を合わせて、
でもそのことに苦しさを感じていました。
このミライの学校でなら違うのではないかと期待していたのですが、
結局はどこも同じ・・・。
理想を掲げて作られた場所であれ、いつもの日常の場所であれ、
子どもたちが作り出す世界は、そう変わらない。

けれどそんな中でも法子には信頼できる人物がいて、
それは、法子たちのように夏休みの短期間ここにやってくる子どもたちではなく、
親元を離れて、ずっとここで暮らしている中学生のシゲルと、同い年のミカ。

でも、法子が中学に入ってからはここには来なくなり、
少しの間手紙のやりとりはしていましたが、
その後音信も途絶え、すっかり忘れていたのです。

そんなところへ、ミライの学校敷地後から見つかったという少女の白骨遺体。
まさか、それはミカなのでは・・・?
法子に胸騒ぎが沸き起こります・・・。

 

ある種の宗教団体にハマる大人たちの物語はよくあるのですが、
その子どもたちに焦点を当てたものは少ないかも知れません。

自分で選んだ訳ではないのに、その世界で生きざるを得なかった子どもたちには、
どのような未来が待っているのか。
その教義によって、子どもたちと共に暮らすのではなく教団に預けっぱなしにする親の気持ち、
引き離された子どもたちの気持ち。
そうしたものをくみ取って物語は進んでいきます。

やがて、法子はこの遺体の人物を殺したと主張する女性の弁護を引き受けることになるのです。

 

物語は、ほとんどが法子の視点で語られていて、
終盤、依頼された弁護を引き受けるべきかどうか逡巡するのですが、
最後にあるきっかけで、引き受けることを決意。

そしてそのすぐ後に最終章としてようやく、ミカの視点での描写になります。
ここで登場する法子は、少し前まで迷いに迷っていた彼女とは別人(!)のようで、
毅然として頼りになる。
そうした切り替えが読んでいてワクワクしました。

読み応えたっぷりの物語です。

 

「琥珀の夏」辻村深月 文春文庫

満足度★★★★☆


僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。

2024年09月28日 | 映画(は行)

歴史や文化を大切にしながら

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富山県射水市。
トオル、アゲル、ヨシキ3人の高校生が、
家族や進路などそれぞれの悩みを抱えながらも、仲良く楽しく暮らしています。

ラーメンが大好きで、風呂屋の熱い湯も捨てがたい。
同級の花凜との会話も心弾みます。
そして今は、コロナ禍で中止していて久々に開催される、
地域伝統の放生津曳山祭を楽しみにしています。

ところが、祭りの会長を務めるトオルの祖父が開催前日に急死。
祭り中止の危機をなんとか乗り越えますが・・・。

トオルは、自分の家や周囲の人々のリゾート開発会社からの借金のことを知ります。
リゾート会社はこのあたりの再開発を計画しているのです。
なんとしても借金を返さなければ、この地域の景観も文化も人々のつながりも壊されてしまう・・・。
トオルたちは蔵で発見した「射水の埋蔵金」という巻物を基に、
埋蔵金を探し始めます。

 

歴史はあるけれど、人口減少が進みさびれていく地方都市。
そんな町の高校生男子の奮闘の物語。
彼らはそろそろ進路も決めなければならないのです。
東京に出るのか。
地元に残るのか。
それとも・・・。

それはともかくも、今は仲間とわちゃわちゃ騒いで過ごしたい。
そんな彼ら3人。

せっかく出演している泉谷しげるさんによるトオルの祖父が、
突如急死というのには驚きました。
こんな場合、祭りは中止という決まりなのですが、
誰よりも祭りの開催を楽しみにしていた祖父の気持ちを大事にしたいと、
祖父はまだ生きていることにしてほしいと医師に頼み込んだりするシーンは
ちょっと切なくも可笑しい。

3人それぞれの家庭の事情とか、今どこにでもありそうな地方小都市の事情が描かれていて、
そしてそれらの現代的指針を見せていく所に好感を持ちました。

たとえ再開発が中止になったとして、それで決して安泰ではない。
自然と人々の暮らしが作り出してきた景観。
人々の絆。
そういうものを大切にしながら、これからもこの地で
人々の安心安全な生活を続けていくためにできることは・・・。
若い人たちがそんなことを考えるあたりに、希望が持てますね。

好きな作品でした。

<Amazon prime videoにて>

「僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。」

2023年/日本/110分

監督:本多繁勝

脚本:西永貴文

出演:酒井大地、原愛音、宮川元和、長徳章司、泉谷しげる、丘みつ子、立川志の輔

青春度★★★★☆

郷土を考える度★★★★☆

満足度★★★★☆


3つの鍵

2024年09月27日 | 映画(ま行)

扉の向こうには

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ローマの高級住宅地。
同じアパートに住む3つの家族の素顔を描きます。

