映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

リプリー

2009年01月31日 | 映画(ら行)
地下室の闇の中から抜け出せない

           * * * * * * * *

この作品は公開時に見ているのですが、結構お気に入りなので、再度観てみました。
これはあまりにも有名な「太陽がいっぱい」のリメイク、ということですが、
かなり印象の違う作品。
というか、主人公が殺害した相手に成りすます、という大きな仕掛けが同じくらいで、
ほとんど別物といってもいいくらいです。
前者での主人公はアラン・ドロン。
素敵でしたね~。
しかし、こちらはマット・デイモン。
今でこそ、ジェイソン・ボーンのシリーズですっかりおなじみですが、
当時ではかなり意外な配役だったのでは?と思います。
アラン・ドロンといえばむしろ、こちらで金持ちの放蕩息子役をやっている
ジュード・ロウのほうがイメージが近いですもんね。
これは、前作映画のリメイクではなく、
原作本のリメイクであると初めから割り切った方がよいと思います。

トム・リプリー(マット・デイモン)はニューヨークの貧乏青年ですが、
ある大富豪と知り合い、
イタリアにいる放蕩息子、ディッキー(ジュード・ロウ)を連れ戻してくれと頼まれます。
イタリアへ赴いたトムは、ディッキーに気に入られ、しばらく行動を共にすることになる。
ディッキーは自由奔放、まさに太陽の様な存在なのだけれど、
実は自分の才能もやりたいことも見いだせず、
満たされない思いでいることが伺えます。
その陰りが、女心をくすぐるのですよね~。
確かにこの感じは、ジュード・ロウ向き。

活発ですべてが洗練されているディッキーと、
垢抜けなくしょぼくれたトム。
トムは、ディッキーに憧れ、ひそかに妖しい感情を抱くようになる。
ところが、お坊ちゃまはまた、限りなく気まぐれでもあります。
いつもまとわりつくトムがうっとうしくなり、
ついには出て行くようにと告げるばかりか、
お前なんか気持ち悪いとまで・・・。
逆上したトムはディッキーを殺してしまった。
ここでジュード・ロウの出番はお終いなんですごく残念なんですが・・・。

さて、大変なのはそこから。
トムは、なんとディッキーに成りすますことにするんですね。
もちろん、顔は全然違う。
けれど、異国で自分を知る人もほとんどいなく、
しかも、彼の特技は人のサインのまねをすること。
彼のニセのサインで小切手さえも切れてしまう。

問題は彼をトムと知っている、
ディッキーの恋人マージ(グウィネス・パルトロウ)、
友人のフレディ、
また、彼を最初からディッキーと認識している令嬢メレディス(ケイト・ブランシェット)、
そしてメレディスの友人ではあるが、トムをトムとして認識しているピーター。
(すみません、ややこしくて解りませんね・・・)
相手によって自分を切り替えなければならない。
また、彼ら同士が出会って話をすればおかしなことになってしまう・・・。
こんな危機をどうやって切り抜けていくのか、
そういうところが見所のサスペンスとなっています。

トムは自分の嘘や罪を隠し通すため、さらに嘘と罪を重ねていくことになる・・・。
地下室の暗い闇にただ1人、そこから抜け出せないリプリー。
闇のドアの鍵は誰にも渡すことができない・・・。
決してハッピーエンドにはなりえないストーリーですが、
印象に残る作品です。
ところで、今にしてみればすごい豪華キャストじゃありませんか。
ただし、マット・デイモンの愛情表現はやや物足りないというか、
あんまり妖しい感じがしない。
ジェイソン・ボーンだもんなあ・・・。
やっぱり、タフ・ガイ。そういうイメージの方が強いみたいです。

1999年/アメリカ/140分
監督:アンソニー・ミンゲラ
出演:マット・デイモン、ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロウ、ケイト・ブランシェット、フレディ・ミルス



The Talented Mr. Ripley



「ネクロポリス 上・下」 恩田 陸

2009年01月30日 | 本(SF・ファンタジー)
ネクロポリス 上 (朝日文庫)
恩田 陸
朝日新聞出版

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待望の文庫化です。

この話の舞台、アナザー・ヒルはなんとも不思議な世界。
まずこの世界は、日本が英国の植民地となっていた。
そういう歴史の分岐点があったとして、そちらの系統をたどる未来の英国。
すっかり日本と英国の文化が同化していて、なんともおかしな具合。
そしてさらに、その英国領のどこかにあるアナザー・ヒル。

ここでは一年のうちの一定の時期「ヒガン」に、亡くなった人が帰ってくる。
そう、それは日本のお彼岸のようなものではあるのですが、
なんとそのなくなった人というのは、実体を伴っていて、話もできる。
突然亡くなり、最後の別れも伝えられなかった人々とまた再会し、ゆっくり話をすることができる。
・・・恐怖というよりは懐かしく、うれしいイベントなんですね。
この地のこの行事は、世界的にはウワサには登るものの、
ばかげた迷信だと思われている。
日本人学生ジュンが、実体験するべく、
初めてこの地を訪れるところから物語りは始まります。

広い水路を船で進んで行くと、
アナザー・ヒルの入り口のところには巨大な鳥居がたっている。
なんてミスマッチかつ奇妙な眺めでしょう・・・。
しかし、ちょっと怖いけれど平和な祝祭であるはずのその日、
その鳥居になんと死体が吊り下げられていた・・・。


