映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

天才スピヴェット

2015年01月04日 | 映画(た行)
自分にとっての「松の樹」



* * * * * * * * * *

本作のジャン=ピエール・ジュネ監督は、あの「アメリ」の監督さん。
なるほど、あの雰囲気がさらにパワーアップしていました!



米モンタナ州、田舎の牧場で暮らす
10歳少年T・S・スピヴェット(カイル・キャトレット)は、天才少年。
日々科学的観察と考察に明け暮れています。
しかし、この田舎の地で、彼の能力はさして役には立たず、
浮いてしまっているのです。



父は根っからのカウボーイ。
母は昆虫学者(多分彼はお母さんの方の血を濃く受け継いだのですね)。
アイドルになりたい姉。
そして彼の双子の弟は、活動的でワイルド、まさに父親が誇りに思うタイプの息子。
T・Sは、父に好かれる弟が羨ましいのです。
しかしその弟が、ある「事故」で亡くなってしまいます。
悲しみに暮れる家族。
そしてT・Sもまた、暗く鬱屈した気持ちを抱え続けています。
そんなある日、スミソニアン学術協会からS・Tに
科学賞が授与されることになりました。
S・Tは家族に内緒で単身ワシントンDCへ旅立つことを決心します。



モンタナからワシントンDCまで、
ほとんど大陸横断になります。
貨物列車にこっそり乗り込んでシカゴまで。
そこからはヒッチハイクで。
いくら天才少年でもやっぱり10才の子供なのです。
大きなスーツケースを抱え、
特に暗い夜は怖くて寂しくて、すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいになるけれど、
彼はこの旅を絶対にやりぬこうと決めたのです。

たった一人のロードムービー。
でも、そっと彼を勇気づけてくれる大人の存在があったのは、うれしいですね。
彼らは決して裕福ではなく、言わば人生のアウト・ロー。
だからこそ、この一人ぼっちの少年を「保護」しようなどとは思わなくて、
やりたいようにやってみろ!と
そっと背中を押してくれるのです。



この旅は結局、家族の絆を取り戻すための旅でした。
途中で語られる雀と松の樹のエピソードが心に残ります。

ある雀が、たった一羽でひと冬を凌がなければならなくなった。
どこかの樹に身を寄せなければ寒さで死んでしまう。
そこで雀は、いろいろな樹にそばにいさせてもらうように頼むのですが、
どの樹にも断られてしまう。
最後に松の樹に頼んでみると
葉っぱがスカスカであまり役に立たないかもしれないけど、
いいよと言ってくれるのです。
それ以来どの樹も冬になると葉が落ちてしまうけれど、
松の樹は葉を落とさないのだとか・・・。

こんな風に、一人ぽっちでも
きっとどこかに自分を守ってくれる「樹」があるのではないか、
ということなんですね。
S・Tは、何の力にもならないと思っていた家族が、
結局はやはり彼にとっての「松の樹」だということに気づくのです。



S・Tは父と母が結婚したのが最大の謎だと言っていましたが、
本当にその通り。
母の日記には、お母さん自身、夫に愛されていないと思っているフシが見えるのですが、
S・Tは、3人も子供が生まれたんだから愛していないわけがない、とつぶやきます。
そうなんですよね。
その証拠に、ラストシーンでは・・・。


それから、夜中に放送の終わったTV(砂漠の砂嵐状態)を
じっと眺めているワンちゃんがステキでした。



こんなふうで、どのシーンもツボにはまりまくるんですよね。
本作本当は3Dなのだそうです。
札幌ではようやくミニシアターで観ることができたくらいなので、
3Dは観ることができません。
S・Tのいろいろな想像シーンが3Dで活かされているということのようです。
ぜひ見たかった・・・。


いずれにしても、感動いっぱいのステキなストーリーでした。
新年早々、いいものを観ることができて、ラッキー!!

2013年/フランス・カナダ/105分
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
原作:ライフ・ラーセン
出演:カイル・キャトレット、ヘレナ・ボナム・カーター、ジュディ・デイビス、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソン
家族度★★★★★
冒険度★★★★★
満足度★★★★★