映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

僕らはみーんな生きている

2024年08月31日 | 映画(は行)

若い2人と、汚れきった大人たち

* * * * * * * * * * * *

人付き合いが苦手な宮田駿(ゆうたろう)は、環境を変えるため上京。
下町のさびれた商店街にある弁当屋でアルバイトを始めます。
気さくな店主・小玉ゆり子や同僚の小坂由香(鶴嶋乃愛)らに囲まれ、
順調な生活が滑り出したかに見えましたが・・・。

この町は、商店街会長・佐伯順平(渡辺裕之)が牛耳っています。
表面上はいかにも気さくで面倒見がよさそう、
しかし、影では人を人とも思わず、お金のために残忍な計画を企てています。
そのことを、駿と由香が気づいてしまい・・・。

ちょっと不思議な手触りの作品です。

駿と由香は若くてしなやかな心を持っているようです。
こんなさえない町のさえない弁当屋で働いているにしても、
少しは未来に光を見てもいる。
そこは健全な青春物語のようであるのですが、
しかし、回りの大人たちがあまりにも酷い。
商店街会長というのは、もうほとんどヤクザの組長並み。

駿と由香が親しんでいるここの店主・ゆり子は、実は会長の愛人で、
会長に世話してもらった気の弱そうな男を夫としています。
そして、保険金目当てで、夫の毒殺を徐々に進行中・・・。

こちらのノワール部分が、どうにもヤング2人の部分と溶け合わないというか、
何か違和感を覚えるところではありますが、
そこが本作の面白い所なのかも知れません・・・。
私的には微妙・・・。

<Amazon prime videoにて>

「僕らはみーんな生きている」

2022年/日本/116分

監督・脚本:金子智明

出演:ゆうたろう、鶴嶋乃愛、渡辺裕之、桑原麻紀、西村和彦、仁科亜季子

 

悪人度★★★★★

満足度★★☆☆☆

 


劇場版 ねこ物件

2024年08月30日 | 映画(な行)

前進なし

* * * * * * * * * * * *

テレビドラマ「ねこ物件」の劇場版、とのことですが、
私はテレビ版を見ていなかったので、初見ということになります。
でもまあ、状況は十分に説明してくれるので、OKでした。

2匹のねこと暮らす30歳、二星優斗(古川雄輝)。
祖父の死をきっかけに、ねこ付きシェアハウス「二星ハイツ」を始めます。
以前4人の同居人がいたのですが、
それぞれに夢を追い、新たなステージへ旅立っていきました。
・・・と、つまりここまでの紆余曲折の物語がテレビドラマだったということですね。
本作はその後のストーリー。

不動産会社の有美(長井短)は、優斗に二星ハイツの再会を促すのですが、
あまり乗り気ではない優斗。
もともと人とのコミュニケーションは得意ではなくて、
また始めからやり直すのがおっくうであるように見受けられます。
そんな時、幼い頃離ればなれになった弟の存在を思い出し
探し出そうと思いつきます。
確か弟もねこが好きだった。
ここのシェアハウスのことをもっと宣伝して、多くの人に知られるようになれば、
弟も気づいてやってくるかも知れない・・・ということで、
このねこ付きシェアハウスと自分の存在をSNSで全国にアピールし、入居者を募ります。
そしてこんな優斗をサポートするため、かつての入居者たちが帰ってきます。

ねこ物件は思った以上に反響があり、驚くほどの大人数が応募。
優斗は、その1人1人と面接をして・・・。

テレビドラマのファンだった方にとっては、
結局懐かしいメンバーがそろうのは、嬉しいことなのでしょうね。

でも、ドラマを知らない私にとっては、なんか違うという気がしてしまいました。
ここは是非とも、またワケありの様々な人々との出会いの場となってほしい・・・。
そうでなければ、優斗は前進できないのでは・・・? 
まあ、ねこ好きの人々にとっては、毎日のんびりまったりできればOK、
仲良しこよし同志で、あえて新しい環境は必要なしということ?

いかにもテレビドラマありきの劇場版。
なんだかなあ・・・。

ねこは普通に可愛いです。

<Amazon prime videoにて>

「劇場版 ねこ物件」

2022年/日本/93分

監督・脚本:綾部真弥

出演:古川雄輝、細田佳央太、上村海成、長井短、竜雷太

ねこの癒やし度★★★☆☆

満足度★★☆☆☆


愛にイナズマ

2024年08月28日 | 映画(あ行)

疎遠だったダメ家族だけれど・・・

* * * * * * * * * * * *

26歳、折村花子(松岡茉優)は幼い頃からの夢、
映画監督デビューを目前に控え、気合いに満ちていました。
そんな時に、少し風変わりな、空気の読めない男・舘正夫(窪田正孝)と
運命的な出会いをして、親しくなります。

