映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

リアル 完全なる首長竜の日

2013年12月31日 | 映画(ら行)
意識と幻想の迷宮

 


* * * * * * * * * *

本作は、原作を読んでとても面白く感じられたのもですが、
映画は見逃していたため、このたび見てみました。
ストーリーは原作とはかなり変えられていますが、
“センシング”という最先端の医療技術で
昏睡状態の人と意志の疎通を図る、というコンセプトは同じです。

→乾緑郎「完全なる首長竜の日」はこちら


幼なじみで恋人同士の浩市(佐藤健)と敦美(綾瀬はるか)。
敦美は1年前自殺未遂で昏睡状態になっています。
浩市は“センシング”により、敦美の意識の中へ入り込み、
彼女の自殺の真相を探り、彼女を目覚めさせようとします。

ところがセンシングを繰り返すうち、
次第に見覚えのない少年の幻覚を見るようになり・・・。



次第にどこまでが現実なのか、センシングの意識の中なのか
境界が曖昧になってきます。
しかし、そのセンシング中の、美しくも危うく仄暗いイメージが秀逸。
敦美が水浸しの部屋にいるシーン、
空き家のカーテンのゆらめき、
人でありながら人ではないフィロソフィカル・ゾンビたち。
不気味で不思議で・・・ゾクゾクさせられます。
そして何よりもCGの首長竜が美しい。



ストーリーはやや異なるものの、
原作の怪しく美しく幻想的な雰囲気がそのまま、
なかなか楽しめました。
本の中で印象に残った「波間に見える赤い旗竿」が映しだされた時に、
私はようやくおぼろげなストーリーを思い出した次第。
印象的で効果的なアイテムですね。



私には、綾瀬はるかさんの「新島八重」の印象が拭い難く、
今にも「さすけねえか?」と言い出しそうな気がしてしまって仕方ありませんでしたが。
(オダギリジョーも出てたし!)

リアル~完全なる首長竜の日~ スタンダード・エディション [Blu-ray]
佐藤健,綾瀬はるか
アミューズソフトエンタテインメント


「リアル 完全なる首長竜の日」
2013年/日本/127分
監督:黒沢清
出演:佐藤健、綾瀬はるか、オダギリジョー、染谷将太、堀部圭亮、中谷美紀
美しさ・不気味さ★★★★☆
満足度★★★☆☆

ハンナ・アーレント

2013年12月29日 | 映画(は行)
「信念」を支えるもの



* * * * * * * * * *

女性哲学者として知られるハンナ・アーレントは、
ドイツに生まれ、ナチスの迫害を逃れてアメリカへ亡命したユダヤ人です。
その彼女が1960年台初頭、
ナチスの高官アドルフ・アイヒマンの裁判の傍聴記事を執筆し、発表。
ところがその記事が大論争を巻き起こし、バッシングを受けることとなります。


彼女は、アイヒマンを冷酷非情な怪物ではなく、
上官の命令を黙々と遂行する凡庸な役人であるとしました。
つまりは自ら思考する能力が欠如している、と。



正直、本作は私の手に余るようでした。
元来抽象的な言葉の多い「哲学」は苦手なのです。
ハンナのこの論は、すんなりと納得できる気はします。
でも、なんとなく感覚的に・・・というだけで、
私など本来の彼女の根っことなっている持論・自説を知りもしないで、
わかったような気になってしまうのは、すごく不遜のような気がしまして・・・。


本作に関していえば、
現に生死に関わるナチスの迫害を受け、家族、友人・知人をなくしたユダヤ人にとっては、
どうにも納得出来ない部分があったのでしょう。
そのことを私は非難できないと思う。
ハンナ・アーレントはその無理解をも思考する能力の欠如と考えたようですが。
「生きることは思考することである」というのは彼女が敬愛する師、ハイデッガーの思考でもあったのですね。
しかし、一般庶民である私を始め、多くの人々は、先導するだれかにひきずられ、自ら考えない。
一度マスコミ等で一方的な報道がなされれば、
皆それに倣えとなってしまう。
その形は現代なおいっそう濃いかもしれません。
彼女のように、自分できちんと考えることが出来る人がたくさんいれば、
そもそも戦争なども起きないかもしれません・・・。



私が本作で思うことは、それよりもむしろ、
そうしたバッシングに遭いながらも、自ら正しいと思うことを、
曲げずに堂々と主張する彼女のその強さです。
絶対悪とはーーー。
考える力とはーーー。
自らも収容所に収監された経験を持つ彼女が、
ここまで学び、あたためてきた持論。
彼女には自分自身の考えに少しのゆるぎもありません。
そして又、そういう彼女だからこそ、
彼女を目の敵にする人も多いけれど、
彼女を信頼し、力になる人々も多いのです。
そこが又彼女の力になっているわけですね。
若く、考えの柔軟な学生たちの拍手に、
彼女はどれだけ力づけられたことか。



このハンナ・アーレントを演じるバルバラ・スコバさんの容貌がいい。
がっしりと意思が強そうで、
けれども怖いオバサンではなくて、
若き日の美しさが想像できて、気品がある。
こんな風に年をとりたいものだなあ・・・と
かねてから思っていたのですけれど。
女として憧れます。