ファンタジー、ミステリ、そしてホラー。
これらが混沌とする全く不思議なストーリー。
これまで恩田陸のヨーロッパが舞台の作品には、独特の雰囲気がありました。
ちょっとひんやりして物憂くて、寂しくて・・・。
でも、この作品はちょっと雰囲気が違います。
周囲の英国人はやたらと話好きで、人懐っこくて、どこかユーモラス。
「血塗れジャック」なる、殺人犯も登場し、
陰惨なストーリーになってもくるのですが、
この、人々のほんわかした雰囲気にちょっと救われます。

このストーリー中、百物語「ハンドレッド・テールズ」をするシーンがあるんです。
夜中に1人ずつ怪談を語り、100そろえようという・・・。
しかし、ある事件が起きて、ほんのいくつかだけで中断されてしまった。
・・・いやあ、もっとたくさんやって欲しかったですね。
怖いけど・・・。

とにかく予測がつかない展開で、
どうやって収拾を付けるつもりなのかと、心配になるくらいなんですが・・・
それにしても、これは無事着地できたといえるのでしょうか・・・?
恩田ワールド満開。
面白くはあるけれど、好き嫌いはあるかも・・・です。

そして、なんとこの本の解説が、萩尾望都なんですよ!
恩田氏も、さぞかし本望でございましょう。

満足度★★★★☆


「ジェネラル・ルージュの凱旋 上・下」 海堂 尊

2009年01月29日 | 本(ミステリ)
ジェネラル・ルージュの凱旋(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫)
海堂尊
宝島社

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思いのほか、トントンと文庫化されるこのシリーズ、うれしいです。
これがもう、映画化となり、この3月に公開とのことですので、
それとタイミングを合わせたわけですね。
この本はあまりにも面白くて一晩一冊2日で読んでしまいまして、
おかげで寝不足でした。

この本は前作「ナイチンゲールの沈黙」の続きではなく、
なんと同時進行で起きた出来事なんです。
当然登場人物は同じで、同じセリフも出てくる。
もちろん前作を読んでいなくても十分面白いと思いますが、
前作を読んでいればさらに楽しめる。
例えば男性と女性のそれぞれの視点から同じ物語を語る、というストーリーは以前にもありますが、
こんな風に、テーマの視点を変えて語られるストーリーというのは珍しい。
おまけに番外編「螺鈿迷宮」の伏線までがここにある。
・・・イやあ、恐れ入ります!
また、こんな出来事を同時処理していた医師たちの忙しさ、
病院のめまぐるしさも伺われます。


さて、ここでメインとなっているのは救命救急センター速水部長。
その判断力、統率力、そして医療技術は誰から見ても確かなもので、
常に鮮血にまみれ、率先して救急救命に当たるその姿から、
血まみれ将軍、即ちジェネラル・ルージュと呼ばれる。
(しかし、「ルージュ」の真の意味はまたあとで明かされます)

ところが、その速水が業者と癒着しているという内部告発が。
それをめぐり院内の沼田教授率いるエシックスと、
リスクマネジメント委員会の田口の丁々発止・・・ではなく、
ねちねちと泥沼化したやり取りが続くのであります。
しかし、このあたりのいやったらしいやり取りがまた、なぜか面白い。
さて、一体速水部長の去就はどうなるのやら・・・、
などと思っているうちに、近所で未曾有の大事故が発生し、
大量の負傷者が運び込まれてくる。
さあ、どうなる!!

さて、読み終えてからふと思う。
あれ、このシリーズって、ミステリではなかったっけ?
これのどこがミステリなんだ・・・? 
とりあえず殺人事件はなかった。
で、ああ!と思ったのはつまり、
この速水部長の告発文を書いたのは誰なのか、という謎ですね。
これがちょっとだけ内容の違うものが二通、別々のところに届けられていたのです。その意図は? 
そもそも、こんなに信頼の厚い速見部長を一体誰が・・・?
と、ここが謎といえばいえる部分なんですね。
・・・でも、これは前作の、無理にとって付けたようなバラバラ殺人よりずっといいです。
・・・というか、前作で私が感じたとおり、
この海堂氏はミステリよりむしろ医療サスペンスというかエンタテイメント方向へ行ったほうがいい。
まことに、正しい方向性に進んでいるように思いました。
それから、今回白鳥氏がかなり控えめでしたね。
・・・これも成功の秘訣。
彼の立場と現実離れした優秀性は、物語の興味の方向を曲げてしまうんです。
彼はまあ、奥の手くらいにしておいて、あまりでしゃばらない方がいい。

それにしても、速水部長はかっこよかった!
快刀乱麻、群がる敵をばったばったと切り倒し・・・、
じゃなかった、医者なので、群がる患者を片端から処置。
そして、スタッフに指示。
その腕を振るう様はまさに神がかり。
目の前にこんな人がいればそりゃ惚れますよ・・・。
ぜひまた、今後も登場して欲しいのですが・・・。
どうなんでしょう・・・。

満足度★★★★★

 


レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで

2009年01月27日 | 映画(ら行)
一見幸福な家庭に巣くう”虚ろ”

         * * * * * * * *

レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットといえば、どうしても「タイタニック」を思い出します。
あれから11年。
タイタニックは若い二人の情熱が燃え上がる一瞬を描いたものでした。
その二人が11年を経て、円熟味を増し、このようなストーリーで共演。
これもまた、映画界の興味の尽きないところですねえ・・・。