ところが、映画の企画がプロデューサーらに丸ごと奪われてしまい、
監督の夢は消えてしまいました。
失意の花子を励ます正夫に、花子は泣き寝入りせず闘うことを宣言。

 

花子が撮ろうとしていたのは、元々花子の家族の話、「消えた母」のことを題材にした映画だったので、
実際に自分の家族を使って映画を撮ろうと思いつきます。
そこで正夫を伴い、10年以上も音信不通だった実家へ向かいます。

そこに集まったのは、父(佐藤浩市)、長男(池松壮亮)、次男(若葉竜也)。
花子は、母は外国へ行ったと聞かされていたのですが、
本当はどこにいるのかと父を問い詰めます・・・。

どうしようもなく壊れた家族のように見えていた、この家族。
しかし、「映画」のためといいつつ、この家族の問題を語り合ううちに、
今まで見ようとしていなかった互いの真実が見えてきて、
やはり「家族」なんだな・・・という充足感に包まれていきますね。
ここのあたりが実にお見事でした。

第一この名優揃いの家族、贅沢過ぎませんか? 
私の好きな俳優さん勢揃いなんですもの。
おまけに、正夫の親友役が仲野太賀さんなんですが、
こちらは仲野太賀らしからぬ(?)役柄で、これもまた洒落ている。

すごく気に入ってしまいました。
なんで公開時に見なかったのだろ。

 

「愛にイナズマ」

2023年/日本/140分

監督・脚本:石井裕也

出演:松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉龍也、仲野太賀、佐藤浩市

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


ラストマイル

2024年08月27日 | 映画(ら行)

流通業界をゆるがす

* * * * * * * * * * * *

テレビドラマ「アンナチュラル」、「MIU404」の監督・脚本家が再タッグ。
両シリーズと同じ世界線で起きた連続爆破事件を描きます。
・・・ということで、どちらのドラマも大好きだった私は、
ワクワクして本作を待ち望んでいました。

世界規模の流通業界最大のイベント、ブラックフライデー前夜。
ショッピングサイトの関東センターから配送されたダンボール箱が爆発する事件が発生。
それは一度ではなく、2度3度とつづき始めます。
関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、
チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、事態の収拾に当たります。

ショッピングサイトの巨大なセンターの様子。
実は某テレビ番組でその様子を見たことがあるのでさほど驚きませんでしたが、
いつも気軽に「ポチッ」と注文しているものが
こういう所から来ていると思うとなんだか感慨深いですね。

そしてまた、それぞれの持ち場で毎日奮闘している方がいる、そのありがたさも感じます。
特に最後の持ち場である配送の人々の苦労が忍ばれ、
そうしたところにスポットを当てたのも良かった。
配送会社のさらに下請けという立場の人は、
荷物一つの配達について150円の報酬を得るという・・・、
荷受人の不在で空振りに終われば、全くのただ働きということになります。
そうした現実の上に成り立つ私たちの便利な生活。
そういうことも知っていなければなりませんね。
まあつまり、本作の事の起こりはそういう所にあったということなのです・・・。

本作のテーマはそういうことなのですが、
実のところ、意識は次々に登場する豪華キャストたちに持って行かれてしまいます。

満島ひかりさんに岡田将生さん。
新任センター長と彼女に振り回されるチームマネージャーということで、
この2人の掛け合いが実に楽しい。

もちろん、「アンナチュラル」の懐かしき出演者たち、
そして、私が最近TVerで見直していた「MIU404」の出演者たちもナイス!!

まあしかし、期待があまりにも大きすぎたので、
実際はほんの少しだった登場シーンにちょっぴりガッカリ。

いっそ、「MIU」の新作として本作を出してくれた方が良かったなどと思ったりして。
それほどに、星野源×綾野剛が、今見てもスバラシイのですもの・・・。
あ、2人が乗っていたのが「メロンパン号」でなかったのも残念・・・。

つまり、テレビドラマが好きだった人ほど、
本作については不完全燃焼感を持ってしまうのではないかな・・・?
まあでも、面白かったですけど・・・。

 

それはともかく、「アンナチュラル」、「MIU404」と同じく、
主題歌が米津玄師さんというのはスバラシイ。

私、冒頭とラストに出てきた数式のようなものの意味がちょっと分らなかったのですが、
あれはセンターのベルトコンベアの速度と耐久重量のことだそうで。

「絶対に荷物は止めない」と豪語したエレナの言葉なども考え合わせると、意味深いですね。
その心意気があっぱれというのでなく、
人間性を無視した利益重視の社会のあり方について・・・。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「ラストマイル」

2024年/日本/128分

監督:塚原あゆ子

脚本:野木亜紀子

出演:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、酒向芳、火野正平、

   石原さとみ、井浦新、窪田正孝、綾野剛、星野源

テレビドラマとのコラボ度★★☆☆☆
社会問題度★★★★☆
満足度★★★.5


「虹色図書館のへびおとこ」櫻井とりお

2024年08月26日 | 本(その他)

