映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

フェイブルマンズ

2023年03月31日 | 映画(は行)

映画を通して成長する

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巨匠、スティーブン・スピルバーグ監督が、
映画監督になるという夢をかなえた自身の原体験を映画化した、自伝的作品です。

サミー・フェイブルマン少年は、初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になってしまいます。
母親から8ミリカメラをプレゼントされ、
おもちゃの汽車が車と激突するところや、家族の様子を撮影。
将来、映画に関わる仕事をしたいと夢見るようになります。

ピアニストである母(ミシェル・ウィリアムズ)は、サミーの夢を応援しますが、
エンジニアである父(ポール・ダノ)は、現実的で、
サミーの映画への思いを単に趣味としか見なしません。

他にも妹が3人という家族の中で、少年期から映画界へ身を投じるまでの
サミーを描いているわけですが、これはそれと同時に「家族」の物語でもあるのです。

自由闊達で、竜巻が近づいてくれば「見に行こう!」と
車に皆を乗せて竜巻に近づいて行ってしまうような母。
実はこういう性格はサミーに受け継がれているわけです。

父は、当時の開発最先端のコンピューターの仕事をしていて、
優秀で、のちに、IBMに勤めるようになるという、いわばエリート。
そんな家族ととても親しくしていたのが父の親友であるベニー(セス・ローゲン)。
彼はいつも彼ら家族とともにいました。

高校生になったサミーは、家族のキャンプのフィルム編集をしていて、
気づいてしまうのです。
母の心中を・・・。

ここのシーンが秀逸だと思いました。
彼に映画の志がなければそんなことには気づかなかったのかも知れないのに・・・。
思春期の男子が、母親の真の気持ちがどこにあるか知ってしまうというのは、
まさにショッキングなことですよね・・・。

そして彼らユダヤ系の移民家族は、カリフォルニアではいささか差別を受け、
サミーもいじめを受けるようになってしまいます。
そんな中で、学校のレクリエーション行事の記録をサミーが撮ることになり・・・。

サミーは、彼をいじめる相手をすごくかっこよく、ヒーローのように写し撮ります。
それは、別に皮肉でもなく、彼におもねる気持ちからでもなく、
単に客観的に事実カッコ良かったからなのでしょう。

ところが、その相手の反応が意外だった。
人の気持ちというのは分からなくて、面白いなあ・・・と思った次第。

映像は、単にカッコ良くおもしろいだけではダメで、
そこに人の心も映しこまなければダメなのだ・・・と、
サミーはそこで悟ったのかも知れないし、
本作でそういうことを言いたかったのかもしれませんね。

デビッド・リンチ監督が、ジョン・フォード監督役で登場するのがご愛敬。

なんだかそれやこれやで、本作はすっかり私の心に染み入りまして、
何でこれがアカデミー賞でなかったのか、と疑問に思うくらいです。

私的には、最近見た洋画の中では一番のオススメ。

 

<シネマフロンティアにて>

「フェイブルマンズ」

2022年/アメリカ/151分

監督:スティーブン・スピルバーグ

出演:ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン、ガブリエル・ラベル、デビッド・リンチ

 

映画愛度★★★★★

知られざるスピルバーグ度★★★★☆

満足度★★★★★


TANG タング

2023年03月29日 | 映画(た行)

ポンコツな2人の旅

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医師になろうとしたのだけれど、研修医時代で挫折した春日井健(二宮和也)。
妻(満島ひかり)は弁護士で、バリバリに活躍中。
仕事を探そうともせず、家でゲームばかりする夫にイラついています。

そんな彼の元に、記憶を失ったオンボロのロボット・タングが迷い込んできます。
時代遅れで旧式のタングを捨てようとする健ですが、
実はタングが失った記憶には、世界を変えるほどの秘密が隠されていて・・・。

妙に自分になついてくるタングを捨てかね、
このままでは動かなくなってしまうというタングの修理ができる人を訪ねて、
健とタング、おかしな2人(?)の旅が始まります。

なにしろ、タングがカワイイ!!