これらの家族は、それぞれが顔見知り程度で、
各家庭の扉の向こうにある本当の顔は知りません。

こういう関係は、日本でもほとんど当たり前なのではないでしょうか。
顔を合わせば挨拶くらいはするけれど、
その人たちのこれまでのこと、家族のことなどにあまり関心を向けたことはありません。
でもそれぞれの扉の向こうには、確かにそれぞれの幸福や不幸の物語がある・・・。

3階に住むのはジョバンニとドーラ。
ジョバンニは裁判官で、妻ドーラは何をするにも夫の意見を仰ぎ、
自分1人では生きていけないと感じています。
ある時、息子アンドレアの運転する車が飲酒運転で建物に衝突し、
巻き込んだ一人の女性が亡くなってしまいます。
あきれ果てたジョバンニは息子を勘当。
妻には、自分と生活するか、息子と出ていくかどちらかを選べと迫ります。

2階に住むのは、妊婦モニカ。
その夜陣痛が始まり、夫は出張中のため、一人で病院へ向かいます。
夫は出張が多くて、ほとんど家にいることがないのです。
モニカは病院で無事女児を出産します。

1階に住むのは、ルーチョとサラ。
二人にはまだ幼い娘がいて、何かの時には向かいに住む老夫婦に娘を預けていました。
しかしどうもその夫の方は認知症になってきているらしいのです。
そしてある時、その老人とルーチョの娘が散歩に出たきり行方不明に・・・。
後に二人は無事発見されますが、
ルーチョは老人と娘の間に何かがあったのでは・・・?
と言う疑惑に駆られてしまいます。

本作は、その後この3家族の5年後と10年後が描かれていきます。

心の中の苦しい思いを誰にも言えず持ち続けたまま、流れていく年月。
端から見ればごく平穏な生活に見えていたかも知れません。
でも実のところは決してそうではない・・・。

現実の身の回りも、実はこんなものなのかも知れませんね・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「3つの鍵」

2021年/イタリア・フランス/119分

監督:ナンニ・モレッティ

原作:エシュコル・ネボ

出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケル、
   アドリアーノ・ジャンニーニ、エレナ・リエッティ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、アンナ・ボナイウート

 

家族を考える度★★★★☆

満足度★★★★☆


あんのこと

2024年09月25日 | 映画(あ行)

衝撃の結末ですが・・・

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売春・麻薬の常習犯、21歳、香川杏(河合優実)。
ホステスの母と足の悪い祖母との3人暮らし。

子どもの頃から、母に殴られて育ち、小4で不登校。
12歳で母の紹介で初めて体を売る・・・。
今も、そうして稼いだお金を母にむしり取られてしまうような毎日。

そんな彼女が、人情味あふれる刑事・多々羅(佐藤二朗)と出会ったことで、
更生の道を歩み出します。
また、多々羅の友人、ジャーナリストの桐野(稲垣吾郎)も
なにかと力を貸してくれるようになります。

 

本作、実話に基づいているということで、また少し胸が締めつけられてしまうのですが・・・。

小学校4年までしか学校に行っていない。
ということで、ろくに漢字も読めないような杏。
これもひとえに育児放棄&虐待の母親の責任ではありますが・・・。
しかしこのままではまったく彼女の未来が見通せない。
杏の腕にはリストカットの傷跡がいくつもあります。

そこへ、ちょっと風変わりでお節介な刑事登場。
多々羅は本気で杏の未来を心配し、
母親の元から引き離したり、薬物を止めるための会に誘ってくれたり。
実はその会も、多々羅が主催していたりします。
そして、桐野の世話で杏は介護の仕事に就きます。
夜間の学校へ通い、漢字や算数を勉強したりもする。
何事にも真摯で意欲的です。
きちんとした仕事について、誰かの役に立っているという自信が
彼女に勇気を与えているようです。
そして、きちんと彼女を見守ってくれる人の存在も。

暗いどん底の世界に埋没していた彼女ですが、
実は若い彼女の中には、ちゃんと前進しようとする力が眠っていたのです。
その日のことをノートに書き留め、薬を使わなかった日の丸印の数を更新し続けていた杏。

 

そこまでは実に順調で、これは1人の少女の更生の物語なのね・・・と思ったところへ、
暗雲が立ちこめます。
いきなりコロナ禍に突入。
学校は休みになってしまうし、介護の仕事はバイトの者は待機になってしまいます。



そして何よりも、杏にダメージを与えたのは多々羅の真実。
いやあ・・・まさかまさかですね。

こういう話だとは思いもよらず・・・そしてそのままラストに突入。
言葉をなくします。

 

下手な小説以上に現実は不可解で厳しい・・・。
せめて何か少しでも希望の光を見たかったのですが・・・。

いや、でもやり方次第では、杏のように自力では這い上がることができない人も
闇の世界から救い出すことは可能だということですよね。
そこの所に、意義を見出したいと思います。

私、河合優実さん、気に入ってしまいまして。
今、NHKの連続ドラマにも出演していますね。
今後、大いに有望な方だと思います。

 