「ハンナ・アーレント」

2012年/ドイツ・ルクセンブルク、フランス
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:バルバラ・スコバ、アクセル・ミルベルク、ジャネット・マクティア、ユリア・イェンテ、ウルリッヒ・ノエテン

信念を持つ人の強さ★★★★☆
満足度★★★☆☆

「こんにちは、花子さん」 眉村卓

2013年12月28日 | 本(その他)
ニヤリとさせられる、職場のストーリー

こんにちは、花子さん (双葉文庫)
眉村 卓
双葉社


* * * * * * * * * * 

描かれている舞台は、たしかに日常の職場だ。
新人類もお局さまもいて、
仕事の進め方や上司との付き合い、昼休みの食事、職場恋愛などなど―だが、
何となく奇妙なのだ。
皆さん、お仕事ご苦労さまです。
日常からほんの少し逸脱した、不可思議な「職場」でひと休みしてください。
オフィスSFショート・ショート集。

* * * * * * * * * *

眉村卓氏のショート・ショート集。
本作はすべて"職場のあれこれ"を題材にしているというところがミソです。
例えば、
★神通力とも呼ぶべき鋭い推察力を身につけた人が、
 それを買われて昇進すれば全くその力がなくなってしまう。

★若き新人の頃、周囲から『魔女』と呼ばれイヤな思いをしたが、
 それは若いころの話・・・。

★見るからに好青年の武部くんは
 いきなり「君は金のやりくりがうまそうだから、結婚しよう」というが・・・

★あるチェーン店のレストランで、
 店員が皆ロボットになりきった動きをすることにしたら・・・。

★精神強化合宿にて、モーレツな会社人間養成研修を受けた横田は、
 モーレツな会社人間になったのか?

★パソコンと向き合うのは得意だけれど、人とうまく向き合えない僕は、
 ある時上司と共に出張しなければならなくなり・・・

いるいるこんな人、と思ったり、
そんなのあり?と思ったり、
なるほど~と納得させられたり・・・、
題材は普通にオフィスの出来事もありますが、
SF的に不思議な状況もあり。
変幻自在なストーリーに興味はつきません。
確かに多種多様な人が否応なく集められている場所。
学校よりも年齢構成がばらばらで、
それぞれの価値観がありますもんね。
すばらしい才能の持ち主やコツコツ頑張る人が必ずしも出世するとは限らない。
そもそもあえて出世しなくてもいいと考える人もいるし。
なんだかさえないと思っていた人が、
時を経て別の場所で輝いていたりもする。


楽しめる一冊です。

「こんにちは、花子さん」眉村卓 双葉文庫
満足度★★★☆☆

放課後ミッドナイターズ

2013年12月27日 | 映画(は行)
ちょっぴりホラーでへんてこ



* * * * * * * * * *

真夜中の小学校を舞台に、ちょっぴりホラーでへんてこ、
非常にユニークなアニメです。


ある名門小学校の理科室に、
古い人体模型の“キュンストレーキ”がいます。
彼はずっと長く理科室にいたので、天才的科学知識を身につけ、
様々な発明品を生み出している。
タイムマシンもその一つ。
ある日、学校公開で両親に連れられ、三人の幼稚園児がこの理科室に迷い込みます。

マコ・ミーコ・ムツコの三人は、
怖いもの知らずで生意気な今どきのガキンチョ。
理科室のものを壊したり散らかしたり、
キュンストレーキには落書きし放題。
・・・しかし、キュン様は昼間は動けないのでじっと耐えるしかない。
その夜、目覚めたキュンストレーキは怒り狂い、
仕返しをしようと幼稚園児を真夜中の学校に招待。
キュンストレーキの相棒、骨格模型のゴスは、
それどころではない、自分達はもう古く汚くなってしまっていて、明日廃棄されそうな事のほうが心配。
しかし彼の心配をよそに、子どもたちの学校の7不思議探検が始まってしまい・・・。





夜の学校の、理科室、プール、旧校舎のトイレ、デジタルルームに音楽室、
普通は近寄りたくない場所ばかりですが、
この子どもたちのなんと勇ましいこと。
「怖い」という感情を知らないかのようです。
それで、さしもの不気味さを誇る人体模型も骸骨も、
この三人に振り回されっぱなしでたじたじ・・・
そういう不気味さとドタバタを楽しむ作品でありながら、
「タイムマシン」で仕組まれた伏線がびしっと決まっているのが実にお見事。
そして思いがけない、ラストの展開。
すばらしい!
予想以上に満足感の高い作品なのでした。
ジブリばかりがアニメじゃない。
色々な可能性があるものですね。



「放課後ミッドナイターズ」
2012年/日本/95分
監督:竹清仁
出演(声):山寺宏一、田口浩正、戸松遥、雨蘭咲木子、寿美菜子

不気味度★★★★☆
ストーリー性★★★★☆
満足度★★★★☆

鑑定士と顔のない依頼人 

2013年12月25日 | 映画(か行)
鑑定士=偽装を見破ることが仕事だが・・・



* * * * * * * * * *

天才的審美眼を誇る鑑定士でありオークショニアでもある、
バージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)。
彼のもとへ、資産家の両親が残した絵画や家具を査定してほしいという依頼が入ります。
しかし、その依頼人の女性クレアは、
屋敷内の隠し部屋にこもったまま姿を表しません。
好奇心に駆られバージルはひそかに彼女を盗み見てしまうのですが、
その時から彼女に心を奪われていきます。