この作品は、二人の情熱的な恋愛シーンは思い切り省いて、
すぐに結婚生活に突入。
郊外の閑静な住宅地。
白い壁の素敵な家に、二人の子ども。
誰もが夢みる幸せな家庭、お似合いの若夫婦。
でも、少しずつその家庭に、どうにもならない”虚ろ”が広がっていた・・・。
夫は死ぬほど退屈な仕事に倦み、
妻は家に閉じ込められていると感じている。
若い頃、自分たちはもっと違う何者かを目指していたのではなかったか。
何か、自分にしかできない何かを・・・。


この作品の時代背景というのは1950年代半ば。
アメリカは経済成長まっしぐら。
男は大きな資本主義システムの中でいくらでも替えの利く一つの部品。
そしてまた、女は男を社会へ送り出し、家庭を守り子どもを育てるもの。
そういう役割を知らずのうちに押し付けられ、それが幸福と思わせられている。
そのような概念が固められた時代といえるのかも知れません。
日本も少し遅れて同じ波がやってくる。
・・・今はだいぶ薄れてはいるものの、かなりその思い込みは残っていますね。
自分がこのシステムの中にはめ込まれた一つの部品であると気づいてしまった。
これは気づいてはいけないことなのかも知れません。
いや、みなわかっていても気づかないふりをしているだけなのか・・・。
それをしっかり見抜いて公言するのは、
この映画の中では精神を病んだ1人の男だけ。
彼の言葉はぐさぐさと二人の胸に刺さります。
結局、あきらめを優先し、ぬるま湯の幸福に甘んじようとしたのは夫の方。
この辺が、面白いですね。
大抵は自由を求めて旅立とうとするのが男で、
それを縛りつけようとするのが女。
・・・でも、解るような気もしますよ。
毎日家事と育児だけの女の生活。
この閉塞感は・・・。

この妻エイプリルは妥協を許さない。
パリへ行くことを断念しなければならなかったその喪失感は
次第に狂気へと変わっていくのです。
ラスト付近の朝食のシーンが怖かったですね。
この、すごく穏やかな”幸せな”朝食のシーンが・・・。


何やらいろいろと考えさせられてしまう作品です。
自分は今、何を幸せとしているのか・・・。
自分がかつて抱いていた夢って、何だったのか。
それは叶ったのか・・・。
でも、今が終着点ではないし、これからどこを目指そうとしているのか。

夢を持つことが大事だと、多くの映画は語ります。
でも、このような現実に縛り付けられているのも事実。
どこまでを自分にゆるし、どこまでをあきらめるのか。
・・・つまりその折り合いが、それぞれ一人ひとりの人生なのかもしれないなあ・・・なんて、しんみりと考えてしまうのでした・・・。

2008年/アメリカ/119分
監督:サム・メンデス
出演:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット、キャシー・ベイツ、キャスリーン・ハーン


Revolutionary Road (レボリューショナリー・ロード)2008 HD Trailer



「前線/捜査官ガラーノ」 パトリシア・コーンウェル

2009年01月26日 | 本(ミステリ)
前線 捜査官ガラーノ (講談社文庫)
パトリシア・コーンウェル
講談社

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捜査官ガラーノのシリーズ第2作です。
前作同様、捜査官ウィンストン・ガラーノが地区検事モニーク・ラモントの命を受け、
45年前未解決に終わった事件の解明にあらためて着手。
しかし、この事件とは係らないと思われる意味不明な出来事がつぎつぎに起こる。

ウィンの周りになぜか頻繁に現れる、派手な服装をした女性。
うろうろとかぎまわる学生記者。
インターネット上のモニークの盗撮映像。
またまたモニークの不審な行動。
盗まれたウィンのスポーツバック。
なぜかつじつまの合わないことをいう、刑事のスタンプ。

これらが終盤、ある古い屋敷で、一気に関連が見えてくる。
今回はこういう急転直下の解決が爽快です。

しかし、それにしてもいつも思うのですが、
このコーンウェルの小説に出てくる女性たちはいつも不機嫌。
いつもぷりぷり怒っていて、自己主張が激しくて、そして忙しい。
こんなにストレスためちゃってどうするの・・・と、私などは思ってしまいます。
彼女らを相手にするウィンの身にもなってあげれば・・・?
唯一、ウィンの見方であることだけは間違いがない、
ナナおばあちゃんはほっとするのですが、これがまた魔女(?)で、頑固。
女難の相たっぷりのウィンですが、それでも余裕っぽいのはさすが。

常にアルマーニのスーツでスタイリッシュに決めつつ、実はすべて中古。
今時らしいエコライフのウィンをこれからも応援したいと思います。

満足度★★★★☆


地上5センチの恋心

2009年01月25日 | 映画(た行)
幸せに包まれた時、彼女は浮遊する

           * * * * * * * *

デパートの化粧品売り場で働く主婦オデットは、ある作家に夢中。
その名はバルタザール・バルザン。
どこかでサイン会があると聞けば、休みを取っていそいそと出かけてゆく。
うれしくて体は宙に舞う。
そう、この幸せな高揚感の時、彼女は浮遊しているのです。

さて、主婦などには絶大な人気を誇るバルタザールでしたが、
ある日、最新刊の酷評を受けてしまう。
その評論家曰く、
「こんな本は、部屋に人形や夕日の写真を飾っているようなバカな主婦しか読まない。」
そしてまた、彼の妻がその評論家と浮気しているのを目撃し、
すっかり自信喪失し、生きる意欲すらも無くしてしまう。
そんなとき、オデットが彼に宛てた温かいファンレターを読み、
引き寄せられるように、彼女の家までやってきてしまった。
彼はそのまま、そこに何日か滞在することになるのですが・・・。
果てさてこれはハッピーエンドのラブストーリーとなるのや否や???