学校へ行かなくても、安心して居られる場所があれば

 

 

* * * * * * * * * * * *

いじめがきっかけで学校に行けなくなった、小学6年生の火村ほのか。
居場所を探してたどりついた古い図書館で、
体の半分が緑色の司書イヌガミさん、
謎の少年スタビンズ君、そしてたくさんの本に出会い、
ほのかの世界は少しずつ動き出す! 
シリーズ累計7万部、「虹いろ図書館」シリーズ、はじまりの物語。

* * * * * * * * * * * *

本作、私がよく行く書店の、書店員オススメ本コーナーにあったのが目につきました。
「虹色図書館」シリーズとして現在まで5冊出ているところの
第一冊目ということのようです。

 

まず始めに、小学生6年の火村ほのかがクラスでいじめられるシーン。
私、そこでちょっと失敗したかな?と思ってしまいました。

私、いじめの話が苦手なのです。
昨今当たり前のように出てくるいじめの話。
こんなだから世間では「いじめ」はあって当たり前みたいな雰囲気に
なってしまっているのではなどとも思ってしまう・・・。

 

ほのかは始めのうち果敢にも耐えて学校に行くのですが、
ついに、行こうと思っても足が前に進まなくなってしまう・・・。
そこで、行き場を探して彼女がたどりついたのは、図書館なのでした。

そこの司書の青年は、顔半分が緑色という、一見ぎょっとするもの。
あのクラスのいじめ主犯が「へびおとこ」と呼んでいたのですが、
そんな呼び方が間違いであることが分る程度には、まっとうな精神の持ち主のほのか。
無愛想なこの青年は、彼女にとって大切な図書館のひとときを守ってくれる人物、イヌガミさんです。

 

このイヌガミさんだけでなく図書館の人々は、
「なぜ学校に行かないの?」とか「サボっていないで、ちゃんと学校に行きなさい」
などとは決して言いません。
黙ってほのかの居場所を提供してくれる。
そして、この図書館に同じく通っている中学生の少年もいます。

次第に図書館の行事などを手伝うようにもなるほのか。
図書館という大切な居場所を得て、ほのかは生きる力を身につけていきます。
まあつまり、少女のこういう成長を描くために、
「いじめ」の話になってしまうのは仕方ないことでした・・・。

 

この話は、図書館が利用者個人のプライバシーを守る
というポリシーを持っていることが根底になっています。
「図書館戦争」を懐かしく思い出しました。

書店員さんオススメというのも納得の作品。


「虹色図書館のへびおとこ」櫻井とりお 河出文庫

満足度★★★★☆

 


ぬけろ、メビウス!!

2024年08月24日 | 映画(な行)

なんもいえない

* * * * * * * * * * * *

建築会社で働いていた櫻川優子。契約社員の5年ルールで、
正社員になる前に雇い止めを宣告されてしまいます。

そこで、かつてあきらめた教員になる夢をかなえるべく、24歳にして大学進学を目指します。
ところがそんな矢先に、イケメンの裕福な青年と出会い、ふと別の夢を見てしまいます。
優子には現在付き合っている彼氏がいるのですが・・・。

私、この優子のあまりのバカさに途中で見る気が失せて、もうやめようかと思ってしまいました。
この場合の「バカ」というのは、いわゆる偏差値的な優劣ではなくて、
生き方というか思考回路についてです。

イケメンの金持ち青年と付き合うにあたって、優子は自分を「優奈」と名乗り、
専門学校卒なのに大卒と嘘をつきます。
そうして結婚を前提としたお付き合いを始めて、彼の家族にまで会う。
まさか、と思いますよね。
学歴詐称だけならともかく自分の名前まで偽って、
どうやって結婚できるなどと思うのでしょう・・・。
このバカさに、全く感情移入できず、むしろムカつくばかり・・・。

ところが、この金持ち親子もまた、学歴だけで人を図ろうとするクズ親子。
お金持ちがみんなこうした思考をするわけでもないのに、
優子のバカさに加えてなんたる浅い描写。
あ~酷い映画・・・。

しかし、「せっかくだから最後まで見なきゃね」と自分を励ましつつ見たところ、
まあ、なんとか普通に軌道修正して、
優子は嘘がばれて失恋したあげく、頑張り始めるのでした・・・。

そもそも、現状に不満があるのだったら、
契約社員だったときからもう少し先のことを考えておきなよって話。

私は元気な女の子は好きだけれど、バカな女の子は嫌い・・・なんだな、つまり。

 

「抜けろ、メビウス!!」

2022年/日本/93分

監督:加藤慶吾

脚本:村上のん

出演:坂ノ上茜、藤田朋子、細田善彦、田中偉登、松原菜野花

おバカ度★★★★★

満足度★★☆☆☆


ナチスに仕掛けたチェスゲーム

2024年08月23日 | 映画(な行)