クレアはつまり引きこもりということなのです。
人に姿を見られることに恐怖心を抱いている。
一方、バージルの方も実は対人恐怖症といいますが、
人と直に触れ合うことに恐怖心を抱いているのです。
だからこの年まで生身の女性を知らない。
 
彼の唯一の心の慰めは、マンションの隠し部屋の壁一面に架けられた古今の肖像画。
それも皆女性です。
この場面にはちょっとグッと来ましたね。
どの絵も皆個性的でたおやか。
実際にこんなコレクションがあったら、
是非見てみたいと思いました。
こんな二人だから気持が引き合ったのかどうか・・・。



ここに登場する自動人形、オートマタのことがまた気にかかります。
私ははじめの方では、
この家に隠れ住んでいるのは実は、オートマタというオチ?
などと疑っていたのです。
もしくは二目と見られない崩れた顔をしているとか・・・。
違いましたねえ・・・。


しかし時にこの女性・クレアが
そんな機械のような表情をしたりするので、ドキドキします。
気まぐれで感情がくるくる変わり、姿を表すこともない。
こんな不可思議な女性で、しかも美女とあっては、
バージルなどイチコロなのも無理はありません。


しかし中盤辺りから、私の心には赤信号が灯り始めました。
絶対に何かある。
これが唯の老いらくの恋の物語であるはずがない。
なんだろう。
狙いはやはりアレなのか・・・。


いやいやそれにしても、ここまで完膚なきまでに破滅を描くスーリーだったとは
いやはや・・・でした。
ジム・スタージェス。
爽やかで良い青年だったんですけどねえ・・・。
あ~・・・。



鑑定士とはつまり偽装を見破るのが仕事。
人の動きを偽装するのがオートマタ。
では人の心は偽装できるのか。
例えば愛は・・・?
そういう物語なのでした。

「鑑定士と顔のない依頼人」 
2013年/イタリア/131分
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルビア・ホークス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン
偽装度★★★★★
お気の毒度★★★★☆
満足度★★★★☆

「グイン・サーガ132 サイロンの挽歌」 宵野ゆめ

2013年12月24日 | グイン・サーガ
これこそグイン!

サイロンの挽歌 (ハヤカワ文庫JA)
天狼プロダクション
早川書房


* * * * * * * * * *

ケイロニアの都サイロンが、黒死病の恐怖に続いて、
強力な魔道を操る黒魔道師たちに脅かされた『七人の魔道師』事件から一年。
豹頭王グインの指揮のもと、復興を目指すサイロンを、
またしても未曾有の災厄が襲った!
発端はトルクの影、"まじない小路"の異変。
そして幽閉された皇女シルヴィアをめぐって暗躍する不可解な男。
忍び寄る見えざる脅威から再び都を守るべく、
豹頭王は心を奮いたたせて走り出すのだった!


* * * * * * * * * *

栗本薫さんを引き継ぐシリーズの第二弾。
ということで、やっぱりぴょこぴょこコンビでお届けしま~す。


前回はパロの物語。
今回は著者が交代してサイロンの物語ですね。
パロにも大変な災難が降りかかったのですが、こちらサイロンも大変なことになっていきます。
まあ、このへんはお二方の意気込みといいますか、
まず大きな事件から入らなければ書き出せないという事情があったのではないでしょうか。
物語は緩急が大事だから、パロにしてもサイロンにしても
こう立て続けに災難に巻き込まれるのはどうも大変すぎ・・・と思わなくもないのですが、
仕方のないところでしょう・・・。
で、この度のサイロン、
ようやく黒死病が収まったと思ったのに、今度は大量のトルクが襲いかかります。
トルク、つまりネズミなんですね。
そのトルクを笛を吹いてあやつる謎の男・・・。
ハーメルンの笛吹きをも思わせる、なかなか面白い設定ではないの。
また、「シルヴィアこそが、このサイロンに災いを呼び起こした張本人だ」との噂が蔓延し、
群衆が彼女の幽閉された塔へ押し寄せるという事態に・・・。
いやほんとに、難儀なことです。
が、つまりこれらは当然「魔導」に導かれているわけで、
影で糸を操っているのは一体何者なのか。
そういう大きな謎があるわけなんですね。
そういうこと。


でもこの本でよかったのは、それに対峙するのがほかならぬ"グイン"であること。
慌てず騒がず、冷静な判断と的確な指示。
グインがいれば大丈夫、そう思わせてくれます。
実はそれこそがグインのグインたるところ。
立派にグインが帰ってきました! 
宵野さん、ありがとう!!
そうなんだよね、申し訳ないけど、前131巻はいかにも登場人物たちにニセモノ感がつきまとったのですが、
こちらは割といい線行っていたように思うのです。
少なくとも、グインはホンモノだ。
で、でもね、最後の最後に、結局又シルヴィアを苦境に陥れてしまったのはグイン、
ということになるのでは・・・?
う~む、でも多分シルヴィアはここであっさり死んだりはしないと思う。
でもどんなに頑張ってもグインはシルヴィアの心を救えないというか、
皮肉な結果にしかならない、というのはもうお約束なのだよ、きっと・・・。
彼女は生き抜いて、たったひとつのグインの弱みで在り続けるわけなんだ。
なるほどねー、そういうことか。
少し気を取り直したので、やはり続きも読んでいくことにしましょう。