「あんのこと」

2024年/日本/113分

監督・脚本:入江悠

出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、早見あかり

悲惨な生い立ち度★★★★★

更生度★★★★☆

満足度★★★★☆


おいしい給食 Road to イカメシ

2024年09月24日 | 映画(あ行)

給食愛がダダモレ

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「おいしい給食」劇場版の第3弾。

1989年、北海道函館の忍川中学に転勤してきた教師・甘利田幸男(市原隼人)。
例によって、給食が何よりの楽しみで学校に通っています。
ここに転勤したことで、とあるメニューが給食になることを楽しみにしているのですが、
いまだに登場していません。


さて、甘利田の給食におけるライバルは、生徒の粒来ケン。
甘利田は給食時間中、一人心中で、粒来とバトルを繰り広げているのでした。

甘利田は自らの給食愛を周囲に気づかれないようにしているつもりなのですが、
しかしそれは誰から見てもダダモレ。
クラスの副担任である新米教師・比留川愛は、
そんなところも含めて、甘利田に好意を抱いているようなのですが・・・?

 

そんな時、町長選挙を前に、忍川中が給食完食のモデル校に選定され、
政治利用されようとしていました・・・。

町長(石黒賢)は、子どもたちに食べ残しのない「完食」を強要したり、
グループを作らず一列に並び、まっすぐ前を向いて黙って食べる
・・・などといつの時代の話?という提案をして無理強いするのです。
そしてある時は給食創始期のメニュー、
パサパサのコッペパン、カチカチの塩引き鮭、脱脂粉乳などを出したりする。

甘利田は反感を持ちながら、一応宮仕えなので、我慢していましたが、
こんなのおかしいと声を上げたのは、あの粒来くんなのでした。

町長の主張は、一体いつの話?と思えるのですが、そうか、1980年代の話。
ということなら、まだそんな主張をする人がいてもおかしくないのか、と思ったりします。

 

そしてあの、悲しき「脱脂粉乳」。
実は私、小学生時代に少しの間函館市に住んでいたことがあって、
そのときに給食で脱脂粉乳を体験しています。

私は特別好き嫌いはなかったのですが、あの脱脂粉乳だけは大嫌いでした。
とても人間が食べるものとは思えないイヤな匂いと味。
作中で子どもたちが鼻をつまんで飲んでいましたが、
まさに、そうでもしないと飲めたものではありません。
ちなみに、同時期札幌市では牛乳がでていました。
転校して脱脂粉乳に出会ってしまった衝撃は、いまだに忘れることができません・・・。

余談でした。

給食時になると妙に浮かれて、とてもまともには見えない甘利田ではありますが、
しかしその実、子ども思いの、並み以上に大人な人物なのであります。
でもお酒には極度に弱くて、少し飲んでしまった翌日は、
前の夜のことは何も覚えていない。
しかしどうも何か失敗をやらかしたらしい・・・と、自分で怯えてしまう。
そしてまたほんの少し芽生えかけたロマンスの行方も・・・。

と、これらのことは本作中のほとんどお約束なんですね。

こんな変な市原隼人を見ることができるのも本作ならでは。
いいんじゃないでしょうか。

 

 

「おいしい給食 Road to イカメシ」

2024年/日本/111分

監督:永森裕二

出演:市原隼人、田澤泰粋、六平直政、高畑淳子、小堺一機、石黒賢

給食愛度★★★★★

満足度★★★.5


「たまごの旅人」近藤史恵

2024年09月23日 | 本(その他)

新米添乗員として活躍のはずが・・・

 

 

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念願かなって海外旅行の添乗員になった遥。
風光明媚なアイスランド、スロベニア、食べ物がおいしいパリ、北京……
異国の地でツアー参加客の特別な瞬間に寄り添い、
ひとり奮闘しながら旅を続ける。
そんな仕事の醍醐味を知り始めたころ、思わぬ事態が訪れて――。

ままならない人生の転機や旅立ちを誠実な筆致で描く、
ウェルメイドな連作短編集。

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念願かなって海外旅行の添乗員になった遥の物語です。

新米添乗員がさっそく行ったのはアイスランド、スロベニア・・・。
観光としてはマイナーですが、
作中描かれているその地の様子を読んでいるうちに
私も行ってみたくなってしまいました。
しかし、添乗員は仕事として行くのだから、自らが観光を楽しんでいる場合ではない。
遥は自分も初めての場所ながら、事前の下調べをしっかりして、
何度も来ていますみたいな顔をしなければなりません。
地元の案内の方がつくので、観光自体はさほど問題ではなく、
大変なのはお客さんへの対応。
いろいろな人がいますもんね。
クレーマーみたいな人。
やたらと周囲の人に話しかけて嫌がられる人・・・。
そんな時のレストランの座席配置など、添乗員は気苦労ばかり。