頭でっかちで、足が短いタングは、つまり幼児のようなのです。
好奇心を持ち、自分がやりたいように動き回るタングと共に旅することで、
健が次第に「保護者」としての責任を身につけていく。
この辺りは、まだ子どものいない健夫妻の将来を暗示していますよね。

ロボットなのに妙に怖がりだったりするタングには、
実際恐ろしい体験があったのですが、この度はそれと向き合う旅なのです。

SFチックな恐ろしい未来も暗示されて、
ほのぼのした雰囲気ながらもちょっと襟を正したくなる、ステキな作品。

配役もすごくユニークで、
謎の科学者に小手伸也さん、
一見温和だけれど実はマッドサイエンティストっぽい武田鉄矢さん。
謎の組織のエージェント2人組にかまいたちの山内さん、濱家さん
というのには思わず笑ってしまいます。
SixTONESの京本大我さんの登場も嬉しい。

 

<Amazon prime videoにて>

「TANG タング」

2022年/日本/115分

監督:三木孝浩

原作:デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」

出演:二宮和也、満島ひかり、市川実日子、小手伸也、奈緒、京本大我、武田鉄矢、かまいたち

 

ファンタジー度★★★★☆

だめ男の成長度★★★★★

満足度★★★★☆


ビリーバーズ

2023年03月28日 | 映画(は行)

幸福の形とは

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とある無人島。

宗教団体「ニコニコ人生センター」の信徒である、
議長(宇野祥平)、副議長(北村優衣)、オペレーター(磯村勇人)
と呼ばれる3人が、共同生活をしています。

瞑想や見た夢の報告、テレパシーの実験、
メールで送られる指令の実行、本部から送られる荷物の運搬などを、
日々の日課に従いながら生活。
すべては、俗世の汚れを浄化し、安住の地を目指すための修行なのです。

ところが本部からの食料補給が途切れ、指令もあまり届かなくなってきます。
どうやら本部は世間で問題となって、うまく立ちゆかなくなっているらしい・・・。

そんな中、この3人の中で、互いの本能と欲望が露わになってきて・・・。

かなりヤバい感じの新興宗教なのですが、もちろんこの3人は本気。
しかし男女交えて3人というのがいかにもマズい。
3人の中で“性欲は“穢れ”でしかないはずなのですが、
タブーであればあるほど燃えるものではありますね・・・。

元々狂気じみた彼らの行いが、ますます常軌を逸してきます。

そして、本部からの連絡も輸送も途絶え、
二人だけになってしまった副議長とオペレーター。
自身の役割や思想という余分なものがそがれて、
単に一対の男女となった二人の世界は、調和がとれて美しくすら感じられるのです。
彼らの目指す何かが見えたような・・・。

しかし、そんな時もつかの間、
島に本土から教団の幹部や信徒達が乗り込んできます・・・。

 

つまり、この島は教団の実験の地であったワケなのですが・・・。
この宗教を推し進めようとする人々も、それを排除しようとする警察側の人々も、
ただただ醜くおぞましい。

新興宗教の境地も越えて、本来の「幸福」は、
ごくシンプルな姿ですぐ近くにあるものなのかもしれません。

<Amazon prime videoにて>

「ビリーバーズ」

2022年/日本/118分

監督・脚本:城定秀夫

原作:山本直樹

出演:磯村勇人、北村優衣、宇野祥平、毎熊克哉、山本直樹

 

狂信度★★★★☆

満足度★★★.5


ロストケア

2023年03月27日 | 映画(ら行)

これは「救い」なのか?

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とある民家で、老人と訪問介護センター所長の死体が発見されます。
死んだ所長が勤める介護センター介護士の斯波(松山ケンイチ)が
殺人の容疑者として浮上。
しかし斯波は、介護家族からも、介護センターの同僚からも
信頼される心優しい青年なのです。

検事・大友(長澤まさみ)は、この介護センターで、
老人の死亡率が異様に高いことをつきとめます。
取調室で、斯波は、多くの老人の命を奪ったことを認めますが、
自分は「命を奪った」のではなく「救った」のだと主張します・・・。

ひとたび家族が介護が必要な常態になったら、どうなってしまうのか。
特に要介護者の体が動かないばかりでなく認知が進むなどして、
うまく気持ちが通じ合わなくなったときに、
介護する家族の苦しみ、そして当の介護される者の苦しみはいかばかりか。


斯波は自身で、その上に収入もほとんど途絶えてしまった経験があって、
介護状態が長引くことは双方の苦痛が長引くだけ、
という思いに駆られるようになったのでしょう。

正直、私も無理な延命には納得がいかないけれど・・・。
かといってあえて命を損なうことはどうなのか。
そこのところが本作の一番の問題で、
そしてそれにはやはり答えはないのだと思います。
それぞれが考えていくほかない。
場合によっては自分の意志で安楽死を選ぶことができる国さえある。

大友は極力冷静に、法に基づいて事に当たろうとしますが、
実は彼女の中では揺らぎがあるのです。
果たして、斯波は多くの人を救ったのか? 
それとも単に思い込みの強い狂人なのか。