「グイン・サーガ132 サイロンの挽歌」宵野ゆめ
満足度★★★☆☆

利休にたずねよ

2013年12月23日 | 映画(ら行)
「美」を追求する人



* * * * * * * * * *

千利休。
茶道の大家としてその名はよく知られていますが、
その悲惨な最後を知る人はあまりいないのではないでしょうか。
かくいう私は、NHKの大河ドラマ「江」で初めて知ったのですが。
(と言うか、知らなかったのは私だけ?)



千利休(市川海老蔵)は豊臣秀吉(大森南朋)に引き立てられ、
天下一の宗匠として名をはせますが、
やがてその秀吉に疎まれるようになり、
武士でないにもかかわらず切腹をすることになります。
今作はどうしてそのようなことになってしまったのか、
ということで、千利休のたどった年月を追っていきます。
でも私、本当はその利休と秀吉の心理的・政治的確執・葛藤のようなものを期待していたのですが、
ここではそれは薄いのです。
利休の人生を貫いていたのはひたすらに「美の追求」なんですね。
他のことは実はどうでもいいというか、興味が無い。

そして又もう一つ、彼には心の中に秘めたある人への“思い”がある。
彼は若き日、高麗からさらわれてきた美しい女性に心奪われるのですが、
これがどうしようもない悲恋に終わってしまう。
彼の“美”への探求はそこが原点。
したがって、朝鮮征伐を目論む秀吉は、
大切な思い出の人の故郷を踏みにじる許せない男。
そんな男におべんちゃらなど使えない。
自ら死して抗議をするという意味があったのでしょう。
武士ではなくとも、切腹という死に方が、
彼にとっての「美意識」を満足させるものだったのです。
まあ、そういうストーリーなので、
ここでは秀吉との感情的確執・葛藤というのはあまりクローズアップされません。
そういう点でいえば、「江」ではよく描けていたと思います。



さてさて、それにしても、海老蔵さんはさすがと言わざるを得ません。
その立ち居振る舞いや所作の美しいこと。
お茶をたてるにも「おもてなし」の心で、
格式張らず動作も自然で滑らか。
なんというか、こういうふうにお茶を出されたら、
こちらはお茶の作法など何も知らなくても、
ただ自然に味わえばいいのだなあ・・・
と、思える気がするんですね。
ステキでした。


また、市川團十郎さんが、利休のお師匠さん役。
海老蔵さんとはこれが最後の親子共演となったわけですが、
役柄もピッタリで、記念すべき作品ともなっています。



ちょっぴり笑ってしまったのは、信長役が伊勢谷友介さん。
先の「清須会議」では信長の血筋が皆「鼻筋が通っている」ということで、
伊勢谷友介さんもその血筋の役だったわけですが、
ここではそのものズバリの信長役。
信長さんは鼻筋の通ったハンサムさんだったようですね・・・。



「利休にたずねよ」
2013年/日本/123分
監督:田中光敏
原作:山本兼一
出演:市川海老蔵、中谷美紀、市川團十郎、伊勢谷友介、大森南朋

「チーズと塩と豆と」 角田光代他

2013年12月21日 | 本(その他)
生まれ育った故郷の食・食の文化

チーズと塩と豆と (集英社文庫)
角田 光代,江國 香織,森 絵都,井上 荒野
集英社


* * * * * * * * * *

あたたかな一皿が、誰かと食卓で分かちあう時間が、
血となり肉となり人生を形づくることがある。
料理人の父に反発し故郷を出た娘。
意識の戻らない夫のために同じ料理を作り続ける妻。
生きるための食事しか認めない家に育った青年。
愛しあいながらすれ違う恋人たちの晩餐―。
4人の直木賞作家がヨーロッパの国々を訪れて描く、愛と味覚のアンソロジー。
味わい深くいとおしい、珠玉の作品集。


* * * * * * * * * *

本作、アンソロジーですが
著者が角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織という豪華陣。
しかも題材がヨーロッパの食と愛。
なんてオシャレで、豪華な・・・。
まずはこのアンソロジーの企画を立てた方に拍手!!
いま、オシャレと表現しましたが、
ここに出てくるのは高級なフレンチなどではありません。
その土地に根付いた、その地域独特の、古くから人々が慣れ親しんだ食。
その雰囲気をこの本の題名「チーズと塩と豆と」が見事に表しているのにも又、感嘆してしまいます。
収録されたどの短編の題名でもないのに。


私が最も好きなのは角田光代「神さまの庭」
スペインのバスク地方。
料理人の父に反発し、故郷を出た娘が都会で奔放に生きながら、
いつしか父と同じことを身につけ、仕事にしていくというストーリー。
その実現の仕方はとても時代を反映してもいて、
このたくましい女性の生き方に共感してしまいます。
彼女が根っこに持っていたのは、やはり生まれ育った故郷の食。食の文化。
日本人が描いてもちゃんとスペインの空気感がでている、
というのは当然かもしれないけれど、
やはり著者の力量がものを言っていると感じました。
本巻の、どの短編でもいえることですが。