オデットはベルギーに住む主婦なのですが、夫は数年前に亡くなっており未亡人。
彼女には、つい人に手助けしてしまうという包容力があるようです。
美容師の息子と、
大学は出たけれど就職が決まらず、いつも不機嫌で生意気な娘がいる。
おまけに、娘の彼氏がなぜか居ついてしまって同居中。
この家族もなかなか面白い。
そこへパリから、有名作家が転がり込んで来た。
オデットは、夜は羽飾りの内職までして生活を支えています。
さして広くもないこのアパートの様子、就職難、楽ではない生活。
・・・映画の影に見えるこうした風景を見るにつけ、
どこも同じなんだなあ・・・と、親近感をいだいてしまいました。
そしてこの温かい家族、
歌ったり踊ったり、さすがの突っ張り娘もやはりこの家の娘、と思わせるほのぼのシーンもいいのです。

おかしいのは、オデットの部屋に人形や夕日の写真が飾ってある。
オデットはノーベル賞に文学賞があることも知らなかった。
・・・まさに、あまり教養もないごく普通の主婦ではあるけれど、
そういうたくさんの人たちをバルタザールは幸せにしている。
それでいいじゃない。と、オデットは彼に語りかけるのです。

このオデット役の、カトリーヌ・フロ。
どうも最近見た記憶がある、と思ったら、「譜めくりの女」でした。

一つ、うまく解読できなかったのは、オデットと同じアパートの住人と思われるキリストに酷似した青年が時折現れる。
しかし、彼はどうも実在しない人物のようなのですね。
彼女が空を飛ぶ描写と同じく、彼女の内面をあらわしていた幻のようなのですが・・・。
つまりは、自分を犠牲にしても、人の幸せを願おうとする彼女の行為が
ほとんどキリストに近いとするものなのか・・・。
どうなんでしょう・・・?
そういう余韻も持たせた作品であるのは間違いありません。

2006年/フランス・ベルギー/100分
監督:エリック=エマニュエル・シュミット
出演:カトリーヌ・フロ、アルベール・デュポンテル


地上5センチの恋心



きつねと私の12か月

2009年01月24日 | 映画(か行)
好きなことと、自分のものにすることは違う

           * * * * * * * *

フランスの山深い村。
1人の少女ときつねの交流の物語です。
少女リラは学校の帰り道、山で一匹のきつねを見かけます。
その美しい姿にすっかり魅了され、
何とかこのきつねと仲良くなりたい、その一心で山に通うのです。
しかし、そう簡単なことではありません。
何日も姿さえ見つけられないことが続いたり・・・。

この映画は、人間はほとんどこの少女1人しか登場しません。
一人で山を歩く。
描写される美しく豊かな自然、動物たち・・・。
すっかり魅了されてしまいます。
また、虫の羽音、木々が風にそよぐ音、
小鳥のさえずり、キツツキが幹をたたく音・・・。
耳を澄ませば、様々な音にあふれている。
こんな中に少女1人だけを配置することで、
この広大な自然をいっそう際立たせているように思います。
そしてまた、自然の中は様々な危険に満ちていて、
きつねであっても、ヤマネコやオオカミなど、
天敵から身を守らなければならない。
そして、人間も、きつねにとっては最も恐るべき敵なのです。
単に美しさだけではなく、こうした厳しさも、きちんと描写していきます。

さて、少女の強い思いと努力が実って、
いつしか、きつねとリラの距離が狭まって行きます。
初めの出会いは秋だったのが、もう次の年の夏・・・。
リラはきつねにテトゥと名づけました。
ある日の、この一人と一匹の冒険は見ものです。
テトゥはリラがついてくるのを確かめながら、まるで山の中を案内するよう。
いつしか、子どもは立ち入り禁止とされているところにまで入り込んで・・・。
しかしそこにあるのは、見たこともない美しい滝。鍾乳洞・・・。
こんな無鉄砲な娘がいたら、さぞかしご両親は心痛が絶えないでしょうね・・・。そんなことまで想像されて、クスリと笑ってしまう。
さて、こんなふうに仲良しになれたのですが、
ある秋の日、リラは過ちを犯してしまうのです。

野生の動物には、それなりの生き方があって、
どんなに好きでも自分のものにすることはできない。
こうしたことを少女は自分で学ぶのです。

この物語は、モンブランを望む山岳地帯で育った監督の実体験をベースにしているそうです。
撮影はフランス南東部アン県ルトール高原と、
イタリアのアブルッツォ地方で行われたとのこと。
それにしても、一体どうやってあんな映像を撮ったものやらと、
その根気と努力を尊敬してしまいますね。

余談ではありますが、我が家付近の山すその公園でも、
以前はよくキツネを見ました。
(それほど田舎ではないのですが・・・。)
ちょこんと座ってじっとこっちを見ていたりして、
実際人通りも多いので、すっかりヒトなれしていたようです。
時にはうちのそばのゴミ捨て場まで遠征してきていました。
でもそういえば最近はあまり見ていないですね。
このあたりを縄張りとしていたきつねがいなくなってしまったのでしょう。
・・・また、会いたいものです。