ラストで、大友と斯波が面会するシーンがあって、
その時、斯波が大友を見る「目」が忘れられません。
迷える子羊を見守る慈愛に満ちた目のような・・・。

ということで、この松山ケンイチさんの演技がスバラシイ!! 
それに対する長澤まさみさんと、
アシストする鈴鹿央士さんのコンビネーションもバッチリ。

実に、見応えのある作品です。

<シネマフロンティアにて>

「ロストケア」

2023年/日本/114分

監督:前田哲

原作:葉真中顕

出演:松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、柄本明

 

介護問題度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「一人称単数」村上春樹

2023年03月26日 | 本(その他)

不可解な世界へ迷い込む

 

 

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ビートルズのLPを抱えて高校の廊下を歩いていた少女。
同じバイト先だった女性から送られてきた歌集の、今も記憶にあるいくつかの短歌。
鄙びた温泉宿で背中を流してくれた、年老いた猿の告白。
スーツを身に纏いネクタイを結んだ姿を鏡で映したときの違和感――。

そこで何が起こり、何が起こらなかったのか?
驚きと謎を秘めた8篇。

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村上春樹さんの短編集、文庫新刊です。

すべてと言うわけではないのですが、村上春樹さんの小説は、
一見普通の日常エッセイ風に始まることが多いですよね。
ところが、読み進むうちにいつのまにか現実ではあり得ない
不可解な空間に放り込まれるような・・・。


作中にこんな文章がありまして。

「僕らの人生にはときとしてそういうことが持ち上がる。
説明もつかないし筋も通らない、
しかし心だけは深くかき乱されるような出来事が。」

これこそがまさに、村上春樹ワールド。
でも、ただ魔法のようにわけが分からないことが起こるのではない。
そのことはどこか心の奥の「真実」と繋がっているのです。

だからわたしたちは、村上春樹さんのストーリーにハマってしまう。

 

今上げたこの文章が出てくるのは、「クリーム」。
とある知り合いの女性からピアノのリサイタルの招待を受けたぼくは、
山の上にあるその会場に行ってみたけれど、そこは無人らしき家があるだけ。
やむなく引き返す途中の小さな公園の四阿で休んでいると、
謎めいた老人に話しかけられる・・・

という特別なストーリーにもならないような話なのですが、なぜか印象深く残ります。

 

そして「品川猿の告白」では、
ほとんど傾きかけた小さな温泉旅館で、言葉を話す猿に背中を流されるという、
村上春樹さんには珍しく始めからファンタジーめいたストーリー。
ちょっとミステリめいた話でした。

 

また時を置いて、じっくりと読み返したい一冊。

 

「一人称単数」村上春樹 文春文庫

満足度★★★★☆

 


湯道への道 「湯道」アナザーストーリー

2023年03月25日 | 映画(や行)

映画「湯道」ができるまで

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先に見た映画「湯道」のスピンオフドラマ。
Prime videoオリジナルです。

「湯道」より前の出来事・・・。

 

400年続く「湯道」最後の家元である梶山(窪田正孝)。
しかし今は弟子もおらず、もう続けていく望みもない。
もうこのまま死んでしまおうと思った矢先、
たまたま忍び込んだペテン師・安藤(生田斗真)に救われます。
なんとか「湯道」を世間に知ってもらうためにどうすればいいのか? 
二人は考えるのですが、その結果が映画。
織田信長も関係するという「湯道」の歴史を映画にすればよいのでは?
ということで、まずはスタッフ集め。

映画のためには、音声、照明、撮影、美術、脚本、監督、プロデューサー、
最低この7人がいればいいと言うのです。
そこで集まったのはすでに現役を引退した映画人たち4人。
パワハラが原因で自分の殻にこもってしまった脚本家女子1名。
足りない監督を梶山、プロデューサーを安藤が務めることにして、
よって、「7人の侍」が結集。
しかし、なんと資金のことを考えていなかった!