それから森絵都「プレノワール」は、フランスのブルターニュ地方が舞台で、
ここには「黒麦のしょっぱいクレープ」というのが登場します。
主人公はこれを古臭いつまらない料理と思い、やはり故郷を離れるのですが・・・。
実はこの「黒麦」というのは、
麦の仲間ではなく、ソバの事だったのですね。
フランスのブルターニュでソバに出会うとは思っていませんでした。
鮮烈です。
何やら遠い昔の人々の暮らしにまで思いを馳せてしまう、素敵な作品でした。


「チーズと塩と豆と」 角田光代他 集英社文庫
満足度★★★★★

少年たちは花火を横から見たかった

2013年12月20日 | 映画(さ行)
彼・彼女らには成長するに必要な長い6年だけど、私達にはあっという間。

* * * * * * * * * *

本作は、先日観た
「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」の映画公開から6年後、
撮影時の経緯を振り返ったドキュメンタリー作品です。
主役を務めていた二人、奥菜恵さん、山崎裕太くんが
ロケ地を訪れて当時の思い出を語ったり、
その時のセリフを繰り返してみたり。


奥菜恵さんは、しっかり美少女から美女へ。
そして驚くべきは山崎裕太くん、あの小学生のチビッコが、
こんなふうな立派な青年になってしまうとは、
6年の歳月、恐るべし。
彼と彼女にとっては、俳優として成長するのに必要な長い6年だっとろうと思えるのですが
私のような年のものにとって6年など、あっという間。
まるで昨日のことのよう・・・
(って、だから2.3日前に観たのだった!!)
でも、こんなふうに6年の時を一気に飛び越えて見ることができるというのも、
ある意味シアワセ。


岩井俊二監督も登場します。
実は始めはテレビ番組で、
「もしもこの時こうだったら・・・」という分岐点を幾つか用意して、
その分岐の先がいくつも提示されるような、
そういうドラマの企画だったそうなのです。
ところが、この新進気鋭の岩井俊二監督が、
そんなお約束を全く無視してこのストーリーを作ってしまった。
当時のプロデューサーさんの愚痴ること愚痴ること・・・。
それで、水泳の競争で争う二人のどちらかが勝つかという2つの選択肢の先
・・・というところが一箇所だけ、かろうじて生き残っていたわけなんですね。
場面設定なども撮影しながら試行錯誤で変わったりして・・・。
でも、そうして危うくも揺れながら作った作品が功を奏して、
岩井監督の受賞となったわけですから、面白いものです。
ところでこのテレビドラマの放送当日、
台風で裏番組の野球中継がナシになってしまっていたそうなのです。
だからこそ、ある程度の視聴率が取れた、とのこと。
世の中何が幸いするかわかりません。


奥菜恵さんや山崎裕太くんは言う。
あの撮影の夏は、他のどんな夏よりも思い出に残った夏だった、と。
そうですよね、少年の日の夏休み。
子どもたち同士の色々な思い出もあったのでしょう。
ちょっぴり懐かしくて甘酸っぱい、
そんな気持ちも味わえるこのドキュメンタリーなのでした。

少年たちは花火を横から見たかった [DVD]
奥菜恵,山崎裕太,岩井俊二
ビデオメーカー


「少年たちは花火を横から見たかった」
1999年/日本/90分
監督:岩井俊二
出演:奥菜恵、山崎裕太、小橋賢児、麻木久仁子
岩井監督探求度:★★★★☆
満足度★★★☆☆

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

2013年12月19日 | 映画(あ行)
少年の日の夏休み

* * * * * * * * * *

本作は岩井俊二監督がTVドラマとして初の日本映画監督協会新人賞を受賞した作品。
本来TVドラマなので、50分と非常にコンパクト。
だからこそ、ダレずに凝縮したドラマとなっています。
その後1995年、「undo」とともに、劇場公開されたたとのこと。


小学校最後の夏休み。
登校日にプールの掃除当番があたった、典道、祐介となずな。
なずなは二人の男子のうち、水泳の競争で勝った方と、夕方待ち合わせをしようと思います。
一方同じクラスの少年たちは、
花火は横から見ると丸いのか平べったいのか、論争になります。
それなら花火大会の今夜、
ちょうど会場から真横に当たる灯台のところまで行って確かめてみよう、
そんなことになるのですが・・・。


小学校6年生。
思春期のほんの入り口に立った彼らの、夏休みの一日。
ある者はやんちゃな冒険心に萌え、
またある者は「恋」と呼ぶ以前の戸惑いの感情の中にいる。
みずみずしい少年少女の感性をじっくりと描き出しています。
なずな役の奥菜恵ちゃんがなんて可愛らしい!  
可愛らしいと言うよりは、そう、美少女なんですね。
こんな子がいたら、確かに男の子たちは憧れてしまうでしょう。
プールサイドに寝そべる彼女の首元にアリが這っていて、
それを取りのけようとおずおずと指を差し伸ばす少年が、
ゴクリとつばを飲む。
エロティックと呼ぶにはまだまだ青いのですが、
それがまた鮮烈なんですよね~。
先にちょっぴり大人になってしまう女の子。
まだまだ子供っぽさの抜けない男の子たち。
そういう情景が、微笑ましくもありますが、
なんだか懐かしさすらも呼び起こします。