2007年/フランス/96分
監督:リュック・ジャケ
出演:ベルティーユ・ノエル・=ブリュノー、イザベル・カレ、トマ・ラリベルテ


映画「きつねと私の12か月」予告



「聖女の救済」 東野圭吾

2009年01月23日 | 本(ミステリ)
聖女の救済
東野 圭吾
文藝春秋

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2冊同時に刊行された「ガリレオ」シリーズの長編の方です。
ある男が自宅で毒殺される。
最も疑わしいのは、離婚を切り出されていたその妻。
しかし、その妻には鉄壁のアリバイがあった。
どのようにしてその毒物は混入されたのか・・・、これが最後まで残る最大の謎です。
湯川教授はつぶやく。
「理論的には考えられても、現実的にはありえない。これは虚数解だ・・・。」

この美人妻、綾音が執念をもってして
現実にはありえないことを成し遂げた
・・・ということなんですが、そこは確かに、うならせられるものがあります。
でも、最大の謎が毒物の混入法、
これだけで長編一冊を引っ張るにはちょっと弱い気がしてしまいました。
短篇でもよかったんじゃないかなあ・・・。
草薙刑事のほのかな恋心をサイドストーリーに据えるにしても・・・。

「容疑者X・・・」が良すぎただけに、ハードルが高くなってしまっているのかも知れません。
短編集の方は、文庫になってからにしよう・・・。

満足度★★★☆☆


「生きる意味って何だろう?-旭山動物園園長が語る命のメッセージ」

2009年01月22日 | 本(解説)
生きる意味って何だろう? 旭山動物園園長が語る命のメッセージ (角川文庫)
小菅 正夫
角川グループパブリッシング

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今人気の旭川市旭山動物園、園長さんの書かれた本です。
旭山動物園は私も何度か行っています。
一度だけでなく、何度も行ってみたくなる楽しい動物園。
コンセプトは動物の「行動展示」。
動物を狭い檻に閉じ込めてただその姿を見せるのではなく、
その動物の持っている特質のすばらしさを見てもらおう、ということで、
様々な工夫を凝らし、一躍入園者数日本一となったんですね。
泳ぐホッキョクグマやアザラシの姿をガラス越しに間近に見ることができる、
そんな風景を皆さんもTVや雑誌で見たことがあるのでは?
ただし、最近は人気がありすぎて、黒山の人だかり。
ちょっと、遠くなっちゃったな・・・と、地元としては少し寂しくも思えます。

・・・さてと、この本は、こんな風な動物園の紹介の本ではないのです。
長年付き合った動物たちの生きる姿から、
私たち「ヒト」も学ぶべきことがたくさんある、そのようなことを語っています。

園長さんは1948年札幌の生まれなんですね。
まだまだ自然やそこに住む動物たちと生活が交じり合っていた。
生き物たちの不思議なことやすばらしさは、
TVや本でなくすべて実体験で学ぶことができたわけです。
けれど今は、身の回りに自然の動物がいない。
虫は触れない、カエルは汚い・・・と、毛嫌い。
身近にいるのはせいぜい犬か猫。

こんなことがあるそうです。
ウサギを見せて子どもに絵を描かせる。
・・・まあ、それなりに描きます。
けれども、実際にウサギを抱っこさせて
そのフカフカさや、温もり、重み、心臓の鼓動、
そういうものを体験した後で描く絵は、
もっとリアルで活き活きと迫力のあるものになるそうですよ。
こんな風に、ただ見るだけでなく、生き物のすごさを体験してもらいたい、
そういうビジョンがしっかりしているからこそ、この動物園の成功なんですね。


私が書店でぱらぱらと見て、購入を決断したくだりのエピソードをご紹介しましょう。
以前、あるホッキョクグマが双子を出産。
ホッキョクグマは泳ぎ方を母が子へきちんと教えるのだそうです。
それで一匹の方はまもなく水に入って泳ぎを教わり、
楽しそうに母親とすいすい泳ぐようになった。
ところがもう一匹の方が水を怖がって全く入ろうとしない。
母グマと小グマが仲良く泳いでいるのを寂しそうに見ている。
また、母親の方も知らんぷり。
そこで園長さんは、もしかするとこれは何か遺伝的な欠陥かも知れない、
一度検査した方がいいかも・・・と思い始めたそうです。
ところが、そんなある日、二匹の子グマがじゃれあっているうちに、
一緒に水の中へ落ちてしまった! 
しかし、間髪を入れず、母親が水に飛び込み子グマを支え、
そこで泳ぎを教え始めた。
そのあと、その子グマは平気で水に飛び込むようになったそうです。

子育てをしていると、つい育児書や他の子どもと引き比べて、
立つのが遅い、まだ歩かない、まだ言葉が出ない
・・・と、いちいちやきもきしてしまうんですね。
でも、その子にはその子なりの成長の時期があるのだから、何もあせることはない。悠然と構えていて、いざという時にフォローをすればいいだけ。
そういうことを教えてくれます。

この本には、動物たちのカラー写真もたくさん入っていて、素敵な一冊です。

満足度★★★★☆


ぼくたちと駐在さんの700日戦争

2009年01月20日 | 映画(は行)
ぼくたちと駐在さんの700日戦争 コレクターズ・エディション〈2枚組〉 [DVD]