チェスにのめり込むほかなかった

* * * * * * * * * * * *

オーストリア作家シュテファン・ツバイクが1942年に発表し、
命をかけてナチスに抗議したとして世界的ベストセラーになった小説「チェスの話」の映画化です。

 

ヨーゼフは久々に再会した妻と共に、ロッテルダム港からアメリカへ向かう豪華客船に乗ります。

それ以前、1930年代のウィーン。
公証人の仕事をしていたヨーゼフですが、
ナチスドイツがオーストリアを併合するやいなや、ナチ将校に拉致されます。
そして、貴族の資金の預金番号を教えるよう迫られるのです。
しかしヨーゼフは回答拒否。
ホテルに監禁されることに。

・・・そんな過去を挿入しながら、船上の出来事も進んでいきます。

船上ではチェス大会が開かれていて、世界王者が乗客全員と対戦しています。
ヨーゼフが船のオーナーに助言をしたことから、
ヨーゼフと世界王者が対戦することになり・・・。

 

さて、ホテルに監禁されたヨーゼフはどうなったのか。
ホテルに監禁などと言うと、なんだか快適そうにも聞こえてしまいます。
けれど、本当にその一室に閉じ込められて一歩も外に出ることができません。
水も出て食事は運び込まれる。
けれど窓は開かず、ただ無為に時間が流れるだけ。
音楽も、本も無し。
このナチ将校は体に苦痛を与える拷問はしないといい、
しかし、何もすることがないという精神的拷問を、時間をかけて仕掛けてきたのです。

しかしあるとき、ひょんなことからヨーゼフは一冊の本を手に入れます。
とにかく活字に飢えていたから、どんなモノでもかまわないと彼は思った。
しかしそれはヨーゼフには全く興味の外であるチェスの対戦記録の本でした・・・。

彼は一度は絶望を感じたものの、しかしそれでもないよりはマシと、
監視の目を盗みつつ、パンでチェスの駒のようなものを作り、
チェス盤はトイレの床の市松模様を利用。
ヨーゼフはチェスの世界にのめり込んでいきます・・・。

つまりそれで、ヨーゼフは世界王者と対戦できるくらいにチェスが上達したというわけなのですが・・・。

チェスにのめり込みすぎたヨーゼフの世界がゆがんでいく・・・。
意外なラストに言葉を失います・・・。

 

本作の題名「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」ですが、
まあ、確かにナチスのおかげで酷い目にあう話ではあるけれど、
でも本作は、ナチスの非道さを主題としたものではなくて、
「自由を奪われる」ということの意味を言っているわけなので、
原題「チェスの話」のままの方が良かったのでは?

ナチ将校とチェス世界王者が一人二役、つまり同一人物が演じていたというのには、
私は気づきませんでした。
あまりにも様子が違うので・・・。
でもこのストーリー全体を考えてみると、一人二役は必然なんですね。

とてもよく練られている作品です。

<Amazon prime videoにて>

「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」

2021年/ドイツ/112分

監督:フィリップ・シュテルツェル

原作:シュテファン・ツバイク

出演:オリバー・マスッチ、アルブレヒト・シュツク、ビルギット・ミニヒマイアー、アンドレアス・ルスト

苦痛度★★★★★

混乱度★★★★☆

満足度★★★★☆


おもかげ

2024年08月21日 | 映画(あ行)

2人の間にあったものは何?

* * * * * * * * * * * *

スペインに住むエレナは、元夫と旅行中の6歳の息子から
「パパが戻ってこない」という電話を受けます。
しかし、人気のないフランスの海辺からかかってきたその電話が、
息子の声を聞いた最後になってしまいました・・・。

10年後。
エレナはそのフランスの海辺のレストランで働いています。
いきなりスペインからやって来て、住み着いてしまったエレナを
周囲は変人と見ているようなのですが・・・。

ある日海岸を散歩中に、エレナはどこか息子の面影を持つ少年ジャンと出会います。
エレナに興味を持ったジャンは、彼女の元を頻繁に訪れるように。
この2人の関係は、周囲の人々に混乱と戸惑いをもたらします。

 

冒頭、1人海岸に取り残された息子は映像には現れず、
電話を受ける母エレナがひたすらパニックに陥っていく様子が描かれるのみ。
その後どうなったのかには一切触れられず、いきなり10年後になります。

おそらくそのまま息子は見つかることがないか、あるいは遺体が見つかって、
エレナはせめて息子を偲ぶ場所にいたいと思い、この地に移住してきたのでしょう。
そんなエレナが、生きていれば調度このくらいか、心なしか顔も似ている
あどけない笑顔をした少年と出会うのです。
それはもちろん、母が子供を思う感情。