でも、パリや北京など観光名所も訪れて、
ようやくこれから添乗員としてキャリアを積み上げていこうというときに、
襲いかかってきたのがコロナ禍です。

遥の所属する旅行会社は、海外旅行専門のところ。
そして遥は契約社員。
あっという間に仕事がなくなり、
実家へ帰れば親には邪魔にされて居心地が悪い。

ほとんどヤケになった遥は、沖縄のコールセンターのバイトをすることになって・・・。

 

遥が成長していくお仕事小説家と思ったら、
思いがけない終盤が訪れました・・・。

そこの下りは、あまりにも現実を突きつけられるようでちょっとつらい。

一応コロナ禍が開けた今は、
遥にぜひまた添乗員としての物語を再開していただきたい・・・。

 

「たまごの旅人」近藤史恵 実業之日本社文庫

満足度★★★.5

 


トスカーナの幸せレシピ

2024年09月21日 | 映画(た行)

適量

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三つ星シェフとして知られるアルトゥーロは、仲間とのトラブルで傷害事件を起こし、
更生のため社会奉仕としてアスペルガー症候群の若者たちに
料理を教えることになりました。

生徒の中に絶対味覚を持つ青年・グイドがいて、
若手料理人コンテストの出場を決めます。

渋々ながら、アルトゥーロがコンテスト会場に付き添いで向かうことになりました。
グイドにとっては初めての旅行です。
ところがその時、アルトゥーロに大きなチャンスとなる仕事が舞い込み、
グイドの元を離れなければならなくなるのですが・・・。

アスペルガー症候群のことなど何も知らないアルトゥーロは、始め戸惑ってばかり。
皆いかにも変わっていて、それぞれのこだわりがあって、
どう接して良いのかも分りません。
特にグイドは並外れた味覚の持ち主ではありますが、
人に触れられるのを極端に嫌います。
でもアルトゥーロは、彼らには特別に配慮しすぎることなく、
普通に人と話すのとあまり変わらず接します。
そもそもそういうデリケートさを持ち合わせていない(?)。
でも結局そのフランクさが良いのですよね。

本作は、こんな師弟2人が次第に信頼関係を結んでいくという物語です。

ところで本作の原題は、「Quant basta」。
「適量」という意味です。

アルトゥーロは、よく「調味料を適量加える」というのですが、
グイドにはその曖昧な「適量」というのがよく分らないのです。
計量してはダメなのかと問うのですが、アルトゥーロは首を振ります。
しかし様々なことがあって、最後にグイドはその曖昧な「適量」の意味を学ぶ。

だから本来この題名は、そうしたことを象徴したとてもよい題名なのですが、
邦題の「トスカーナの幸せレシピ」は、あまりにもどこにでもありそうな凡庸な題名。
残念です。

グイドは確かにちょっと変わっているけれども、
知れば知るほど普通に友人付き合いできると感じるようになりますね。
まあ、そういうことです。

 

<Amazon prime videoにて>

「トスカーナの幸せレシピ」

2018年/イタリア/92分

監督:フランチェスコ・ファラスキ

出演:ピニーチョ・マルキオーニ、バレリア・ソラリーノ、ルイジ・フェデーレ、ニコラ・シリ、ミルコ・フレッツァ

満足度★★★★☆


ザ・ハッスル

2024年09月20日 | 映画(さ行)

だまし、だまされ・・・

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1988年映画「ペテン師とサギ師 だまされてリビエラ」で
マイケル・ケインとスティーブ・マーティンが演じた主人公の
性別を変えてリメイクしたもの、ということです。
・・・そちらの元作は見ていませんが・・・。

 

南フランスの海辺の町。

男を騙して小金を稼ぐペニー(レベル・ウィルソン)が、
凄腕のサギ師ジョセフィーヌ(アン・ハサウェイ)と出会います。
ペニーはジョセフィーヌに師事する形で、一緒にサギを働くように。

男たちから次々に金を巻き上げて行く2人。
いつまで経っても分け前をもらえないことに業を煮やしたペニーは、
ジョセフィーヌと決別。

2人は、莫大な財産を持つ純朴そうな青年トーマスをターゲットに、
サギの腕を競い合うことになってしまいますが・・・。

 

女性のサギ師が男を騙して金を巻き上げるというストーリーが気に入りました。
そしてこの2人は息が合って協力関係、というのではなく、
なにかと反目しあっているというところも。

2人の標的となってしまった純朴そうな青年がお気の毒・・・と見ていましたが、
なんと!!というストーリーも洒落ていますね。

おちゃらけてばかりのペニーが意外にもプロ意識が高いど根性の持ち主というのも伝わりました。
なかなか熾烈。

でも、最後のオチもまた良くて、とてもオシャレな仕上がりの作品だと思います。

 

「ザ・ハッスル」

2019年/アメリカ/93分

監督:クリス・アディソン

出演:アン・ハサウェイ、レベル・ウィルソン、アレックス・シャープ、ディーン・ノリス

ペテン度★★★★☆

満足度★★★.5


ぼくのお日さま

2024年09月18日 | 映画(は行)

憧れと純真と・・・

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わーい、「津野くん」がこんなところで、フィギュアスケートのコーチしてる!!
って、思いました!!