ギャガ・コミュニケーションズ

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いたずらに賭ける青春もよし

                 * * * * * * * *

人気ブログ小説の映画化なんですね。
とある小さな田舎町。
7人の高校生が駐在さんにイタズラを仕掛けるのです。
ことの発端は、まず1人がバイクに乗っていると、
交通取締りのスピード測定に引っかかってしまう。
こんな坂道の下のほうでネズミ捕りをする方が悪い、と息巻く彼に、
よし、仕返しをしてやる!と立ち上がった彼の悪友たち。
・・・なんと、自転車で猛スピードで取締りの前を通過してやろう。
捕まえるものなら捕まえてみろ!というもの。
自転車の集団爆走。
・・・その中で、必死にママチャリをこいで、
スピード違反になれなかったのが、
このストーリーの主人公”ママチャリ”くん(市原隼人)。
彼はこの他愛のないワルガキ集団の作戦担当でもあります。
迎え撃つ駐在さん(佐々木蔵之介)は、これがまた職務に忠実、
いちいち彼らにきっちり対応するんですね。
おバカな高校生・・・と無視すればできるのでは?とも思えるのですが、
いちいちきっちり怒って対決するので、
高校生たちもますます燃えるのであります。

他愛のないやり取りながら、すごく楽しい。
駐在さんのほうも、やられっぱなしでなく、応酬もあるところがまた面白いですよ。
ところが、これまではいずれもイタズラの範疇で、
犯罪には縁遠い彼らだったのですが、
ある少女の望みをかなえるために、
「犯罪」に手を染めなければならない事態に・・・。
さあ、どうする!!

ちょっぴりほのかなラブストーリーと熱い友情をスパイスに、
文句なく楽しめてしまう青春コメディ。
駐在さんの佐々木蔵之介のキャラがすごくいいです。
この役は、優しすぎず、イケメン過ぎず、怖すぎず、やや人が悪そう・・・と、
誰でもできる役ではないと思うんですね。
まさにぴったり。
高校生と駐在さんがこんなやり取りをしている町って、結局すごく平和です。

ちょい役で出てくる竹中直人がまた、おいしいところをさらっていたりして・・・。
あまり深く考えずに、単純に楽しみたいときにどうぞ。

2008/日本/110分
監督:塚本連平
出演:市原隼人、佐々木蔵之介、麻生久美子、石田卓也

 


チェ28歳の革命

2009年01月19日 | 映画(た行)

戦争は終わったが、革命はこれからだ

                * * * * * * * *

革命家チェ・ゲバラ2部作のうちのパート1。
こちらは彼が28歳の頃、キューバ革命を成し遂げた、
いわば彼の光の時代を描いています。
「チェ」というのは、「ねぇ君」などと相手に呼びかけるときに使う言葉に由来する愛称で、
本名はエルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ。
このキューバ革命があったのが1956年。
映画中に挿入されている、チェの国連総会の演説が1964年。
・・・ということで、まあ、実のところ私も彼が何を成し遂げたヒトなのか良くわかっていなかった、というのも無理はない、
・・・まだそのようなことをリアルタイムで考えられるような年ではなかった・・・というわけです。
でも、学ぶ機会はたくさんあったはずなので、不勉強であることは確かですね。
遅まきながら、この作品で勉強させていただきました。

この映画のためには珍しくWikipediaでちょっと予習をしました。
彼の人生・活動の中で、この作品(28歳時)がどのあたりに位置するのか、
それくらいは解っていた方がよさそうです。

でも、実はこの解説を読んだだけで、私は感動してしまった。
なんて鮮烈な人生・・・。
映画は私にとっては、この感動の後付となりました。
チェはアルゼンチン生まれ。
若き医師であった彼は、メキシコでフィデル・カストロと出会った。
キューバ革命を画策するカストロに共感を覚え、軍医としてゲリラ戦に参加。
当時のキューバはバティスタの軍事独裁政権。
この政権を倒すための武力闘争。
これはもう、戦争そのものです。

チェは喘息の持病があって、作品中も絶えずゼイゼイいっています。
人に何かを語るときも決して高圧的でなく穏やかに話をする。
しかし、その思想・信念は限りなく強い。
自分に課したミッションがしっかりしていて決してブレない。
自分には厳しく。弱者には優しく。
そういうところが、すごくカッコイイ。
こんな彼だから、周囲の人々の尊敬を集めていったのでしょう。

映画中こんなセリフがあったんです。
バティスタ政権を倒し、勝利したところです。

「戦争はこれで終わったけれど、革命はこれからだ。」

武力闘争はあくまでも手段。
真の目的は民衆による平等な社会。
本当に大変なのはその仕組みを作っていくこれからなのだ、ということなのでしょう。
自己の保身しか考えず、何をミッションとしているのか全然解らない
(というより、初めからないんでしょうね)どこかの政治家は、見習うべきですね。


ベニチオ・デル・トロは、25㎏の減量でこの役に挑んだということで、
精悍、なんともかっこよくチェになりきっていますが、
本物のチェは映画スターも真っ青のハンサムで、
内面からにじみ出るオーラ・・・
こりゃやっぱり、伝説的に語られるべき人物なのであります。

このパート1を光とすれば、残念なことにパート2は
彼の生涯を閉じることになるエピソードとなるんですね。
つまり影。
やはりそちらも見なければ・・・。

2008年/アメリカ・スペイン・フランス/132分
監督:スティーブン・ソダーバーグ、
出演:ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル、サンティアゴ・カブレラ、エルビラ・ミンゲス