でもジャンからするとそれはどうなのか。
エレナが自分に興味を抱いていることは伝わる。
そうして次第に親しくなって・・・。
そばにいて安らぎを感じる相手というのは分るのですが・・・。

私は、実は息子は生きていて、それがジャンだったなどという
いかにもドラマチックなストーリーかと思ったのですが、そうではありませんでした。
そうした疑惑をエレナが持たなかったところを見ると、
やはり息子の死は実際に確認されていたのでしょうね。

ジャンは家族とともに夏のバカンスとしてこの地に来ていたのです。
だから特別愛情に飢えた子供というわけでもない。

 

結局この2人の間にあったものは何だったのか。

イマイチ私には分りませんでした・・・。
それとも、分らないのが正解なのか・・・?

 

<Amazon prime videoにて>

「おもかげ」

2019年/スペイン、フランス/129分

監督:ロドリゴ・ソロゴイェン

脚本:ロドリゴ・ソロゴイェン、イザベル・ペーニャ

出演:マルタ・ニエト、ジュール・ポリエ、アレックス・ブレンデミュール、アンヌ・コンシニ

 

緊張感度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


ハロルド・フライのまさかの旅立ち

2024年08月20日 | 映画(は行)

いざ、イギリス縦断を徒歩で!

* * * * * * * * * * * *

レイチェル・ジョイスによる小説「ハロルド・フライの思いも寄らない巡礼の旅」の映画化。

私、本作のざっとしたあらすじを見て、あれ?前に見たことある?と思ったのです。
一人の老人がイギリス縦断の旅をする。
私が2年前に見たそれは「君を想い、バスに乗る」で、移動は主に路線バス。
妻を亡くした男性がイギリスの北から南へと旅をします。

でも、それとは違う本作は・・・

ビール会社を定年退職し、妻モーリーン(ペネロープ・ウィルトン)と平穏な日々を過ごしていた
ハロルド・フライ(ジム・ブロードベント)。
そんな彼の元に一通の手紙が届きます。
それはかつてビール工場で一緒に働いていた同僚、クイーニーからのもの。
ホスピスに入院中の彼女の命はもうすぐ尽きるという、お別れの手紙でした。

近所のポストから返事を出そうと家を出たハロルド。
しかし途中で思い立って、800キロ離れた北の地にいるクイーニーの元を目指して、
そのまま手ぶらで歩き始めてしまいます。
ふだんろくに歩いたこともないハロルド。
あっという間に、足はボロボロ、体もヘロヘロ。
そんな時には過去のイヤな思いが蘇って、気持ちまでもが落ち込んでしまう・・・。
でも、救いの手を差し伸べてくれる人もいるものです。
そしてそんな彼のひとり旅のことがSNSで広まり、
道中を同行しようという人々が集まったりもするのですが・・・。

ということで、老人がイギリスを南から北へ徒歩で旅するロードムービー。
さて、でも本作は、取り残された妻の物語でもあるのです。

妻・モーリーンはいきなり手紙をよこしたクイーニーという女性のことを知りません。
夫はなんだか悩みながら返事を書いていて、そして手紙をポストに出しに行ったきり帰ってこない。
一体夫とどういう関係の人なのかと、疑ってしまいますよね。
そもそも、この夫婦、あまりしっくりいっていなかったようなのです。

電話で「クイーニーの所まで歩いて行く」と告げたきり帰ってこない夫。
もう自分のところには帰ってこないのではないか・・・。
1人家に取り残された彼女は、これまでの夫とのよそよそしい関係を後悔しはじめるのです・・・。
そして、2人がこのような冷えた関係になってしまった原因がありました。
それは2人のひとり息子のこと・・・。

長くつらい旅は、自分と家族の過去と向き合う旅。
それは1人残された妻にとっても同様だったのです。

感慨深い作品。

 

<シアターキノにて>

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」

2022年/イギリス/108分

監督:へティ・マグドナルド

出演:ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン、リンダ・バセット、アール・ケイブ

家族愛度★★★★☆

ロードムービー度★★★★☆

満足度★★★★★


「成瀬は天下を取りに行く」宮島未奈 

2024年08月19日 | 本(その他)

ユニークな成瀬から目が離せない

 

 

* * * * * * * * * * * *

2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。

M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。

2023年、最注目の新人が贈る傑作青春小説!