池松壮亮さんは、映画でよく拝見するので、私にはお馴染みの俳優さんなのですが、
テレビの連ドラ出演は「海のはじまり」が始めてだったんですね。
ビックリ。
では普段あまり映画を見ない方には、なじみの薄い俳優さんだったのか・・・!
テレビドラマのおかげで、池松壮亮さんという若手実力派俳優が
広く知られるようになって嬉しい限り。

スミマセン、いきなり余談になってしまいました。

本作は、2024年第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、
日本人監督史上最年少で選出された奥山大史監督作品。

 

 

北国の小さな町。

夏は野球、冬はアイスホッケーをやるのだけれど、
どちらも苦手な吃音の少年タクヤ。
ある日、ドビュッシーの「月の光」で、
フィギュアスケートの練習をする少女さくらに心を奪われます。

さくらのコーチ、元フィギュアスケート選手の荒川(池松壮亮)は、
ホッケー靴のままフィギュアのステップのマネをして何度も転ぶタクヤを目にし、
タクヤの恋を応援しようと思います。
そしてタクヤにフィギュア用のスケート靴を貸して、練習に付き合い始めます。

やがて荒川の提案でタクヤとさくらは、
ペアでアイスダンスの練習を始めることに・・・。

スケートリンクに差し込む柔らかな日の光に、少女が舞う姿が可憐で美しく、
タクヤは心奪われて見入ってしまうのですね。

実はそれと同じ状況で、2人が練習し続けていたアイスダンスを舞うシーンが後にあります。
ほとんど集大成といっていいその会心のできの滑りは、
タクヤの友人1人しか見ている人はいなかったのですが。
息がピッタリと合っていたことは2人も自覚している。
幸せなシーンです。
そして、荒川とタクヤ、さくらの3人で、少し離れた湖のスケートリンクへ出かけて
ひたすら無邪気に遊びながら幸せな時間を過ごす。

しかし、実はその時が3人で楽しく過ごす最後の時。

あっけなく壊れてしまった調和の日々。
それというのも、原因は荒川自身にあったのです。

誰が悪いというわけでもない。
ただ少女があまりにも純粋で無垢だからこそ・・・ということか。

 

荒川は、無垢な少年と少女のまだ恋とも言えないくらいの思いを美しいと思い、
応援していただけだったのですが・・・。

荒川と同居の青年役、若葉竜也さんも好きな俳優さんでして・・・。
だから私にはおいしい作品。

撮影は、我が北海道に点在するいろいろな施設を利用していた感じでした。
まだ解け出していない真っ白でたっぷり積もった雪景色が美しい。

コーチと言う役柄のため、池松壮亮さんはずいぶんスケートの練習を積んだのではないかな?

 

「ぼくのお日さま」

2024年/日本/90分

監督・脚本:奥山大史

出演:越山敬達、中西希亜良、若葉竜也、池松壮亮、潤浩

 

無垢度★★★★☆

満足度★★★★★


スオミの話をしよう

2024年09月17日 | 映画(さ行)

本当はどういう女だったのか

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豪邸に暮らす著名な詩人・寒川(坂東彌十郎)の新妻・スオミ(長澤まさみ)が行方不明になります。

そこへ訪れたのが、刑事・草野(西島秀俊)ですが、
彼はスオミの元夫で、私的に呼ばれただけ。
寒川は大事にしたくないといって、警察に届け出ることを拒否。
草野は誘拐かもしれないから、警察に連絡して、
捜査を開始すべきと言うのですが・・・。

そんな中、さらにスオミの元夫たちが集まってきます。

最初の夫で、今はこの屋敷の庭師兼家政婦をしている魚山(遠藤憲一)。

2番目の夫、ユーチューバーで資産家の十勝(松坂桃李)。

3番目の夫は警察官・宇賀神(小林隆)。
スオミが中国人で中国語しか話さないと思い込んでいた!!

4番目の夫が刑事・草野。

そして5番目の夫が、現在の夫・寒川。

彼らはスオミと出会い結婚したいきさつなどを熱く語り合うのですが、
男たちの口から語られるスオミは、それぞれまったく違う性格の女性で・・・。

一体、スオミとは何者だったのか?
そして、今回の失踪の原因は?

いかにも、三谷幸喜ブシ全開。
ほとんどの舞台はこの屋敷の中。
そしてすべてワンカットとは言えないまでも、
相当の長回しで登場人物を追いながらカメラを回すという手法。
舞台を見る感覚に近いです。

それぞれの人物が語る回想シーンに、
必ず同じ女性(宮澤エマ)が、それぞれまったく異なる職業で登場するのも面白い所です。
一体この女は何者なのか・・・?