「湯道」の話のはずが、いつの間にか「映画道」みたいになってくるのですが、
そこがメチャメチャ面白い。
様々な名画(和洋問わず)の懐かしのシーンのオマージュが登場したりします。

ぜひぜひ「湯道」と合わせてご覧ください。
やはり、本編映画の方を先に見ることをオススメします。

<Amazon prime videoにて>

「湯道への道  『湯道』アナザーストーリー」

2023年/日本/126分

出演:生田斗真、窪田正孝、中村アン、六平直政、正名僕蔵

 

ユーモア度★★★★☆

映画愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


ひとりぼっちじゃない

2023年03月23日 | 映画(は行)

謎の彼女を愛する歯科医

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King Gnuの井口理さん主演ということで興味を持ちました。

人付き合いに不器用な歯科医師のススメ(井口理)。
そんな彼がアロマ店を営む宮子(馬場ふみか)に恋をします。
ススメは、宮子がススメ自身ですらよくわからない自分のことを
理解してくれているように思うのです。
けれども、ススメは彼女のことが理解できない、と思い悩みます。

部屋中に植物を置いて、まるで森の中にいるよう。
部屋のドアはいつも鍵が開いている。
まるで独り言のようにつぶやき声で話す。
そして、ときおり彼女から無言電話がかかってくる・・・というように、
宮子はどうにも謎めいた女性なのです。

しかし、どうやらこの部屋に通うのは自分だけではない、
ということがススメに分かってきます。
そしてある時、ススメは宮子の友人から衝撃的な話を聞きますが・・・。

 

宮子と共にいると、多くのことを話さなくても安らいだ気持ちになる・・・と、
ススメは思っていたのです。

しかしどうやら、宮子の本当の気持ちは別の所にあって、
それはどこまでも彼女の奥底に秘められている。
彼女の少しエキセントリックなところは、そういうことが根っこにあるわけですね。

静かに息を潜めて、一つ一つの言葉を探りながら進んでいくストーリーです。

それでも、決して悲劇には落ち込まず、
何か少し腑に落ちて、新たな道を行こうとするススメのラストがちょっと嬉しい。

<シネマフロンティアにて>

「ひとりぼっちじゃない」

2023年/日本/135分

監督・原作・脚本:伊藤ちひろ

出演:井口理、馬場ふみか、河合優実、相島一之、高良健吾、浅香航大

 

ミステリアスな女度★★★★☆

満足度★★★.5


さかなのこ

2023年03月22日 | 映画(さ行)

男か女かはどっちでもいい

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魚類に関する豊富な知識を持つことで知られる、タレントで学者でもあるさかなクン。
本作は氏の著書「さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!」を元にした、
さかなクンの半生を描いたもの。

しかし、そのさかなクン役がなんと“のん”さん、
というのがいかにもユニークな作品となっています。

本作の冒頭にまず「男か女かはどっちでもいい」という文字が出るのですが、
物語を見ていくにつれて、本当にそうだなあ・・・と思うようになりました。

 

小学生のミー坊は魚が大好きで、寝ても覚めても魚のことばかり考えています。
父は周囲の子と違うミー坊を少し心配しています。
一方、母はあたたかく見守り、そっと背中を押してくれます。

高校生になったミー坊は、相変わらず魚に夢中。
けれどなぜか町の不良達とも仲がよかったりします。
やがて高校を出て一人暮らしを始めたミー坊。
しかしさすがに、彼にぴったりな職はなかなかありません。
ミー坊は多くの出会いや再会を経験しつつ、独自の道を歩み始めます。

ひたすら好きなことに突き進む。
他の人とはちょっと違うけれど、自分の道は自分で決める。
そんなミー坊の生き方は、確かに、
「ミー坊自身」ということで、男も女も関係なくて、どうでもいいことなのでした。

そしてまた、自分の道を歩むといっても「根性」物語ではなくて、
ひたすらほんわかとしている。
そんなところがまた、のんさんにはぴったりの役。
もう、他には考えられません。

そしてまた、そんなミー坊を温かく見守る人たちの存在がまた嬉しい。

学歴なんて関係なしに、その人の特性とか本当にやりたいことをして
生活できる世の中であればいいなあ・・・とつくづく思ってしまいます。

さかなクン本人も、魚好きの変なオジサン、
ギョギョおじさんとして登場するのも、お楽しみです。
一見の価値ありのドラマ。

<Amazon prime videoにて>

「さかなのこ」

2022年/日本/139分

監督:沖田修一

原作:さかなクン

出演:のん、柳楽優弥、磯村勇人、夏帆、岡山天音、井川遥、さかなクン

 


「エゴイスト」高山真

2023年03月21日 | 本(その他)

愛なのか、エゴなのか

 

 

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14歳で母を亡くした浩輔は、同性愛者である本当の自分の姿を押し殺しながら過ごした思春期を経て、
しがらみのない東京で開放感に満ちた日々を送っていた。
30代半ばにさしかかったある日、癌に冒された母と寄り添って暮らすパーソナルトレーナー、龍太と出会う。
彼らとの満たされた日々に、失われた実母への想いを重ねる浩輔。
しかし、そこには残酷な運命が待っていた・・・。