* * * * * * * * * * * *

2024年本屋大賞受賞作です。

主人公・成瀬のずば抜けた個性があまりにもユニークで、目が離せません。
その成瀬のことを、まずは幼馴染みの友人・島崎の視点から語られます。

 

双方、中学2年の夏休みの始まり。

彼女らは滋賀県大津市の膳所(ぜぜ)というところに住んでいるのですが、
そこにある西武大津店が閉店となる、というのが事の発端。
そのため地元のテレビ局が閉店までの一ヶ月間、毎日そこから中継を行うことに。
そこでいきなり成瀬が、毎日西武大津店に通って中継に映り込もうというナゾの志を立て、
島崎はそれを見届ける役割を受けることにします。

 

成瀬は頭が良いのですが、どうも発想が人とは異なっていて周囲からは浮いている・・・。
そんな彼女の突拍子もない志に付き合わされる島崎と、
あきれたり感心したりする周囲の人々のことが描かれていきます。

仕方なく付き合っているように見える島崎も、
実は面白くてのめり込んでいた、というところもいいなあ。

その後に成瀬はM-1グランプリに挑戦したり、
高校の入学式には丸坊主で現れたり・・・実にユニーク。

 

成瀬のあまりの変人ぶりに、この人は若干人の感情には興味がないのかな?
などと思って読み進んでいくと、
最後には成瀬自身の視点で語られていて、
いやいや、ちゃんと繊細で乙女なことが分ってこれもまた感動。
ますます成瀬が好きになってしまいます。

続巻もすでに出ているので、ぜひ読みたいと思います。

 

「成瀬は天下を取りに行く」宮島未奈 新潮社

満足度★★★★★

 


にしきたショパン

2024年08月17日 | 映画(な行)

芸術の頂点でなくても、人の心を動かすことができる

* * * * * * * * * * * *

幼馴染みの凛子と鍵太郞は、共に
だるま先生と呼ばれる高校音楽教師の元でピアノを学んでいます。
鍵太郞は、門下生の中でも一番の腕の持ち主で、作曲もこなします。
得意はラフマニノフ。
彼の家は母子家庭で金銭的に余裕がないため、音大に進むことはあきらめ、
間もなく行われるコンクールでワルシャワへの留学特典を得ることを目指しているのです。

一方、凛子は不器用でコツコツ努力するタイプ。
ショパンに憧れています。
音大進学希望。

さてところがそんな時に、あの阪神淡路大震災が起こります。
鍵太郞の母は亡くなり、自身は腕を負傷。
高度な技術を要するピアノは、弾けなくなってしまいます。

コンクールには鍵太郞の代わりに凛子が出場し、
なんと優勝し、ワルシャワ留学特典を得てしまった・・・。
凛子は鍵太郞に申し訳ない気持ちを抱きながら留学し、
数年後、帰国します。

しかし鍵太郞は、すっかり変わり果てていて・・・。

 

互いに淡い気持ちを抱いていた二人。
しかしこの二人の人生を震災がぶち壊す。

困難もありながら、二人が切磋琢磨して成長していくというような、
ゆるいロマンチックなストーリーを予想していたのですが、意外とシビアでした。

鍵太郞は、ピアノは弾けなくなったものの、
作曲の才能を生かし、とあるピアニスト専属の作曲を行うようになっていました。
しかもその彼女とは愛人関係に・・・。
そんなところへ凛子が帰国。
鍵太郞は凛子への気持ちを残していたのですが、
しかし自分の今の境遇を捨てれば生活が成り立たない・・・。
そんなジレンマに襲われて、凛子にはつらく当たることしかできないのです。

そしてまた、凛子は指に重大な神経疾患を発症し・・・。

 

芸術の頂点を目指すピアノ。
もちろんそういうものはあるわけですが、
でもそうではなくても聞く人の心を動かす音楽もある・・・。
例えば左手だけで弾くピアノというものもあったりして、
それが聴衆に深い感動をもたらしたりもします。

高校生の時の二人が、寄り添って弾くピアノの楽しさ・・・。
音楽はどんな状況に合っても私たちに寄り添うことができるのだな・・・。

<Amazon prime videoにて>

「にしきたショパン」

2020年/日本/90分

監督:竹本祥乃

脚本:竹本祥乃、北村紗代子

出演:水田汐音、中村拳司、ルナ・ジャネッティ、泉高弘

挫折度★★★★★

満足度★★★☆☆


ラウンダーズ

2024年08月16日 | 映画(ら行)

手放しでは楽しめない・・・

* * * * * * * * * * * *

ちょっと古い作品ですが、最近はアマゾンプライムのオススメに出てくるものを、
ほとんど気の向くままに見ておりますので・・・。

マット・デイモン、さすがに若いですよ!