スオミは結婚詐欺的な人物なのかと思ったのですが、
でも、誰も大金を巻き上げられたりしてはいない様子。
ただ、金持ちのはずの寒川の、あんまりな吝嗇ぶりには嫌気がさしたようではあります。

ただ男たちの望む姿でいようとした・・・、
けれど結局男たちを手玉にとっている。
そういうタフさがいいなあ・・・。

ラストのショー仕立てのシーンでは、西島秀俊さんのダンスが見られるのも、儲けもの。
(もちろん、他の出演者たちも同様ではありますが。)

楽しかった~♪

TOHOシネマズ札幌にて

「スオミの話をしよう」

2024年/日本/114分

監督・脚本:三谷幸喜

出演:長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、坂東彌十郎、遠藤憲一、
   小林隆、瀬戸康史、戸塚純貴、宮澤エマ

コミカル度★★★★☆

満足度★★★★☆


「夜が明ける」西加奈子

2024年09月16日 | 本(その他)

夜は本当に明けるのか

 

 

* * * * * * * * * * * *

15歳のとき、俺はアキに出会った。
191センチの巨体で、フィンランドの異形の俳優にそっくりなアキと俺は、
急速に親しくなった。
やがてアキは演劇を志し、大学を卒業した俺はテレビ業界に就職した。
親を亡くしても、仕事は過酷でも、若い俺たちは希望に満ち溢れていた。
それなのに――。
この夜は、本当に明けるのだろうか。
苛烈すぎる時代に放り出された傷だらけの男二人、
その友情と救済の物語。

* * * * * * * * * * * *

西加奈子さんの渾身の力作。


主人公は同い年の2人の男性。
15歳で出会った「俺」とアキ。
やたらと体が大きく、フィンランドの異形の俳優にそっくりなアキと俺は
それなりの高校生活を送り、やがて卒業。
アキは演劇を志し、「俺」は大学を出てテレビ業界に就職。

しかし、待っていたのは決して薔薇色の未来ではありません。
双方それぞれ、どうにもならない苦境に陥って行きます。

アキは母との2人暮らしで、とにかく貧しかった。
そして母は次第に精神を病んでいって・・・。
こんなどうにもならない重圧を、
ただ自分はフィンランドの俳優、アキ・マケライネンに似ている、
というただ一つのことを心の支えとして、誰にも頼らず、生きていく・・・。
悲惨と言うよりもむしろ壮絶というべきその人生。

 

一方、「俺」の方は一応中流家庭。
しかし父の死で生活は苦しくなり、バイトと奨学金でなんとか大学を出ます。
そしてかつてからの「夢」であったテレビ業界に就職。
ところが、それはまさしくブラック企業。
勤務の多忙さはもちろん、パワハラ上司に罵倒され、周囲の仲間は次々に辞めていく。
でも、「俺」はとにかく必死に働く・・・。
とにかくつらい。
けれども頑張らなければ・・・。


心も体もボロボロの「俺」はついに倒れ、仕事も失うことになるのですが。
こんな彼が、自分を見つめなおすきっかけは・・・。
ほとんどゴミ屋敷のような彼の部屋を訪ねて来た仕事の後輩、森が彼に言うのです。

彼が受けていた「ハラスメント」に気づかなくてごめんなさい、と。

「俺」はそれを聞いて驚いてしまいます。
それはある年配女性の行為のこと。
いじめられたわけでもエロいことをされたわけでもない。
けれど、何よりも自分を苦しめていたのはその女性の行為であったことに
彼自身も気づいていなかったのです。

それは本当は酷いことなのだ、傷ついて当然なのだと、森が口にしたことで、
「俺」が自分でも気づかずにいた苦しみがするすると溶け出していく・・・。

なんだか分る気がするのです。
そういうことってあるなあ・・・と。
再生のきっかけは思いも寄らないところにある。
そういうものです。

 

それと自分ではどうにもならない困ったことは
誰かに助けを求めても良いのだということ。

なぜか自己責任などという突き放す言葉が一般に広まっているようで、
誰にも助けを求められないことが余計に事態を悪くしていることもあるようです。
思い切って助けを求めてみれば、社会はそんなに悪くないのかも・・・。

 

思いがけず、ハードボイルドな展開に陥っていくアキの方の結末は、
「俺」に届いた一通の手紙で知らされます。
心がシンとします。

とても重いけれど、人生の暗い淵を歩んで、
ようやく夜が明けそうだという予感に震えます。

「夜が明ける」西加奈子 新潮文庫

満足度★★★★★


ラン・ハイド・ファイト

2024年09月14日 | 映画(ら行)

闘う女子高生

* * * * * * * * * * * *

17歳、女子高生のゾーイは、幼い頃から軍人の父にサバイバル術を学び、
また時には父と狩りを楽しんでいました。
しかし、母の死をきっかけに、父娘の関係に深い溝ができてしまいます。

ある日、彼女の高校にテロリストが乱入。
カフェにいた生徒たちが次々と銃弾に倒れて行く中、
運よくトイレにいたゾーイは、なんとか校舎の外に脱出します。
しかし、校舎の中にいる友人たちを救うため、テロリストと闘うことを決意し、
再び校舎へ戻っていきます。