さて、花火は横から見ると丸いのか、平べったいのか。
答えは本作を見て確かめてくださいね。
少年たちが灯台にたどり着いた時には、もう花火は終わってしまっていたのですが・・・、
でも思いがけず彼らは答えを見ることができます。
そのタイミングの取り方が又よかったですねー。


少年の日、夏休みの花火大会の夜の冒険。
きっと大人になっても忘れないステキな思い出になるに違いありません。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? [DVD]
奥菜恵,山崎裕太,反田孝幸,小橋賢児,岩井俊二,金谷宏二
ビデオメーカー


「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」
1993年/日本/50分
監督:岩井俊二
出演:奥菜恵、山崎裕太、反田孝幸、小橋賢児、麻木久仁子

みずみずしさ★★★★★
夏休み度★★★★★
満足度★★★★★
・・・いうことなし!

ゼロ・グラビティ

2013年12月17日 | 映画(さ行)
宇宙空間での孤独と寂寥が胸に迫る



* * * * * * * * * *


前評判も高いこの作品、奮発してIMAXの3Dでみましたが、
これがドンピシャリ!
こういう作品のためにIMAXと3Dはある。
そう確信しました。



美しく青く輝く地球を見渡しながら、
宇宙空間に浮かんだ宇宙船の船外作業をしていた、
メディカル・エンジニアのストーン博士(サンドラ・ブロック)、
ベテラン宇宙飛行士のマット(ジョージ・クルーニー)。
しかし、予想外の事故で宇宙空間に放り出されてしまいます。
酸素も残りわずか、地球との更新手段も絶たれ、
たった一本のロープでつながっている二人。
一体どうやって地球へ帰り着こうとするのか・・・。



無重力、無音。
そんな世界にたった一人放り出された時の孤独・寂寥感がビシビシと伝わってきます。
そんな中で聞こえてくる人の声のなんとぬくもりに満ちていること。
恐怖でいっぱいのストーン博士に、
極力他愛ない話を穏やかに語り続けるマットの声が心地よいですね。
彼の、こんな状況でも人を思いやる心意気、もう、涙無くして語れません。
男の中の男です!
ほとんどなすすべもなく、恐怖に駆られていたストーン博士が、
彼のおかげで正気を取り戻し、
やるべきことを自覚し、
そして生きる意欲を大きくしていく。
あらゆるパニック映画などででもそうですが、助かる秘訣はただ一つ。
絶対諦めないことなんですよね。
すぐ目の前にある地球、それが始めは果てしもない遠くに思われるのですが、
次第に現実に手の届くものになっていく。
絶対にあそこへ帰ってみせる。
そう思えたのはやはり、マットがいたからこそ。

ラストではこの地球の大地で足を踏みしめることのできる幸せを、いまさら感じてしまいますが・・・
でもその揺るぎない大地、というのも
実はそう確実なことではないのですけれどね。



舞台はひたすら宇宙空間で、登場人物もほぼ二人、後には1人だけなのですが、
次から次へと危機的状況が降りかかる。
私は緊張で思わず体を固くし、拳を握りしめていました。
爆破した機体の破片などがこちらへ向けてビュンビュン飛んでくるので、
思わず体をすくめたり目をつぶったりしちゃいますよ。
無重力の船内を浮かんでいれば、ちょっと酔いそうな気がしたり・・・。
実際に宇宙など行ったこともなく、これから行くこともないでしょうが、
なんとなく、無重力を体験したような気になってしまいました。
こういうバーチャルリアティもありでしょうか。
そうそう、涙が零れ落ちるのではなく、浮遊するのです。
不思議で美しくて、悲しいシーンでした。



本作は是非3Dでご覧になると良いと思います。
そして可能ならばIMAXで。

「ゼロ・グラビティ」
2013年/アメリカ/91分
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー

無重力度★★★★★
興奮度★★★★★
満足度★★★★★

魔女と呼ばれた少女

2013年12月16日 | 映画(ま行)
目を背けたくなる現実と、幻想と



* * * * * * * * * *

コンゴ民主共和国の殺伐とした実情を背景に、
その中でたくましく生きる少女の姿を、幻想的シーンを交えてつづります。



コモナの住む村は貧しいけれども平和でした。
ところがある日、反政府軍が村を襲撃します。
コモナは両親を殺すよう強要され、
そしてそのまま拉致され、反政府軍の兵士に仕立てあげられてしまいます。
全く胸が痛む話ですが、すべて、現実に行われていること・・・。
そんな中で、コモナは死んだ人々の亡霊を見、
その亡霊に導かれることで勝利を招くということで、
次第に“魔女”として崇められるようになります。

でも、いつまでも運の良いことが続くとも思えません。
“魔女”の力を失った時、コモナがどうなってしまうのか、
人の命など虫けら同然のこの世界で、結果は明らかです。
コモナに好意を寄せ、何かと彼女をかばってきた少年兵“マジシャン”は、
彼女を引き連れ、この部隊を逃げ出すのですが・・・。