 

ロースクールの学生マイク(マット・デイモン)は、ポーカーの天才で、
学費もカードの賭けで稼いでいました。
ところがある日、もぐりの賭場でロシアンマフィアのテディKGBに
差しの勝負を挑んで敗北。
それまで貯めていた全財産を奪い取られてしまいます。

そのことがあって、マイクはすっかりポーカーからは足を洗い、
安いバイトで食いつなぐ生活を送っています。
共に住む彼女も賭け事には拒否感を持っていて、
マイクがまた賭け事に手を出さないかと警戒しています。

さて、そんなところへ、旧友のイカサマ師、ワーム(エドワード・ノートン)が出所してきます。
彼に引きずられるように、またポーカーに手を出してしまうマイク。
それがバレて、恋人は愛想を尽かして出て行ってしまいます。
さらには、マイクはワームの借金の保証人にされていて、
期限までに大金を返済しなくては命も危ない状況に陥って・・・。

 

 

ポーカーは人の心理を読む崇高なゲーム・・・、
とはいえ大谷選手がらみの騒ぎがあってからはギャンブル依存症は
いずれ身を滅ぼすということも社会の共通認識を得ているとき。
物語と分っていても、あまり心穏やかではありません。

マイクが一度全財産を失って、しばらくポーカーから離れることができたのが奇跡のようです。
でも結局やめられなかったという話。

題名の「ラウンダー」は、勝負師の意味。
ちょっとカッコ良すぎですね。
男のロマン、とか?
まあ、あおっているわけでもないのですが、
今時はやはり手放しで楽しんで見ることはできない感じ・・・。

 

 

「ラウンダーズ」

1998年/アメリカ/121分

監督:ジョン・ダール

出演:マット・デーモン、エドワード・ノートン、ジョン・タトゥーロ、
   ファムケ・ヤンセン、グレッチェン・モル、ジョン・マルコビッチ

イチかバチか度★★★★☆

満足度★★★☆☆


リミテッド

2024年08月14日 | 映画(ら行)

身を滅ぼすもの

* * * * * * * * * * * *

時は近未来というところでしょうか。
高度な文明社会は何らかの要因で破滅した後、という感じです。

砂漠を旅する2人の男が巨大な金塊が埋まっているのを発見します。
大部分が地下に埋まっているため、人力では掘り出すことも運び出すことも不可能。
そこで、ひとりが発掘に必要な道具を調達しに行き、
その間、もうひとり(ザック・エフロン)がその金塊を見張ることになりました。

しかし残された方には、衛星電話とわずかな水とほんの少しの食料があるだけ。
しかも仲間は2~3日くらいでは戻れそうにもありません。
仲間の帰りを待つ男は、灼熱の大地で、飢えと乾きに耐え、
襲い来る野犬と対峙するなど孤独な戦いが始まります。

そしてそんなところに1人の女が通りかかります・・・。

 

こんな砂漠のど真ん中で、金塊がどんな役に立つというのか・・・。
それを必死に守ろうとする姿は考えてみれば滑稽でもあります。
が、確かに文明崩壊後でも金には価値がある。
無事に街までたどり着けさえすれば。

問題なのは、そういう人の欲望なのであります。

砂漠で生をつなぐのは非常に苦痛。
けれど後に、彼はそうした苦痛以上の苦難を体験しさらなる悲劇へ突き進みます。

でも、そもそもその金塊は1人占めするには多すぎるほどの巨大なもの・・・。
まあ千人もの大群がやってくるなら別ですが、
一人や二人、分割する人数が増えてもかまわないのでは・・・? 
むしろ協力関係を結ぶべきでしょう。

しかしそんなことは考えつきもしないような、
その欲望こそが身を滅ぼすのです。

 

本作、原題は「Gold」。
そのものズバリ、この原題のままで良かったのでは?

ほとんどが荒涼とした砂漠の風景。
私はアメリカのどこかかと思って見ていましたが、オーストラリア作品でしたね。
なるほど。

先日見た「ムーンロック・フォー・マンデー」でも、砂漠をさまよっていたな・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「リミテッド」

2022年/オーストラリア/96分

監督:アンソニー・ヘイズ

出演:ザック・エフロン、スージー・ポーター、アンドレアス・ソビク、アンソニー・ヘイズ

灼熱地獄度★★★★☆

欲望度★★★★★

満足度★★.5


ブルーピリオド

2024年08月13日 | 映画(は行)

芸大入試もまた、ドラマなのです!

* * * * * * * * * * * *

漫画大賞2020受賞の、山口つばささんによる人気漫画の実写映画化です。

 

高校生・矢口八虎(眞栄田郷敦)は、成績も良く、友人付き合いもソツがない、
順調な高校生活を送っています。
しかし周囲の空気を読んで生きる日々に、物足りなさを感じています。

美術の授業で「私の好きな風景」という画題を出され、
一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみます。
これが思いのほか自分のイメージに近く描き上がっていて、
そして周囲の友人たちにも褒められるのです。
絵を通じて、始めて本当の自分をさらけ出せたと思う八虎。
それから、美術に興味を抱き、のめり込んでいきます。
そして、国内最難関の美術大学、東京藝大受験を決意。
現役生の倍率200倍。
この難関に八虎はどのように立ち向かっていくのか・・・!?