一方、父はニュースで娘の高校に銃撃犯が侵入したことを知り、高校へ向かいます。

米国の学校への銃撃犯の侵入は、もはや社会問題でもあります。
本作はそれが警察ではなく(もちろん警察も駆けつけますが)、
生徒が、しかも女子生徒が銃撃犯に立ち向かい、
多くの教師や生徒らを助け出すというところがミソ。

やはり、近年の女性は強いなあ・・・。

銃撃犯らは複数名のチームなのですが、ゾーイは1人、また1人と倒して行って
犯人のリーダーを追い詰めます。

彼らは、この犯罪を少しでも世間に誇ろうとして、SNSで生配信。
これもまた、現代ならでは・・・。
銃撃犯に脅されて、スマホのカメラを彼らに向けて撮影を続けるのが、
ほのかにゾーイに好意を持っているらしき男の子で、
トイレに行ったきり戻ってこなかった彼女を案じ続けている
・・・というなりゆきもまた興味深いところです。

そしてまた、高校に駆けつけた父が、思わぬ方法で娘を援護することになるというのもミソ。
気持ちがすれ違っているようだけれど、いざとなると互いを信じ合う父と娘。
ゾーイの亡き母がときおりゾーイの目前に現れて、ゾーイを励ますというのもいいな。

何しろ、強い女の子の話は好きなので、たのしめました!!

<Amazon prime videoにて>

「ラン・ハイド・ファイト」

2020年/アメリカ/110分

監督・脚本:カイル・ランキン

出演:イザベル・メイ、ラダ・ミッチェル、トーマス・ジェーン、イーライ・ブラウン

スリル度★★★★☆

タフな女の子度★★★★★

満足度★★★★☆


ジュリーと恋と靴工場

2024年09月13日 | 映画(さ行)

職人のプライドをかけた靴作り

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25歳、職なし金なし彼氏なしのジュリー。
ようやくフランスのロマン市にある高級靴メーカーの工場での仕事に就きます。
しかし、工場は近代化のあおりで閉鎖の危機。

職を失うことを恐れた靴職人の女性たちが抗議のためパリ本社へ乗り込み、騒動を起こします。
ジュリーもそれに巻き込まれてクビになりかけたりもします。
職人の意地とプライドをかけた女性靴職人たちは
「闘う女」と名付けられた赤い靴を武器に、この危機を乗り越えようとします。

ミュージカル仕立てのストーリー。

何もかも合理化の波にさらされて消えていく・・・、
今だからこそそうしたことに異議を唱えるストーリーなんですね。
入社したてのジュリーはストライキに参加すれば即クビ。
だから少し盛り上がる同僚たちとは距離を置いていたのですが、
次第に手仕事に情熱とプライドを持つ彼女たちの心に寄り添うようになっていきます。

でもね、確かに上質で高級なその靴を、一体どれだけの人が履けるのだろうか・・・
と、私はちょっぴり思ったりするのです。
ジュリーがその前に務めていたところの量産品の安価な靴だって意義があると思うけど。

まあそれは余計な話。
ジュリーの恋も絡めて、さすがオシャレなフランス作品ではあります。

<Amazon prime videoにて>

「ジュリーと恋と靴工場」

2016年/フランス/84分

監督・脚本:ポール・カロリ、コスチャ・テステュ

出演:ポーリーヌ・エチエンヌ、オリビエ・シャントロー、フランソワ・モレル、
   ロイック・コルベリー、ジュリー・ビクトール

 

満足度★★★☆☆

 


父と息子の地下アイドル

2024年09月11日 | 映画(た行)

息子の意志を継ぐ父

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WOWOW新人シナリオ大賞受賞作。

 

妻を亡くし、ひとり息子とは疎遠になっていて、
さみしく暮らす高校教師、千堂(松重豊)。
かつては子どもたちに熱血指導をしていましたが、今の子どもたちには通用しません。

ある日突然、音信不通だった息子・勝喜の事故の知らせが入ります。
勝喜は病院で眠ったまま、植物状態に・・・。

病室で呆然とする千堂の元に、派手な衣装を着た3人の少女がやって来ます。
この3人は勝喜がプロデュースする地下アイドル「オトメがたり」。
まだデビューして間もなく、まったく人気もないのですが・・・。
でも勝喜が活動できなくなれば、新しい曲もなく、解散するほかないでしょう。
しかし、千堂は息子勝喜に変わってアイドルプロデューサーになることを決意。
幸い息子の部屋に新曲の録音がいくつか残っていたのです。

「地下アイドル」という言葉さえ知らなかった千堂ではありますが・・・。

 

疎遠のまま意識がなくなってしまった息子の、意欲を燃やしていた仕事。
少女たちが夢を見ていたその仕事をなんとか引き継ぎたいと千堂は思ったのですね。
というか始めは少女たちに懇願されて無理矢理に、ではありましたが。

