映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ペコロスの母に会いに行く」 岡野雄一

2015年01月15日 | コミックス
心は自由に漂う

ペコロスの母に会いに行く
岡野 雄一
西日本新聞社


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母は、人生の重荷を下したかのように、ゆっくりとゆっくりとボケていきました─

62歳、無名の"ハゲちゃびん"漫画家が
施設に暮らす認知症の母との
「可笑しく」も「切ない」日々を綴った
感動のコミックエッセイ!
40歳で故郷長崎にUターンした漫画家(62歳)が、
親の老いを見つめてきた日々の、笑えて、温かくて、どこか切ない家族の物語。
主人公は、認知症と診断され施設に暮らす現在89歳の母。
母が見せる「人生の重荷を下ろしたとびっきりの笑顔」や、
著者のはげた頭を見て名前を思い出すエピソード、
時折つぶやく亡き父との思い出話などを描いたコミックエッセイです。
「忘れること、ボケることは、悪いことばかりじゃないんだ。
母を見ていてそう思った」


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先日、映画を見て、
やはり原作本の方も見てみたくなってしまいました。
本作はなんといってもこの岡野雄一さんのほんわかした絵が魅力です。
認知症といえば、
こまったこと、あまり表には出したくないこと、悲惨なこと、
そういうマイナーなイメージばかりが先行しますが、
映画にも出てきたこの言葉、
「忘れること、ボケることは、悪いことばかりじゃないんだ。」
そういうことを実感させてくれます。


お母さんは施設にいながら、時を自由に行き来します。
10人姉弟の長女として、子守と野良仕事に明け暮れた若いころ。
酒乱だった夫に耐えた子育て期。
すでに亡くなった人とも自在に交流し、心は自由に漂っている・・・。
ピンピンコロリが理想だと、私も思っていたのですが、
もしかしたらこういうのもありかもしれない。
自身の心はまさに自由・・・。
だってね、まあ人によるかもしれないけれど、
あちこち気を使うばっかりの人生って、なんだか疲れる。
ボケまくってまわりじゅうに迷惑をかけながら、
人生の最後ぐらい自分勝手に生きてみるのもいいかもね・・・。
とは言え、夜中に針も糸も持っていないのに、
縫い物のしぐさをしているお母さんの姿には泣かされます。
こんな時にまで、家族のために何かするということが染み付いてしまっているわけで・・・
私ならどんなにボケても、そういうことはなさそうだ。


基本的には4コマ漫画です。
少しずつ語られるエピソードをつなげて一つの映画を作る、
その映画の脚本にも今さらながらスゴイなあ思いました。

「ペコロスの母に会いに行く」岡野雄一 西日本新聞社
満足度★★★★☆