荒々しく殺伐として、あまりにも過酷なこの国の実情と、コモナの運命。
通常戦争映画ではひたすらその悲惨さを訴え続けるだけなのですが、
本作は少し趣きが異なります。
ファンタジックと言うと言葉が甘くなりすぎますが、
彼女を呼び、導こうとする亡霊たち(むしろ精霊というべきか)の存在が、
この世に生きる彼女に慰めを与えているように思えます。
マシンガンという殺戮の機械を手にしながら、
古くからの言い伝え「結婚のためには白いオンドリが必要だ」ということを守ろうとして
白いオンドリを探し回る二人。

実はそんなふうに無邪気で純情。
「白いオンドリを探している」というと、周りの人々が吹き出してしまうほどに。
合理性のカタマリである武器と、
言い伝えやおまじないのアンバランス。

こんな自分の力ではどうにもならない世の中だからこそ、
そういうものに人はより一層すがるのかもしれません。


具合の悪いコモナを送ってくれた人、
コモナを家族として受け入れようとするおじさん、
こんな場所でも温かい人々が居て、支えあって生きている。
そして、生まれてくる新しい命。
厳しい現実を描き、訴えるとともに、
希望の光を投げかける
この作品。
秀逸です。

魔女と呼ばれた少女 [DVD]
ラシェル・ムワンザ,セルジュ・カニンダ,アラン・バスティアン,ラルフ・プロスペール
アミューズソフトエンタテインメント


「魔女と呼ばれた少女」
2012年/カナダ/90分
監督・脚本:キム・グエン
出演:ラシェル・ムワンザ、セルジュ・カニンダ、アラン・バスティアン、ラルフ・プロスペール、ミジンガ・グウィンザ

殺伐さと優しさ★★★★★
満足度★★★★★

キャプテン・フィリップス

2013年12月15日 | 映画(か行)
極めて現実的なヒーロー像



* * * * * * * * * *


2009年ソマリア海域で起こった海賊船による貨物船人質事件を元にしています。


米国の貨物船マークス・アラバマ号の任務についた、
53歳ベテランのフィリップス船長(トム・ハンクス)。
彼の船がソマリア海域を航海中に、海賊が襲撃します。
船長は20人の乗組員を開放することと引き換えに、
海賊たちとともに小さな救命艇に乗り込み、たった一人で海賊たちと命がけの駆け引きをします。
米海軍の特殊部隊に救出されるまでの緊迫の4日間を描きます。



この船を襲撃する海賊にも、彼らの事情というものがある。
ここでは彼らを単なる悪党やギャングとは描かず、
彼らの切羽詰まった状況をも映し出します。
けれどもいかにも粗野で苛立っていて、乱暴だ。
その存在だけでも怖いのですけれど・・・。



実のところ、このまま人質としてソマリアに上陸し、
身代金を支払えば事は簡単だったようなのです。
その身代金は保険会社が払う。
けれども、事態を余計収集つかなくしたのは、アメリカの意地。
このまま海賊の言いなりになどなったらアメリカの沽券に関わる。
そうした米国国家の威信をかけるといったような意気込みが
余計事態を悪化させる。
うーん、まあ、もちろん正義は貫かねばなりませんが、
ソマリアがこんな風になってしまったことの責も、
突き詰めればアメリカを始めとするほんの一握りの
リッチな国々にあるのではないかと思ったりして・・・。
国家間に歴然としてある貧富の格差・・・。

まあ、それはそれとして、真剣に考えるべきことではありますが、
実際に海賊に襲われる身としてはそれどころではありません。
フィリップス船長は、ひたすらに船長としての責務を果たすべく、
他の乗組員をかばい、自分のできうる最善の行動をとった。
尊敬すべき人物です。
でも、決して、タフなヒーローでもないのです。
最後に、ようやく救出され、海軍の船に乗り込んだ時の彼。
決して、安堵の表情ではありません。
その彼の姿に、どんなにか彼がこれまで気持ちを張り詰めていたのか、
そして、最後の最後、目の前で起きた悲劇的な結末、
そのことの怖さが、リアルに私達に伝わってきます。
そうなのです。
こんな目にあったら、普通の人なら絶対にこうなるに違いない。
そこがドラマではない、現実として私達の胸に迫ります。
トム・ハンクスの代表作が又一つ増えたと思います。
スゴイ作品でした・・・。



「キャプテン・フィリップス」

2013年/アメリカ/134分
監督:ポール・グリーングラス
出演:トム・ハンクス、キャサリン・キーナー、バーカッド・アブディ、バーカッド・アブディラマン、ファイサル・アメッド

緊迫度★★★★★
満足度★★★★★

「光秀の定理(レンマ)」垣根涼介

2013年12月13日 | 本(その他)
確率論から歴史を解く

光秀の定理 (角川書店単行本)
垣根 涼介
KADOKAWA / 角川書店


* * * * * * * * * *

永禄3(1560)年、京の街角で三人の男が出会った。
食い詰めた兵法者・新九郎。
辻博打を生業とする謎の坊主・愚息。
そして十兵衛
…名家の出ながら落魄し、その再起を図ろうとする明智光秀その人であった。
この小さな出逢いが、その後の歴史の大きな流れを形作ってゆく。
光秀はなぜ織田信長に破格の待遇で取り立てられ、
瞬く間に軍団随一の武将となり得たのか。
彼の青春と光芒を高らかなリズムで刻み、
乱世の本質を鮮やかに焙り出す新感覚の歴史小説!!