これまで絵に興味もなく、芸大に進みたいなどという級友を馬鹿にすらしていた八虎。
芸大を出たところで良いところに就職できるわけでもなく、お金にもならない。
ムダなこと・・・、と。

でも、自分自身を表現する芸術の意義を見出し、
さらにもっといろいろなことを学びたい、高めたい・・・、
そんな思いで、東京藝術大学受験を決意。
家はさほど裕福というわけではないので、私立の学校ではダメなのです。
芸大入学のための予備校に通うことにして、彼にとってはほとんどゼロからの出発。

自分は天才ではないので、とにかく努力、努力。
・・・青春ですねえ。

彼の周囲の友人たちがまたいいのです。
常に女装している鮎川龍二(高橋文哉)。
一年先輩で先に美大へ進学した森(桜田ひより)。

これぞ天才という腕の持ち主・世田助介(板垣李光人)は、
友人を見下し、親しく交わろうとしない。

彼らそれぞれもまた、いろいろな葛藤の中を生きています。

 

入学の二次試験で八虎が仕上げた作品がすごくステキでした♡
実物を見てみたい。

高橋文哉さんの女の子姿が、素晴らしくカワイイ!!

 

<シネマフロンティアにて>

「ブルーピリオド」

監督:萩原健太郎

原作:山口つばさ

脚本:吉田玲子

出演:眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子

 

青春度★★★★☆

芸術度★★★★☆

満足度★★★★☆


「あしたのことば」森絵都

2024年08月12日 | 本(その他)

みずみずしく、若くてしなやかな感情

 

 

* * * * * * * * * * * *

思っていることが、なんで言えないんだろう。
おしゃべりな周也と寡黙な律が、ちょっとした行き違いから、気まずいまま下校していると
――小学校国語教科書に掲載された「帰り道」をはじめ、
口に出せなかった思いをめぐる「遠いまたたき」、
転校先で新たな一歩を踏み出す「あしたのことば」、
文庫化に際して新たに加えられた書き下ろし「%」など、
言葉をテーマにした9つの物語。
子どもからおとなまで、すべての人の心に染みる珠玉の短編集。
人気イラストレーターとの豪華コラボも実現し、
しらこ、赤、長田結花、早川世詩男、100%ORANGE、植田たてり、
酒井以、中垣ゆたか、阿部海太、今日マチ子のイラストを収録。

* * * * * * * * * * * *

森絵都さんの短編集です。
多くが小・中学生が主人公。
学校の友人関係をテーマとしているものが多いのですが、
中の「帰り道」は、小学校の教科書に掲載されたものだそうです。

思ったことがポンポン口から飛び出してしまう周也と、
なかなか思いを口に出すことができない律。
いつもは仲が良いのですが、その日ちょっとしたできごとがあって、
気まずい雰囲気になってしまっています。
仲直りしたくて、律の帰り時間に合わせて一緒に帰ろうとした周也。
けれど、やはり気持ちは行き違っているようで、黙りこくったまま歩き続きます。
でもそんな時、不意の出来事があって・・・。

始めは律の視点で、次には周也の視点で、同じ場面が繰り返して描かれています。
気持ちのわだかまりが、ある出来事でするするとほどけていく・・・。

ほんのささやかな出来事ではありますが、
些細なことで気持ちがモヤモヤして、
そしてそれとは全く別の出来事でなぜかモヤモヤが消え去っていく・・・。
そんな出来事も、私たちの日常の中では、特にめずらしいことでもないのかも知れません。
でも、小学生というみずみずしい心の土壌でそれが起きるというのは、
意味があることのように思えます。
自分とは別の存在があって、それは自分自身と同じように互いに尊重すべきもの・・・
そういう意識の芽生えがステキだなあ・・・。

 

もう一つ、「風と雨」という作品では、
2人のみならず3人の視点から描かれています。
風香と同じクラスにいる瑠雨(るう)という子は、言葉を話しません。
家では少しですが話をしているそうで、障害ではなさそう。
だから風香も瑠雨とは親しいわけではなかったけれど、
ある時、瑠雨が音楽に興味を持っているらしいことに気がつきます。
それでついある日、おじいちゃんの“ヨウキョク”を聞きに来ないかと誘ってしまうのですが・・・。

“ヨウキョク”というのが何なのかがミソ。
風香と瑠雨、そしてそのおじいちゃんの視点で描かれる物語。
これも面白い。

 

総じて、私、すっかりおばちゃんではありますが
気持ちだけは若いつもりでおりました。
しかし本作を読んで、イヤイヤイヤ、
小中学生くらいの本当にみずみずしくて若くてしなやかな気持ち・・・、
これはさすがに忘れ去ってしまっていたかも・・・と、今さらながらに認識しました。
つまりは著者がそういう所をもしっかり描写できているということなのでしょう。

教科書掲載も納得。

「あしたのことば」森絵都 新潮文庫

満足度★★★★★