龍太と母を救いたいという浩輔の思いは、彼らを傷つけ、追いつめていたのか?
僕たちは、出会わなければよかったのか?
愛とは、自らを救うためのエゴだったのか?
浩輔の心を後悔の津波が襲う。
人は誰のために愛するのか。
賛否両論渦巻く、愛のカタチ。

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先日、映画を見て、ぜひ原作本の方も見てみたいと思ったわけです。
著者高山真さんは2020年に亡くなっています。

鈴木亮平さんは、本作の浩輔を演じるに当たってこの本を熟読したそうなのですが、
たしかに、この本のエッセンスがそのまま映画になっていることがよく分かりました。
この文庫には、鈴木亮平さんの特別寄稿も収録されていますので、
ぜひ本作は映画と合わせて読むことをオススメします。

 

私はこの原作の方が、自分の行動は「愛」などではなく「エゴ」だと言う
浩輔の気持ちが詳しく描写されているように思いました。

映画の方は相当じっくり見ないとなんで「エゴイスト」という題名なの?
とも思ってしまうので・・・。
つまりそれは、画面に鈴木亮平さんの「愛」があふれすぎていたからなのかも知れませんが。

 

今さらながら、2人の愛を体現した鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんに敬意を表します。

 

「エゴイスト」高山真 小学館文庫

満足度★★★★☆


オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体

2023年03月20日 | 映画(あ行)

実際に行われた、奇跡のような作戦

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先日「エンパイア・オブ・ライト」で、とんでもないコリン・ファースを見てしまったので、
「お口直し」という感じで。

第二次世界大戦下で実行された奇想天外な作戦を実話に基づいて描く、スパイサスペンス。

1941年。
劣勢となっている英国軍は、イタリア、シチリアの攻略を目指しているのですが、
シチリア沿岸はドイツ軍の防備で固められています。

英国諜報部(MI5)は、状況を打破するため、驚くべき策をチャーチル首相に提案。
それが、オペレーション・ミンスミートです。
すなわち、「イギリス軍がギリシャ上陸を計画している」という
偽造文書を持たせた死体を地中海に流し、ヒトラーを騙そうとするもの。
この偽情報をドイツ軍が信じて、軍をシチリアからギリシャ方面へ移動すれば、作戦成功です。

この作戦はヨーロッパ各国の二重・三重スパイをも巻き込み、
スリルたっぷりの展開となっていきます。

 

まずは、機密文書を持つような、ある程度上級の兵士に見える適当な「死体」を見つけなければなりません。
発案者でありその任に当たる、モンタギュー(コリン・ファース)らは、
その架空兵士のニセの人生や恋人まで創り上げ、リアルな人物造形を持たせます。

いよいよ死体を海に流してからも、彼が持つ「文書」が、
ナチスの手に入らないよう画策するフリをしつつも、
うまく敵方の手に入るようにと苦労するあたりも手に汗を握ります。

また不確定要素としては、ソ連のスパイの存在。
ソ連は一応同盟国ではあるのですが、共産主義の彼らをどうも信用することができない、
と彼らは思っているのです。
ところが最後の最後にこの作戦がソ連に知られてしまった・・・?
このことがどう転ぶのか・・・?

ほとんど最後は神頼みのようになるのですが。
実際に行われた作戦であるというのがなんとも、逆に恐いような話です。

実際に諜報部出身で、後に「007」シリーズを書き上げた、
イアン・フレミングが登場するのが、なんともステキ!!

<WOWOW視聴にて>

「オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体」

2022年/イギリス/128分

監督:ジョン・マッデン

原作:ベン・マッキンタイア

出演:コリン・ファース、マシュー・マクファディン、ケリー・マクドナルド、
   ペネロープ・ウィルトン、ジョニー・フリン、ジェイソン・アイザックス

 

奇想天外作戦度★★★★★

スリル度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


わたしの幸せな結婚

2023年03月19日 | 映画(わ行)

わたしの幸せな2時間

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まってました!
「わたしの幸せな結婚」 
初日のアサイチで見に行きました。
平日早朝というのに、ほぼ満席。

 

題名のイメージとはちょっと違って、
戦記物をからめた怪しくも美しいラブファンタジーです。

明治・大正期を思わせる架空の時代。
ある宿命を持つ家系に生まれた斎森美世(今田美桜)は、
実母を早くに亡くし、継母と義妹に虐げられ、
女中のような扱いを受けて暮らしていました。
そんなある日、名家の当主である久堂清霞(目黒蓮)の元へ嫁入りを命じられます。