* * * * * * * * * *


垣根涼介さんが、歴史小説? 
意外性とともに期待が高まります。
信長でも秀吉でもなくて、光秀というところがミソですね。
信長にあんなに目をかけられていながらも、
あえて裏切り、そして破滅の道をたどった光秀の行動の謎。
本作はそれを読みとくのが本題のストーリーではありませんが、
若き日の光秀を描き、晩年の彼の行動の謎をもちょっぴり探ろうとしているので、
そういうところに興味がある方が読んでも面白いと思います。


さて、「定理」と来たら、実は私には苦手な分野なのですが、
本作には「確率論」が出てきます。
光秀が、名家の出ながら不遇な浪人の若いころ、
二人の人物と出会います。
食い詰めた兵法者の新九郎と、
辻博打を生業とする謎の坊主・愚息。
この愚息のする辻博打。
4つの碗が伏せてあって、その内の一つに石が入っている。
どれに入っているかを当てさせるという賭けなのですが、
その手順にそって考えていくと、石の入っている方を当てる確率は2分の1と思えるのに、
繰り返していくうちに何故か愚息が勝つほうが圧倒的に多い。
それはなぜなのか・・・?
光秀が信長にその才能を認められたある合戦の勝敗が、
この確率論に基づいたものだった、という大胆なストーリーです。
その論については、数学の苦手な私にとって完璧に理解したとは言いがたいのですが、
例えば100個の碗だったらどうなのか、
と言われた時にはおぼろげながらわかった気がしました。
不思議な感じがしますが・・・
などという私は完璧にダマされる側ですね・・・。


権力に寄り添わず自由に生きようとする新九郎・愚息と道は違えるのですが、
光秀は彼らに親しみを感じ、認めながらも、
自分の進むべき道を歩んでゆく。
本作では肝心の本能寺の変のあたりはすっ飛ばされて、
それからおよそ15年を経て、
新九郎と愚息が当時の光秀の心境を推し量ります。


ふむ、つまりはその後の日本のために、この謀反は必要なことだったと・・・。
色々と興味は尽きません。
非常に楽しく読みました。

「光秀の定理(レンマ)」垣根涼介 角川書店
満足度★★★★☆


ひまわりと子犬の7日間

2013年12月12日 | 映画(は行)
それぞれの動物の歴史



* * * * * * * * * *

君子危うきに近寄らず・・・、
全然君子じゃないですが、
いかにも泣きそうな今作は公開時あえて避けていたのですが、
結局見てしまいました。
動物ものには全く弱い私です。



宮崎県の中央動物保護管理所であった実話を元にしています。
母犬と生まれたばかりの子犬が保健所に収容されました。
でも母犬は子犬を守るため近寄る人すべてに激しく威嚇します。
このまま規則の期限がすぎれば、
母犬も子犬も殺処分しなければなりません。
職員の神埼(堺雅人)は、
なんとかこの犬の心を開かせ、里親を見つけようと奮闘しますが・・・。



保健所の職員が、預かっている犬にいちいちこのように心を配っていては身が持ちません。
けれどこの犬の場合、神埼と娘の心の絆の問題が絡み、
そういう点では説得力があります。
動物にはこれまで生きてきた歴史がある。
それを理解すれば気持ちが通じあう。

というのが本作のテーマ。
そのため本作はこの母犬(ひまわり)の幸せな成長シーンから始まり、
その後野良犬となってしまってからのことは、
神埼の想像を映像として映し出します。
物言わぬ犬にも歴史があって、
こんなに人間に不信感を露わにするのは、やはりこれまでのことに原因がある。
犬を理解しようとする神埼の一生懸命さが
いつしか犬にも伝わっていくのですね。
やっぱり、涙、涙・・・でした。
犬好きの方なら子犬だけでなく、
このひまわりも、ものすご~く可愛く感じるはず。



それにしても、この犬の感情の捉え方がスゴイ。
これは犬の演技力なのか、
それとも、そういう一瞬の表情を逃さないスタッフの勝利なのか・・・。
まあ、おそらくは両方だと思うのですが、
ある時とうとう神崎の腕を咬んでしまったひまわりが
困った顔をしているのを私は確かに見て取りました。
嬉しい顔、悲しい顔、困った顔、怒りの顔、
こちらの思い入れというわけではなく、
犬の表情というのが確かにあると思います。

 

本作の堺雅人さんは、
私が以前まで持っていたイメージそのままなんですが、
昨今は「倍返し」のおかげで、ちょっとイメージが異なってきていますね。
私はこの、ちょっと優柔不断っぽい堺雅人さんも好きです。



ひまわりと子犬の7日間 [DVD]
堺雅人,中谷美紀,吉行和子,でんでん,若林正恭(オードリー)
松竹


「ひまわりと子犬の7日間」
2013年/日本/117分
監督:平松恵美子
出演:堺雅人、中谷美紀、でんでん、若林正恭、吉行和子

犬の表情の描写度★★★★★
お涙度★★★★☆
満足度★★★★☆