地下アイドルのことなど何も知らない千堂が頼ったのが、
受け持ちのクラスの不登校・引きこもりのオタク少年というのもよろしい。
人は誰かの役に立っているという認識が、生きる力を与えます。

 

地下アイドルというのも、私はテレビドラマなどで知るだけですが、
どうやったら多くの人に知ってもらえるのか、そして資金集めの方法、ファンサービス等々・・・、
単にキラキラした世界ではなく大変なことですね。

そうした様々なことを織り込んで進んでいくストーリー、
さすがシナリオ大賞受賞作です。

楽しませていただきました。

 

<Amazon prime videoにて>

「父と息子の地下アイドル」

2020年/日本/94分

監督:横尾初喜

脚本:光益善幸

出演:松重豊、若月佑美、今井悠貴、芋生悠、瀧本美織、井之脇海

地下アイドルを知る度★★★★☆

満足度★★★.5


エイリアン ロムルス

2024年09月10日 | 映画(あ行)

来るぞ、来るぞ・・・

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リドリー・スコット監督1979年「エイリアン」のその後を舞台として、
20年後の出来事を描きます。

 

親の代に移住した惑星で、過酷な採掘作業につく若者たち。
このままでは先の人生の希望も何もありません。
ある時、6人の若者たちが廃船となった宇宙ステーション「ロムルス」を発見。
その船と装置を入手して、憧れの惑星ユヴァーガを目指そうと相談がまとまります。

そして、いよいよロムルスに到着して船内の探索を始めますが、
しかしそこでは恐怖の生命体・エイリアンが待ち受けていたのでした・・・。

エイリアンの血液はすべての物質を溶かすほど強力な酸性で、
うかつに攻撃を仕掛けて血を流そうものなら、船体に穴があいて、
宇宙に放り出されることになる・・・。
ということでろくに闘う手段もなく、逃げ場のない宇宙空間で
次々に襲い来るエイリアンに1人また1人と犠牲になっていく・・・。

男女を含めた6名の若者たちなのですが、
やはりといいますが一作目「エイリアン」からのお約束のように、
結局は1人の女性・レインがエイリアンと闘うことになるのです。
いまだに忘れられない、あのリプリーのりりしさ・・・。

さて、「エイリアン」が象徴するものとして、次のような解釈があるのです。
(内田樹氏の受け売り)

 

エイリアン=女性を妊娠させ自己複製を作らせようとする男性の欲望の形象化したもの。
そしてつまり、女性から見れば、
男性のエゴイスティックな自己複製欲望に屈服することの嫌悪と恐怖を表している。

 

このような視点から見ると本作はどうなのか、といえば・・・。
うーん、まあやはり、「エイリアン」の成り立ちとして
フェミニズム的思想を含んではいるのでしょうけれど、それほど強くは感じません。

むしろ作中の、人生の行き場を失い閉塞感にあえぐ若者たち、というところが
現代の若者たちの状況を反映しているといえそうです。
男女がどうこうということではなくて、自由を求めてあえぐ若者たちを、
さらに阻む有象無象のものたち・・・。

そういえばこの中に妊娠している女性がいて、
そのなりゆきにとてもいや~な予感がしてしまうのですが・・・、
まあやはり、でした。

詳しくは言えませんが、これらのことはつまり、
人類の進歩につながるはずの科学技術が、結局は不幸へとつながっていくということなのかも。

そしてまた、「エイリアン」ではこれも定番となっている「アンドロイド」の存在。

本作にも当初からアンディという一体のアンドロイドが登場します。
それはレインの弟ということになっているのですが、
実際は拾われてきたアンドロイド。
どこかIC回路に破損があるらしく、本来はずば抜けた知能と力があるはずが、
まったくか弱い存在となってしまっています。
しかし、ロムルスに身体が破損しているアンドロイドが一体あり、
その回路をアンディにはめ込むことで、アンディは生まれ変わります。
・・・が、しかしそれは元のアンドロイドが持っていた
恐ろしい「使命」をアンディが受け継ぐことでもあった・・・。

 

感情がないアンドロイドは、当初設定された己の使命が第一。
彼らは人々が思っているように人の幸福のためにあるものではない。
AIというものの本質をそこに見るようで、ちょっと恐いですね。

 

結局人類が追い求めてきた科学技術の進歩が、今は逆に若者に閉塞感を生み、
人類に不幸をもたらし始めている・・・
そんなことを言っているのかも知れません。

 

 

・・・とまあ、色々書いてはみましたが、作品としてはお化け屋敷探検みたいなもので、
とても「エイリアン」作品当初と同じ衝撃を感じるものではありません。
いつまでもエイリアン作品を作り続ける必要があるのかな?と思ってしまいます。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「エイリアン ロムルス」

2024年/アメリカ/119分

監督:フェデ・アルバレス

出演:ケイリー・スピーニー、デビッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルヒド

 

お化け屋敷度★★★★★

満足度★★★☆☆