久堂清霞は、冷酷で無慈悲な性格としてウワサされており、
これまでにも多くの婚約者候補が逃げ出したという・・・。
美世も初対面では清霞にずいぶんと辛辣な対応をされてしまいますが・・・。
でも彼女の一途さ、一生懸命さが彼に伝わり、
次第に心を通わすようになっていきます。

そしてその頃、帝都では不穏な災いが人々を襲い始めます。
異形の者から国を守る陸軍・対異特殊部隊長である清霞が乗り出しますが・・・。

 

とにかく、清霞のツンデレぶりがキュンキュン来ますねえ。

「ここでは私の言うことに絶対従え。
出て行けと言ったら出ていけ。死ねと言ったら死ね」

などと言う言葉、いかにもキビシイ!
(予告編を何度も見たので飽きてしまっていたけれど)

でも、実のところ彼がそんな辛辣に見えたのは、
ここのところと翌日の朝食のシーンぐらいでした。
実はこの上なく優しい人で、部下達にも
ものすごーく信頼され親しみを持たれているのです。

「冷酷で無慈悲」などと言うウワサは、
追い出された婚約者候補たちがくやし紛れに言いふらしたのに違いありません。
でもそのおかげで、美世は厄介払いのようにこの家に送りこまれたワケなので、
結果オーライですね。

清霞は、政略結婚のために送り込まれてくるチャラチャラした名家の
「お嬢様」たちに嫌気がさしていて、あのような言葉をはいたのでしょう。

美世はなにしろ、いじらしくかわいらしくて、その一生懸命さにはつい涙が誘われます。
そんな彼女を見る清霞の目がどんどん柔らかくなっていきます。
そしてついに見せる笑顔。
も~♡♡。

ここは目黒蓮さんだけでなく、今田美桜さんの演技も光っているからこその出来ですよね。
いつまでも眺めていたい二人でした。

 

美世は異能の力を持つ家系に生まれながら異能を持たないということで、
家中では阻害され虐げられていたのですが、実はそのことにも事情がありました。

そしてまた、強力な異能を持つ清霞ですが、
この度はある事情で大変な苦戦となります。

こうした物語の妙も、十分に見応えのあるもので、
とにかくまんじりともせずに引き込まれて見てしまったという感じです。

“わたしの幸せな2時間”。



それにしても、本作の宣伝のため、公開前2週間ほどの
目黒蓮さんのテレビの出現度がハンパなかったですね。
35の雑誌表紙に、テレビ出演は33番組だったとか・・・。
さぞかし超多忙で、夜空を見上げるヒマもなかったことでありましょう。
ファンとしてはうれしいけれど、体をこわしはしまいかと、心配もしてしまいます。
私はもはや、活躍する息子を見守る母のような心境。

 

ところで、本作は丸一年前の3月に撮影クランクアップしていたそうです。
先日その時の挨拶の模様がYouTubeにアップされていました。
それを見ると、目黒蓮さんの表情が少し硬い。
去年の3月といえば「目黒蓮」さんは、まだあまり知られていなかったワケです。
かくいう私も、ぜんぜん知りませんでした。

この後に、「舞い上がれ」があって、「silent」があるんですね。
そして現在のこの状況。
撮影時と公開時にこんなにも世間の認知度が違う例ってあんまりないのでは?

最近テレビで見る目黒蓮さんはすっかり場慣れした様子で、
余裕とか貫禄すらも感じらます。
立場が人を作るんですねえ・・・。
この数ヶ月の目黒蓮さんのスターとしての成長度がすごいです。

 

スミマセン、余談ばっかり。

で、本作のラスト(エンドロール後)でまた、驚いた。
これって、続編アリのヤツなんでしょうか?

確かに、ストーリーとしてはほんの序盤という感じでした。
だから本作がシリーズ化して、目黒蓮さんの代表作になるのは歓迎なのですが、
私としては、彼にはもっと様々な役にチャレンジしてほしいのです。
どうしようもないダメ男とか殺人犯とかゲイの役でも。
カッコいい役だけをこなすのではなく、真の実力派俳優を目指して!

