「源氏物語」世界への旅
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59もの会社から内定が出ぬまま大学を卒業した二流男の伊藤雷。
それに比べ、弟は頭脳も容姿も超一流。
ある日突然、『源氏物語』の世界にトリップしてしまった雷は、
皇妃・弘徽殿女御と息子の一宮に出会う。
一宮の弟こそが、全てが超一流の光源氏。
雷は一宮に自分を重ね、光源氏を敵視する弘徽殿女御と手を組み暗躍を始めるが…。
エンタメ超大作!!
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本作、伊藤健太郎さん主演で映画化、
しかし、公開寸前に例の事件がありました。
かろうじて無事公開となったものの、なんだか見る気をそがれ、
そうこうするうちに札幌市は外出自粛要請が出てしまったので、
結局見ないまま・・・。
ということで、せめて原作を読んでみようという気になりました。
本作の「十二単衣を着た悪魔」というのはつまり、
源氏物語に登場するところの“弘徽殿女御”のこと。
弘徽殿女御というのは桐壺帝の正妻にして、第一王子(一の宮)を生んだ女性です。
その側室、桐壺更衣が生んだ第二王子(二の宮)こそが光源氏。
ところが、桐壺帝は、桐壺更衣ばかりを寵愛。
そして、その子、二の宮は誰もがハッとする美貌と利発さを持っている。
夫に疎まれ、おまけにこのままでは一の宮ではなく
二の宮を跡継ぎの帝にされかねないと思う弘徽殿の女御は、
心穏やかではありません。
ということで、源氏物語上の弘徽殿女御は、無論脇役ではありますが、
意地悪で気の強いイヤ~な女として描かれているのです。
さて、高校生時代の内館牧子氏、源氏物語を読んで、
この弘徽殿の女御が気に入ってしまったというのです。
自我を持って強くたくましく生きる女、弘徽殿の女御が。
確かに、当時の女性はすべて男の意思次第。
男に従うしか生きるすべがない。
せいぜいが、「男を拒み出家する」くらいしか自分の意思を通すことができない。
そんな中で、なんというたくましさ、ずる賢さ・・・ということなのですね。
従いまして本作は、著者のそうした思いを小説にした、弘徽殿女御コードの物語。
源氏物語のストーリーを追っていますが、光源氏は脇役なのです。
さてしかしこの物語、奇想天外の設定から始まっていて、
まさに源氏物語をほとんど知らない私のような者でも
その世界観にすんなり入り込んでいけるように描かれているのです。
時は現代。
59もの会社から内定が出ないまま大学を卒業したさえない男、伊藤雷が、
ある日突然源氏物語の世界へ入り込んでしまうのです。
タイムスリップ?
いや、源氏物語はれっきとした創作なので、
たとえタイムマシンができたとしても、そこには行けない。
でもまあ、そもそもタイムスリップ自体が想像上のものですもんね。
歴史上の事実であろうが創作物語だろうが、さして変わりはないか・・・。
光源氏が現代に現れるという物語もあったことですし。
それでこの伊藤雷は、弘徽殿女御付きの陰陽師としてその世界で生活し、
ナマの源氏物語世界を体験することになるのです。
そして、弘徽殿女御のキツい性格を魅力的だと思う。
そして、その息子一の宮が異母弟の光に対して持つコンプレックスを気の毒に思う。
というのも「あちらの世」で、雷は弟の水に対して
常にコンプレックスを持ち続けていたから。
水は、ハンサムで頭も良くスポーツ万能。
何をやっても優秀で、おまけに性格もいい。
それに引き換え、特に優れたところは一つもなく、ひたすら凡庸な自分。
ついにはまともな就職もできなかった・・・。
良くできたご両親はあえて兄弟を比べようとはせず、
極力雷を立てるようにしていたけれど・・・、
逆にそれが心苦しくもあり、いたたまれなくなってしまっていた雷。
そんな雷だから、一の宮の苦しみはよくわかるのです。
そんな彼も、「この世」では人々から頼りにされ、
弟へのココンプレックスから初めて解放されるのです。
結婚もして子をなすも、心が引きちぎれるようなつらい出来事があり・・・。
「この世」で過ごして25年・・・。
もう「あちらの世」には戻れないだろう、
イヤ戻りたくもないと思うようになっていましたが・・・。
というふうに、雷の運命の先行きも気になり、どんどん読めてしまうのでした。
やはり映画も、そのうちレンタルで見られるようになったら、きっと見たいと思います。
この伊藤雷を伊藤健太郎さんが演じていて、弘徽殿女御は、三吉彩花さん。
で、光源氏は?と気になり調べてみたら、沖門和玖さん・・・?
シリマセン・・・。
「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」内館牧子 幻冬舎文庫
満足度★★★★☆