「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎

2009年01月18日 | 本(ミステリ)
ゴールデンスランバー
伊坂 幸太郎
新潮社

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第5回本屋大賞受賞、
そして、2008年このミステリがすごい!国内ベスト1に輝く作品です。
もう、文庫化を待ちきれず、読みました。
最近著者は、目に見えない世の中を動かす何か強大なもの
・・・国家権力であり、マスコミが作り出す風評であり・・・、
そういうものへの危惧をテーマにした作品を描いていますね。
これはその集大成といっていいかも知れません。
さらに、精密な伏線、軽妙洒脱な会話、登場人物たちの連鎖。
こういう、いつもの伊坂幸太郎の持ち味満開。
これで面白くないわけがありません。
舞台は、この日本と良く似た別の日本。
仙台で、金田首相の凱旋パレードが行われた。
ところがその最中に首相は何者かに暗殺されてしまう。
犯人の疑いをかけられたのが、この本の主人公、青柳雅春。
ところが、これは彼には全く身に覚えのないこと。
にもかかわらず、犯人に仕立て上げられ、追われる身となってしまう。

学生時代の友人、森田は言う。
「逃げろ!オズワルドにされるぞ」。
オズワルドというのは、ケネディ暗殺事件の時に、犯人に仕立て上げられ、殺されてしまった人物。
この暗殺を謀ったのは、何か他のもっと巨大な影の力で、
オズワルドは犯人に仕立て上げられただけ。
挙句に口封じのために殺されてしまった・・・と、憶測されている人物です。

まさしく、青柳雅春は、オズワルドにされてしまった。
それも、昨日今日でなく、
何年も前からこの計画が周到に準備されていたらしいことがわかってきますが、
本当に薄ら寒い気がしてきます。

ストーリーは、この青柳が追っ手を逃れていく様をスリリングに描いていくのですが、
彼の学生時代の友人たちとの交友場面が
フラッシュバックのように挿入されています。

「ゴールデンスランバー」。
これはビートルズのポール・マッカートニーが
ちりぢりバラバラになったメンバーを呼び集めようと作った曲。
バラバラになったビートルズと、自分の懐かしい昔の仲間たちを重ね合わせています。
青柳は、学生時代に親しくして、今はもうほとんど会うこともなくなっていたこの昔の仲間たちに、助けられていくんですね。
特に別れた恋人、今はすでに結婚していて一児の母の樋口晴子。
彼女の行動はもう、感動的で、泣けました・・・!
TVでイヤというほど、指名手配として名前も顔も流されている。
そんな中で、一体どうやって逃げきることができるのか。
この、旧友たちに限らず、いろいろな人たちの手助けがあるんです。
こんなところに心が熱くなってきます。
ややきな臭く、危ない世の中かも知れないけれど、
人はこういうこともできる・・・ってところがいいじゃないですか。
ちょっとほっとさせられます。
また、ラストも泣かせるんですよ。
この本にも、「たいへんよくできました」のスタンプを押しましょう!


さて、この本を読んだら、やっぱりビートルズを聴きたくなってしまいました。
「GOLDEN SLUMBERS」は彼らのラストアルバム「ABBEY ROAD」に収録されています。
短い曲で、歌詞も私でもそのままわかるくらい平易。
Once there was a way
To get back homeward・・・
と、始まる甘く切ないこの曲。

あの頃はそうは思わなかったけれど、
なんて輝いていた幸せな日々。
今はもう決して帰ることができない
失われた日々。

この本の底に流れる切ない郷愁の念と
実に良くマッチした曲です。
改めて好きになってしまいました。

満足度★★★★★

GOLDEN SLUMBERS


アラトリステ

2009年01月17日 | 映画(あ行)

孤高の剣士アラトリステの半生

               * * * * * * * *

まず、舞台は17世紀スペイン。
「エリザベス・ゴールデンエイジ」を見た方ならご存知と思いますが、
スペインの誇る無敵艦隊が英国エリザベス女王に撃破される。
その後、絶頂期のスペインが落日の時代へと変貌していく。
ちょうどそのあたりの時期なんですね。
時の国王はフェリペ4世。
しかし、実質オリバーレス伯爵が王を操り、国政を支配していた。
このような史実、実在の人物の中に
架空の騎士であるアラトリステ(ヴィゴ・モーテンセン)を配し、語られる歴史物語です。

当時のスペインは、ほとんど絶え間なくどこかで戦争を繰り広げていた、というのが伺えます。
戦地はほとんどモノトーンに近いくらいに陰鬱で灰色一色。
冷たい雨に、身も心も冷え切り・・・。
泥と血にまみれ・・・。
当時の戦闘をかなりリアルに表していると思います。
こんな中で生き抜くためには、
人並み以上の体力と、それにも増して、気力が必要ですね。
シーンが、リスボンの街へと移るとほっとします。
アラトリステは亡くなった戦友の息子イニゴを引き取り育てるのですが、
アラトリステとその若きイニゴを中心に彼らの愛と戦いの日々が綴られていくのです。

さてと、できのいい作品だとは思うものの、
実のところ、この映画のどこに感動すべきだったのか・・・、
というかどこに感動したと書けばいいのか・・・、
思いがくすぶったままの帰り道でした。
そもそも、ヴィゴが出ているから見た映画で、
たしかに、見せ場たっぷり、渋くてかっこよかったのですが・・・。
なんだか心の真ん中に響くものがない。

この映画を楽しむには、かなりのスペイン通度が必要なんじゃないでしょうか。
きっと、スペインの人たちにはアラトリステは共通のヒーローで、
何かしらの思い入れがあるのじゃないかと思いました。
だからその映画化ということで、楽しめるのじゃないかと思います。
そういう基本的な思い無しでこの映画を見てもピンと来ない。
・・・そういうことなのではないかと・・・。

2006年/スペイン/145分
監督:アグスティン・ディアス・ヤネス
出演:ヴィゴ・モーテンセン、エドゥアルド・ノリエガ、ウナクス・ウガルデ、ハビエル・カマラ


ブラック・スネーク・モーン

2009年01月16日 | 映画(は行)
ブラック・スネーク・モーン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン

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天国は死ぬ間際にあるのではない。今ここにある。・・・きみの天国は?
                