 

<シネマフロンティアにて>

「わたしの幸せな結婚」

2023年/日本/115分

監督:塚原あゆ子

原作:顎木(あぎとぎ)あくみ

脚本:菅野友恵

出演:目黒蓮、今田美桜、渡邊圭祐、大西琉星、前田旺志郎、津田健次郎

 

ツンデレ度★★★★★

目黒蓮の魅力度★★★★★

満足度★★★★★


湯道

2023年03月17日 | 映画(や行)

いい湯だなあ~

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この日の劇場視聴2本チョイスが、
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」と本作。
全く異質の2本。
「エブリ~」はちっとも楽しめなかったのですが、
本作ですっかりまったりとくつろぎつつ感動し、満足感に浸って帰途につくことができました。
最近、めっきり邦画の方が体に合う気がします。
そういえば、「日本アカデミー賞」がらみの作品ならほとんど見ているなあ・・・。

さて、本作。

亡き父が残した実家の銭湯「まるきん温泉」に戻って来た、
建築家の三浦史朗(生田斗真)。
店は、弟の悟朗(濱田岳)が切り盛りしており、
住み込みの従業員・いづみ(橋本環奈)と共に、忙しく働いています。

そんな弟に史朗は、銭湯をたたんでマンションに建て替えるべきだと言うのですが、
弟は聞く耳を持ちません。

そんなある日、ボイラー室でボヤが起こり、悟朗が数日間入院することに。
いづみの勧めがあって、史朗が弟に変わって数日間
銭湯を切り盛りすることになりますが・・・。

 

ここの銭湯は、井戸水をくみ上げて、薪で焚いているのです。
代々受け継がれたここのやり方。
しかし今時、銭湯の客は減る一方。
燃料費は高く、やりくりが大変と言うのはよく聞くところです。

史朗は実のところ建築家としての仕事も行き詰まっていて、
やむなくここに帰ってきたのは、
この銭湯をたたんでマンションを建てることで、自身の生活を立て直そうと目論んでいたから。

しかし悟朗は、出ていったきり父の葬儀にも顔を出さなかった兄に怒りを感じ、
意地でここを続けようと思っている。

こんな2人の感情を軸に、銭湯の常連さん達のお風呂愛、
そしてまた、「湯道」として入浴の作法を極め、
世に残し伝えようという一門のことが描かれます。

コミカルで、そして思わず泣ぐんでしまう人情話も盛りだくさん。
実に、いい感じの作品でした。

すっかり身も心も温まって、
最後にはフルーツ牛乳なんかが飲みたくなってしまいました!!

<シネマフロンティアにて>

「湯道」

2023年/日本/126分

監督:鈴木雅之

脚本:小山薫堂

出演:生田斗真、濱田岳、橋本環奈、小日向文世、天童よしみ、クリス・ハート、窪田正孝、柄本明

 

お風呂愛度★★★★★
人々の絆度★★★★☆
満足度★★★★.5

 


ダ・ヴィンチは誰に微笑む

2023年03月16日 | 映画(た行)

ダ・ヴィンチ狂騒曲

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美術界のドキュメンタリー作品。

2017年。
レオナルド・ダ・ヴィンチ最後の傑作とされる絵画「サルバトール・ムンディ」が、
史上最高額510億円で落札されます
それはもともと、ある美術商が名も無き競売会社のカタログから
13万円(!)で落札されたもの。

ロンドンのナショナル・ギャラリーにて、専門家の鑑定を経て
ダ・ヴィンチの作品として展示され、お墨付きを得たのです。

その後、投資目的の大財閥や、手数料をだまし取ろうとする仲介人、
そして、国際政治の暗躍がウワサされる某国王子等、
様々な思惑を抱えた人々が動き回ります。

作品自体は、ロンドンやらニューヨーク、シンガポールなどを行き来。
結局現在の持ち主も保管場所も公表されておらず謎のまま・・・。

人が鑑賞してナンボのはずの美術品が、
単に金儲けや名声のための道具となりはてているのは
いかにも現代的ではありますが、悲しいことではあります。

そもそもこれは本当に本物か?と言うところも謎のママなんですね。
ダ・ヴィンチ自身の作品というより、ダ・ヴィンチの工房の作品、
つまり弟子の手によるものの可能性が高いという話もあります。

発見されたときには、上から分厚い塗り直しがされていて、
それを何年もかけて修復したものとのことで、
まあ、ド素人の私が思うには、修復者の思いがその修正にいくらか
出てしまっているのでは?などとも思うのです。

映画の画面で見ただけでは、さほど感動が湧くような絵には思えなかったのですが・・・。

ダ・ヴィンチが天国で、さぞかしあきれていることでありましょう。

 

<WOWOW視聴にて>

「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」

2021年/フランス/100分
監督:アントワーヌ・ビトキーヌ

 

アート界の狂騒度★★★★★

満足度★★★.5


エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

2023年03月15日 | 映画(あ行)

アカデミー賞7冠!

