映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

バンクーバーの朝日

2015年01月02日 | 映画(は行)
野球好きたちの“夢”



* * * * * * * * * *

1914年~41年、戦前のカナダで活躍した
日系移民の野球チーム“バンクーバー朝日”の実話です。
石井裕也監督、そして敬愛する奥寺佐渡子さん脚本ということで
楽しみにしていました。



日系移民たちは過酷な肉体労働と貧困・差別の中で
毎日をやっと暮らしていたのですが、
そんな中でも二世たちが野球を続けていました。
しかし、体格で上回る白人チームに負け続け、万年リーグ最下位。
そんなある時、キャプテンのレジー(妻夫木聡)が、
バントと盗塁を多用し、小刻みに点を稼いでいく方法を考えます。
このやり方で、バンクーバー朝日はどんどん勝ち進むようになっていくのです。



本作は栃木県足利に巨大オープンセットを作って撮影したそうなのですが、
白人街と日本人街の町並み、
双方で挟みこむように真ん中にある野球場、
素晴らしく雰囲気がありました。
特に他に娯楽というほどのものもない当時、
日系人も白人も、みな野球が大好きということが伺われます。
バンクーバー朝日が快進撃を始めると日系人が盛り上がるのはもちろんですが、
地元の白人たちもまた、この野球の面白さに惹かれていくというのがいいですね。
そして、移民たちは彼らの野球に勇気や希望を見出していく。
胸が熱くなるドラマでした。



妻夫木聡さん演じるところのレジーは、人前でしゃべるのが苦手。
キャプテンなのにみんなをまとめるような言葉の一つもかけられないのですが、
何より野球が好きなことだけは人一倍。
そういうことがちゃんとみんなに伝わるんですね。
そして、彼の行動原理は
日本人だから頑張らなければないけないとか、
日本のために負けられないとか、
そういう思いではないのです。
本当にただ野球が好きなだけ。
もちろん勝てば嬉しいし。
それは彼が二世であるという事情もあるのでしょうね。
やはり差別はあるけれど、カナダのこの地こそが彼らの故郷でもある。
だからその当時日本で、ひたすら「お国のために」
・・・ということで突っ走らされていた状況よりも自由なのです。

途中で、日本に帰国したフランク(池松壮亮)は、
日本で何を感じるのかな? 
ちょっとそちらも気になったりします。



やがて太平洋戦争が勃発し、
理不尽にも日系人たちは「敵性外国人」ということで家も財産も没収され、
強制収容所へ送られてしまいます。
本作中ではそのため野球もそこで諦めなければならなかった彼らが、
実に淡々とこの運命を受け入れているところが印象的です。
結局カナダで日本人街も日系人の野球チームも復活することはなかった。
でもこんな風にして、「過去」を知ることができたのは幸いに思います。


佐藤浩市さんが、ついにこんな「年」の役になりましたか・・・!

「バンクーバーの朝日」
2014年/日本/132分
監督:石井裕也、
脚本:奥寺佐渡子
出演:妻夫木聡、亀梨和也、勝地涼、上地雄輔、池松壮亮、高畑充希、佐藤浩市

歴史発掘度★★★★☆
時代の雰囲気★★★★☆
野球のワクワク感:★★★★★
満足度★★★★☆