              * * * * * * * *

このDVDパックのデザインは、かなりいかがわしい映画に見えてしまうので、いつもより小さくしてしまいました・・・。
しかし、この作品は特別いかがわしいわけではないのです・・・。

アメリカ南部。
元ブルース・ミュージシャン、初老の黒人ラザラス(サミュエル・L・ジャクソン)は
道端で傷つき倒れている白人の女の子を拾う。
彼女レイ(クリスティナ・リッチー)は、
子どものころ受けた虐待の影響でセックス依存症。
恋人ロニーが入隊してしまったため、1人に耐えられず、
さまよい、男をあさり、ドラックでフラフラになっていた。
ラザラスは彼女の治療を試みるのですが、それが荒療治。
彼女を太い鎖でくくりつけて、家から出られないようにしてしまった。
それで、とんでもなく猟奇的なシーンが出来上がってしまうのですが、
そこだけ見てイヤだと思わず、きちんと最後まで見届けますよう・・・。

妻に逃げられてしょぼくれた黒人男性。
傷ついてはいるけれどアバズレの若い女。
この二人の奇妙なコントラストがなかなかうまく描けています。
うまくいかない人生、傷ついた心、どうにもならない絶望感・・・。
お互いに共通する部分だったんですね。
これは結局、レイを治療しようという試みだったのですが、
ラザラス自身も癒されていく、そういう物語です。
ラザラスの奏でるギターとブルースの歌声が心にしみます。

私は、このシーンを他の誰かに見られて、ラサザスが監禁か何かの罪で捕まるのでは・・・と、
そういうサスペンスドラマを想像してしまったのですが、
それはなしなので、安心してご覧ください。
きちんと、友人の牧師に状況を見せて説明していますから・・・。
それで、その牧師がレイに言うんですね。
「天国は、死ぬ間際の数週間に現れるものではないんだよ。
私には、今、ここにある。
君の天国は?」
毎日を天国と感じて生きていけたら本当に幸せ・・・。
何か、そういう光り輝くものをいつも心に持っていたい・・・そういうことですね。
サミュエル・L・ジャクソンとクリスティナ・リッチー、
ビッグな二人の、異色作です。

2006年/アメリカ/115分
監督:クレイグ・ブリュワー
出演:サミュエル・L・ジャクソン、クリスティナ・リッチー、ジャスティン・ティンバーレイク

「黒影(かげ)の館」 篠田真由美

2009年01月15日 | 本(ミステリ)
黒影の館 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社ノベルス―建築探偵桜井京介の事件簿 (シI-20))
篠田 真由美
講談社

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待ちに待った桜井京介シリーズの最新刊。
一巻めから引っ張ること15年、ようやく語られる京介の過去。
・・・読むのにも気合が入りました!
しかし、なんとこれはその全貌の前半にしか過ぎないと・・・。
すべてを知るためには次の一巻を待たねばなりません。
・・・いえいえ、待ちますとも。ここまで待ったのですから!!


渋る神代教授を説き伏せて、ついに口を割らせた蒼と深春。
時は京介10歳の時点までさかのぼります。

神代宗35歳。
怪しい実業家門野氏にだまされ(?)はるばる北の地の寂れた村までやってきた。
しかし、そこは日本で言う「村」のイメージとは全く異なっていて、
メインストリートに洋館が立ち並ぶ、まるでヨーロッパの町のよう。
(ただしものすごく小規模なんですが)
その家並みを見下ろすように、さらに高台になんとも壮大なお屋敷。
そこの当主の長男が久遠叡(アレクセイ)、後の桜井京介であります。
透き通った白い肌、眉目秀麗、絶世の美少年・・・。
しかし、性格は想像がつくとおり、お世辞にもかわいいとはいえません。
とても10歳とは思えない冷めた目で人を見る。
取り付く島がないとはこのこと。
でも、そこは気取らない神代さん、
あっという間に、彼の心の真ん中に飛び込んでいく。

物語はこのアレクセイの母親の死の真相、
そしてこの久遠家にまつわる謎を追っていきます。
問題なのはこのアレクセイとは腹違いの妹モイラと、当主グレゴリなのですが、
当主はついに最後まで実際に姿を現しません。
それはまた別の話・・・ということで。

それにしても、神代さん、
殺人犯にされるは、殴られるは、撃たれるは、首を閉められるは・・・、
良くぞご無事でいられたものです。
すごいハードボイルドです。
この本は「神代宗の冒険」という題名でも良かったのではと思えるくらい。
しかし、「どーにでもなりゃーがれ!」と開き直る。
さすが江戸っ子、こういうところは大好きですね。

ロシア貴族の血を引くというこの一族、この屋敷、
とても日本の物語とは思えないのですが、
真っ暗な地下通路をたどる終盤のシーンなどは
本当にドキドキさせられて、ロマン、ミステリ、サスペンスたっぷり。
うれしい一冊でした。
ただし、この本はこれまでの桜井京介シリーズを読んでいなければ、
良く解らないと思います。
まずは、桜井京介の魅力を知ってから読むのがおすすめ。

男性には無理にはお勧めしません・・・。

満足度★★★★★