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マルチバース(多元宇宙)×カンフーアクションという、話題作。
この度アカデミー賞7冠を達成しました。

破産寸前のコインランドリーを営む、中年女性エヴリン(ミシェル・ヨー)。
ボケているが頑固な父。
いつまでも反抗期、女性のパートナーを持つ娘。
優しいだけで、頼りにならない夫。
そんな中で仕事にきりきり舞い。
エヴリンは生活に疲れ果てています。

そんなある日突然、夫が突如豹変して
「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ!」
というのです。

わけも分からず、マルチバース(多元宇宙)に飛び込んだエヴリンは、
そこでいくつもの別の人生を体験しつつ、
カンフーマスターばりの身体機能を手に入れ、
全人類の命運をかけた戦いの中へ身を投じていきます・・・。

多元宇宙という概念は、私にもおなじみではありますが、
やたらハイスピードで切り替わるエヴリンの人生模様に目が回りそう・・・。
そしてコミカルでキレのあるカンフーアクションはまあ、楽しいのですけれど。
まさにすべてが「カオス」。

私、この頃こういう作品にはもうついて行けないと感じることが多いです。
今後、いかにアカデミー賞がらみであっても、ムリして見るのはやめようと思った次第。
お若い方は存分にたのしんでください・・・。
(感想述べるのも、もうあきらめてる・・・)

とはいえ、わけの分からない戦闘が、
エヴリンが乗り込んだ敵地「税務署」内で行われたというのがナイスでしたけれど。
そしてまた、ヒロインがアジア系の中年女性というのは大いに気に入りました。
白人のイケメン青年のヒーロー像という既成概念やら何やらを
破壊し尽くすと言う意味で、意義のある作品ではありましょう。

<シネマフロンティアにて>

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」

2022年/アメリカ/139分

監督・脚本:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート

出演:ミシェル・ヨー、スティファニー・スー、キー・ホイ・クァン、
   ジェニー・スレイト、ハリー・シャム・Jr、ジェームズ・ホン

カオス度★★★★★

満足度★★★☆☆


「10分で名著」古市憲寿

2023年03月14日 | 本(解説)

鉱山に埋もれた宝石を探す光

 

 

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最強の水先案内人がプロに「読みどころ」を聞いてみた――。
『神曲』『源氏物語』『わが闘争』『資本論』……、
名著を読まなくても楽しめる、虫のよいガイド本、誕生!

好きな女性とはセックスできず、添い寝しかできない男の悲哀――『源氏物語』

莫大な印税収入でヒトラーは自信をつけた――『わが闘争』

手に取ってみたけれど、挫折した……、でもあきらめるのはまだ早い!
聞き手=古市憲寿+構成=斎藤哲也の名コンビが贈る名著ショートカット。

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「100分で名著」という教養番組はあるけれど、
こちらはなんと、思い切りショートカットして「10分で名著」。

ラインナップは、この通り。

『神曲』
『源氏物語』
『失われた時を求めて』
『相対性理論』
『社会契約論』
『ツァラトゥストラ』
『わが闘争』
『ペスト』
『古事記』
『風と共に去りぬ』
『国富論』
『資本論』

この中で私がすべてを読んだのは「風と共に去りぬ」だけ。
部分的に読んで、どんな話かはおよそ知っているというのは「源氏物語」。

そのほかについては、おそらく今後も一生読むことはないだろうと思われるものばかり。
ですが、おおよその内容を知っておきたいとは思います。
そんなずぼらな私にはまさにうってつけのこの本。
そして、確かにわかりやすいです!!

 

やたら観念的な言葉を多用して、
ちーっともわかりやすくない文章を書く人が時々いますよね。
私は常々、本当に頭のよい人が書く文章はわかりやすい、と思っているのです。
さすがの、古市さんでした。

 

このなかで、「わが闘争」は、ヒトラーの著ですね。
ヒトラーの思想など知りたくもないわ、と思うところではありますが、
なんとこの本は、こんなことを言っている。

「知識人にしか伝わらない書物での理性的な説得よりも、
感情的なアジテーションの方が何倍も多くの大衆に訴えることが可能だ」と。

まさにヒトラーはこの方法で世界を変えてしまった。
そして、このやり方は今でも十分に通用するわけで、
わたし達はそういう危険性をきちんと知っておかなければならない
と言うことでもあります。
この本は、「名著」ならぬ、「迷著」ということでの紹介でした。


この世界、知っておくべきことはいくらでもあって、
でもそれにたどり着くのはなかなか大変です。
こんなガイドブックがあれば、鉱山に埋もれた宝石にも比較的容易にたどり着くことができる。
ありがたいです。

「10分で名著」古市憲寿 講談社現代新書

満足度★★★★☆